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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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21. 吸血

 


     *


 チカに[吸血]する前に、少し時間を置くことになった。

 まあ、これは当然。流石に焼肉を食べ、焼きそばまで食べた後の口で、そのまま吸血行為まで行うっていうのは、ちょっと気分的にアレだろうからね。


「ちょうど買い置きがあって良かった」

「ありがとう、リゼ」


 リゼから未開封の歯ブラシを貰う。

 それから洗面台でリゼの歯磨き粉も使わせて貰い、口の中を綺麗にする。


 歯磨き後に居間(リビング)に戻ると、チカがなぜかソファに正座でスタンバイしていた。

 いつの間にか、彼女が着ている服がスウェットシャツに変わっている。おそらく吸血の際に肩口を露出させやすいよう、わざわざ着替えてくれたんだろう。


 また、リゼを含めた他の3人も、既に室内に待機していた。

 どうやら3人とも[吸血]をしているところを見たいらしい。


「お待たせ、チカ」

「べ、べべべ、べつに、待ってへんし……」


 話しかけると、チカはまだ顔を真っ赤にして、しかも凄く緊張していた。

 その様子があまりに可愛らしくて、思わず胸にきゅーんと来るものがある。


(……私の好みにも、ストライクなんだよね)


 ドワーフであるチカは種族特徴のために身体が小さく、大体9~10歳ぐらいの女の子にしか見えない。

 相手が女の子でさえあるなら、わりと誰のことでもすぐに好きになってしまう、雑食なスミカだけれど。彼女のように小さくて可愛い女の子は特に大好物だ。


 そして、チカはその見た目に反して実際には19歳の女子。

 つまり彼女の手を出しても、条例などで捕まることはない。


 頭の中に一瞬『合法ロリ』という単語が浮かび、思わずスミカは笑ってしまう。

 まあ――それは自分も同じなので、他人事(ひとごと)ではないんだけれど。


「それじゃ、血を頂いちゃっても良い?」

「……や、やさーしく、やさーしくやで!」

「そう言われると、ちょっと痛くして泣かせたくなるなー」

「い、意外といじわるなんやな、スミやん……」


 チカの両肩に手で触れると、びくんと彼女の身体が跳ねた。

 彼女の緊張っぷりが凄い。思わずスミカのほうまで緊張してきそうだ。


 チカのスウェットの首元を拡げて、彼女の細い肩口を露出させる。

 それからスミカがゆっくりと、チカの肩に顔を近づけていくと。


「……!」


 唐突に――まるで情報のインストールが、たった今行われたみたいに。

 スミカの頭の中に正しい[吸血]やり方が理解できてしまった。


 どうやら肩に歯を立てて血を吸うのは、やり方としては誤りらしい。

 まあ、別にやり方が間違っていても、相手の血さえ吸えれば『血晶(ブラディア)』の生成はできるみたいだけれど……。これだと相手に[吸血]によるメリットの付与が行えないみたいなのだ。


「あー。ごめんチカ、一旦ストップ」

「……へっ? ど、どないしたん?」

「ごめん、今更だけど、ちゃんとした[吸血]のやり方が判ったんだ。このやり方だと間違ってるみたいで……正しい方法でやってもいい?」

「それは別に、かまへんけど……」

「ありがと。ところでチカは、私と濃厚なほう(・・・・・)のキスとかできる?」

「――へェっ⁉」


 チカの口から零れ出た、急に2オクターブぐらい高くなった声。

 それもまた、あまりに可愛らしすぎて。思わず口元がニヤけそうになる。


「え、えっと……」

「したいな、チカとキス。しても良い?」


 顎をくいっと持ち上げると、チカの目元と表情がふにゃっと緩む。

 うーん、リゼが『ドM』って言ってたのは真実かも。この子、押しに弱いわ。


「………………ど、どうぞ」

「いただきまーす。あ、目を閉じるの禁止ね」

「――⁉」


 抗議の声を上げさせないうちに、チカの口元を塞ぐ。

 M気質がある子とキスをする時、目を閉じるのを禁止するのは結構有効な手で。まだ大学に通っていた頃に付き合っていた子にも、頻繁にやっていた。


「ん、んぅ……!」


 口腔内で舌を絡ませるたびに、チカの唇の端から甘い嬌声が(こぼ)れる。

 おずおずとではあるけれど、彼女の側からも舌を出してくれるのが嬉しい。


 耳まで真っ赤に染め上げており、熱をもっているチカの顔。

 彼女が尋常でなく恥ずかしがっていることが、表情からも伝わってくるけれど。それでもチカは、決して瞼を閉じたりはしなかった。

 Mの子は基本的に、相手から要求されたことには従順だからね。


 閉じることを許されていないチカの瞳を、スミカは至近距離でじっと見つめる。

 ねちっこく舌を絡ませながらも、恥ずかしそうに、けれども期待に潤む瞳。

 チカを満足させるべく、スミカは彼女の口内を蹂躙する。


「……んッ!」


 その最中に、カリッと少しだけ、チカの舌に歯を立てる。

 傷つけたのは、チカの舌の端をほんの少しだけ。

 吸血姫(カルミラ)の歯は決して、必要以上に相手を傷つけることはない。


 舌を絡ませながら(たの)しむチカの血液は、なんというか――チカの味がした。

 甘くて素朴で、とても濃厚な、そんな幸福の味わい。

 まるでお酒を嗅いだ時みたいな、(かす)かな酩酊感があって、それもまた愉しい。


「ぷはあっ……! はあっ、はあっ……!」


 充分にチカの舌と口腔と、そして血の味を満喫した後に。

 ようやく唇を離すことを許してあげると、チカは荒い息を吐いていた。

 まあ、都合5分ぐらいはキスをしていたと思うから、無理もないけれど。


「こ、これ以上は、あかん。ご主人のこと以外、なんも考えられんくなる……!」

「……へえ? 私をご主人(・・・)って、そう呼んでくれるんだ?」

「あっ――」


 指摘されて、チカが慌てて自分の口元を抑える。

 どうやら無意識のうちに、彼女はそう言葉に出してしまっていたらしい。

 キスされる最中に、彼女がスミカに対してどんなことを想っていてくれたのか。その心の一部が垣間見えたような気がして、少し嬉しい気持ちになった。


「な、なんだか見ている方も、ドキドキしたよ……」

「この複雑なコーフン……! これがNTR(ネトラレ)なんデスネ……!」

「パティさんが新たな扉を開き掛けてるっす……!」


 見ていた観客(ギャラリー)から、そんなコメントが飛んできて。

 それを聞いて――今更ながらチカは、一部始終を皆からつぶさに見られていたことを思い出したらしく。顔を真っ赤にしたまま、俯いてしまった。


「痛くはなかった?」

「い、痛くは全然無かった……。せいぜい、途中でチクッとしたぐらい……」

「そう。ああ、言い忘れてたけれど――私と濃厚なキスをすると、向こう2週間は状態異常の完全耐性が付与されるらしいから」

「へっ? 状態異常……?」

「うん、ゲーム的に言うなら毒とか麻痺とかそういうヤツだね。現実感のある例を挙げると、2週間は絶対に風邪を引かなくなるし、頭痛や腰痛にもならなくなる。あとは、いまチカの舌から少し出血させちゃったけれど、これが舌炎(ぜつえん)になることも無いから安心してね」


 舌炎(ぜつえん)とは、舌に生じる炎症のこと。判りやすく言えば口内炎の舌版だ。

 口腔内は繊細なので、傷を負うと炎症になりやすい。これは歯で口の中を傷つけた(あと)が、いかに口内炎に発展しやすいかを考えると判りやすいだろう。


「スミカ」

「うん? どうしたの、リゼ――」


 名前を呼ばれて、リゼのほうを振り向くと。

 なぜか、凄く綺麗な所作で……こちらに向けて土下座をしているリゼが居た。


「……え?」

「スミカ、この通りだ。ひとつだけどうしても聞いて欲しい頼みがある」

「と、とりあえず土下座はやめて? 頼みは何でも聞くから。命の恩人に土下座をされるのは、流石に決まりが悪すぎる……!」


 スミカがそう要求しても、リゼは頭を上げてくれない。

 余程の頼みがあるんだろう――そう思い、まずは詳細を聞くことにした。


「それで、私は何をすればいいの?」

「私にもその、濃厚なキスを頼む」

「もしかして……リゼは何か、重篤な病気でも患っていたりする?」

「……ああ。辛いんだ……本当に、本当に辛いんだ。助けてくれ……」


 そう告げるリゼは、まるで苦痛に(まみ)れたような表情をしていて。

 どれほどに切羽詰まった訴えなのかは、顔を見るだけで一目瞭然だった。


「判ったわ、すぐにでも。あ……でも一応、どんな病気なのかは聞いてもいい?」

「花粉症だ」

「………………ああ、なるほど」


 体質的な問題なのか、スミカは人生で一度も花粉症になったことがないけれど。

 それがどんなに辛いものかは、毎年のように何人もの友人から愚痴られている。

 だから、まあ……花粉症の苦しさから逃れられるなら、土下座ぐらいなんの抵抗もなくできてしまうリゼの気持ちも、理解できなくはなかった。


「ワタシたちも!」

「お願いするっす!」


 なんか――いつの間にか、リゼの両隣にも土下座が増えていた。


 ブルータス、お前もか。お前たちも花粉症なのか……。

 もちろんシーザーとしては、女の子とキスできるのは是非もないけどさ。





 

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― 新着の感想 ―
同じく花粉症持ちなので土下座したくなる気持ちが痛いほどわかってしまうね…
>「花粉症だ」 メチャクチャ笑った。 二度と手放せなくなりそう。
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