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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽


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19. 百合カップルに挟まる女(しかも2人)

 


     *



「焼肉デース!」

「戦争じゃ……戦争が始まるっす……」

「流石に肉ぎょーさんあるし、戦争にはならんやろ……。ならんよね?」

「ならないならない。普通に余るでしょ」


 その日の夜。スミカはリゼの家の食事にお邪魔させて貰うことになった。

 リゼがルームシェアしている3人の女性は当然いずれも初対面。とはいえまあ、同性相手ならスミカも気後れすることはない。


 ホットプレートを囲みながら、5人で焼き肉をつつく。

 事前にリゼから聞かされていた通り、牛も豚も安価なバラ肉のようだけれど。この人数で一緒に食べると、安い肉でもとても美味しく感じられるから不思議だ。


 もちろんお肉以外の具材もふんだんに用意されている。

 玉葱、茄子、キャベツ、人参、ピーマン、アスパラガス、もやし――どれも肉と一緒に焼くと、美味しく頂けそうなものばかりだ。

 個人的に嬉しかったのは、エノキが用意されていたことかな。焼肉のたれを絡ませたエノキって、なんか凄く好きなんだよね。


「今更だけど、本日のゲストを紹介。スミカだ、よろしくしてあげて」

「おっと、祝部(ほうり)スミカです。よろしくね」


 食事の途中、空腹感が軽く満たされ始めた頃合いに、不意にリゼから紹介され、慌ててスミカは皆に頭を下げた。


「ヨロシクデース!」

「よろしくなー」

「よろしくお願いするっす!」


 すぐに初対面の3人から元気な挨拶が返ってくる。

 どうやらリゼの同居人は、いずれも気の良い人達ばかりみたいだ。


「スミカは祝福のレベルアップの影響でとても小さくなっているが、元々は19歳で我々と同級生(タメ)だ。というわけで、お互い気兼ねなくいこう」

「了解。なーなー、その『ほうり』って苗字、どう書くん?」

「お祝いの『祝』に部長の『部』で祝部(ほうり)だね」

「おおー、難読苗字やん」


 苗字について訊ねてきたのは、この部屋の住人の中でも、身長が飛び抜けて低い女の子だ。

 それこそ多分、今のスミカと同じぐらいの背丈なんじゃないだろうか。


「とりあえず順番に紹介するが、赤毛のコイツはドラムの菅ケ谷(すがや)チカ。見ての通りスミカと同じぐらいの身長で、実は今スミカが着てる服もコイツのやつ」

「あ、そうなんだ。服借りちゃってごめんね?」

「ええてええて。祝福のレベルアップで身長縮んだ者同士、お仲間やしなー」

「へー。私はもともと178cmだったけど、チカは?」

「178は凄いなあ、リゼより全然高いやん。ウチは元163cmやね。これでも一応平均よりは上の筈やけど、流石に178cmと較べると霞むなあ」


 ちなみにチカは、祝福のレベルアップの際に銀色のカードを選び取ったことで、種族が『地底種(ドラバン)』――いわゆる『ドワーフ』に変わってしまったらしい。

 ドワーフと言えば『(ひげ)がすごい』ことで有名な種族なんだけれど、これは男性だけが持つ特徴らしくで。チカは女性なので、身体には特徴として『低身長』なことだけが発現したそうだ。

 ぶっちゃけ身長が低いこと以外は、普通の人と変わらない見た目なので、彼女が亜人種族なことは言わなければ誰も判らないだろう。


「――って、今更だけど。祝福のレベルアップを経験してるってことは、リゼ以外の3人も掃討者なの?」

「せやで。ウチ以外は全員レベル『10』程度やし」

「へー。チカはもっと上だったり?」

「いやいや、ウチはもっと下。いまレベル『6』やね」


 それからチカは、希少性(レアリティ)の高い天職を得ている人ほど成長が遅くなる、という話をしてくれた。

 つまり、基本職の人はレベルアップに必要な魔力が少なくて済むけれど。そこから特化職、複合職、希少職、異端職と希少(レア)な天職になるにつれて、レベルアップに必要な魔力が増大していくそうだ。


 実際、銀色の天職カードを選び取ったチカは『希少職』なので、他の3人よりもかなりレベルアップが遅いんだとか。

 そのせいで、レベル的には彼女ひとりだけが置いていかれる形になってしまっているらしい。


「スミカも『希少職』やろ? きっと他人事やないと思うよ」

「あー……。いや、私は一番希少(レア)な『異端職』なんだよねえ」

「――は? マジで?」

「うん」


 ステータスカードを取り出し、その場にいる4人に見せてみる。

 金色に輝くカードは、スミカが『異端職』であることの証明になるはずだ。


「うっわ、マジやん……」

「ワーオ! 金色デース!」

「異端職って実在するんすねえ……。都市伝説みたいなものかと思ってたっす」


 カードを目の当たりにした3人が、それぞれにとても驚いた顔をするけれど。

 一方でリゼだけは知っていたのか、納得したような表情を浮かべていた。

 もしかしたら、既にフミから聞いていたのかな。


「どんな天職なのかとか、色々と聞きたいことはあるが……先に他の面子の紹介を済ませよう。スミカから見て、向かって中央にいるのがミサキだ。彼女はバンドでリードギターを担当している」

「ミサキっす! よろしくっす!」

「よろしくね、ミサキ」


 ミサキから差し出されてきた手を、スミカはすぐに握ることで答える。

 どこか人懐っこい印象を与えるミサキは、チカ程ではないにしても低身長な上に童顔で、せいぜい高1ぐらいにしか見えなかった。


「ちなみにミサキは、この家で唯一のタチ(・・)だ」

「ちょおッ⁉ そ、それ、初対面の相手に言うことっすか⁉」

「気にすることはない。どうせスミカもお仲間(・・・)だからな」

「えっ――?」


 驚きの声を発するとともに、まじまじとこちらを見つめてくるミサキ。

 そんな彼女の顔に(マジっすか⁉)と書いてあるような気がして。内心でスミカはちょっとだけ笑ってしまう。


「私はバリタチだから、そういう意味でもお仲間(・・・)かな?」

「ワ、ワァ……。その見た目でバリタチっすか……」

「幼女にイかされたら、新たな扉開いてまうで……」

「こ、コワイですネぇ……」


 バリタチであることを公言したら、なぜか3人からちょっと引かれてしまった。

 いやまあ……確かに、今のスミカは幼女にしか見えない容姿になっているから。子供に攻められてわからされる(・・・・・・)のは、やや特殊な性癖になる……のか?


(――ミサキが唯一のタチってことは、他の3人はネコなのか)


 ふと、スミカはそんなことを思う。

 正直を言って、リゼがネコというのはかなり意外だった。

 淡々とした物言いをする彼女が、乱れている様はちょっと想像できないなあ。


「最後のひとりも紹介する。このうるさい金髪巨乳が、バンドではリズムギターとボーカルを担当してるパティだ」

「ハーイ! アタシは――ウルサイはヨケーデスよ⁉」

「と、まあこんな感じにうるさい奴なんだ」


 殆ど漫才のような2人のやり取りに、思わずスミカは苦笑する。

 彼女の名前はパトリツィア。皆からは略称のパティで呼ばれており、スミカにもそう呼んで欲しいそうだ。

 ちなみに彼女はポーランド人らしい。綺麗なプラチナブロンドの髪をストレートに下ろしているんだけれど、祝福のレベルアップを経験する前は、同じ金髪でもやや灰色掛かったアッシュブロンドだったそうだ。


「フヒヒ……。スミカはちっこくてカワイーデスネ! 撫でても良いデスか?」

「いいけど、そこからだと無理じゃない?」


 パティはテーブルの逆側に座っているため、流石にちょっと遠い。

 そんなことを思っていると――テーブルの同じ側に座っているリゼから、不意に頭を優しく撫でられた。


「スミカのことなら私が可愛がっておこう。パティは指を咥えて見ているといい」

「ちょおっ、リゼ! ズルいデスヨー⁉」

「スミカ、次は何を取るかい?」

「あ、じゃあお肉の両方と、あとキャベツを多めにお願い」


 スミカは身長が低いので、どうしてもホットプレートから具材を自力で取るのが難しい。それに気を利かせて、リゼが代わりに取ってくれていた。

 焼肉は普段、自宅でやるよりも外で食べることが多いんだけれど。特にチェーン店の焼肉屋だと、キャベツを提供しているところは少ない。

 なんか『やみつき塩キャベツ』みたいなメニューは大抵どこに行ってもあるんだけれど、焼き野菜としての提供はされていないことが多いのだ。


 でも、やっぱりキャベツというのは、火を通してこそ甘味の主張が出て美味しいよなあと、久々に焼き野菜として食べて改めて思う。

 こういう風に、好きな具材を存分に楽しめるのは、やっぱり家焼肉の良いところなんだろう。


「よし、これでいいかな。またいつでも取る時は言ってくれ」

「ありがとう。それにしても――バンドメンバー4人で住んでいて、全員が掃討者として活動していて、更に同性愛者(ビアン)でもあるっていうのも珍しいね」

「ああ……。元々は楽器をやっていたのも、掃討者をやっていたのも、更に言えば同性愛者(レズビアン)だったのも私とミサキだけなんだが……。なぜかパティとチカの2人は、私達がやっていることに割り込んでくるんだよ」

「そーそー、2人とも大抵後から割り込んでくるんすよね。リゼとデートしていても割り込んでくるし、一緒にラブホ行くのにさえ平気で割り込んでくるんすよ? 信じられます?」

「そ、それは凄いね……」


 馴れ初めを聞いたスミカは、軽く頬を引きつらせる。

 ネットで『百合カップルに割り込んでくる男』みたいなのがネタとして取り上げられることがあるけれど。まさか女が、それも2人も割り込んで、そのままルームシェアで同棲までしているなんて、そんなことあるんだね……。


「ダッテ、リゼもミサキもいっつも2人きりになろうとしてズルいんデスヨー! もっとアタシやチカのこともナカマに入れるべきデース!」

「せやせや。2人だけでちちくりあってんのもずるいぞー」


 ぶーぶーと口を尖らせながら、パティとチカは文句を言ってみせる。

 そんな2人の姿を見て、仕方ないなあ、という顔で笑っているリゼとミサキ。


(これ一番凄いのは、割り込んでくる2人を許容してるリゼとミサキでは……?)


 4人の関係を(はた)から眺めながら、スミカはそんなことをしみじみと思った。





 

(筆者は関西弁が判らないのでエセです。ゆるして)

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― 新着の感想 ―
おお、いつの間にか新作が。ピティが変わらず初心者向け扱いされてるとほっこりしますね。 スミカの得た諸々も楽しみなところ。投資家はなかなか癖強そうですからね。 出る確率が都市伝説になるくらいには低い『…
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