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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第2章【大瀑布と白き月】

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第98話「カナヘビ隊」

 鉄が岩を打ち付ける硬質な音が夜の森に響く。

 一振りごとに強い衝撃とジンジンと痺れるような痛みが腕に蓄積された。


「ふっ、ふっ」


 岩は純粋に大きくそして硬い。

 ただそれだけの事だが、ツルハシを振るう俺にはこれ以上ないほどの脅威だ。


「はぁっ、ふぅっ、ひぃ……」


 白鹿の案内してくれた上層へと繋がる道は、崖崩れによって殆ど塞がってしまっていた。

 そこで、唯一〈採掘〉スキルを持っていた俺が岩を砕くべくまたしてもツルハシを振っているのだった。


「がんばってくださーい」

「もうすぐだよー。知らないけど」


 背後に建てたキャンプの中から、レティたちが暢気な声を掛けてくる。

 LP回復用に張ったキャンプはそのまま周囲の敵払いにもなるから、彼女たちは仕事がないのだ。


「いやぁこうやってレッジが働いてるのを見るのって新鮮だね」

「いつもはレティたちが戦ってて、レッジさんを見る余裕はないですもんね」


 クッションにどっかりと身を沈め、優雅な談笑に花を咲かせる彼女たち。


「レッジが〈採掘〉スキル持っててくれて助かったわねぇ」

「はい。wiki編集者は採取系スキルを持っていないことの方が多いですから」


 エイミーとひまわりもリラックスした様子だ。

 しかしそんな彼女たちよりも悠々とした態度で俺の働きを眺めているのは、ここまで案内した白鹿だった。

 彼は俺のすぐ後ろに陣取り、膝を折ってうつらうつらと船を漕いでいる。

 キャンプで休めばいいものを、なぜか俺の傍を離れないのだ。


「せーのっ!」


 ガン、と力強くツルハシを打ち込む。

 大きく亀裂の入っていた大岩にはそれがトドメになったようで、ゆっくりと左右に倒れ、ぱっくりと割れる。


「おお! ……oh」


 道が開通したかと喜んだ矢先、岩の先に立ちはだかる更に大きな岩が現れる。

 ちらりと白鹿の方を向くとじっと黒い瞳を返される。

 どうやらこれも砕かねばならないらしい。


「もう〈採掘〉スキルも40越えるぞ……」


 つい最近上げ始めたスキルだというのに、早くも他のメインスキルに追いつき始めている。

 このフィールドの鉱石はかなり硬く、その分経験値効率もいいのだろう。


「ほんとにレッジさん、なんでもできるようになってきましたね」

「何でもは出来ねえよ」


 我ながら器用貧乏な構成であるとは思う。

 だが器用貧乏は決して万能ではないのだ。


「でもレッジが居なかったら、上層へ帰る道は今でも分からなかったと思うわよ」

「そもそも下層に降りる方法も分からなかっただろうね」

「……そう考えると悪運が強いというか、ただでは起き上がらないな」


 フィールドに踏み入ってからのことを思い返し、感慨に耽る。

 殆どが偶然の産物ではあるが、よくここまで進めたものだ。


「いやぁ、ほんとに助かるでござるよ」

「褒めても何にも出ないぞ。……うん?」


 会話の中に聞き慣れない声が混じり振り向く。


「おわっ!? な、なんだお前ら」


 そこには、闇に溶けるような漆黒の忍び装束を着込んだ忍者が居た。

 それも一人ではない。

 十人ほどの黒装束が、ぐるりとキャンプを囲んでいた。


「あいや失礼。拙者らは怪しい者ではござらん」


 その中の一人が進み出て、唯一露出した目元を緩める。

 しかしそうは言われても、風貌から言動から全てが一切合切怪しさの塊なのだが……。

 レティたちも既に臨戦態勢を整えている。


「……百足衆の皆様ですね」


 そんな中、ひまわりだけが落ち着いた様子で口を開く。

 その言葉に代表の男は頷く。


「如何にも。我ら一頭なれど百足。百足衆が一足、カナヘビのムビトと申す」

「ムビト……。なるほど、そういうことですか」


 仰々しく名乗る、ムビト。

 ひまわりは得心がいった様子で頷くが、俺やレティたちには何一つ情報がない。


「えっと、ひまわり? 是非解説してもらえるとありがたいんだが」

「はい。百足衆は一部の界隈ではよく知られているのですが……」


 そんなこと言われても知らないのだ。

 レティもきょとんとしているし、彼女が知らないことを俺が知っているはずもない。


「百足衆というのは、忍者集団です」

「なんとなくそれは分かるよ」


 なんてったって全員忍者っぽい格好してるからな。

 服の色も黒一色で、ぶっちゃけ個々の見分けが付かない。


「百足衆はガチ忍者集団と言いますか。……まあ実力派集団の一つですね」

「大鷲の騎士団みたいなもんか?」

「はい。その認識でよいのです」


 見た目は凄くネタっぽいが、だからこそだろうか。

 事実、彼らがすぐ近くまでやって来ても俺たちは気づけず、ムビトが口を開いてようやくその存在を認識した。


「〈忍術〉スキルの第一人者ってところか」

「はい。特にムビトさんの率いるカナヘビ隊はわたしの同業です」

「同業っていうのは、wiki編集者ってことか」

「情報収集者という方が正しいですね。未知の領域に先んじて踏み入り、情報を集めて編纂することに特化した少数精鋭、と聞いています」


 そう言って彼女はムビトたち忍者軍団を眺める。

 十数人というのは多い方だと思うのだが、百足衆という集まりの中では少ないのだろうか。


「いやはや、よく知っておられる。拙者が説明することもありませんな」


 ムビトは彼女が朗々と披露した説明を聞いて目を細める。

 その様子からして、ひまわりの言葉に大きな間違いは無いらしい。


「それで、そんな忍者軍団の皆様がどうしてレティたちに接触されたんですか?」

「実は誠お恥ずかしいのですが……」


 少し怒った様子のレティに、ムビトは後頭部を掻きながら言う。


「拙者らも帰り道が分からず、途方に暮れていたのですよ」

「……そんなことだろうと思ったよ」


 がっくりと肩を落としラクトが言う。

 まあ、それ以外に理由もない。


「地形や生物の調査は恙なく終わったのですが、いざ帰還しようと思ったところ道が見つからず。総動員して探していたところ、不思議な鹿を連れて森の中を進む一行を見付けた次第です」

「結構前から付けていたのか」

「出方を見計らっておったのですよ」


 飄々と言うムビト。

 彼らは森を進む俺たちを見付け、今の今まで影に潜みながら見ていたらしい。


「しかし失礼な事とは承知しておりまする。誠、申し訳ない」

「いやそれはいいよ。ただ、なんで今頃出てきたんだ?」

「隠れていても仕方ないと判断したのが一つ。あと一つは、」


 そう言ってムビトはちらりと仲間の方を見る。

 黒尽くめの集団の中から、三人が前に出た。


「我らも助太刀致そうかと考えた次第」


 三人はインベントリからツルハシを取り出す。

 どうやらカナヘビ隊というのは、ビルドも全て揃えている訳ではないらしい。


「いろんな事に対応できるように、幅広いビルドを組んでるのかな」

「左様。採集物の調査もカナヘビの役目なれば」


 エイミーの指摘にムビトが頷く。

 ツルハシを握った三人は俺の隣にやってくると、早速採掘を始める。

 ゴーレムが二人、ヒューマノイドが一人だ。

 ゴーレムの破壊力は凄まじく、人数も合わさり順調に岩が崩れていく。


「おお、これは楽だ」

「レッジ殿お一人では骨が折れましょう」

「そう思うなら最初から手伝ってくれても良かったんだがな……」


 いつの間にか俺の隣までやって来たムビトに驚きつつも唇を尖らせる。

 そんな俺の方を見て、ひまわりが微妙な笑みを浮かべた。


「岩が崩れて何か出てきたりしたら大変だから、一つ目の岩が壊れるまでは様子を見ていたのでしょう」

「そういうことか」

「……はっはっは!」


 じろりとムビトを見ると、彼は快活に笑うも否定はしなかった。

 やはり忍者、あやしい……。

 しかしそんな忍者たちの協力もあり、二つ目、三つ目の岩はすぐに崩れる。


「おお、やっと終わったか」


 そうして俺たちの眼前には、広い大穴が姿を現した。


「おむすび」

「はっ」


 穴の前に立ったムビトが、後方に控える仲間の一人を呼ぶ。

 フェアリーの女性らしい忍者が現れてムビトの隣にやってくる。


「偵察を」

「かしこまりました」


 ムビトの指示で、おむすびと呼ばれた少女はインベントリから小さな機械を取り出した。

 蜘蛛に似た、八本足の小さな機械だ。

 それはおむすびの手を離れて穴の奥へと進んでいく。


「どうだ」

「何も見えません……。っ!」

「どうした」

「機体消失しました」

「……ふむ」


 おむすびが悲しそうな声で言う。

 ムビトは常に冷静を保ち、少し考えを巡らせたあと、にこやかな目を俺に向ける。


「ささ、お先にどうぞ」

「行くわけ無いだろ!!」

Tips

◇wiki編集者

 公式wikiに情報を纏めることを専門とするプレイヤーの自称であり総称。編集者ごとに得意とする分野は異なり、フィールド調査、町中調査、原生生物の情報から鉱石の情報まで多岐に渡る。彼らは正しく信頼性のある情報を記載することを信条とし、彼らの尽力によってwikiの品質が保たれていると言っても過言ではない。


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