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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第2章【大瀑布と白き月】

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第84話「シャドウスケイル」

 シャドウスケイル。

 湖沼の主である三つ首の大蛇の素材を用いて製作された防具は、そんな名前がついていた。

 薄墨色の細かな鱗を重ねた衣服と、しなやかな皮革を用いたカーキのジャケット。

 全体的に落ち着いた雰囲気の装いだが、赤、青、金のそれぞれに輝く宝玉を連ねた首飾り(ネックレス)が美しく胸元を彩る。

 (シャドウ)の名を冠するだけあって、ファングシリーズのような野趣溢れるものとは対照的にシンプルなシルエットをしている。


「湖沼の主の防具だけあって、耐水値がかなり高いわね。あとは原生生物に注目されにくくなる特殊効果付きよ」


 早速着替えてぐるぐると身体を回すレティに付き合いながら、ネヴァが性能の解説をする。


「防御力もかなり上がってますよ!」

「そりゃあ、ファングシリーズと比べたら間に二、三個くらい段階すっ飛ばしてるもの。むしろ今まで装備更新しなさすぎたのよ」


 ジャケットの襟元を掴んで、談話室の壁にある大きな姿見の前に立つレティ。

 ぴこぴこと耳を忙しなく動かして、端から見ても喜んでいることがよく分かる。


「三色瞳珠の首飾りは、物理ダメージとアーツダメージを5%カット。状態異常耐性を上昇させる効果付きよ」

「やっぱり、それぞれの頭の特徴に則った性能してるんですね」

「ていうか、アーツダメージを受ける事ってあるのか?」


 ローズゴールドの鎖を持ち上げて透き通った三色の宝玉を光に透かすレティを見ながら、俺は首を傾げる。

 アーツは世界観的にも俺たち機械人形固有の能力だし、原生生物がアーツを使ってくるという話は聞いたことがない。


「私もそういう話は聞かないわね。でもこれがあるってことは、そういうことなんでしょ」


 そう軽く言い放って、ネヴァはひらひらと手を振りながら階段を下っていく。


「とりあえず、レッジの分も作ってくるわ。その間にレティは着心地とかサイズとか、微調整できそうなところを探しておいて」

「はい。ありがとうございます!」


 レティに見送られながらネヴァが姿を消し、応接室にはまた二人だけになる。


「うふふ。うふふ。どうですかレッジさん!」

「ああ、すごく似合ってるよ」

「むぅ、気持ちがこもってません」

「他にどう言えと……」


 丸っきり浮かれたレティは足取り軽くポーズを取りながらテーブルの周囲を練り歩く。

 椅子に座ってそれを見物していると、彼女がずいと寄ってきた。

 エイミーのスーツほどではないが、シャドウスケイル装備もかなり身体に密着する服装だ。


「……とりあえず、ジャケットは脱がない方がいいだろうな」

「ふえ? まあ、脱ぐ理由もありませんしね」


 彼女は首を傾げ、ジャケットのファスナーを上げる。

 ワンサイズ大きめのものなのか、彼女が着るとだぼっとした印象を受ける。

 裾も腰よりかなり下にあって、足の細さが強調された。


「動きやすさはどうだ?」

「ふんふん、ふっ! とっ! ……問題ないですね!」


 広い場所でシャドーボクシングらしき動きをして、レティはむふんと鼻から息を吐く。

 余計な装飾が排されていることもあって、彼女の豪快な動きを阻害しないようになっているらしい。


「ヘイトも抑えられるんだったか」

「はい。これでエイミーさんが動きやすくなるかと」


 俺たちのパーティのアタッカーを担うレティは、その高火力ゆえに敵の敵愾心(ヘイト)を煽りやすく、狙われやすい。

 そこを抑えられるということは、エネミーの攻撃を一手に引き受けるエイミーの仕事が軽減されることにも繋がるのだ。


「レッジさんも支援アーツ使うとヘイト稼ぎますし、シャドウスケイルはちょうどいいんじゃないですか?」

「そうだな。あんまり狙われても困るし、俺は防御手段を持ってないし」

「そういえばレティも防御手段持ってないですね」


 俺がぼやくと、レティがはたと気付く。


「レティの場合は攻撃は最大の防御って感じだろ」

「そうですねぇ。雑魚敵ならテクニック選べば一撃も夢じゃないですし」

「重戦車みたいだな……」


 機敏に動き回る分重戦車よりもタチが悪い気もするが。


「レッジさんは〈槍術〉スキルもう上げてないんですか?」

「まあ、40程度あれば今のところ十分だからな。多少時間は掛かるが雑魚敵も対処できる」

「けど、この先のフィールドだと通用しないかも知れませんよ」

「そうなったら潔く、レティたちに守って貰うさ」


 少し笑いながら言うと、レティは目尻を下げる。


「レッジさんは甲斐性って言葉とは縁がなさそうですね」

「その代わり(キャンプ)は任せろ。料理もできるぞ」


 我ながら女性三人に守られる男性というのは情けないと思わないわけではない。

 しかし四人ともそれぞれに好きなことをしている結果、これが一番合理的なポジションに収まっているのだ。


「そういえばレッジさん、リアルだと既婚なんですか?」

「いや、独身貴族を謳歌中だが?」


 突然の踏み込んだ質問に、少し驚きつつ答える。

 彼女はぴくりと耳先を動かした後、なんでもないように薄く笑った。


「そうですか。長い時間ログインしてますし、奥さんがいらっしゃる専業主夫なのかと」

「独り身だからいくらでも私生活を投げ出せるだけさ。今は仕事らしい仕事もしてないしな」

「え、ニー」

「違うぞ。ちょっと込み入った事情があるだけだ」


 そう言うと、レティはそれ以上追及してこなかった。

 別段隠したいことでもないが、言わなければならないことでもない。

 なんとなくレティは学生だと思っているが、彼女の知らないことが社会には沢山あるのだ。


「おまたせー。レティ、どうだった?」

「わ、わ。とっても着心地良くて、動きやすいです。えっと……腰回りだけ少しゆるいので、調節していただけるとありがたいですね」


 ちょうどネヴァが階下から現れて、レティに声を掛ける。

 彼女は慌てながらも答え、ジャケットの前をまくり上げた。


「ふんふん。それじゃあベルト作りましょうか」

「ありがとうございます」


 ベルトループを付けるから、とネヴァが装備を回収する。

 ファングシリーズに戻ったレティはいそいそと椅子に腰を落とし、期待に満ちた目で俺を見た。


「それで、レッジさんの装備は?」

「できたわよ。――はい、どうぞ」


 なぜかレティが催促して、ネヴァから装備を受け取る。

 早速着替えると、レティが大きく口を開けて歓声を上げた。


「ふああ、凄い! レッジさんかっこいいですよ!」

「そ、そうか……?」


 自分では見えないから彼女の大ぶりな手の動きに気圧されながら、姿見の前に移動する。


「おお……」


 そこには、薄墨色の衣服に身を包んだ俺が立っていた。

 全体的にゆったりとしたサイズ感で、上下の生地はしなやかに身体を包む薄い皮革。

 細やかな鱗が重なり、防御力を上げている。


「ジャケットと首飾りは、レティちゃんとお揃いね。ペアルックみたいでいいんじゃないの?」


 俺の肩に手を置いて、ネヴァが言う。

 二人とも同じ素材を使った同じシリーズだし、なんなら前のファングシリーズもお揃いみたいなもんだった。

 今更気にすることでもない。


「そ、そんなペアルックだなんて。ネヴァさん気が早いですよ……」


 と思っていたのに、なぜかレティは両手で顔を覆っていた。


「嫌だったか?」

「そ、そういうわけでは」


 少し不安になって尋ねてみれば、ふりふりと首を振られて少しほっとする。

 なんというか、個人的にはペアルックというよりは親子みたいな……。


「着心地はどう?」

「ああ。凄く良いよ。……そうだな、俺もベルトを通したい」

「りょーかい。それじゃあ手直しするわね。ついでに武器の方も用意してくるわ」


 俺の試着はすぐに終わり、ネヴァに装備を返す。

 再び階下へと消えるネヴァの背中を見送って、俺はどっかりと椅子に座った。


「なかなか良い装備だな」

「ですね。とりあえず、次のフィールドには通用すると思いますし」


 レティも頷く性能に、俺も満足だった。

 そうして残るはあと一つ。

 ネヴァも張り切る、グレンキョウトウショウグンガザミの希少な素材を使った槍だけだ。


Tips

◇シャドウスケイルシリーズ

 湖沼の奥底に潜む三つ首の大蛇の素材を用いた装備。薄墨色の落ち着いた色合いに、カーキのミリタリージャケットを合わせた自然に溶け込む装い。気配を薄め、水場での行動を容易にする。大蛇の瞳を模した三色の宝玉を連ねる首飾りには、各種の耐性を付与する力がある。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私の母親みたいに不定期で仕事が来る感じの仕事なのかな...?
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