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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第1章【暁紅の侵攻】

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第73話「銀翼の団」

 最初に行動を起こしたのはニルマだった。

 彼はインベントリから鉄製のトランクケースのようなものを三つ取り出すと、それらを地面に並べる。


「『発動(トリガー)』!」


 高らかに彼が叫ぶと、トランクケースは複雑にパーツを動かし急激に形を変える。


「あれは、機械馬か?」


 屋上からその様子を見ていた俺が思わず言葉を漏らすと、隣のレティが首を振る。


「たしかに機械馬ですが、通常の機械馬じゃないですよ。あれは機械軍馬です」


 まるで時を巻き戻すかのような異様な動きで、鉄製のトランクは大型の馬の形へと変形する。

 どう考えても体積が違いすぎるが、そこはどういう理屈だろうか。


「さあみんな、僕の戦馬車(チャリオット)に乗り込んで!」


 三頭の軍馬が並ぶ後ろにニルマが立ち、一回り大きなトランクを地面に置く。

 同様にそれも大きく展開し、刺々しい武装を施された大型の戦馬車(チャリオット)へと姿を変える。


「ニルマさんが〈獣帝〉と呼ばれる由縁は、あの機械獣たちなんです。彼はゲーム開始当初から〈機械操作〉スキルの第一人者として活躍していて、多種多様な機械獣を保有しているんですよ」

「よく知ってるな、レティ」

「有名ですからね」


 すらすらと淀みなく説明をしてくれるレティがありがたい。

 しかし彼のトランク型のアイテムは便利そうだ。

 機械獣は普通ああやって折りたたんでインベントリに入れておくなんてことはできないはずだが……。


「あれは〈機械操作〉のレベル50テクニックですよ」

「そうなのか。俺が使えるようになるのはまだ先みたいだな」


 そんな話をしていると、アストラたち銀翼の団の五人が戦馬車に乗り込む。

 ニルマは御者台に立ち、大きな鞭をふるって機械軍馬たちに指示を下す。

 主人の意向を敏感に受け取った忠実な馬たちは大きく嘶くと、鋼鉄の蹄を蹴って勢いよく進み始める。


「『突進』!」


 ニルマの声が戦場に響く。

 機械馬は臆することなく巨蟹の軍勢へ突っ込み、その硬い甲殻を砕いて強引に活路を開く。


「すごい破壊力ね……。あの軍馬、凄く頑丈だわ」


 エイミーが惚れ惚れとした様子で言う。

 盾役を担う彼女だからこそ、その凄さが人一倍よく分かるのだろう。


「さて、俺たちも追うか」

「えっ!? わたしたちは流石に付いていけないよ?」


 俺の声にラクトが驚き仰け反る。


「流石に直接追ったりはしないさ。こいつを使うだけだよ」


 そんな彼女に苦笑して、俺はインベントリからドローンを取り出す。


「さっき破壊された奴以外にも持ってたんですね」

「まぁな。これは比較的安かったから何個かまとめ買いしてるんだ」


 言いながらドローンを起動して、上空からアストラたちを追う。

 ディスプレイに表示される映像には、紅い大地を割って猛進する一行が鮮明に映し出されていた。


「ドローンって便利ですねぇ」

「なんか盗撮みたいだけどね」


 エイミーが少し呆れたように眉をさげて言う。

 否定はできないが、多分アストラあたりは気付いているだろうから合法だ。


「しかしあの戦馬車はすごいな。問答無用で蟹を吹き飛ばしてるぞ」

「馬力が違いますよ、馬力が。普通の機械馬は速度極振りで悪路の踏破性能も低いですが、流石の上級機械ですね」


 なぜか自分のことのように自慢するレティ。

 彼女が持っているのは全て機械牛のはずだが、ちゃんと機械馬のこともよく調べているらしい。

 生き字引とは彼女のためにあるような言葉だな。


「なんだか失礼なことを考えられてる気がしますっ」

「そんなことないない」


 たまに凄く勘が良いの、やめて欲しい。


「あの、レッジさん」


 四人でディスプレイを囲んでいると、不意に後ろから名前を呼ばれる。

 振り返ると大鷲の騎士団が副団長のアイが少し緊張した面持ちで立っていた。


「どうかしたか?」

「団長から連絡がありまして。『ドローンでタカアシガニまでの方向を案内してほしい』とのことです」

「ああ、そういうことか……。一直線でいいのか?」

「はい。ニルマさんの戦馬車なら問題ないと言われています」


 過不足無いアストラの言葉に思わず笑みを浮かべる。

 そういうことなら、撮影代くらいは働こう。

 俺はドローンを操作して、タカアシガニまでの直線を進ませる。

 ニルマがそれを見ながら戦馬車の進路を微調整し、更に速度を大きく上げた。


「おお、あの戦馬車速いな」

「あれは突破力を重視してカスタムしたモデルですから」


 いつの間にか輪に加わったアイが説明してくれる。

 副団長として戦線の指揮を任せられているはずだが、皆優秀すぎて特に指示することもないらしい。


「他にも種類があるのか?」

「耐久力に特化したものと、攻撃力に特化したもの、あとは機械獣の拠点になるモデルもありますね」

「四つもあるのか……」

「それだけで一財産ですねぇ」


 トッププレイヤーの評判と実力は伊達ではないらしい。

 話の間にも戦馬車は少しも速度を落とすことなく巨蟹をなぎ倒して突き進んでいる。

 機械の馬は疲労もせず、ただ愚直に前だけを見て脚を動かす。

 そうして進むこと数分、予想よりも遙かに短い時間を経て、銀翼の団はそれを見つけた。


「いたぞ、タカアシガニだ」

「たぶん正式名称はそれじゃないと思いますけど……」


 レティが何か言っているが、俺の中ではもうタカアシガニなのだ。

 戦馬車がゆっくりと速度を落とし、停車する。

 それを狙った巨蟹たちが爪を振り上げるが、乗車している他のメンバーたちによって軽くいなされている。


「あの蟹も普通に強いはずなんだけどね」


 軽く千切っては投げられている蟹を見てラクトが複雑な表情を浮かべる。

 一応、ボスより少し弱い程度の強さはあるはずなのだ。

 その時、戦馬車を中心にして白い光の障壁が円形に広がる。

 巨蟹たちが強引に押しのけられ、空白地点が生まれた。


「あれは?」

「〈秘玉〉のリザさんのサークルアーツですね。あの人はサークル系のアーツの第一人者なんです」


 すかさず披露されるレティの解説が本当に助かる。

 あの白い円は、俺のキャンプの簡易版のようなものらしい。

 あれのおかげで蟹の軍勢の中に空白地帯ができあがった。


「お、タカアシガニが気付いたみたいだな」


 ドローンを動かしてタカアシガニと銀翼の団を画面内に収める。

 タカアシガニは足下に現れた彼らの方へゆっくりと身体を向けていた。


「アストラさんが動きますよ!」


 手に汗握るレティの声。

 それと同時にアストラが剣を引き抜き、大きく横薙ぎに振る。


「なっ!?」


 剣戟が飛んだ。

 彼の前方扇状の範囲を斬撃が走り、ひしめく巨蟹を一掃する。

 真っ赤な大地に、もとの草原が一瞬だけ姿を現した。


「すごい攻撃範囲ですね。彩花流でもあそこまでのものは……」

「うわっ、トーカとミカゲも来てたのか」


 真後ろで声がして驚き背中を伸ばす。

 振り向けば和装の双子がにこやかな顔で立っていた。


「何やらおもしろい気配がしたので」

「……〈灰燼〉の人が見たい」


 ふと気付けば俺たちの周囲にはちょっとした人だかりができていた。

 胸元に大鷲のブローチを着けているプレイヤーが殆どで、彼らは押し合いへし合いディスプレイを覗き込もうとしている。


「なんなんだこの騒ぎは!?」

「みんな、団長たちの全力が見れると聞いてやってきたみたいです」


 アイが少し呆れた声で言う。

 戦線はなんとか維持しつつ、時間で交代しながら見に来ているらしい。

 銀翼の団というのは騎士団の中でも人気があるようだ。


「あー、ちょっと待ってろ」


 俺はインベントリを探ってアイテムを取り出す。


「これなら全員で観れるだろ」


 スイッチを点けるとキャンプの防壁に映像が投射される。

 レベリングのためだけに買ったプロジェクターが、意外なところで役に立ったらしい。


「うおおお! 団長がんばれぇ!」

「フィーネさんの脚、いいよなぁ」

「俺は断然リザさん派だよ」

「ニルマくんの声いいよね」


 屈強な男達が大画面に映し出される銀翼の面々に沸き立つ。

 いや、女性プレイヤーも少なくない数並んで悲鳴に近い声を上げている。

 戦線維持担当の団員達が、後方の騒ぎを聞いて羨ましそうな目を送っているのにも気付いていないようだ。

「はぁ、ちゃんと戦線も見張っておかないと……」


 熱狂する団員たちを見てアイは小さくため息をつき、前線にも目を向ける。

 彼女も指揮官を任された以上、ここを落とすわけにはいかない。

 そんなキャンプ地の様子も知らない画面の奥のアストラたちは、敵意を見せるタカアシガニを見据えて開戦の時を待っていた。


Tips

破城の戦馬車ハンマー・チャリオット

 大鷲の騎士団、〈獣帝〉のニルマが所有する戦馬車。特別なカスタムを施した機械軍馬三頭によって牽引される。車体に槍のような鋭い突起を多く取り付けることで多数の敵の中を強引に突き進む突破力を重視している。定員は五人。


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