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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第1章【暁紅の侵攻】

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第67話「開戦の報」

 新天地のドアをくぐると、すでにレティたち馴染みの面々は揃っていた。

 ぴこぴこと揺れる赤毛のうさ耳を目印にテーブルまで近寄ると、彼女たちは俺に気がついて手を挙げる。


「おはようございます、レッジさん」

「おはよ、レッジ。……準備は万端みたいだね」

「おはよー。レッジが最後だよ」

「おう、おはよう。今日は町中一段と混雑してて、ここまで来るのに時間掛かったよ」


 レティが席をずれ隣をぽんぽんと叩く。

 ありがたくそこに腰を下ろし、ひとまず飲み物を注文する。


「そりゃあ、今日の十二時からだもんね」

「第1回イベントとなれば、みんなの気合いも入るし期待も高まるってもんだよ」

「レティたちもこの日に向けて準備してきましたからね!」


 そう、今日は待ちに待った第1回イベント、〈特殊開拓司令;暁紅の侵攻〉の開始日である。

 この日に向けてボスを倒して源石を集めたり、新たな武器や防具を拵えたりと、およそ全てのプレイヤーたちがそれぞれに準備を進めていた。

 町の活気は日増しに高まり、まさに今その波は最高潮にまで達している。


「レティは例の武器が完成したんだったか」

「はい! とはいっても、まだまだ扱いは難しいんですが」


 俺たちもまた他の例に漏れず、今日を指折り数えて待っていたパーティだ。

 それぞれ独自に自己強化を行っていたが、それは当日その瞬間に披露するというのがいつの間にか暗黙の了解になっていた。

 レティの場合は、先日の爆発ハンマーの改良版だろう。

 ネヴァとはかなり綿密な話し合いをしていたようで、俺たちにもたまに意見を求められた。

 完成形はまだ披露されていないから、それはとても楽しみだ。


「ラクトとエイミーはどうだ?」

「ふっふっふ。わたしも実は色々バージョンアップしてるよ」


 ラクトが不敵な笑みを浮かべて言う。


「アーツチップ集めとか、かなり頑張ってたもんな」

「レティも何度か同行して任務をこなしましたよ」

「いやぁ皆には助けられたよ。お陰でアーツのバリエーションも広がったしね。……でも、それだけじゃないよ」


 意味深長な言葉を残し、後はお楽しみ、と彼女は笑う。


「私もこの二週間かなり頑張ったわね。源石も結局五つも集められたし」

「エイミーさんはボス相手にスパーリングしてましたよね。スキルもメキメキ上がってるんじゃないですか?」

「ええ、おかげさまでね。細かいこと考えられる性格じゃないから、順当に自分のできることを伸ばしていったわ」


 期待してて良いわよ、とエイミーはレティに向かって片目を閉じる。

 今回のイベントはスサノオへ侵攻してくる原生生物たちとの防衛戦だ。

 タンクとしてパーティの殿を務める彼女が最も輝く場面だろう。


「それで、レッジさんは何を鍛えてたんですか?」

「そうそう。ログインしてるのに会えないって時が多くて貴方が一番謎なのよ」

「三人で色々噂してたんだよ?」


 三人の視線が一斉に向けられ、俺は思わず仰け反る。

 トーカとミカゲの双子たちと密林で狩りをして以降、俺は一人で密かに修行を積んでいた。

 イベント当日にレティたちを驚かせたいということもあって、今までずっと秘密にしていたのだ。

 今日も早朝からログインはしていたのだが、最後の大詰めに至るまでに少し時間が掛かってしまって少し待ち合わせに遅れてしまった。


「まあまあ。もうすぐ分かるさ」

「むぅ、そうやってはぐらかすのは駄目だと思います」

「ヒントくらいくれてもいいよねぇ」


 唇をとがらせブーブーと言ってくる少女たちの追及を避け、俺はコーヒーに口を付けた。


「しかし、今回が初とはいえイベントの事前情報が殆ど何もないのが少し不安だ」

「む、話を逸らしましたね?」

「まあまあ。確かに予告以上のものは殆ど公開されてないわね」


 眉を寄せるレティをたしなめ、エイミーが話に乗ってくれる。

 彼女の言うとおり、今回のイベントの名前と簡単な概要以外、全くと言って良いほど情報が与えられていないのだ。

 謎が謎を呼び、掲示板では連日盛んに議論と推察が行われ、レングスのような考察班、検証班、攻略組などの面々が意見と知識を交換していた。

 しかし現時点で確実なのは、“スサノオへ侵攻する原生生物からの防衛戦”であること。

 なにが現れるのか、どの方角からやってくるのか、どれくらいの数が押し寄せるのか、そしてどれだけの期間続くのか、その全てが不明なのだ。

 正直、説明不足すぎるという意見も多く、第1回イベントでなければ参加しなかったと憤りを見せる者もいたくらいだ。


「レティはそれなりの敵がどどーんと来てくれる方が嬉しいですね。無双系みたいで楽しそうです」

「わたしはボスクラスが来る方が楽しいかな。攻略のし甲斐がありそうじゃない?」

「私はどっちでもいいけど、タンクが輝くのがいいわね」

「それは防衛戦という以上必然なのでは……?」


 なんにせよ、今は何も分からない。

 ただ十二時ちょうどに発表されるイベント開始の合図を待つことしか俺たちにはできないのだ。


「おお、これはすごいですね」


 時刻を待ちながら雑談に花を咲かせていると、掲示板を見ていたレティが声をあげる。

 何事かと顔を向けると、彼女はディスプレイを共有してテーブルの真ん中に開いた。


「ダマスカス組合がスサノオをぐるっと囲むバリケードを作ったみたいです」

「ダマスカス組合? バリケード?」


 クエスチョンマークをいくつも浮かべる俺を見て、彼女は大げさなため息をついて眉をさげる。


「レッジさん、ほんとに掲示板見てます?」

「ニッチなところはいくつか」


 俺の返答に彼女はがっくりと肩を落とす。

 そんなに落胆されるほど常識的な話だったのだろうか。


「ダマスカス組合は生産者プレイヤーの集まりよ。お揃いの腕章を着けてるからすぐ分かるわ」

「ほう、そんなのがあるのか」

「システム的に保証された集まりじゃないけどね」


 ラクトの補足になるほどと相槌をうつ。

 FrontierPlanetには他のゲームにあるギルドのようなプレイヤーの集まるシステムが今のところ実装されていない。

 ダマスカス組合というものは、あくまでもプレイヤーたちが自主的に結成している集まりなのだ。


「生産者同士で情報交換をしたりレシピの共同開発をしたり、あとは素材を融通したり、戦闘職からの製作依頼を斡旋したり、色々と活発に動いてるグループみたいだね」

「へぇ。生産はネヴァに頼ってるから知らなかった」

「私たちもそうだけど、それでも風の噂で聞くくらいには有名な組織よ?」


 三人にそんな反応をされるくらいには有名だということがよく分かった。

 これからはちゃんと、大きいスレッドもこまめに目を通して置いた方がいいかもしれない。


「それで、そのダマスカス組合がバリケードを組んだって?」

「はい。大工と鍛冶師が総動員されて、大量の資材を集めて作ったみたいですね。SSが貼られてますけど、なかなか壮観ですよ」


 そう言ってレティがディスプレイに表示したのは〈始まりの草原〉を横断する立派な木組みの壁だった。

 等間隔で建てられた櫓とそれを繋ぐ金属板を打ち付けた壁でできており、武装したプレイヤーたちがその近くに並んでいる。


「これは物々しいな」

「なんてったって初めてのオンラインゲームらしいイベントですからね。生産職の方々も張り切っているんでしょう」


 防衛戦というだけあって戦闘職がメインとなることは予想できたが、生産職を志すプレイヤーたちも自身のできることを模索していたのだろう。

 彼らの情熱を垣間見て、俺は思わず胸が熱くなる。


「あっ、そろそろ時間よ」


 エイミーがそう言った数秒後、ついに予定された時刻を迎える。

 その瞬間、耳を劈く大音量のアラームがスサノオの町中に響き渡った。


「きゃっ!?」

「うわわ、突然だね!」


 聴覚の敏感なレティが飛び上がり、ラクトが楽しげに声を漏らす。

 新天地の外の通りを慌ただしく駆け出すプレイヤーの影が窓越しに見えた。


『緊急事態が発生しました。戦闘員は至急、シード01-スサノオ北方ゲート前へ集合してください』


 町中に配置されたスピーカーから無機質な合成音声で放送が流れる。

 繰り返されるそれを聞いて、俺たちは互いの顔を見合わせた。


「始まったな」

「はい!」

「よぅし、がんばろー」

「楽しくなって来たわね」


 俺たちは席を立ち、一斉に出口を目指す他の客たちと共に駆けだした。

Tips

◇前衛拠点の防衛機能

 イザナミ計画の最前線を担う前衛拠点は標準的に強固な防衛壁と高性能の重火器群から構成される防衛設備が設置されている。また未知の原生生物の急襲に対応するため、通信監視衛星群ツクヨミとリンクした厳重な警戒網が拠点の半径20km圏内に敷かれている。そして有事の際には調査員たちの総力をもって可及的速やかな敵性原生生物の排除を目的とした緊急指令が発せられる。


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