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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第1章【暁紅の侵攻】

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第42話「極振りの四人」

「レティ、よろしく! ――『プッシュガード』ッ」

「任されましたっ! 『破砕打』りゃぁあああ!」


 エイミーに突進を阻まれ、巨影がよろめく。その隙を縫い、レティがハンマーをその黒い蹄に叩き込む。

 僅かに残っていたHPを消し飛ばし、蹄は粉々に砕け散る。断末魔と共に炎帝ルボスは草原に横たわった。


「お疲れさん。じゃあ解体するぞ」

「よろしくお願いしますー」


 一仕事終えたレティたちがキャンプに戻ってくると、代わりに俺が外に出る。


「これで最後だったな」

「はい。レティもエイミーもラクトも、自分の分の源石はゲットしましたから」


 レティがぴこんと耳を立てて頷く。

 俺たちはあの後、更に四体のルボスを討伐した。源石のドロップはボス一体につき一つのみだから、人数分を集めようと思うと数を倒す必要があった。


「一回町に帰ったとはいえ、結構早かったなぁ」

「レッジさんが私たちに源石を回してくれましたから。そのお陰でみんな余裕が出てきましたよ」

「まあ俺は戦闘には加わってないからな。順当な判断だろ」


 俺たち以外にもボス討伐を志すプレイヤーはいるため、一度荷物整理も兼ねて町へと戻ったが、それでも一時間しないうちに全員分の源石を確保できた。

 獲れた源石はエイミー、ラクト、そしてレティと順番に配り、それによって個々の戦力も底上げされた。その間にも戦闘を通じてスキルレベルも上がっているだろうし、何より三人ともルボスの行動パターンを掴んでより効率的に行動できるようになっていた。

 そのため、四体目のルボスの時には初回の半分程度しか時間も掛からなかった。


「RTAとかするプレイヤーもいるんだろうね」

「四ボス討伐とか、ありそうですね」


 キャンプの二階から下りてきたラクトが話に加わってくる。

 四ボスというのは豪腕のカイザーや炎帝のルボスに並ぶ、〈始まりの草原〉の先に広がるフィールドのボスたちの通称だった。すでに全てのボスの討伐は成されているから、俺たちもそのうち回らないといけないな。


「レッジたちはカイザーも倒してるんだっけ? 私も挑戦しないと」

「エイミーも十分強くなったし、なんなら一人でもいけるんじゃないか?」


 エイミーもやってきて、まだ見ぬボスたちに目を輝かせる。


「でもレッジさんもカイザーの源石は持ってないですよね? それなら取りに行かないと」

「そういえばそうだったな」


 俺がカイザーを討伐した時はレティに源石を渡した。今回のルボスで、俺も初めての源石を手に入れたというわけだ。

 これでレティとラクトは源石を二つ、俺とエイミーは一つずつ確保できた。レティはLP最大量の拡大に、ラクトは生産量の強化に使うらしいが、俺とエイミーはまだ悩んでいる。


「ブルーブラッドの経験値も貯まってるだろうし、アップデートセンターもいかないとな」

「あそこ、わざわざお店に入らないと行けないからついつい忘れちゃうのよね」


 初めてBBの強化をしたときは速度に極振りしたのだが、今思うと俺は全然走らないプレイスタイルになっている。いっそ振り直すのもありかもしれないな。


「みんなはBBの配分どうするか決めてるのか?」


 ふと気になって周りの顔を見渡す。

 彼女たちは少し考えた後、順番に口を開いた。


「レティは攻撃力(Arm)特化ですね」

「わたしはアーツ(Head)極振り」

「私も盾持ちだし、防御力(Chest)に全積みかなぁ」

「……うーん、清々しいほどの極振りパーティだな」


 しかしそうなれば流れ的に俺はやはり速度(Leg)極振りがいい気がしてきた。別に早くて悪いわけでもないし、攻撃力やアーツも必要ないからなぁ。とるとするなら防御力だが、そもそも〈盾〉みたいな防御系スキルも持っていない。


「やっぱり俺も速度全振りかな」


 全員がそれぞれ別のパラメータに極振りしてるパーティというのも面白いだろ。

 ぱぱっと出かけて罠を仕掛けて拠点に逃げ込むというのは小物感がものすごいが、それもまた一興だ。


「――よし、とりあえず解体終わり。撤収するか」


 雑談をしつつも解体作業はつつがなく終わり、ルボスの巨体が光の粒子となって溶ける。

 インベントリに入ってきた源石を取り出し、何気なく太陽の下に翳す。七色の燦めきが拡散し、目の中で瞬く。


「レッジさん、行きますよー」


 歩き出したレティの声で引き戻され、俺は小走りで彼女たちに追いつく。

 キャンプの解体は、設営とは打って変わり一瞬で終わり、俺たちはヤタガラスに乗り込んだ。


「ポータルさえ解放すれば行き来が楽になるのはいいわね」


 開け放った車窓から吹き込む風に髪を揺らし、エイミーが目を細める。

 フィールドはかなり広大で、実際歩いて移動するのは微妙に面倒がつきまとう。カタカタと小刻みに揺れながら景色を流しながら走る装甲列車は、その時間を大幅に短縮してくれている。

 数分後にはスサノオの地下駅に辿り着き、冷たい空気に満ちたプラットホームに降り立った。その足で俺たちはアップデートセンターへ向かい、忘れないうちにブルーブラッドの割り振りを済ませる。


「結局また速度極振りだな」

「全体で見ればバランスもいいですから」


 レティのよく分からない理論を聞いて曖昧に頷く。

 ブルーブラッドのステータス補正自体はそれほど大きなものでもないから、不自由はない。


「BB強化ってあんな感じなのね……」


 ロビーで待っていると、アップデート初体験だったエイミーがげっそりとした表情で帰ってくる。

 粘液の中に飛び込むのは、仮想現実とはいえ勇気がいるからな。


「ふぅさっぱりしたー」


 ラクトも帰ってきて、全員分のアップデートが終わる。

 結局彼女たちもそれぞれのステータスに極振りだ。


「それじゃあ、わたしはちょっと用事があるからログアウトするね」


 予定を全て消化して一息ついた時、そういってラクトが手を上げた。


「そうですか。今日はありがとうございました」

「お疲れさま」

「お疲れ」


 三者三様に言葉を交わし、ラクトがログアウトするのを見送る。

 それに続く形でエイミーも挙手し、洗い物があるといってログアウトしていく。


「久しぶりに二人になりましたね」

「だなあ。知らない間にメンバーも増えたもんだ」


 元々は二人だけのパーティだったはずなのに、二日と経たずに倍に増えた。

 数奇な運命と言うと少し大げさかもしれないが不思議な気持ちだった。


「この後どうしますか? レティはまだ時間ありますよ」

「そうだな。――少し覗きたい店があるんだが、付き合ってくれるか?」

「もちろん!」


 はにかむレティと連れ立って、アップデートセンターを後にする。

 地図と一緒にWikiに纏められた市街図を並べて、目当ての店の場所を確認しながらくねくねと道を進む。


「随分辺鄙なとこですね」

「ああ。なんでも普通の店じゃ売ってないものも取り揃えてる専門店らしくてな」


 町の中心地から離れ、人気も段々と疎らになっていく。

 レティは時折耳を動かしては不安そうに周囲を見渡していた。


「ほら、着いたぞ」


 そうしているうちに目的の場所へと辿り着く。

 怪しげな店々が建ち並ぶ細い通りの真ん中にひっそりと看板を掲げる、小さな店舗だ。軒先には看板以外何も無く、ただ鉄のドアだけがある。


「〈アルドニーワイルド〉……? レッジさん、ここは何のお店なんですか」

「まあまあ、入ってからのお楽しみって奴だ」


 訝るレティの背中を押して、店の中へと踏み入る。

 ランプのほのかな暖色に照らされた店内は、フローリング敷きのウッディな雰囲気だった。壁にはハンティングトロフィーや毛皮のタペストリーが飾られている。


『いらっしゃい。ようこそ、〈アルドニーワイルド〉へ』


 店の奥へと進むと、不意に声を掛けられる。

 床板を軋ませ影の中から現れたのは、テンガロンハットを傾けたダンディなアンドロイドだった。

Tips

◇ブルーブラッド

 機械人形の体内を巡る高純度信号伝達媒体。ランクⅢナノマシンが配合されており、人工筋繊維および内部衝撃緩衝材、外部簡易装甲、スキンテクスチャの修復を行う。各拠点に配置されているアップデートセンターによて各部位のブルーブラッド比率および注入量を変えることができる。


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