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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第1章【暁紅の侵攻】

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第35話「前代未聞」

 甲高い音が作業場に響き渡る。

 ネヴァが金鎚を打ち付けるたび、赤熱したインゴットが火花を散らし形を変える。


「間近で見るとかなり迫力があるわね」

「俺もネヴァが鍛冶作業をしてるのは初めて見るな」


 俺やレティが作って貰ったファングシリーズは金属パーツをほとんど使っていない。フォレストウルフの毛皮がメインの素材として使われているから、ネヴァがこれを作るために使ったのは〈裁縫〉スキルだった。


「レティもいつか、金属製のガッシリしたハンマーを使いたいですね」

「わたしは金属装備だとアーツにマイナス補正が掛かっちゃうからダメかなぁ」


 隣に立つレティが羨ましそうに煌々と光と熱気を放つ金床を見る。

 アーツを主体に据えるラクトは金属鎧や金属武器を使うと威力が下がる為、装備するのは難しいようだった。ナノマシンが金属に誘導されて拡散してしまうから、などと説明されたがよく分からなかった。


「鍛冶もそうだけど、生産スキルって実際にアイテムを組み立ててる訳じゃないのよね?」

「たしかミニゲームみたいな工程だったと思いますよ」


 俺やラクトは生産スキルに手を出していないため、確かなことは言えなかった。しかしマメに情報を集めているレティだけはその分野にも一通り目を通していたらしく、少し自信なさげではあるものの口を開く。


「リズムに合わせてタイミング良く叩くとか、表示されるポイントをなぞって針を進めるとか。流石に現実ほど忠実に製作するわけじゃないです」

「それでも慣れない人がやると難しそうね」


 少なくとも私には無理ね、とエイミーが肩を竦める。


「生産系スキルにも手を出してみたいんだよな」

「そうなんですか? なんか意外ですね」


 思わず言葉を零す。レティが顔を上げてピコンと耳を立てた。


「野外でキャンプときたら、やっぱりバーベキューとか飯盒炊爨とかしてみたいだろ」

「ああ。そっち方面でしたか……」


 俺が答えると、レティは呆れたようであからさまに肩を落とした。

 何を期待していたのか知らないが、もともと俺はキャンプが主軸にくるプレイスタイルだぞ。


「よし、そろそろできるよ!」


 そうしていると、ネヴァが金床に向けていた顔を上げる。溶鉱炉の光が反射する小麦色の肌にはじんわりと汗が滲み、達成感に溢れたすっきりとした表情だ。

 彼女の声に俺たちも意識を戻し、完成品が現れるのを待つ。

 ネヴァは金床の上で形成されたそれを水を張った桶の中に沈める。水蒸気の弾ける音と共に熱が取れ、最後の仕上げが終わった。


「上手くできたか?」


 色々要望を出した手前、それが心配だった。

 そう思って尋ねると、ネヴァはしばらくディスプレイを眺めた後、白い歯を見せて頷いた。


「完璧だよ。ちゃんとレシピにも登録されてる」

「やったぁ!」


 ネヴァの声にエイミーが歓声を上げる。

 彼女としても心待ちにしている新装備だ。興奮するのもしかたない。


「とりあえず、見せるわね」


 ネヴァは作業台の前に移動し俺たちを呼び寄せる。

 全員が集まったことを確認して、彼女はインベントリから製作したばかりの盾を取り出す。


「鋼牙の双盾、っていう名前みたいよ」


 ゴトリと重たい音を立てて現れたのは、流線的な形をした一組の盾だ。蛇の頭のように、滑らかに先端に向かって細くなっている。装備すれば肘から拳までをすっぽりと覆い、頑丈な鋼鉄でガードすることができるようだった。

 エイミーは盾を扱ったことが無いため、当然盾スキルもレベル0だ。そんな彼女でも扱えるよう、ネヴァにはできるだけ低スキル帯のものを作るよう頼んでいた。それもあってか外見はそれほど凝ったものでもなく、シンプルで簡素なものだ。


「武器としても使える、二つ一組の盾なんて初めて作ったわ」


 使用時の要求スキルはともかく、作製に必要な鍛冶スキルはそれなりだったのだろう。なんとか成功して良かったとネヴァが胸をなで下ろして言う。普通の盾を作るならいざ知らず、今回彼女が作り上げたのは恐らく前例のない新しい装備なのだから、その達成感もひとしおだろう。

 俺が最後に提示した二つの要望。それは盾としてはもちろん武器としての能力も持たせること、そして左右に一つずつ装備することを前提とした一対の盾にすることだった。

 ネヴァがデータをエイミーに渡す。彼女は早速インストールして、その場で装備して見せる。


「よく似合ってますね!」

「こうやって見るとなかなか凶悪な見た目だね」

「武器なのか防具なのか、よく分からんな」


 エイミーが得意げに構える様子を見て、俺たちは口々に感想を述べる。


「えへへ。ありがとう、ネヴァ。大切に使うわ」

「どういたしまして。〈格闘〉スキルはともかく、〈盾〉スキルもある程度要求される装備だから、そこだけ気をつけてね」

「そうだったわ。えっと、この盾を使うのに〈盾〉スキルが10必要みたいね」


 自分のスキルと鋼牙の双盾を見比べて、エイミーは眉を下げる。

 当然ながら彼女は〈盾〉スキルを少しも伸ばしていないから、すぐにその盾を扱えるわけではない。

 装備はできてもその防御力や攻撃力を得て、テクニックを使うことはできない。

 まず最初はNPCショップなんかで初心者用の盾を買って、それでスキル上げをする必要があるだろう。


「ベーシックウッドシールドならすぐに作れるけど、どうする?」


 そこへネヴァが提案する。

 エイミーはぱあっと表情を明るくして、彼女の手を握った。


「ぜひお願いしたいわっ!」

「あはは。いいよいいよ。NPCで買うより生産品の方が多少品質もいいもんね」


 感激するエイミーに、ネヴァは胸を叩く。

 彼女はそれほど時間も掛けずに手早く鍋蓋のようにも見える簡素な木の盾を製作した。


「こっちは〈盾〉スキル1から使えるからね。これで修行するといいわ」

「ほんとにありがとう。――そうだ、お代は」

「そうねぇ。材料費といってもそこまで使ってないし……」


 はっと気が付いたエイミー。

 ネヴァは少し考えた後、指を三本立てる。


「三万ビット!?」

「ふふ。違う違う。三千ビットだよ」

「そんなに安くて良いの?」


 驚き、また逆の意味で驚いたエイミーに、ネヴァはクスクスと肩を揺らす。


「いいのよ。こっちも新しいレシピが手に入ったし。さっきも言ったように材料は大したもの使ってないから」

「それならありがたく……」


 エイミーはおずおずと頷き、三千ビットをネヴァに渡す。


「はい丁度。もし壊れたり、アップデートしたかったら連絡して頂戴。大抵はここにいるから」

「ええ。その時はお願いね」


 ついでに二人はフレンド登録も済ませ、いつでも連絡を取れるようにする。

 一連の取引を終えて、エイミーは改めて自分の両腕に装備した盾を見た。鈍色に光る鋭角の盾は、主に胸を張っているようにも見えて頼もしい。


「それじゃ、今から小手調べと行きましょう!」

「お、籠手だけにか」

「おっさんみたいなこと言わないでくださいっ」


 張り切って声を上げるレティ。

 思わず茶々を入れると口を尖らせて詰められた。


「おじさんだししかたないよ。それよりまずはカートリッジショップに行って、盾のテクニックを揃えないとね」

「そうね。ああ、結構お金掛かっちゃうわね」

「初期投資だと思わないとね」


 何故かラクトにもバッサリと切り捨てられ、思わず硬直する。

 その間に女性組は作業場を出て、ネヴァと二人取り残された。


「ほら、みんな行っちゃうよ」

「俺、パーティメンバーにどう思われてるのかな……」

「嫌われてるわけじゃないでしょ」

「そうだと思いたい」


 俺は改めてネヴァにお礼を言って、彼女と別れる。

 作業場のドアの前で待っていたレティたちと合流し、俺たちはエキセントリッククラフトを後にした。

Tips

◇〈鍛冶〉スキル

 生産系スキルの一つ。鉱石を製錬しインゴットを作製したり、インゴットを金属製品へ加工したりできる。鍛冶用ハンマー、金床、溶鉱炉などを使用する。生産系の花形とも言えるスキルだが、鉄の扱いは難しい。極めれば優れた武器や防具を作製でき、多くの開拓者から尊敬の眼差しを得られるだろう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] エイミーは盾を扱ったことが無いため、当然盾スキルもレベル0だ。   (中略) 彼女は早速インストールして、その場で装備して見せる。   (中略) 「そうだったわ。えっと、この盾を装備す…
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