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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第1章【暁紅の侵攻】

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第30話「安穏たる時間は儚き命なり」

「ブモォオオオッ!!」

「きゃあああっ!?」


 憤怒に満ちた雄叫びが草原中に響き渡る。ドスドスと重たい足音が響きもうもうと土煙が立ち上がる。


「レッジ!? これはどういうことなの!?」


 レティとラクトは横並びになって全力で走りながら、涙目になって悲鳴を上げた。


「あーもう、向こう見ずが過ぎるな」


 俺は慌ててトラバサミを一つ取り出して足下に設置する。

 罠が草の影に隠れたのを確認して、逃走中の二人に向かって手を振った。


「こっちにこい! 罠を仕掛けた」

「うわぁぁぁああん!!」


 俺の声は無事にレティの耳に届いたらしく、二人は方向を変えてやってくる。

 巨大な牛が迫ってくるのは遠くから見ていても恐ろしい。

 俺は罠があることを確認して横に逸れる。


「レッジさぁぁああん!!」

「走れ!」


 レティとラクトが俺の真横を走り去る。

 それを追って雄牛も蹄を地面に突き立て、そしてトラバサミに噛み付かれる。


「ブモォォッ!?」

「掛かったか」


 トラバサミが深々と突き刺さり、雄牛を拘束する。

 それを見て、レティたちも草の上に倒れ込み、荒い息を整えた。


「ほら、ぼさっとするなよ。罠が壊れたらまた襲ってくるぞ」

「うぇぇぇ……」

「しかたない。やるしかないよね」


 俺はもう十分仕事をしたから手は出さない。

 疲労困憊のレティの手をひっぱり起き上がらせる。


「HPこそ狼より多いが、今なら動かないただの的だ」

「うぅ……。『破砕打』! 『強打』! 『震盪撃』!」


 逆恨みのようなレティの三連コンボが雄牛の頭に直撃し、一気にHPバーを削りきる。

 アーツを準備していたラクトはそれを見て、肩を竦めて動きを止めた。


「うぅ。酷い目に遭いました」

「俺は止めただろ」

「もっと早く言って下さいよ」

「いや、言う前に動いたのはそっちだろう」


 それはレティもラクトも分かっているのか、二人は反省した様子で目を伏せる。

 俺は大きく息を吐くと、とりあえず倒した雄牛の解体に取りかかる。早くしないと鮮度が落ちるからな。


「ここに生息してる牛は、基本的には温厚だ。けど一度攻撃すれば激昂し、どこまでも追ってくる。ステータスも全体的に高いみたいで、〈始まりの草原〉を抜けたばっかりのスキルレベルじゃああっけなく返り討ちに遭うらしいな」


 赤線に沿ってナイフを進めながら言う。俺もここへやってきたのは初めてで、今の話もネヴァから聞いたことをそのまま言っただけのことだ。


「その割には結構賑わってるよね」

「初心者っぽい装備の人がいっぱいいますねぇ」


 二人は視線を草原の中央へと向けて首を捻る。

 確かに初心者っぽい簡素な装備を身につけたプレイヤーが沢山歩いている。しかも彼らは時に談笑しながら歩くという和やかな雰囲気すらあった。


「こっちから斬りかからなきゃ牛は襲ってこないからな。それにここは生産者御用達のフィールドだから、あの中の大半もそっち目的だろう」

「そういえばそんなことも言ってたね。結局、どういうことなの?」


 よし、解体終わり。

 獲れたのは肉と牛革だった。


「このフィールドはな、生産スキルで使う素材アイテムが豊富なんだよ」

「素材アイテム、ですか」

「ああ。例えばあそこの若木とか、足下に生えてる薬草とか。山の方に行けば鉱石が掘れるし、川が流れてて魚も釣れる」

「木工、調合、鍛冶、料理。なるほど、一通りの素材が揃ってますね」


 周りを見渡したレティとラクトが頷く。

 ここ〈牧牛の山麓〉は、戦闘力にスキルを割けない生産者たちでも安全に素材を集められるフィールドとして人気を呼んでいた。


「けど、なんでここに来る必要が? わたしもレティもバリバリの戦闘職なんだけど」

「なんでってそりゃあ……」


 ラクトに向かってにやりと笑い、俺はインベントリからアイテムを取り出す。


「風景が牧歌的で絵になるからな」


 そう言って俺はカメラを構え、雄大な山の麓に広がる壮麗な景色をレンズに収めた。

 うん。素人が適当に撮ってもそれなりに見られる写真が撮れるのはいいな。

 なんて満足して後ろを振り返ると、二人の呆れ顔が飛び込んできた。


「な、なんだよ?」

「いいえ。別に? そういえばこういう人だったなぁって思っただけです」

「わたしはちょっと意外だったな。ていうか〈撮影〉スキル上げてる人は初めて見たかも」


 やれやれと手のひらを上に向けるレティと、クスクスと笑みを漏らすラクトに、なんだか気恥ずかしくなってくる。


「いいだろ。〈水蛇の湖沼〉じゃ霧ばっかりで写真も撮れなかったんだよ」

「いいですよ。でもレティたちやることないんですが」

「ずっと戦闘ばっかも味気ないだろ。たまにはこうして雄大な自然に身を任せるのもいいと思うんだ」

「ふぅむ……。ま、それもいいですかね」


 俺のセールストークを聞いて、レティはふっと脱力する。

 彼女は降り注ぐ陽光にぐっと両手を伸ばすと、何かを思いついた様子でこっちを見た。


「そだ、レッジさん」

「どうした?」

「キャンプ出してくれませんか?」


 ファインダーから目を外して振り向くと、彼女が手を合わせて上目遣いにこちらを見てきた。

 なんかあざとい。

 まあ、出すだけなら別に良いが……。


「俺が離れたらLP回復とかの効果は全部無くなるぞ?」

「いいですよ。ここのエネミーはアクティブじゃないんでしょう?」


 まあそれもそうか。

 俺はキャンプセットを取り出して展開する。

 毛皮の天幕が現れて風にはためくと、周囲にいた他のプレイヤーが若干ざわついたのが少し面白い。


「じゃ、レティはここで休んでますので。存分に楽しんでって下さい」

「わたしもここにいるよ。何かあったらTEL頂戴ね」

「……お前らは自然を楽しむ気概がないのか」

「こうして日光を浴びながらそよ風を堪能してるんですよー」


 キャンプ地を設営すると、途端に二人は木椅子を確保してがっちりと根を張る。

 いってらっしゃいと手を振る二人に呆れつつ、俺はカメラを首から提げてキャンプを出る。

 まあ別に危険はないし、二人も仲が良さそうだからいいだろう。俺は〈撮影〉スキルを鍛えるのだ。


「うーむ、しかしどこも絵になるな」


 なだらかな勾配が波打つ草原も、北に聳える巨山も、自然の包容力や偉大さを存分に感じられる。

 草の上に座り込んでのんびりと口を動かしている牛たちも、手を伸ばせば触れられそうなほど近づくことができるので色々な角度から写真が撮れる。


「いいなぁ。こういう平和な世界」


 パシャパシャとシャッターを切りつつ、久しぶりの安穏とした時間を楽しむ。

 ゲームを始めてからずっと緊張の連続だったからか、なんだか心が洗われるような気持ちだ。


「青い空と白い雲。いいなぁ」


 パシャリ。


「青々と風になびく草木。いいねぇ」


 パシャリ。


「巨牛に追いかけられる女の人。いい――よくねぇ!?」


 慌ててファインダーから顔を上げる。

 少し離れた所に、通常の三倍はありそうな巨牛に追いかけられているゴーレムの女性がいた。


「狩りの最中、のようには見えないな」


 女性は丸腰らしく装備らしい装備もない。

 一本に束ねられた明るい紫色の長髪が、まるで尻尾のように激しく揺れている。

 空色の瞳には涙が浮かんでいて、とてもではないが反撃に出られるほどの余裕もなさそうだ。


「見て見ぬ振りはできないよなぁ」


 俺はカメラをしまってファングスピアを取り出す。

 周囲には素材集めの生産者しか居ないらしく、他に戦えそうな奴は見当たらない。


「た、助けてぇぇ!」

「……行くか」


 女性の悲鳴を聞いて、俺は勢いよく地面を蹴った。

Tips

◇八尺瓊勾玉

 調査用機械人形の動力の根源であるLPを生産貯蓄する装置。各機体の胸元に内蔵されており、青い水晶体のような外見をしている。原生生物の中でも特に強力なBOSS個体から採取できる〈源石〉と呼ばれる特殊な鉱物を利用して強化拡張することが可能で、LP保存最大量の拡張か生産速度上昇かのどちらかを選択できる。


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