龍人ガイル
「そうか、ご苦労だった。 下がっていいぞ」
子飼いの冒険者が部屋から出て行ったあと彼、カーラルタのギルドマスターであるドルト・ノートは溜息をついた。
「どうにもルーフェリアの動きがおかしいな。 いくらなんでも静かすぎる……」
彼はギルドマスターとしてルーフェリアとの国境線付近に子飼いの冒険者を交代で配置し、ルーフェリアの密偵の動きに気を配っている。
ギルド非加盟国は加盟国に対し裏から攻撃する事が多々ある。
例を挙げればミアは元々アッシュの命を狙った暗殺者であるしリルとリリアも非加盟国の者に奴隷として拉致されそうになった事もある。
それを防ぐために非加盟国の近くにある町のギルドマスターは監視をして被害を食い止めようとする。
実際これによって暗躍を未然に防げた回数は1度や2度ではない。
また、そのおかげで亡命してきたアッシュの存在にいち早く気付け、彼を保護して友誼を結ぶこともできた。当時はまだ幼い少年だったが成長した今ではSランク冒険者になっている。そんな存在に恩を売れの強い繋がりを持てたのは金では買えない貴重なものだ。
彼が不審がっている現在の状況。
それは網にかかる密偵がある時期からいなくなっている事だ。
具体的にはマナイーターが出現する1月前から。
亡命組から話を聞けていればなにか分かったかもしれないが後の祭りだ。そもそも彼はレナたちが亡命者であると知らない。アッシュが紹介状を書いたためなにかあるとは思っているが……
姿を隠す魔術もあるにはあるが常時展開する必要があり魔力の消費が激しい。精霊の力を借りれば解決するが精霊は差別する者を嫌うため非加盟国の者が契約するなどまず無理だろう。契約できる者は国の方針に疑問を持っていると言う事でありそんな存在が裏の仕事を任せられるはずもない。
侵入経路が変わった、等と言う簡単な理由ではないだろう。ルーフェリアで何かがあったと考えるべきだ。
「嵐の前の静けさ、ってことで無いと良いんだけどな……」
その願いが聞き届けられる可能性はほとんど無いだろうと思いながらも彼は情報収集を続けるのだった……
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ソリアを出発して半月、俺たちはフリールにいた。
「は~、やっぱ早いっすね。 道中アッシュの兄さんに抱えられての移動が恥ずいっすけど」
その言葉に軽く笑う事で答えると他の5人と共に町の中に入っていく。
今ここにいるのは俺アッシュとカルノワの3人、リルとリリアの姉妹にケンジの計7人だ。
ケンジとリリア以外ここにいるメンバー全員闘気術を使える。
それを上手く使う事で馬よりも早い行軍が可能だ。
なので時間節約のため俺がケンジを、リルがリリアを闘気術が下手なクーをカンナが抱えここまで移動してきた。
「はあ、それにしても疲れた。 流石に魔力がきついよ」
「ん、けどかかる時間が半分以下。 仕方ない」
カンナが肩が凝ったような仕草をするとミアが首を振る。
夜営の回数も本来より圧倒的に少なく疲労も魔力消費によるものだけだ。
魔力が少ないカンナとミアには少々無理をさせたがそれでも諸々の事を考えるとしないという選択肢は無い。
「さて、さっさと集会場に行くぞ。 そこに着いたら休めるからもう少し頑張れ」
まあ、着いても俺はすぐに休めないだろうが……
集会場はギルド本部にあるSランク冒険者の集合場所だ。
会議をするための円卓に宿泊施設や飲食店、訓練所等が揃っており快適な生活ができる。Sランク冒険者に気を遣ってそんな形になっているんだそうだ。
集会が始まるまでまだ半月あるが何人かはもう集まっているだろう。
そしてその中に確実にいるであろう脳筋戦闘狂の事を思うと頭が痛くなってくるな……
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「おう。黒衣のに銀月の!! 久しぶりだな!!」
集会場に到着した俺たちを出迎えたのは予想していた通り1人の龍人だった。
「久しぶりだな、ガイル」
「お久しぶりですガイルさん」
「久しぶりっす、ガイルの旦那」
龍人、【全てを砕く者】のガイルに俺に続けリルとケンジも挨拶を返す。
ケンジはこっちに来てすぐ魔物に襲われたのをガイルに救われその後しばらく面倒を見てもらっていた。
その後ソリアで自前の魔力を使わない魔導具の研究がなされている事を知ったガイルが俺を通してケイトに紹介し、ケンジはソリアで働くことになったのだ。
今でも彼に後見人になってもらっており色々恩義を感じているそうだ。
「んじゃまあ、早速1手手合わせ願えるか黒衣の?」
ああ、予想通りか……
ガイルは強者との戦いが好きでほぼ同等の実力である俺と会うとすぐ手合わせを望んでくる。
まあ、ガイルの戦い方は参考になる点も多いため拒む気はない。
「分かった。 訓練所に行くぞ」
そう言って踵を返す俺を追い満面の笑みを浮かべるガイル。
さて、今回はどこまでやれるかな?




