穏やかな日々4
ある日、私、アニス、クーちゃん、ケンジさんがお茶会をしているとアニスがふとこんな事を言いました。
「そういえばSランク冒険者って全員2つ名を持ってるのよね。 アッシュとリルしか知らないんだけど他の人の2つ名ってどんなの?」
確かに、どんなのでしょう? 私も知りません。
ギルド加盟国にとっては一般常識みたいで特に誰かが教えてくれる事もありませんでしたし聞く機会もありませんでしたから。
「あ~、そっか。 そう言えばギルドが無い国で暮らしてたんだもんね。 常識だからすっかり言い忘れてたよ。 ん~っとね、とりあえず全員言ってくよ。
【万色の賢者】
【全てを砕く者】
【黒衣の剣聖】
【雷光の勇者】
【銀月の射手】
【不壊の重騎士】
【深慮の狂戦士】
【氷結の聖女】
【紅蓮の奏者】
【死風の銃士】
だね。 ちなみに一応強さ順に言ったから。
まあ、お兄ちゃんとお兄ちゃんより前の2人は強さ変わらないけど」
「それに【氷結の聖女】、【紅蓮の奏者】、【死風の銃士】の3人もほぼ同等の実力っすね。 そういえば【黒衣の剣聖】には面白い裏話があるんすよ」
「どんなことですか?」
兄さんの2つ名の裏話、興味があります。
「実はお兄ちゃんの剣の腕って世界一って言うほど高くないの。 元々剣技を極めようなんて人ほとんどいないから相当上位ではあるんだけど同じSランク冒険者の【全てを砕く者】にも負けるしね」
「それなのに剣聖?」
アニスが不思議そうな顔をします。
「秘密はアッシュの兄さんの剣にあるっす。 兄さんのメインウェポンはぶっちゃけ何でも斬れるっすからね~。 それに戦う時は基本的に闘気術で身体能力を爆上げしてるっすから剣撃が速すぎてほとんどの人には見切れないんすよ。 んで魔術も何もかもをとんでもないスピードで斬る姿から剣聖なんてつけられたんす」
「あとそれに加えてお兄ちゃんは一切魔術が使えないからどうしても戦闘方法が武器に頼ることになるでしょ。 よっぽどの強敵か数が多いとかじゃない限りセラお姉ちゃんの力を借りないようにしてるから剣士ってイメージが強いんじゃないかな?」
剣のみで魔物をなぎ払い魔術を一切使わない黒衣の青年。確かに事情を知らなければよっぽど剣に自信がある様に見えます。
「なるほどね~」
納得したようにアニスが頷きます。
「そう言えば今年は集会がある年っすね」
そこで何かに気付いたようにケンジさんが呟きました。
「集会?」
「集会って言うのは3年に1度Sランク冒険者が集まる事を言うの。 ギルドの本部がある大都市フリールに集まって倒した大物の魔物の報告とか模擬戦とか話し合いとかね。 後新しいSランクのお披露目会も兼ねてるんだっけ?」
私の疑問の声にクーちゃんが答えてくれました。
「Sランクの弟子も集まるっすから一時的にとんでもない戦力が終結することになるんすよね。 1月に渡ってお祭り騒ぎになるから楽しみっす」
「そうなんですか。 けど、それだと私たちは無理ですね」
私たち亡命組は国に雇われている立場です。アッシュ兄さんのように自由に動けません。
クーちゃんやミアちゃん、ケンジさんは国に請われて雇われている立場で、前もって言ってあれば自由に動けるそうです。クーちゃんたちはSランク冒険者の弟子、ケンジさんはSランク冒険者が後見だそうですから当たり前かもしれませんが……
「まあまあ、ちゃんとお土産買ってくるから」
「3年に1度のせいかあの時期はすごい市場が活性化するっす。 掘り出し物も多いんで色々買ってくるっすよ」
「楽しみにしていますね」
けど、兄さんがいなくなるのが少し不安です。何事もなければいいのですが……




