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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
穏やかな日々
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穏やかな日々2

 燦々と照りつける太陽、その光を反射し青く輝く海と真っ白な砂浜。


 俺、アッシュ・ウィンドは今、ソリア王族が所有するプライベートビーチに来ていた。


「どうしてこうなった……」


 思わず遠い眼をしながらこうなった原因を思い出す……



*****



 レナたちが働き出してから1ヶ月が経った。連れてきた責任もあり、俺はその間近場で依頼を受けるだけに留め、亡命組の様子を見るようにしていた。


 その日、俺は食堂で昼食を食べ終え、カルノワとクーについてきた研究組、後何故かまだソリアにいるリルと雑談に興じていた。


「それにしても最近暑いわね。 ルーフェリアじゃあ考えられないくらいよ」


 手に持った団扇で自分の顔を仰ぎながらアニスが愚痴をこぼす。


「そりゃ、ルーフェリアは1年中気温が安定してるらしいっすからね。 それに比べてソリアは四季がはっきりしてるっすから。 夏の間はずっとこうっすよ」


 その様子にケンジが苦笑しながら理由を説明する。ルーフェリアは1年を通じて温暖で気温の変動が少なく、気候的には非常にいい場所にあるのだ。俺も冒険者として各地を巡ったから言えるのだが。


「しかし、こう暑いと参ってしまいますね。 今はまだ大丈夫ですがこの気温に慣れていない私たちでは体調を崩しそうです」


 そう言ってため息を吐くレナ。


「アッシュもルーフェリア出身でしょ。 どうやって凌いでたの? て言うより暑くないのそんな格好で?」


 リルが不思議そうに首をかしげる。まあ、黒コートを着てフードまで被っているんだ。その疑問も当然だろう。


「セラに風を送ってもらってる」


 リルの質問に簡潔に応える。重要なのは過去形では無く現在進行形なことだ。


 その事に気付いて非難の視線を向けてくるリルになんだと問うと、


「ずるい!! シルじゃあびしょ濡れになっちゃうから私は出来ないのに!!」


 すごい剣幕で怒られた。他のやつもジト目でこちらを見てくる。


 けれど距離が離れると風を送る事は不可能だし、この人数だと魔力が厳しい。実用範囲内に収めるには視界に入っている状態で2人が限界だろう。


「精霊って便利っすよね~ 人間じゃあ長時間魔術を行使し続けるなんて無理っすもん。 それ以前に俺は魔力が無いっすけど」


 ケンジがやれやれと言いたげに首を振る。


 精霊は1つの属性しか行使できないが、その効率は人間の比じゃない。もし仮に今セラにしてもらっている事を人間がしようとしたら俺の魔力でも1時間ぐらいしか持たないだろう。


 それをセラにやってもらうだけで1割も使わずに1日続けられるのだから精霊の凄さが分かるというものだ。まあセラが高位精霊であり、契約者の俺に行使するから此処まで少ないのだ。これが他の人に使うのなら消費する魔力は倍以上に跳ね上がる。


「けど、そういう持続性のある魔術は魔導具の分野でもあるんだろ? 魔導具でどうにかできないのか?」


「う~ん、一応ケンジ曰く冷房って名前の周りを冷やす魔導具の試作品はあるよ。 けどリルお姉ちゃんが全魔力を使ってようやく半日ってぐらいの効率なんだ。 もっと効率を良くしないと実用性は低いかな」


 カンナの質問にクーがどこか気まずそうに答える。ルーフェリアを除けばまず間違いなく最高クラスの魔導具職人のクーでそれなのだ。冷房なる魔導具が実用化される日はまだまだ先だろう。


「結局この暑さをどうにかする事は無理なのね……」


 諦めたように机に突っ伏すアニス。他のやつも苦笑いを浮かべている。


 ふと時計を見るとそろそろレナたちの休憩時間が終わる頃だ。話も一段落着いたし解散しようと全員席を立った瞬間ドアが勢いよく開けられ、


「だったら海に行けばいいじゃない!!!」


 と、女王(バカ)が大声を出しながら部屋の中に踏み込んできた。


 ……その光景に思わず頭痛がした。


「おい、仕事はどうした?」


 こめかみ押さえながら一応聞く。


「ん? 今休憩時間よ。 それより海行きましょ、海!!」


 そういえばなんだかんだで有能だったんだこいつ。というか俺より年上なのにはしゃぎ過ぎだろう……


「えっと……どういう事ですか?」


 ケイトのテンションに戸惑いつつレナが質問する。


「ここから2日ぐらいのところに王族が所有するプライベートビーチがあるの。 避暑をしに明日から1週間ぐらい行きましょ!!」


「その間の仕事はどうする気だ? 後人員は?」


「大丈夫よ、仕事は少しの間私がいなくても問題ないぐらいまで終わらせたし、回せるだけの部下もいるし。 護衛に関してはSランク冒険者が2人もいるんだから問題ないでしょ。 世話役も向こうに数人はいるし一時期は冒険者やってたんだから身の回りの事は大抵できるし」


「俺が行く事は決定しているのか……」


 はあ、と溜息をつく俺とは反対にリルはノリノリだ。リリアも連れってっていいですか?、なんて質問している。


 周りを見回してみると全員乗り気だ。これから急遽半休を取ってリリアの店に水着を買いに行こうなんて話になっている。


「アッシュ……」


 魔力が吸収されセラが実体化する。俺の肩に手を置くと物凄いいい笑顔を向けてきた。


「私も水着欲しいからリリアちゃんのところ行こ?」


 俺は力なく頷いた……


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