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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
ソリアの女王と剣聖の四黒姫
26/36

カンナ ――鍛冶師と剣聖――

「……これ、お前が作ったのか?」


 商品を眺めながら黒ずくめが俺に聞いてくる。


「そうだよ。 なんかおかしいか……」


「いや…… まだ未熟だが将来良い鍛冶師になりそうだ。 この小刀を買おう。 いくらだ?」


 その言葉を聞いて胸が熱くなった。


 未熟なのは自分でも分かっているからそこに文句はない。


 それよりも、将来良い鍛冶師になるって言って作品を買ってくれる。


 家族以外で初めて俺を鍛冶師として認めてくれた!


 声の感じや身長から考えると俺と大差ない年かもしれないけれど、それでも嬉しい。


「金貨1枚だよ」


 けどそんな感情を表に出さずぶっきらぼうに答える。安く買うための社交辞令かもしれないからだ。


 金貨1枚は周りの店と比べて少し高めの値段設定だ。それでも、品質を考えれば十分適正価格だと俺は思っている。


 だけど、僅かにいた俺の作品を買おうとしたやつはそれを聞いた瞬間買うのをやめた。中にはなんでそんなに高いんだと文句を言うやつも。


 こいつはどうなんだろう。そんな事を考えながら見ていると、


「そうか、ほら」


 とあっさり金貨を渡してきた。


 本当に俺の腕を認めてくれている!!


「ミア、プレゼントだ」


「………ありがとにいに」


 黒ずくめの男は買ったばかりの小刀を獣人の少女に渡す。


 まあ大剣を背負っているから使うのはそっちの子だと思っていたよ。


 結局この日は黒ずくめの男以外に商品が売れることはなかったけれど、認めてくれる人がいた事に心が暖かくなった。



*****



「なんでだよ!? 金ならあるって言ってるじゃないか!!」


 小刀が売れた翌日、俺は露店を出す許可書の延長をするために商会に来ていた。


 俺が今いる街は1つの巨大な商会が仕切っていて、この街で商売をするには商会の許可を取らなければいけない。


 1週間前に申請した時は金を払えばすぐに許可してくれたのに今回は拒否し続ける。


「いくら金があるって言っても売れもしない店の許可を出す気はない。 お前の店を出した1週間で売れたのは小刀1振りだけ…… それなら他のもっと売れる奴に場所を提供した方が良いだろう?」


 俺の相手をしている商会のやつが言う。


 露店を開くやつは売り上げの5%を場所代とは別に商会に払う必要がある。


 こいつらからしたら追加の金をせびれない俺は厄介者って訳だ。


「まあ、どうしてもと言うなら誠意を見せてくれれば聞いてやらないこともないが……」


 そう言って嫌らしい笑みを浮かべてくる。露骨な賄賂の要求か……


「もういい! 別の街に行くさ!!」


 幸いと言っていいのか宿屋の契約も切れている。食料を買い込んで別の街に行った方が良いだろう。


 俺は荒い足取りで商会を立ち去った。後ろで商会のやつが歪んだ笑みを浮かべているのに気付かずに……



*****



「はあ、はあ、くそっ! 【烈火】!!」


 俺は一瞬だけ振り返って刀を振るう。


 すると刀から炎が振るわれた軌跡上に飛びだし追手を襲った。


 火属性の付与術を用いた技、【烈火】


 元々付与術は少ない魔力を効率良く運用するために編み出されたものだ。


 魔力を武器に宿してそれを大気中の魔素(マナ)で活性化させ、属性付きの武器で攻撃または武器に宿った力を斬撃と共に飛ばす技術であり、今回は火属性の斬撃を飛ばしたのである。


 しかしそれはサイドステップであっさりとかわされてしまう。


 それによって若干距離が開いたが逃げ切れる程ではない。


(なんだってこんなことにっ!!)


 俺を追って来てるのは商会の雇った傭兵だ。


 街を出て10分と経たないうちに襲われ、必死に逃げ続けている。


 目当ては俺の作品たち。商会も価値を認めてくれていたってことになるが素直に喜べない。


 なんでそんな事を知っているかというと襲ってきたときにべらべらと喋ってきたからだ。


 この世界では街の外で人を殺しても、証拠が先ず見つからないせいで罪には問われることはない。


 罪に問われないからこそ俺を殺して作品を奪おうとしてくる。いや、なんだか手加減しているように思えるから俺も商品にするつもりなのかもしれない。ギルド非加盟国なら奴隷制度が残っているはずだ。


 なんで手加減していると思うかというとまだガキの俺よりも足が速いくせに一定距離を保ち続けているからだ。大の大人が8人もいて1人も子供より足が速いやつがいないってことはないだろう。


 それに魔術を一切使ってこない。ただこっちの抵抗を見て薄笑いを浮かべているだけだ。


「くそ!くそ!こんなところで……!!」


 もうどれぐらい走ったか分からない。さっきの【烈火】で魔力は尽き、体力も限界だ。


 とうとう足が縺れて転んでしまった。必死で立とうとするけれどガクガクと足が震え、肺が苦しい。


 そんな俺の様子を見て嫌らしい笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる8人の傭兵。


 せめてもの抵抗とキッと相手を睨みつける。


 傭兵が俺の体を掴もうとしたその時、


「おい、これは一体どういう状況だ?」


 1人の男の声が聞こえた。


(あいつは……)


 間違いない、小刀を買ってくれたやつだ。すぐ側に獣人の子もいる。どうやらギルドの依頼を達成した帰りみたいだ。


 その姿を見た傭兵の反応は2つに分かれた。


 侮るような態度をとるやつらと恐怖に震えるやつらに。


「こ……黒衣の…剣聖………」


 震えているやつの1人が呟く。


「なんだそれ?」


「馬鹿ッ、知らないのかよ!? 身の丈程もある大剣を振るう最年少Sランク冒険者だ!! 噂じゃ小国滅ぼしたこともあるらしいぞ」


 傭兵たちのやり取りが聞こえてくる。


「S…ランク……」


 目の前のあいつが? 信じられない。


 けど、それが本当なら……


「こいつら、商会に雇われた傭兵で俺の作品を奪おうとしてるんだ!! 頼む、助けてくれっ!!」


 俺は声を嗄らして叫ぶ。


 それに答えるように黒ずくめが大剣を抜く。


「ま、待ってくれ。 俺たちについてくれたら報酬は払う。 会長に掛け合ってそっちの言い値だけ払う。 ガキにつくより俺たちに協力してくれよ」


 焦ったように説得しようとする傭兵。


 俺が報酬として渡せるもんなんてたかが知れている。もしかしたら傭兵側につくかもしれない。


 その可能性に怯える俺をチラリと見る黒ずくめ。まさか本当に傭兵側に……


「くだらない。 答えは初めから決まっている」


 黒ずくめがそう言った瞬間、姿を消し、傭兵たちがその場で崩れ落ちる。


 一体なにが!と思って辺りを見回すと離れた場所に黒ずくめの姿があった。一瞬であそこまで移動したっていうのか!!?


「俺は理不尽な事が反吐が出るほど嫌いなんだよ……」


 ボソリと呟いてその場で佇む黒ずくめを俺は呆けたように見続けた……



*****



「それでその後助けた礼を言ったらアッシュ兄が精霊鉱を取り出して『これで武器を作れるか?』って聞いてきたんだ。 正直『は?』って感じだったよ。 精霊鉱を扱うにはかなりの技量が必要なんだ。 それこそ当時の俺じゃあ無理なぐらい。 だけど俺は『今は無理だけど1年と掛からず扱えるようになってみせる!!』って啖呵切ってやったんだ。 そしたら突然俺の弟子にならないかって聞いてきてな。 あのときは驚いたな~~」


 弟子になった俺にアッシュ兄は鍛冶場と素材の提供に加えて、自分の身は自分で守れるようにと俺を鍛え上げてくれた。今じゃあAAランクの冒険者だ。


「それから少しして俺の家族がもういない事を話したら俺たちが家族になってやるってアッシュ兄が言ってくれて…… 本当に嬉しかったよ」


 その後クーとウリ姉も加わって2度と味わえないと思っていた家族の温もりをくれたんだよな。


「ところで商会はどうなったんですか? 兄さんがそのままにしておくとは思えないんですが」


 とレナが聞いてくる。


「別に法律を破ったりした訳じゃあないから裁くことはできなかったけどSランク冒険者に睨まれたって噂が広まって結構な打撃を受けたみたいだぜ? ギルドに加盟してなかったら滅ぼされてたかもな」


 ギルド加盟国に攻撃するのは余程の大義名分が無いと無理だ。そんな事をしたら犯罪者になって他のSランクが総出で襲いかかって来るだろう。


「まあ纏めるとアッシュ兄のおかげで俺は自由に精霊鉱を使った鍛冶ができるし力も手に入れた。 おまけに新しい家族も手に入れたってことだ。」


 それで俺の話を締める。




 俺がアッシュ兄を裏切ることは絶対にない。


 けどそれは恩を感じての事じゃあない。親愛のためだ。


 俺はこれからも槌を振るい続ける。そしていつの日かブラック・レイヴンを超える一振りを生み出してそれを振るうアッシュ兄の姿を見ることが今の俺の目標だ。


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