カンナ ――鍛冶への思い――
過去話カンナ編です
俺の祖国である東方諸国のヒューマンにはどういう訳か黒髪が多いんだ。
そのせいか他の国にはない色んな技が生み出されてる。
俺が使ってる刀もそうだし付与術も東方諸国で編み出されたものなんだぜ?
それと同時に独自の文化や風習も結構あるんだ。
例えば鍛冶は男しかしてはいけないとかな……
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俺の家は代々続く鍛冶師だった。
親父も腕のいい職人で、すげー刀を何本も打った。
俺もそれに憧れて来る日も来る日も見学して……
親父は俺に甘くて風習を破って時々槌を持たせてくれたよ。子供が俺しかいなかったのもあるんだろうけどその技術を教えてくれた。
俺の鍛冶師としての腕は親父に鍛えられたおかげだろうな。
他の人がいる時には流石に教えてくれなかったけど、それでも女の身で鍛冶をさせてくれることが嬉しくて幸せだったんだ。
筋が良いって誉めてくれたし、初めて打った小刀は今でも俺の宝物だ。
そして俺は鍛冶に魅せられていった。
だけどある日突然幸せだった日々は崩れ去った………
親父が流行り病にかかってそのままぽっくり逝っちまったんだ。
その流行り病に俺と親父の2人が罹ったのが運の尽きだった。
特効薬となる薬があったんだけど当然のようにとんでもなく高かった。
けど在庫の商品をすべて売り払い、貯金をかき集めてなんとか1人分の薬は買えたんだ。
でもその薬を俺に使えと言って、親父は頑として自分には使わなかった。
そのおかげで俺は助かったけど薬を飲まなかった親父は駄目だった。
後に残されたのは俺とお袋の2人だけ。貯金も商品も残っていない。
女は鍛冶をしてはいけないって風習のせいで新しく商品を造ることもできない。
お袋が出稼ぎに出て頑張ったんだけど、数ヵ月後には働き過ぎで体を壊して倒れちまった。
当時ガキだった俺はそれを見て我慢できずに鍛冶をしようと思ったんだ。それしかできなかったからな。
男でないとしてはいけないんだったら男になるって髪切って口調を変えて、馬鹿みたいだろ?
そんな事できるはずないのに………
いくら髪形や服装、口調を男っぽくしても女は女だ。
男しか鍛冶をしてはいけない風習がある場所で腕を振るってもそれを買ってくれる人なんていなかった。むしろ嫌がらせを散々受けたよ。
当時すでにそれなりの腕を持っていたのも原因だと思う。女なのに同等、下手すりゃそれ以上の腕だったんだからそりゃあ嫌がらせしたくもなるよな。
その後お袋も逝っちまって俺は旅に出ることにしたんだ。此処にいても鍛冶師になれない。だったら作った作品を持って、売り歩こうって。
もちろん鍛冶師として名をはせたいって思いのほかに両親の墓を守りたいって思いもあったさ。
けどお袋が死ぬ間際に「家を捨ててもいい。お前の生きたいように生きろ」って言ってくれたおかげでそうしようと決意したんだ。
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現実は甘くなかった。
露店で刀を売りに出したけど12歳の子供が作った作品なんて見向きもされない。
僅かばかりに有った金も場所代と生活費で瞬く間に消えていった。
ついに金も底を尽きて最後の露店を開いた時、ああ、このまま俺の作った作品は陽の目を見ることなく消えていくのかって思ったよ。
客が全然来なくて夕方になり、結局女の身で鍛冶なんて無理だったのかって諦めかけたその時会ったんだ。
黒猫の獣人を連れた、黒ずくめでフードを被った少年に……




