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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
ソリアの女王と剣聖の四黒姫
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ミア ――自由――

今年の投稿は脇役と合わせてこれが最後です。

 これは私がにいにの弟子になってから知ったことなんだけれど、Sランクにはいくつかの特権と制約が与えられる。


 その中の1つ、『宣戦布告』


 簡単に言うと国を滅ぼしてもいいと認められ、事後処理をギルドに丸投げできるというもの。


 条件として、ギルド加盟国の場合は王族から敵対行為をとられた時、ギルド非加盟国の場合は国の中枢から敵対行為をとられた時に発動できるらしい。


 好き勝手に国を滅ぼされたくないけれど怒りを買う真似をした国まで庇いきれないからこんな権利ができたんだとにいには言っていた。


 事後処理に関しては滅ぼしたSランク冒険者の意向を尊重して行われる。これに関しては、にいに曰く「Sランクを敵に回したくないから」らしい。



*****



「さて、着いたな」


 あの夜から5日後、私と標的だった少年アッシュはヒュマス皇国の首都のすぐ近くにいる。


 首都の入り口の門には2人の兵士が立っている。私たちは今、見つからないよう街道樹に隠れている状態だ。


 あれからアッシュはギルドに行って何やら手続きをし、翌日に私と一緒にこの国に向け出発した。


 行きよりも日数がかかったのはゆっくり来たからではなく、行きが強行軍だったせいだ。本来はこれぐらいかかる。


 ちら、とアッシュに視線を向ける。


 アッシュという少年はあの夜以降ずっとフードを被り、1度も素顔を見せない。


 気になるけれど下手に聞いて機嫌を損ねることになったらと思うと言いだせない。


「おい、聞いてるか~? おいって」


「………なに?」


 フードに気を取られて声を掛けられていることに気付けなかった。気をつけよう。


「戦闘準備しろ。 門番斬ってそのまま城まで突っ込む」


「分かった……」


 その言葉を聞いて腰に付けた2振りの短剣を鞘から抜く。


 首輪のせいで魔術が使えなかった私には魔術の心得なんてない。武器を構えるだけで準備は完了だ。


「そうか、なら行くぞ!!」


 それだけ言うとアッシュの姿が消える。


 そして次の瞬間には門番をしていた2人の兵士の首が飛ぶ。


 訓練を受けた獣人の私でさえ認識できない速度。彼が本当にヒューマンなのか疑いたくなる。


 けど今はそんなことどうでもいい。


 私が追いつける程度の速度で走っているアッシュを追いかけるのが先決だ。


 門をくぐり、アッシュに並走する。


 追いつくまでに門からかなり離れたため、町の住人は獣人の私がいる事を訝しげに見るだけだ。


 その様子を見て城への攻撃も奇襲になると思った。


 むしろ一方的な虐殺になるかもしれない。


 だけど私は気にしない。あいつらにはたっぷりとお礼をしたいから……



*****



 私たちが城に乗り込んで5分、城内はすっかり混乱していた。


 素早く移動しながら、視界に入った兵士は隣にいる少年が瞬殺することで混乱はさらに深まり、防衛機能がまともに働いていないように感じる。


 アッシュが何人斬ったのか、もう私には分からない。そして彼が斬ったなかには私の同胞もいた。


 けれど、それも仕方ないことだと思う。


 彼は初撃で隷属の首輪を切り落とした後、一端間を置き、それでもなお向かってくる獣人のみ斬っていた。


 今のところ全員向かってきたせいで生き残りはいないが……


 それに対して私が思った事は悲しみではなく恐怖であり、安堵だった。


 一歩間違えていればあの夜私も彼ら、彼女らと同様に斬られていたかもしれないという恐怖。そしてあの人のおかげで心を保てたために生き残れたことに対する安堵。


 心を閉ざし、失った彼らは首輪が無くなっても命令を遂行しようとする。


 それしか知らないから。


 それしか生きる理由が無いから。


 あの人、ケーニャに会わなければ私も彼らと同じだったはず。


 また1人、倒れゆく同胞を見ながらそう思った。




「こりゃあまた、ずいぶんいるな……」


 この国の王は玉座の間で悠然と私たちを待ち構えていた。


 大量の獣人と親衛隊で脇を固めて。


 数の利を生かすには狭い通路よりある程度開けた空間の方が良い。


 騒ぎの原因が分からないから逃げ出すよりも此処で迎撃しようと思ったのだろう。


「………ケーニャ」


 最前線で待ち構える獣人の中にケーニャがいた。


 他にも私と同じようにケーニャを慕っている子たちもいる。


 私を見て驚いたような、それでいてほっとしたような表情を浮かべるのが見える。


 私には彼女たちを救うだけの力は無い。けれど、だけれども……


 私を救ってくれた彼ならば……


「数だけいればどうにかなるとでも思ったか? すぐに終わらせてやるよ……セラ、2割になるまで自由に使っていい。 ヒューマンだけ皆殺しにしろ」


 視線をアッシュに向けた時、彼は確かにそう呟いた。


 次の瞬間目の前に広がったのはこの場にたどり着くまでに見た光景よりも信じられないものだった。


 は~い!、と女性の声がしたと同時に獣人以外の体がバラバラになったの。


 王も親衛隊も獣人も、誰も動くことができず、何が起こったのか理解できなかった。


 彼が呟いた通り、その場で生き残っているのは獣人のみ。


 私も含めて全員呆然としている間にも彼は獣人から隷属の首輪を切り落として回った。


 しばらく時間が経って正気に返った同胞が取った行動は4種類。


 自由になった事を喜び泣く。


 何をすればいいか分からずその場に立ち尽くす。


 最後の命令を果たそうとアッシュに挑んで命を落とす。


 生きる理由が無くなったから自害する。


 心を失っていた子は最初以外の選択肢を選んだ。


 自由になった事を喜んだのはケーニャと彼女を慕っていた子ぐらいだ。


 ケーニャ――ある意味彼女のおかげで私たちは自由を手にすることができた。


 実際に行動したのは人外の力を持つ少年だけれど、彼女の教えが無ければこうはならなかったはずだ。


 ケーニャはアッシュにお礼を言うとこちらに向き直ってとびきりの笑顔を見せ、


「いまいち自由になった実感が湧かないし、あまりにも突然だから混乱してる部分もあるけど…………やっと自由になれたね、ミアちゃん」


 彼女がつけてくれた名前を呼んだ。



*****



「それでその後どうなったんですか?」


 そこまで話し終え一息入れると、にいにの妹が聞いてくる。


「ああ、その後は国の方はアッシュ兄が残党を蹴散らした後ギルドに丸投げ。 ミアがアッシュ兄の弟子になった理由はケーニャが外の世界見てこいってアッシュ兄に同行させたんだ。 ただその条件として今ケーニャが国の頭やってる。 もっとも嫌々じゃなく今じゃあ立派な君主だけどな」


「それで一緒に色んな所行って色んな事をしている内にすっかりアッシュに懐いたんだよね~~」


 質問に答えようとしたところでカンナとリルが代わりに答えてくれた。


 話すのは苦手だから正直ありがたい。


「ちなみにミアが途切れ途切れに話すのは奴隷時代の名残だな。 喋る機会も少なかったらしいし」


「5年経ってもそうなのは、意思疎通できるなら無理しなくてもいいってアッシュが甘やかすせいもあるんだけどね」


 にいにには返しきれない恩がある。


 私と仲間に自由をくれた。私に闘気術と魔術という名の力をくれた。


 そして私の家族になってくれた。


 だから私はにいにのために力を振るう。


 親愛という名の想いと共に……


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