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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
ソリアの女王と剣聖の四黒姫
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ミア ――月夜の邂逅――

過去編スタート

ミア視点です

 私が生まれた国はヒューマン至上主義を掲げる小国だった。


 その国では私たち獣人は奴隷扱いで、私も暗殺者という名の使い捨ての駒として物心ついた時から厳しい訓練を受けさせられていた。


 隷属の首輪というどこかの大国が開発した魔導具で反逆することを封じてまで獣人を暗殺者として使うのには理由がある。


 それは獣人の高い身体能力による捨て身の特攻が格上相手に有効だからだ。


 魔術を使用する際には必ず1瞬とはいえタイムラグが生じる。その隙をついて相討ち覚悟で攻撃すれば仕留められる可能性が出てくる。事実、相討ちでAAAランクを仕留めた人もいるらしい。


 朝から晩まで続く地獄のような訓練の中、私は心を凍らせた。私だけじゃない。共に訓練を受ける獣人も同じだった。


 けど私は完全に心を無くすことは無かった。先輩であり、姉のような存在である獣人からいろんな話を聞いたからだ。


 今年で16歳になるその人は10歳の時に捕まり、訓練を受けさせられてきたと言った。


 口癖のようにいつか自由になる。この地獄から解放されてみせると言って、自由の素晴らしさを私に教えてくれた。




 ある日、訓練で同期よりも優秀な成績を残す私に暗殺命令が下った。


 対象は最近Sランクになったばかりの13歳の少年。私より3つ年上だ。


 ヒューマン至上主義を掲げるこの国にとって全種族を対等に扱うギルドは邪魔者だ。


 差別や奴隷を一切許さないギルドは今のところ力ずくで思想の押しつけをしていないが、もしされたらこの国では抵抗できない。かといってギルドの思想を受け入れられる訳もなく、結果滅びることになるだろう。


 そうならないために少しでもギルドの戦力を削っておこうという考えらしい。


 他のSランクに手出しするのは無謀だが、なったばかりの子供ならどうにかなるだろうと思ったらしく、そのために私は今祖国を離れている。


 3日間旅を続け、標的が滞在している町に着いた私はその光景に驚いた。


 様々な種族が通りを歩き、笑いが絶えず、活気に満ち溢れている。どれも祖国では見ることのできない光景だ。


 ふと、獣人の親子が手をつないで仲良く買い物しているのが目に入る。


(いいな……)


 一瞬心に浮かんだ感情をすぐに殺し、早足で宿に向かう。この首輪がある限り想うだけ無駄なことだ。夜まで体を休め、任務を果たさなくては。


 羨ましがってもしょうがない。親も、家族も、自由も無い私にはどうやっても手に入らないのだから……



*****



 その日の夜、漆黒の服に身を包んだ私は標的がいる部屋の明かりが消えるのを静かに待っていた。


(そろそろいこうかな……)


 行こう、なのか、逝こう、なのか自分でも分からない。ただ、仕留められたかどうかに関わらずほぼ確実に死ぬことになるだろう。これまでの暗殺者がそうであったように……




 明かりが消えてから30分程経過し、私は行動を開始した。


 流れるような動作でスムーズに部屋に侵入し、標的の様子を窺う。……気づかず寝ているようだ。


(やれる!!)


 そう確信し、一息で間合いを詰めてベッドにナイフを突き立てる。猛毒が塗ってあるためかすっただけでも死に至る凶悪な攻撃だ。


 しかし、攻撃は掠ることすらせずにかわされた。当たる直前に反応した標的が獣人顔負けの動きで起き上がり、間合いをとったからだ。


「やれやれ、物騒なお客さんだな…… ルーフェリアのやつか?」


 窓から入る月明かりに輝く銀髪を整えながら片目を閉じた少年が問いかけてくる。私はそれに答えず、代わりに再度攻撃を仕掛ける。獣人の身体能力を前面に押し出した攻撃、ヒューマンには避けられないはず。


 けれど、私の予想はあっさりと裏切られる。


 まるで遅いと言っているような視線を向ける標的は私の腕を掴んでナイフを弾き飛ばし、私はそのまま後ろ手に拘束されてしまう。


(そんな!? なんで!??)


 向こうの方が年上でもこちらが獣人である以上身体能力は私の方が上だ。訓練を受けたこともあって、その点を逆転することは不可能なはず。


 にも関わらず少年はこちらの抵抗をものともしていない。完全に力で負けている。


「ん、獣人? ならルーフェリアじゃないのか。 あそこは汚れ仕事であっても絶対に他種族を使おうとしないからな…… けどこの首輪は……… ギルド非加盟国? それもヒューマン至上主義の………」


 私を拘束したままぶつぶつと何事か呟いている。眼中にない感じだ。


「まあいいか。 で、お前名前は? これからどうしたい?」


 拘束を解除してもらいたい。


 とは言える訳もない。


「………名前……ナンバー594……任務に失敗した……末路は死……」


 あの人からもらった名前があるけど言う必要はない。どの道死ぬんだから……


「いや、俺としては殺す気は無いんだけど――でも国に帰ったらそうなるか。 しかもそれ、隷属の首輪だろ? 付けたやつに逆らうことができずどんな命令でもしなくてはならないようにする魔導具……代価として付けてるやつは魔術が使えなくなるし外せない。 ルーフェリアが作って同類のギルド非加盟国(ヒューマン至上主義)に売り渡している物だな」


「ッ!!?」


 この首輪の事を知っている!!?


 情報が外に漏れないよう特にギルド加盟国には厳重な警戒がされている物なのに!!?


 私の驚愕に気付いたのか肩をすくめるような気配が背後から漂ってきた。


「ルーフェリアとはちょっと因縁があって色々と探ってるから知ってるだけだ。 それよりもこれからどうする? とりあえず首輪は外すけどっ!!」


 そういうと標的は私を突き飛ばしつつ、いつの間にか持っていた剣で首輪を斬り裂いた。


「っ!? うっ……」


 その瞬間から得た生まれて初めての自由。けど私にはそれをどう扱っていいか分からない。いつか自由になりたいとあの人のおかげで思うようになってもそんなことはあり得ないと感じていたから。


 そもそも実感が湧かない。当たり前と思うようになるほどずっと縛り付けてきた鎖がいきなり無くなったから。


 私が言えるのはもうこの少年と戦う必要は無くなったということ。あの国に帰らなくてもいいということ。


 少年の方を見るとどこか困ったような風に見えた。


「ああ、泣いてるし…… けどまあ、とりあえずこれだけは聞いとかないとな。 何処の国の命令で襲ってきた?」


 少年に言われて初めて自分の頬が濡れているのに気がついた。


 ここにきて初めて国名に触れたのは首輪の拘束から解放されて私が言うなと命令されていた事柄についても自由に言えるようになったからだろう。


 もしかして言わせるために首輪を斬ったのかもしれない。だとしたら言えば用済みになって殺されるかもしれない。


 なら……


「言ったら………力……貸して………」


「どういうことだ?」


「他にも……首輪………いっぱい……解放して…………欲しい……」


「まあこんな非人道的行為してるところが1人にしかしていないはずはないよな。 別にいいぜ、むしろ言われなくてもする」


「……ほんと?」


「嘘は言わない」


「分かった………ヒュマス皇国……それが………名前……」


「なるほど。 ……それじゃあまあなってまだ1週間だけどSランクの特権を使うとしますか」


 そう言うと少年は纏っている雰囲気を一変させ、どこか凶暴な笑みを浮かべた。


「宣戦布告だ……」


 私の耳にその一言が焼き着いた……


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