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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
黒衣の剣聖と銀月の射手
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宿屋での話

秘宝MAX様、ディミ・フェイ様感想ありがとうございます。

gomajuurou様ご指摘ありがとうございます。


更新が遅くなり申し訳ありません。

 宿屋『至高の頂』の一室で、青年と少女を5人の男女が取り囲む形で座っている。


 青年は死んだと思われていたグランドール家長男、アインスレイ・クロス・グランドールであり、側にいる少女は契約精霊のセラだ。


 取り囲んでいるのはルーフェリア亡命組である。


 長い沈黙の後、レナが口を開く。


「では教えてください兄さん。 兄さんに一体何があったのか? そしてどうして正体を隠したのか……」


 アッシュはそれに頷くと少し間をおいて話し始めた。




 彼らがバルダ山付近ではなく『至高の頂』にいるのはなぜか?


 時間は少し遡る……



*****



「生きていたんですね…… 会いたかったです、アイン兄さん……」


 そう言って涙を流すレナに応えるようにアッシュもフードを脱いだ。


 整った顔立ちに美しい銀髪。


 その姿は成長したらそうなるだろうと想像できるものだった。


 ただ一つ違うのは左眼が黒から若草色に変わっていることか。


「久しぶりだな、ルナ。 ……大きくなったな」


 どこか気まずげな表情でアッシュが言った。


 彼の方は自分たちの素性に気づいていた風なので当たり前かもしれない。


「っ!?」


 アッシュの言葉を聞いた瞬間レナが勢い良く抱きつく。


 そしてそのままレナは感情のままに次々と質問をぶつける。


「どうしていきなりいなくなったんですか? どうして森で会った時に正体を黙っていたんですか? どうして8年間も生きているって伝えてくれなかったんですか? どうして……」


 しかしアッシュはその質問に答えることなくレナの方を掴んで引き離すと再びフードを被った。


「……答えてやりたいところだが此処じゃなんだ。 宿に戻ってからにしてくれないか?」


 どこか突き放したようにそう答えるアッシュ。


 そのままレナに背を向けガーベルグの遺骸へと向かう。


 遺骸から牙やら鱗やら爪やらを剥ぎ取りつつ、セラにリルへの連絡を任せる。


 契約者の利点を生かした形だ。精霊同士のネットワークがあるので多少離れていても問題ない。


 背中に悲しげな視線を感じるが特に構うことなく剥ぎ取りを続ける。


 そして必要な物を剥ぎ取り終わったアッシュは無言でレナたちを促し、街へと歩き出した……



*****



「さて、俺が正体を黙っていた理由だが…… ルーフェリアに生きているのを知られたくなかったってのが一番だな。 死んだと思われてる俺と違ってそっちはほぼ確実に追手がかかる。 そんな状況で正体をさらしたらルーフェリアに伝わる可能性が高いだろ?」


 アッシュはこれまで生きているのがばれないように行動してきた。


 セラに不可視の状態で魔術を使わせ、あたかも自分が使っているように。


 素顔を信頼できる者以外にはフードで隠し続けてきたのもばれたくなかったからだ。


 確かにルーフェリアの刺客に襲われても返り討ちにできるだけの力は手に入れた。だが、面倒事に巻き込まれようとは思わない。


「ならなんで魔力の受け渡しなんてしたんですか? そんな事をしなければ気づかれなかったにも関わらず……」


「カーラにはルーフェリアで世話になったからその恩返しだ。 死なれたくなかったからああした。 (ルナ)がいたからある程度の便宜もはかった。 だがそれだけだ。 ずっと面倒を見ていくつもりもない。 その点も正体を明かさなかった理由の1つだ」


 そう言ってアッシュは溜息をつき、目で他に聞きたいことはと、うながしている。


 その視線を受けてカーラが口を開く。


「アイン様は8年前なぜ急にいなくなられたのですか?」


「国に、親に、ライルに裏切られ、捨てられた。 それだけのことだ」


 事もなげにそう言うが、彼の当時の心境はいかばかりか。


 国と両親はいい。元々彼に対する仕打ちはひどかったのだから。


 だがライルは?


 付き人として多大な信頼を寄せていたはずだ。そんな人に裏切られたのだから口では言い表せないくらいショックだったろう。


 空気が重くなる。


「他に聞きたいことは? 無いなら俺は部屋に戻る」


 そう言ってアッシュは立ち上がると部屋から出ていった。


 扉が閉じ、居心地の悪い沈黙が流れる。


 この空気をどうにかしようとジョシュアとアンクが目配せし、口を開こうとしたその時、


「アッシュ――!!! よくも置いて行ったわね!! 下山するの苦労したんだからーって、あれ、いない? アッシュは?」


 勢いよく扉が開きリルが入ってきた。


 そしてきょろきょろと部屋を見回すと首をかしげる。


 そんな彼女の行動に皆唖然とし、さっきまでとは別の、微妙な沈黙が流れた……


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