黒竜の独白
人々から恐れられ、邪龍ガーベルグと名付けられたダークネスドラゴンはその日、嫌な気配を感じた。
以前にも感じたことのあるこの気配。食事をしようと国を襲った際、自分に傷を負わせ、食事の邪魔をした奴らの片割れ。
他にも誰か別の気配があるが関係ない。あの女のせいで負った傷を癒すのにはずいぶんと時間をかけられた。下等生物に傷を負わされた屈辱は死をもって雪いでもらおう。
女とその連れの姿が見えた瞬間、ガーベルグはブレスを吹いた。不意打ちに近いこの攻撃。魔術で障壁を張るのも間に合わないだろう。塵も残さず燃え尽きるのが目に浮かぶ。
しかし、ガーベルグの予想は裏切られる。全身黒い服装の男がブレスを斬り裂いたのだ。正確に言えばブレスの核となっている魔素を斬り裂き、発動を無効化したのだが。
ガーベルグの驚愕はまだ続く。黒ずくめの男が人間とは思えない速度で動き、自身の鱗をもろともせずに切り裂くのだ。
ありえない!!
ガーベルグの鱗は魔術に高い耐性をもち、ダイヤモンドに匹敵しそうなほど硬い。にも関わらず、男の振るう剣は紙か何かを斬る様に、スムーズに自分を切り刻む。
男を仕留めようと牙や爪を振るうが男の周囲を飛ぶナイフに邪魔され、うまくいかない。
それどころか男に注意が行き過ぎて憎き女に片目を射抜かれた。
「グヲオォォォォッッッ」
あまりの激痛に叫び声をあげる。
そしてそれは大きな隙になったのだろう。
黒ずくめの男が一気に肉薄し、右前脚を斬り飛ばした。
「グギャガアアアァァァァァァァ!!!!?」
冗談ではない!!
ガーベルグは思う。このまま戦っても死ぬだけだ、と。
急ぎ飛び立ち、その場から逃亡する。風や氷の魔術が襲ってくるが気にしてはいられない。逃げ出さなければ命が無い!!
山から飛び立ったガーベルグがまず求めたのは食事だ。食べて魔素を吸収すれば傷の治りが早くなる。
ふと下を見ると弱そうな獲物が6人いた。含有している魔素が少なそうだがこの際贅沢は言っていられない。
ガーベルグは一瞬の躊躇もなく獲物の群れに襲いかかった……




