表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術世界の非魔術師  作者: まこと
黒衣の剣聖と銀月の射手
12/36

山中の戦闘

アッシュ→セラ→リルの順に視点が変わります。

「…………」


一切言葉を発することなく、俺は襲ってきた魔物イビルホークを一刀両断し、登山を続ける。


 俺とリル、そして実体化したセラは討伐目標である名付きの龍、邪龍ガーベルグの潜むバルダ山を登っていた。向かってくる馬鹿な魔物は全部瞬殺している。そして街を出てから俺は一言も言葉を発していない。その理由は、


「いい加減機嫌治してよ、アッシュ~~ 悪かったってば~~」


……その理由はリルへの仕置きのためだ。リルは無言というのがすこぶる苦手らしい。


 ではなぜそんな事をするかと言うと、リルが待ち合わせ時間に盛大に遅刻してきたからだ。その理由がギルドが混んでいた、馬鹿な奴にしつこく声をかけられた等ならまあ仕方ないと思う。だが、受付嬢との話に夢中になったせいというのは看過できない。


 なので絶賛お仕置き中となっている。


 チラリと後ろを振り返ると涙目でついてくるリルの姿がある。あれで俺より2歳年上だというのだから信じられない。セラは俺の横でくすくすと笑っている。リルの姿が面白いのだろう。


 だが、そろそろお遊びを止める必要があるだろう。強大な気配の持ち主がすぐそこにいるのを感じ、俺はブラック・レイヴンを掴んだ……



*****



 さっきまでリルをからかっていたアッシュの雰囲気が変わった。当然だ、目標のすぐ側まで来ているんだもの。リルも臨戦態勢に入って背負っていた弓を構える。子供っぽい彼女もSランク冒険者。ひとたび戦いになれば雰囲気も変わる。


 そのまま先に進むとやや開けた場所に出た。目の前には黒い巨龍がいる。確実に討伐目標だと思う。見るからに強そうだけど私とアッシュの敵じゃない。いきなり吹いてきたブレスを、事もなげにブラック・レイヴンで切り裂くアッシュ。


 私がアッシュにあげた魔剣ブラック・レイヴンには3つの特殊能力がある。


 1つめは魔術を斬る力。正確にいえば世界の魔素(マナ)以外のすべての魔素を斬る力。だからこそ龍が自分の魔素を用いて放つブレスも斬ることができる。


 2つめは持ち主の魔素を勝手に吸収し、吸収した量に応じて切れ味を高める力。本来だったらデメリットの方が強い能力だけど、アッシュは魔力が異常に高いし、自分から魔素を送ることができないからかえって好都合な能力だと思う。


 3つめは自己修復能力。欠けたり折れたりしても、持ち主の魔素を勝手に吸って、元通りになる。


アッシュはブレスを斬ると同時に前に出て叫んだ。


「セラ、白羽を使う! 頼んだぞ!」


まかせて、と返し、風を操って白羽を鞘から抜く。そしてそのまま彼の周囲に滞空させる。


 アッシュの動きに合わせて移動させ、戦闘を補助する。ここまで精密なコントロールは、私たち精霊で無いと不可能な芸当だ。アッシュに向かう牙や爪を白羽が迎撃して、一瞬時間を稼ぐ。そしてその一瞬の間に彼はもう別の場所に移動している。


 アッシュの魔素を吸収した大剣が易々と龍の鱗を斬り裂く。リルと私の魔術の援護を受けて龍に次々と傷をつけていくその姿は、私の主ながら惚れ惚れとしてしまう。


 そして今、リルが右目を潰し、悲鳴をあげているガーベルグにアッシュが一気に肉薄し、右前脚を斬り飛ばした……



*****



 久々に組んで戦うと、とんでもない強さだと思う。


 開幕直後のブレスを軽々切り裂くし、普通ではありえないほどの切れ味を持つ大剣を、これまたありえないほどの身体能力で動き、振るう。これで同じSランクに位置づけされるんだからやめて欲しい。アッシュと戦ったら絶対負ける。


 魔術が使えないアッシュが闘うために自力で編み出した力、【闘気術】……

早い話が身体能力を強化するものなんだけど、はっきり言って反則級の強さだ。


 元々身体強化の概念は存在したけど、魔力の消費が激しく、あまりにも非効率すぎるから誰も真面目に研究しなかった。当然と言えば当然よね。10の魔力で強化して蹴り殺すよりも、1の魔力で火の球作って遠くから焼き殺した方が効率もいいし、安全だから。


 だけど、アッシュが完成させた闘気術はとんでもない性能だ。それが分かってるからアッシュはよほど親しい人にしか教えないって言ってた。まあ自分のアドバンテージを失いたくないのもあるんだろうけど。


 今、ときどき飛んでくる火球を避けられているのも闘気術【疾風】のおかげだ。


 【疾風】は魔素を足に集中させることで一瞬だけ超高速移動を行う闘気術の一つ。障壁を作って防ぐよりも危険が少ないし、魔力消費も少ないからかなり重宝する。常時強化するんじゃなく、必要な瞬間だけ力を込めることで消費魔力を押さえたやり方だ。まあ、アッシュはこれを『闘気術を他人が使いやすいよう改良したもの』って言ってたからまだ奥があると思う。


「はぁ~ 仲間なのは心強いんだけど、戦いぶりを見るとへこむな~」


「同じ人外の強さを持つ人が何言ってるの?」


思わず愚痴を言うと、セラちゃんが風を操りながら声をかけてきた。同じ人外って言われてもレベルが違うんだけど……


「名付き相手に話せる余裕があるなら十分でしょ?」


……確かに普通の人には無理だから否定しきれない。


 私は溜息をつくと弓を構える。


 弓は冒険者の間ではかなりマイナーな武器になる。矢を撃ち尽くしたら攻撃力が激減するし、魔術の方が威力が高い。だから、遠くの敵には基本的に魔術が使われ、弓は物好きな人くらいしか使わない武器とされている。


 だけど弓には一つのアドバンテージが存在する。


「ハッ!」


私の放った矢が狙いたがわず邪龍ガーベルグの右目に突き刺さり、その瞬間あたった部分から氷の花が咲く。


「グヲオォォォォッッッ」


激痛に唸るガーベルグ。矢が何かに命中することで発動することにした風・水複合属性の氷による魔術【氷の造形(アイス・クリエイト)】が右目を完全に潰した。これが弓のもつ数少ないアドバンテージ、『起点魔術』だ。


 魔術は基本的に自分のすぐ近くでしか起こすことができない。せいぜい5mってところかな? 分かりやすく言えばすぐ近くに火球を作って、遠くにいる敵に飛ばすことはできても、敵の足元から火柱をあげることはできないってこと。

で、ここで重要なのは一度飛ばすともう操作できないから基本、まっすぐにしか行かないってことと魔術を使用してから時間が経てば経つほど威力が減るってこと。


 それで、その後者の欠点を無くすのが『起点魔術』。矢に魔術を込めて発動条件を設定し、その条件を満たすことで矢に込められた魔術を発動させるっていうエルフに伝わる技術。


 ふふん、と片目を潰したことに誇らしげな顔をアッシュに見せると、あきれたと言わんばかりに首を振られた。なんかムカツク。


 だけど隙を逃さないのはさすがと言うべきか、アッシュは苦痛にもがいているガーベルグに一気に近付くと、右前脚を斬り飛ばした。


(ああ、勝ったわね……)


その瞬間私はもう勝利を確信していた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ