鍛冶師の少女
翌日、ギルドに依頼を受理しに行くのをリルにまかせ、俺は町はずれにある一軒の工房に足を運んだ。
「カンナ、いるか?」
「ああ、アッシュ兄、おはよう。 ちゃんと鍛え終わってるぜ」
俺が声をかけると、奥から勝気そうな顔立ちの黒髪のショートカットをした少女、カンナ・クサナギが出てきた。男口調で話す彼女は東方諸国出身の鍛冶師で、俺の弟子『剣聖の四黒姫』の一人だ。
Sランク冒険者は必ず弟子を持たなければならない。これは化け物級の俺たちが鍛えることによって、優秀な冒険者を増やす試みだ。まあ、気にいったり、見込みのありそうな奴しか弟子にはしないが。
俺のカルノワ……『剣聖の四黒姫』やリルの『妖精の子供達』のように弟子たちには一纏めにした称号が与えられる。師事したSランク冒険者によって与えられる称号が異なるので、弟子は師の名声を背負うことになる。まあ、名声なんて俺はどうでもいいと思っているが、彼女たちは名声を落とさないよう努力し全員AAランク以上の実力を身につけている。
「白羽、テーブルに置いてあるから確認してくれ」
「ああ」
そう返事をすると、テーブルに置いてある12本の短剣、白羽を一つずつ確認する。
「相変わらずいい仕事をするな。 問題無い」
「そうかい、そいつは良かった」
へへ、と笑うカンナ。それを見ながら、俺は白羽をコートに取り付け始める。
漆黒のコートに取り付けられた純白の短剣は、黒一色の服装にアクセントを加えるだけでなく、あちらこちらに取り付けられた鞘は防具としての役割も果たす。後ろ腰にはソリア聖王国の女王から賜った剣、ナイトソード・クィンを差している。 俺の本気装備だ。
「そんな格好するなんて難しい依頼でもうけたのか、アッシュ兄? 俺もついて行った方がいいか?」
カンナは鍛冶師だが、AAランクの冒険者でもある。その実力は俺も認めているし、名付きの龍相手でも足手まといにはならないだろう。
だが、彼女にはやって欲しいことがあるので俺は、
「いや、リルとの合同依頼だ。 問題無い。 それよりもカンナには後で来る6人組に武器を見つくろってやって欲しい」
と言った。
「リル姉も一緒に行くのか。 なら安心かな? 渡す武器は精霊鉱使ったやつ、それとも普通の金属だけ使ったやつ?」
そんなことをリルが聞いてくる。
精霊鉱というのは精霊が生み出す金属の事だ。ミスリルやアダマンタイトが有名で、普通の金属よりも扱いが難しいがその分質が好い。
「その判断は任せる。 渡してもいいと思ったら渡してくれ。 そろそろリルとの待ち合わせ時間だし俺は行く」
「気をつけて―」
カンナの声を聞きながら俺は工房を後にし、リルの待つ街の入口へと足を向けた……
補足:作中に出てきた工房はアッシュが買い取り、そこをカンナが使っています。アッシュが頻繁に訪れる町には必ず彼が買い取った工房があり、アッシュが活動拠点を移す時カンナも一緒に動きます。




