俺の人生の転機。6ページ
甲高い絶叫。
絶叫している時は、栗色の髪の、通常状態の橘さんだった。
だが、絶叫が終わり、俺を睨み付けた橘さんは、暴走状態の橘さんだった。
白羽が言うには、負の感情で暴走状態になるんだよな?え?さっきの会話で、暴走状態になる負の感情があったのか?
俺の頭がそんな事を考えていると
「あああああああああああ!」
暴走状態の橘さんが、拳を振り上げて襲って来た。
「うわああああああああああ!」
間一髪。反射神経が働いてくれたお陰で、俺は横に飛び退いた。
空振りした拳が、そのまま保健室の床に叩きつけられる。床がさっきみたいにひび割れる事はなかったが、ズシンと、街の地震計が確実に反応しそうな揺れを起こした。
体勢を立て直して橘さんの方を向くと、彼女は鋭い眼つきで俺を睨んでいた。なんかロックオンされてない?俺。
「2人共まだいる?先生に事情を説明してきたんだ……」
その時、保健室の扉が開いて、白羽が入って来た。
が、白羽は扉を開けたまま動かない。暴走している橘さんは、白羽に構わず、もう一度俺に突っ込んで来た。
「わああっ⁈」
情けない。俺に向かって来る橘さんの余りの気迫に、思わず俺は腰を抜かしてしまった。
橘さんの拳は、再び空を切る。さらに、俺の足に引っかかってバランスを崩した橘さんが、俺の上に覆いかぶさってきた。
「うぐっ⁈」
腹の上に、ズンと衝撃が来て、思わず声を上げてしまう。
腹筋を鍛えていればこんな事にはならなかったのかな。なんて、今明らかにどうでも良い事を考えながら、俺は顔を上げる。
目の先数センチに、見事なまでの美人顏。自分が転んだ理由がわからないのか、ポカンとした表情。
そして、ゆーっくりと視線を彷徨わせてから俺を見た。
段々と、段々とポカンとした顔が、驚きの表情に変わっていく。
(ヤバイ。このままだと後数秒で殴られる!)
本能的にそう感じた俺はとっさにてを伸ばす。そして、何を思ったのか橘さんの頬を、右手でムニッと抓った。
「………………」
「……………………?」
気が付けば、俺の上に乗っかっているのは、茶髪で、気弱な橘さんだった。




