俺の人生の転機。4ページ
「えーっと、ちょっといいか?」
「なぁに?」
「さっきまで、俺はその優香さんについての説明を受けていたはずだ。それなのに、どうして俺が優香さんのお守りをお願いされるんだ?」
俺は白羽に向かって言った。白羽は、「あー」と短く唸って頭を描いた。
「それはね、階段の踊り場での出来事があるからなんだけどね」
階段の踊り場での出来事とは、俺が優香さんを初めてみたあの時の事だろうか。まさかあの場に居たから…とか言うふざけた理由じゃないだろうな。
「その考えは近いよ。あのね、さっきも言った様に、暴走したあの子にはみんな近づけないの。……実は結構前に、無理矢理近づいた人がいるんだけど、今は車椅子。でもね、不思議な事に朝道君は、暴走状態のあの子に近づいて、左腕の単純骨折で済んでるの。それに、あの子もその後全く暴れ無かったんだから」
溜息を吐く様に、白羽は言った。説明をするのが面倒になって来たのだろうか、少し口調が雑になってきている。
俺は、白羽の言葉の最後の部分が気になって、こんな事を言ってしまった。
「珍しいの?」
「珍しいなんてもんじゃないよ⁉」
突然、白羽が大きな声を上げて、勢いよく立ち上がった。予想していなかった事に俺は一瞬ビクッとしてしまった。
「今までは暴れ疲れて倒れちゃうまで放置してなきゃいけなかったんだから!…暴走状態でおとなしい優香なんて今まで一度も見れなかったのに」
そう言って立ち上がったまま、俺をまっすぐに見ている白羽。気のせいか、その目尻が濡れている様に思えた。
しまった。何か心ない事を言ってしまった様だ。
「…優香との付き合いはもう三年になるけど……優香は、昔っから責任を感じ易い子で、それこそ、優香に全く関係のない事でも、『自分のせいだ』って考えちゃうの。暴走状態が現れてからは、笑っていても何処か不安そうで…」
立ち上がったまま、俯いて、ポツリポツリ呟く様に話す白羽。俺は白羽の言葉に、自分が本当に心無い言葉を言ってしまったと思った。橘さんが責任を感じやすい人なら、あの暴走状態うんぬんのせいで、人と談笑したりする機会など無かっただろう。俯いて黙ってしまった白羽に、俺は、どう声を掛けていいのか解らなかった。
しばらく、お互い喋らずに、気まずい沈黙が流れる。
どうしたらいいのだろうか、そう思っていると、突然、保健室の扉が開く音がした。




