彼女の豹変への対策。8ページ
屋上から降りて、白羽達と別れ、教室に戻ろうとした時、健が俺に話しかけて来た。
「木陰、あれは何だ?」
単純な疑問。そうだよな、そりゃ気になるよな。
「橘さんと白羽さんだろ?どうして学校内の美少女二人が、昼休みにお前といたんだ?お前、あの二人にどんな事をしたんだ?」
俺が口を開く前に、健は俺をまっすぐに見て尋ねてきた。が、
「そっち⁈」
屋上で、突如橘さんが豹変した事ではなく、俺が白羽達といる事がこいつにとって不思議だったらしい。
やっぱり阿呆だ。こいつ。
思わず溜息が出てしまう。でも、こいつは橘さんに対して、変な印象を受けている訳ではなさそうだ。教室の中に入って自分の席に着き、次の教科を確認しながらそう思う。
「まぁいいや。おい木陰。次橘さん達と昼飯を食べるなら、俺も呼べよな」
ニカッと笑って、健はそう言う。そしてそのまま、自分の席へと戻ってしまった。
「……気が向いたらね」
健がだいぶ離れてから、俺はぼそりと呟いた。
扉から、先生が教室に入ってくる。俺はこの時、教科書を忘れている事に気がついた。
授業中、俺は橘さんの事について色々と考えていた。いわゆる『負の感情』が限界を迎えると、豹変し、辺りのものを壊してしまう。振る舞いとか、雰囲気とかだけなら二重人格に近いんだろうけど、彼女は、姿かたちも変化する。……だが、どうして姿形も変化するのか?というのは、考えない方がいいだろう。そんなものはきっと説明出来ない筈だ。
……ああもう、俺には知識が足らなさすぎる。何をどんな風に考えれば良いのかさっぱりだ。
俺は、先生に見つからない様に携帯電話を取り出すと、ウェブに繋いで『二重人格』と検索を掛けた。
こんな物で得られる知識なんて大した物じゃないだろうが、俺には他の方法が思い付かなかった。
この時、ウェブ検索に夢中になっていた俺は、全く不思議がらなかったことがある。橘さんが貯水槽を壊した時に響いた轟音があるのに、貯水槽から漏れた水が屋上から地面に降り注いだのに、先生達は一切、騒がなかった事だ。




