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コラム:戦艦の第二次黄金期

 本作における1948年──つまり第三次世界大戦開戦当時は、間違いなく戦艦の第二次黄金期です。

 こんなこと書くと「んなわけねーだろw」とミリオタの方々から嘲笑われそうではありますが、実際そうなのだから仕方ありません。

 その根拠となる要因はふたつ。

 ひとつ目は、条約明け新戦艦の強靱な防御力です。

 珊瑚海から南太平洋までの空母戦を顧みますと、この当時の20000トン級正規空母を沈めるには、おおむね大型空母二隻分の航空打撃力が必要であることがわかります。

 ミッドウェーでも、奇襲効果によって攻撃力×2の修正が付くものとすれば、この条件が成立します。

 実際は珊瑚海のレキシントン(ダメコン失敗)も南太平洋のホーネット(航行不能による放棄)も展開次第で生還の見込みがあった(九州沖のフランクリンのごとく)ので、大型空母二隻分の航空打撃力はあくまで「最低限それぐらいは」の目安とすべきかもしれません。

 では、20000トン級正規空母を沈めるのに大型空母二隻分の航空打撃力が必要であるとするなら、戦艦を沈めるにはいったいどれぐらいの航空打撃力が必要とされるのでしょう。

 装甲防御の充実した戦艦に対して爆弾はあまり効果的ではなく(実際、「ティルピッツ」は500ポンド爆弾12発を直撃されても戦闘能力を維持できてました)、まずもって魚雷を命中させなくては話にならないことを計算に入れますと、排水量三~四万トンクラスの戦艦を沈没させるには、最低でも20000トン級正規空母の時の二倍くらいは航空打撃力が必要とされると考えられます。

 ざっと大型空母四隻分といったところですね。

 このあたりは条約型戦艦のみならず、ポストジュットランド型の大規模改装戦艦、つまり日本の八八艦隊計画艦などであっても大差はないと思われます。

 では、そんな彼女らを上回る排水量六万トンクラスのポスト条約型戦艦ならどうでしょう?

 レイテ沖海戦の「武蔵」や坊の岬沖海戦の「大和」を見る限り、六隻程度の大型空母がいなくては確実性がないと見て間違いないでしょう。

 ここでさらに問題となるのが、ふたつ目の要因である艦隊防空力の向上です。

 ゲームにおける1948年時の艦隊防空力は、確実に史実の第二次大戦時を上回るものです。

 VT信管こそないものの、より充実した対空火器と戦訓に学んで洗練された防空システムで守られた水上艦隊の実力が、依然として爆撃と雷撃、つまり「対空砲火に突っ込む」しか芸のない航空攻撃を大きく阻害することに疑う余地はありません。

 シブヤン海で戦闘機の傘を持たない栗田艦隊を1000機以上の艦載機を有する機動部隊で攻撃しながら、その戦果がたかだか戦艦一隻というのは、一般的に貧弱と言われる日本艦艇の対空火力でも(数が合わされば)その程度のことはできるという何よりの証拠ではないでしょうか(なお、マリアナ沖の米機動部隊はもっと酷い戦果です)。

 それを下敷きとして、ちょっとしたシミュレーションをしてみましょう。

 とある海軍(ここではA海軍としておきましょう)がとある国家に渡洋侵攻しようとしています。

 攻められる側の海軍(ここではJ海軍としておきます)との戦力差は10対6の優勢と仮定し、ゲーム的に大型空母か戦艦を、それぞれが組み合わせで合計10隻&合計6隻持てるものといたします。

 もしA海軍が10隻の大型空母を保有した場合、J海軍が戦力比どおり6隻の大型空母を保有しても艦隊決戦での勝ち目はありません。

 A海軍は4隻のJ海軍空母を撃沈し残った2隻を戦力外に押しやることが可能です。

 2隻分の航空打撃力で1隻の大型空母を撃沈でき、その半分である1隻分の航空打撃力で1隻の大型空母を戦場離脱させられると仮定すれば、そうした結果が導き出されます。

 その一方、上記と同様の計算式を用いれば、基地航空隊が大型空母1隻分の働きをしたとしてJ海軍は7隻のA海軍空母を撃破することができますが、3隻の敵空母を討ち漏らしてしまいます。

 この時点で互いの残存戦力はA海軍空母3隻とJ海軍基地航空隊で戦力比3対1となり、J海軍はA海軍の侵攻船団に損害を与える能力を喪失するわけです。

 もしランチェスターの法則がよりリアルに発動するなら、もっと一方的な結果になってもまったくおかしくありません。

 それは、台湾沖航空戦の顛末が如実に証明しています。

 300機以上の航空機で猛攻を掛けながら、日本軍は目指す米空母に指一本触れられなかったのですから。

 ではJ海軍が6隻の空母に代わって6隻の新戦艦を揃えた場合はどうでしょう。

 先にも述べたように、条約型戦艦1隻を撃沈するにはおおむね大型空母4隻が必要となります。

 撃破するには、その半分である2隻が必要。

 つまり、気合いたっぷりで突撃してくる6隻の条約型戦艦から侵攻船団を守るには、最低でも12隻の大型空母が必要となるわけです。

 10隻のままでは戦力が足りず、討ち漏らしが1隻出ます。

 侵攻船団に向けて敵戦艦の巨砲が唸るさまは、悪夢としかいいようのない惨状でありましょう。

 それを阻止するためには、A海軍も戦艦に対抗できる水上戦力、つまり戦艦を連れてこなくてはなりません。

 上記の戦力比であるなら、大型空母6隻+戦艦4隻を揃えられれば、航空攻撃で3隻のJ海軍戦艦を撃破できるので、残存戦力4対3で侵攻船団を守り抜ける可能性が高くなる。

 ではJ海軍戦艦のうち1隻がポスト条約型戦艦だったら?

 J海軍がポスト条約型戦艦1隻+条約型戦艦5隻を揃えた場合、航空攻撃で3隻のJ海軍戦艦を撃破したならポスト条約型戦艦1隻+条約型戦艦2隻が生き残り、航空攻撃でポスト条約型戦艦1隻(撃破するのに正規空母3隻分の航空打撃力が必要)を含むJ海軍戦艦を撃破したなら戦力を維持した条約型戦艦3隻と損害を受けた条約型戦艦1隻が生き残る寸法となります。

 そして、もしA海軍がJ海軍の基地航空隊を攻撃目標としたなら、ポスト条約型戦艦1隻+条約型戦艦2隻+損害を受けた条約型戦艦1隻、もしくは条約型戦艦4隻が船団めがけて突っ込んできてしまう。

 ポスト条約型戦艦の実力が条約型戦艦の5割増しだと仮定すれば、これは由々しき問題です。

 ほとんど五分の勝負になってしまう。

 ではどうすればいいかと考えれば、一番手っ取り早いのがA海軍もJ海軍と同数の戦艦を保有すればいい。

 つまり、正規空母4隻+戦艦6隻を揃えポスト条約型戦艦の数も同等以上とすれば、船団に襲いかかる敵艦隊を有利な戦力比をもって迎え撃つことができる。

 戦艦が、戦艦の存在こそが渡洋侵攻の成否を定める決定打であるというわけです。

 ではなぜ史実日本はマリアナで完敗したのでしょう?

 突撃する戦艦は、相応数参加していたというのに。

 これは簡単な話で、史実日本海軍は侵攻船団の存在、つまり米海軍の渡洋侵攻を阻止するという戦略目標なんて最初から目に入っておらず、ただただ「敵主力艦隊を撃破すること」を目指して自分よりも強力な米艦隊に策もなにもないまま正面攻撃を仕掛けたからです。

 長篠の合戦と同じです。

 勝ち筋はたくさんあったのに、そういった選択肢が思い浮かばなかった。

 索敵戦では勝ってた(事実、日本艦隊は発見されていない)のだから、そのまま長躯後方に進出して侵攻船団もろとも海兵隊師団を海の藻屑にしていればマリアナの防衛は成功していたのです。

 「役立たずの戦艦なんか、サイパンに乗り上げて砲台にしてしまえ」とどこぞの参謀は叫んだらしいのですが、だったらなぜ「役立たずの戦艦は侵攻船団と差し違えてこい」とレイテ並の決断ができなかったのかと思います。

 こう言っちゃ悪いのですが、史実の1945年当時であっても、戦艦には使い道があった。

 戦後に戦艦の使い道がなくなったのは「空母があれば戦艦はいらない」からではなく、「戦艦を持った敵海軍がいなくなった」からが正しいと思います。

 さらに言うと、史実の第二次世界大戦時より本作の世界線は多くの戦艦が就役しています。

 それも史実の戦艦群より攻防ともに強力で、高速でもある連中が、です。

 しかも、その連中は高度に発達した対空火器によって身を守るのみならず、同様の武器を持った多数の補助艦艇にかしずかれてもいる。

 そして、そんな奴らが見敵必殺の覚悟で突っ込んでくるのを阻止し得るのは同格の者たち、つまり戦艦のみである。

 これが、第三次世界大戦開戦時の状況であるわけなのです。

 これを黄金期と言わずしてなんとするのでしょう。

 航空兵力とそれらを活用できる航空母艦は、確かに優秀な戦力です。

 水上艦艇からの反撃を気にすることなく、一方的に捕捉して殴りつけ、一方的に戦闘を切り上げることができるのは、実に巨大な利点です。

 でも本作の時点では、残念なことに戦艦を中心とする水上艦隊への有効打撃力が不十分。

 雷撃も爆撃も、激しい対空砲火に身を晒さねばならない以上、一定数は確実に阻止されてしまう。

 しかも被弾した航空機は、たとえ墜落しなくても継続使用不可能な状態に陥っているかも知れないわけです。

 となれば、第一波の攻撃は完遂できても第二波攻撃が弱体化するのは避けられない。

 それどころか、航空機の消耗が大きすぎて空母部隊が攻撃能力を喪失してしまう可能性すらあるのです。

 それを裏付ける状況は、実際に史実の空母戦でも発生しています。

 南太平洋海戦で空母「ホーネット」を航行不能に陥れ米艦隊を退却に追い込んだ日本機動部隊は、航空機の消耗が限界を迎えたことで戦果の拡大に向かうことができませんでした。

 あの一方的な勝ち戦に見られるマリアナ沖海戦の米機動部隊にしても、航空機の消耗は100機を越えたのです(まあ、その内訳は着艦事故が多数であったのですけど……)。

 かように、戦闘に参加した航空機の消耗というのは過激なものであるのです。

 そして、最低限航空攻撃が「対空砲火に突っ込む」という前提を打破しない限り、こうした状況に変化が訪れることはありません。

 つまり、航空機が水上艦隊に対して完全な優勢を得るためには、対空火器の有効射程外から攻撃可能な長射程兵器の登場を待たなければならないというわけなのです。

 だからといって、戦艦の存在価値が空母のそれを凌駕するのかと問われるのなら、それもまた「否」と答えるしかありません。

 というのも、戦艦というハードウェアは同じ戦艦というハードウェアを撃破するために「のみ」必要なものであって、それ以外の水上艦艇を撃破するためには、あまり効率的な存在ではないからです。

 ここでふたたび先ほどのシミュレーションを持ち出しますが、もしA海軍が10隻の戦艦を整備していた場合、J海軍はA海軍に対抗して戦艦を持つべきなのでしょうか?

 いいえ。

 敵侵攻船団を撃破するなら、空母による航空攻撃で十分です。

 むしろ、船団丸ごと仕留めるなら、そちらのほうが効率的ですらあります。

 戦艦を阻止できるのが戦艦だけである以上に、空母と対峙できるのは空母だけなのです。

 加えて言うと、戦艦は輸送船団のように逃げられない相手を捕捉することはできても、水上戦を回避する気まんまんな敵艦艇と交戦できるかどうかは未知数です。

 空母を初めとする航空兵力に至っては、一方的に受け身の立場を強制すらされます。

 だから戦艦が活躍できるケースは、先のシミュレーションのように「敵侵攻船団を迎撃する」みたいな限られた条件になってしまうわけです。

 それでいて、戦艦は戦艦以外と交戦する想定においてだと、コストパフォーマンスが悪すぎます。

 巡洋艦以下の護衛艦艇を相手にするなど、鶏を割くに牛刀を用いるようなものです。

 要するに、柔軟な戦力投射が行える空母と比較すると活躍できる幅が狭すぎるんですよね。

 だから、戦艦の黄金期というのは極めて短い。

 19世紀の終わりから第一次大戦にかけてのそれは、航空兵力の不在と外洋航行力を備えた有力な水雷戦隊の欠如がもたらした限定的な産物であり、1948年当時のそれは、対空防御の進化に対する航空機側攻撃手段の未発達が招いた過渡期的なものであるとも言えるでしょう。

 そして、そうした戦艦の黄金期を否定する足音は、本作においてもゆっくりとではありますが確実に訪れようとしています。

 ドイツのルールシュタール誘導爆弾や日本のグライダー滑空魚雷「桜花」、赤外線誘導爆弾「梅花」に代表される初期型スタンドオフ兵器の登場がそれに当たります。

 もちろんそれらはまだまだ未解決な短所(ルールシュタール誘導爆弾は短めな誘導距離に。グライダー滑空魚雷「桜花」は未誘導であることに。赤外線誘導爆弾「梅花」は威力面に)を有してはいますが、それらはいずれ技術的に解決されるのは確実です。

 ある意味、「枯れた技術」の集大成である戦艦と違い、航空機とそれらが搭載する空対艦兵器はいままさに進化を始めたばかりの成長期にあるのですから。

 そうなれば戦艦の持つ防御面での優位性は失われ、今度こそ「戦艦の時代」は終わりを迎えることになるでしょう。

 ただし、それはまだ先の話でもあります。

 少なくとも本作の時代設定であれば、戦艦の持つ有力性(優位性ではありません)に陰りはまったくありません。

 プレイヤーの皆さんは、この「戦艦の黄金期」をたっぷりと楽しんでください。

 架空戦記「鋼鉄のレヴァイアサン」が語るように、戦艦とは「ロマンの産物」でもあるのですから。 

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