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巡洋艦(大型巡洋艦/装甲艦/重巡洋艦)総評

 一般的に「巡洋艦」と言えば、軍縮条約で定められた「重巡洋艦」「軽巡洋艦」という区分を思い浮かべる方々がほとんどでしょうけど、実際の「巡洋艦」とは「軽巡洋艦」「装甲巡洋艦」「巡洋戦艦(戦闘巡洋艦)」という区分で分けられるのが本来の姿だと思っています。

 事実、第一次大戦までの「巡洋艦」とは、艦隊の準主力艦である「装甲巡洋艦」を起点として、より安価な汎用戦闘艦である「軽巡洋艦」が誕生し、続いて「装甲巡洋艦」を駆逐する超装甲巡洋艦としての「巡洋戦艦(戦闘巡洋艦)」が登場するという流れになっています。

 そうした「巡洋艦」の棲み分けを崩したのが軍縮条約で、実際は単なる超装甲巡洋艦だったはずの「巡洋戦艦(戦闘巡洋艦)」を戦艦と同様の主力艦として保有制限の対象にしてしまいました。

 このため、もともと安さと汎用性で「軽巡洋艦」に、純粋な戦闘力で「巡洋戦艦」に対抗できなくなったはずの「装甲巡洋艦」が「重巡洋艦」として復活してきたってのが、ボクたちの知っている「条約型巡洋艦」の歴史になるというわけです。

 そういった面で各国の巡洋艦を眺めてみますと、これがまたお国柄が出ていて実に面白い。

 まず、本来の意味で「重巡洋艦」を必要としていた唯一の海軍であるアメリカ合衆国を見ていきましょう。

 アメリカ合衆国海軍の存在意義は、「侵攻海軍である」といういち項目に尽きます。

 つまり、彼らが巡洋艦に求めたものは海上交通線の維持や植民地警護といった正統派の任務ではなく、あくまでも水上艦隊の準主力、ないし主力艦隊の護衛であったわけです。

 これは、架空戦記である本作においても変わりありません。

 なもんで、彼の国の重巡洋艦は、他国の軽巡洋艦を撃破しうる砲撃力と他国の重巡洋艦に対抗できる防御力を軸(のちに対空火力がこれに加わります)に設計されています。

 条約明けに大量就役したボルチモア級を見ればわかりますが、合衆国の重巡洋艦は格上の艦艇、つまり戦艦や巡洋戦艦に対抗することをまったく視野に入れていません。。

 彼女らは最初から「他国の8インチ砲艦に打ち勝つこと」を目的に設計されているのですから、それは仕方のないことです。

 戦艦戦力において圧倒的に優勢な合衆国海軍は、わざわざ他国の戦艦や巡洋戦艦に巡洋艦で対抗する必要性などないのです。

 ですので、アストリア級(史実のニューオリンズ級)以降の条約型重巡並びにボルチモア級は、格上に対処するための魚雷兵装を全廃するのと同時に、8インチ砲に対応する強靱な砲塔防御を有しています。

 同格以下の敵に対する火力の維持を重視したわけですね。

 データでは、対艦火力の丸数字でこのことを表現しています。

 耐久力が半分未満に減少しても対艦火力が低下しない上、ウイチタ級以降の艦は他国の重巡より重い砲弾を使用しているので対艦火力も大きく(他国の条約型重巡が対艦火力2~3であるのに4)、よほどの不運に巡り会わない限り、性能面での優勢は動かないでしょう。

 これは、他国が整備していた8インチ砲巡洋艦との砲戦を優位に進めつつ、突撃してくる軽巡洋艦を魚雷発射距離に達する前で阻止するのに十分な性能です。

 対艦火力のみならず、耐久力やスピードレベルにも丸数字を持つ艦がほとんどなので、撃ち合いだけなら他国の巡洋艦戦隊に後れを取ることはないでしょう(追加損害が発生しないため)。

 そもそも、外洋において艦隊に水雷襲撃してくる艦艇というのは、常識的には大型駆逐艦か排水量7000トン未満の汎用軽巡(日本の5500トン級やイギリスのリアンダー級など)ぐらいなものなので、従来型の8インチ砲艦で十分対処可能だとWW2までは思われていたのです。

 ですが困ったことに、とある極東の狂った海軍には、そんな常識通用しませんでした。

 あそこの海軍は、あろうことか条約型重巡クラスの艦が平然と水雷襲撃を仕掛けてくるのです。

 加えて問題となったのが、史実ではソロモンの夜戦、本作では欧州海域での夜戦で判明した日本海軍の雷撃距離です。

 この時代において、雷撃距離はおおむね8000メートル以内というのが常識でした。

 それは、どこの海軍であっても一緒です。

 しかし、この極東の狂った海軍は、その距離をはるかに上回る1万メートル以遠から、堂々と魚雷を発射してくるのです。

 それも、航跡を残さない上に大破壊力を持つ極めつけな奴(酸素魚雷)を。

 これは、同海軍を最大の仮想敵とする合衆国海軍にとって由々しき問題でした。

 従来型の8インチ砲艦では日本海軍の水雷突撃を破砕できる確証がなくなってしまったからです。

 このために急遽計画されたのが、究極の8インチ砲艦であるロサンゼルス級(史実のデモイン級)でした。

 合衆国海軍が日本海軍のような主砲の大口径化に走らず従来までの8インチ砲にこだわったのは、実のところラプラタ沖海戦における戦訓があります。

 あの海戦において、「アドミラル=グラーフ=シュペー」の11インチ砲は(榴弾を使った結果とはいえ)イギリスの巡洋艦を早期沈黙させるに至りませんでした。

 これにWW2の夜戦における戦訓、「砲撃で大型艦を沈黙させるには、短時間で大量の命中弾を与える必要がある」が加わったことで、合衆国海軍が「中途半端な大口径砲より発射速度の大きい8インチ自動砲の方が有利」という結論に達したのは、あながち間違いではないように思えます。

 事実、史実のコロンバンガラ島沖海戦にて、合衆国海軍は2600発を越える6インチ砲弾を軽巡「神通」1隻に発射しながら、味方駆逐艦が魚雷を命中させるまで同艦を沈黙(実質的には廃艦状態だったのでしょうが)させられませんでした。

 大正時代の旧式軽巡ですらそうなのですから、条約明けの新鋭艦が少数の被弾で戦闘力を失うなどという期待は、なかなかできるものではなかったでしょう。

 ただ、合衆国海軍が見落としていたひとつの要目があります。

 それは、「アドミラル=グラーフ=シュペー」が装備していた11インチ砲が重量300キロ台の軽量砲弾を使用するものであったということです。

 これに比べて、自軍の12インチ砲、そして日本海軍の12インチ砲は、ともに500キロを越える重量砲弾を使用します。

 こと日本海軍が新規開発したそれは、ダンケルク級が搭載している33センチ砲に匹敵する560キロという超重量砲弾を発射するのです。

 諜報の限界から他国の砲弾重量を予測するのは難しかったかもしれませんが、それでも日本海軍が12インチ砲を搭載したポケット戦艦を建造するという情報を本気で信じたのなら、(アラスカ級=インディペンデンス級の建造という具体的対策はともかく)もう少し新鋭重巡の設計に変更があっても良かったのでは、と思ったりもします。

 とはいえ、史実でも戦後まで8インチ砲にこだわった合衆国海軍なので、本作でも8インチ砲にこだわってもらいました。

 もっとも、純粋な汎用戦闘艦として見る限り、ロサンゼルス級重巡洋艦の総合実力は、他国の新鋭重巡(ほぼすべて架空艦ですが)よりアタマひとつ抜けているとは思います。

 さて次は、そんな合衆国海軍のライバルである極東の狂った海軍、日本海軍の重巡です。

 他国の魚雷を凌駕する93式酸素魚雷(本作の時点では93式3型)を搭載する日本海軍の重巡は、雷撃能力において冠絶した能力を有します。

 余所の巡洋艦が持つ雷撃力が1~3である一方、日本海軍は最古参の古鷹型で6、条約型の妙高型・高雄型で8という図抜けた数値を誇っています。

 これに加えて、雷撃成功率である水雷値が他国は1であるのに日本だけ3(雷撃距離の優越を考慮しました)です。

 日本海軍の雷撃重視を表現する、あからさますぎる数値です。

 ただ、これほどの雷撃力は同格の艦艇に対しては確実にオーバースペックなんですよね。

 1万トン級巡洋艦の耐久力がおおむね3から4であることから、雷撃力×1Dが20以上あれば、ほぼ大破(耐久力0)か撃沈の結果が確定します。

 これは古鷹型で1Dが4以上、妙高型で1Dが3以上で達成できる数字です。

 要するに、日本海軍の重巡が主敵と定めていたのは敵の同格艦ではないってわけです。

 極端なことを言えば、日本海軍の重巡というのは壮絶に戦闘力の高い駆逐艦なんですな。

 高い砲撃力も重厚な船体防御も、すべては敵戦艦に魚雷を命中させるためのものだということです。

 史実の日本海軍が汎用軽巡の整備を諦め、最上型や利根型といった大型軽巡を重巡化していったのも、仮想敵である合衆国海軍の巡洋艦と撃ち合いつつ戦艦に肉薄できるのが最低でも条約型重巡クラスであるという認識を持っていた証左ではないでしょうか。

 ただ、史実の日本海軍と本作の日本海軍とでは戦略的に置かれた環境が異なっています。

 それは、布哇の存在がすべてです。

 早い話、布哇が日本の領土である以上、史実における漸減作戦が成立しないというわけなんですね。

 本作で日本海軍が想定した対米戦争とは布哇沖での艦隊決戦がすべてであり、艦隊決戦以前の大規模夜襲計画は基本プランには含まれていません。

 日本海海戦で実施されたように、水雷戦隊による夜間襲撃は主として艦隊決戦勝利後の追撃戦で行われることが目論まれていたはずです。

 ですので、条約明けになって合衆国の巡洋艦が著しく増勢されるのが確実視されている環境において、重巡の役割が見直されていくのも、これはこれで確実なんじゃないかと考えました。

 艦隊決戦時の昼間襲撃がメインとなれば、接敵距離=砲戦開始距離の拡大は必至だからです。

 こうした環境下において、少なくとも日本海軍が8インチ砲を見限るのは間違いなかったでしょう。

 古鷹型で6インチ砲を見限ったように。

 正直、8インチ砲って中途半端な艦砲なんですよね。

 1万トン前後の大型艦を撃破するにはパンチ力が足りず、かといって手数で削り倒すには発射速度が足りない。

 史実でも、軍縮条約がなければ8インチ砲艦があれほど増えたとは思えません。

 合衆国海軍は自動装填砲を開発してこの問題を解決しましたが、その砲塔重量は、より大口径の砲を搭載してもおつりが来るほどのレベルです。

 最初にも書いたとおり、軍縮条約によって巡洋戦艦が減少したからこそ「重巡洋艦」の存在価値が出てきたわけで、それがなければどの国の「重巡洋艦」もいずれ巡洋戦艦化していったのでは、と考えます。

 史実の日本海軍が利根型以降の8インチ砲艦を計画せず(史実の伊吹型は半ば戦時急造艦に近いものでしょう)、12インチ砲を搭載した超甲巡=実質的な巡洋戦艦の整備に走ったのも、そのあたりを証明しているんじゃないでしょうか。

 これは、史実における戦後のソ連が12インチ砲巡洋戦艦と6インチ砲大型軽巡の整備を目論んだことでも裏付けされてると思います。

 また、本作における日本海軍が条約明け重巡をポケット戦艦(というより巡洋戦艦のモンキーモデル)化していった背景には、艦隊型駆逐艦の進歩があります。

 特型以降の大型駆逐艦を5インチ砲で阻止するのは難しく、事実、それを悟った合衆国海軍は6インチ砲を搭載した大型軽巡クリーブランド級の大量整備に走りました。

 日本海軍にとって重要なのは、艦隊決戦時における魚雷発射線の確保です。

 史実のWW2では成立しませんでしたが、40年代の日本海軍が計画していた水雷戦の主軸は、紛れもなく比較的安価で数を揃えられる=魚雷発射線を多数確保できる大型駆逐艦でした。

 事実、そのために設計され陽炎型の後継艦として整備予定だった島風型は15という同時魚雷発射数を誇ります。

 それゆえ、重巡洋艦は自力で敵陣を突破する任務を解かれて主力たる水雷戦隊の火力支援艦となり、新鋭の軽巡洋艦は駆逐艦を率いて敵陣に突入する切っ先の役目が求められました。

 史実の金剛型戦艦が巡洋艦隊である第2艦隊に配備されたのは、火力支援艦たる重巡洋艦がそのような任務において力不足だと考えられたからです。

 本作の日本海軍もそうした建艦計画に基づき、水雷戦隊の突入を助ける火力支援艦の整備を進めていきます。

 伊吹型以降の12インチ砲艦群がそれに当たります。

 彼女らはあくまでも火力支援艦なので魚雷こそ搭載していませんが、先述したとおり欧州中型戦艦に匹敵する大重量砲弾を採用することで、投射弾量では改装前のシャルンホルスト級に匹敵する砲撃力が与えられました。

 すべては、短時間で敵巡洋艦の戦闘力を奪うためです。

 伊吹型以降の対艦火力8は1回の攻撃で2打撃を与える可能性があるので、耐久力が丸数字の巡洋艦でも(耐久力が6未満なら)追加損害を発生させる可能性が出てきます。

 同クラスの8インチ砲艦相手なら優勢であろうボルチモア級に撃ち勝つには、最低でもこれぐらいの砲撃力が必要だってわけです。

 なお史実の超甲巡であるB65設計案は、軍令部内で検討されつつも最終的に隻数のほうが優先され、結果としてポケット戦艦に似た設計案が採用されることになります。

 そんな伊吹型の12インチ砲連装3基1万7000トン級というスペックは、史実の合衆国海軍が誤報として入手した秩父型重巡のものを拝借しております。

 なお日本海軍が同艦を採用する切っ掛けとなったのは、やはりラプラタ沖海戦です。

 この海戦をドイツ側から見ると「ポケット戦艦は複数の巡洋艦で対抗可能な戦闘力しかない」という悲観的なものになりますが、見方を変えれば「ポケット戦艦1隻は複数の巡洋艦と渡り合える」ということにもなります。

 つまり、最大の仮想敵である合衆国海軍、彼らが保有する多数の巡洋艦と数的劣勢のまま殴り合うには、8インチ砲を上回る火力を有し8インチ砲に対応する防御力(対艦火力と耐久力の丸数字でそれを表しています)を持つ艦、つまりポケット戦艦が日本海軍にとって最適解であったと言えるのです。

 もっとも、伊吹型への対抗艦であるインディペンデンス級の建造を知って、これに対応した浅間型大型巡洋艦(史実のB65超甲巡)まで整備してしまうという迷走も見せてしまうのですが。

 さて続きましては、合衆国海軍を最大の仮想敵とするもうひとつの海軍、アメリカ連合国海軍の重巡です。

 連合国海軍にとって、そもそも条約型重巡という艦種は特に興味を惹く対象ではありませんでした。

 というのも、典型的な陸軍国家であるアメリカ連合国は、(フランス海軍がそうであったように)近代的巡洋艦というものの整備自体が決定的に遅れていたからです。

 彼らが必要としたのは、WW1で有用性が証明された「軽巡洋艦」のほうであり、軽巡洋艦を撃破するための艦である「重巡洋艦」の優先度が低くなるのも当然の話です。

 ですが、ただ闇雲に汎用軽巡だけを整備したところで、それらを敵の重巡に狩られてしまえば元も子もありません。

 したがって連合国海軍は、条約における重巡洋艦枠を、ひとまず「強力な軽巡洋艦」として消費することに決めます。

 典型的な折衷案ですね。

 彼らは自国の新型巡洋艦を、合衆国の汎用軽巡(この場合はオマハ級)を撃破しつつ任務を遂行可能な偵察巡洋艦として定めました。

 日本海軍の古鷹型に近い発想です。

 要求任務が似通っている関係上、排水量も条約型重巡のそれではなく、やや小振りな数値となっています。

 ただ、古鷹型が6インチ砲艦を撃破するために8インチ砲6門を採用した一方で、アルバート=S=ジョンストン級とその準同型艦は7インチ砲という独自の口径を採用しました。

 これは、艦隊側から提出された「搭載砲は8門以上」という要求を、設計陣が主砲のダウンサイズで応えようとしたからです。

 戦艦の整備に予算を取られていた連合国海軍にとって、巡洋艦の建造にコストを掛けていられない=できるだけ艦形を小さくしたいという切実な事情もあったことでしょう。

 しかしながら、アルバート=S=ジョンストン級とその準同型艦は、結果として失敗作の烙印を押されてしまいます。

 合衆国その他がブルックリン級を初めとする大型軽巡の整備に舵を切ったことで、アルバート=S=ジョンストン級程度の性能では「強力な軽巡洋艦」という立場を維持するのが難しくなってしまったからです。

 何せ相手は、条約型重巡との砲撃戦すら視野に入れた重装甲と、12~15門という多数の6インチ砲を搭載しているのです。

 格上の条約型重巡に打ち負ける事態はある意味想定内と言えなくもなかったのですが、建前上格下である軽巡洋艦にまで攻防性能で劣りかねないとなれば話は別です。

 かといって、いまさら8インチ砲艦の整備を始めても建艦計画の遅れが取り戻せるわけではありません。

 となれば、条約明けの新鋭重巡を「8インチ砲艦以下を質的に圧倒できる艦」として建造するのも、連合国海軍としては至極あたりまえな発想だと言えます。

 そうして誕生したのが、ジョージ=E=ピケット級大型巡洋艦です。

 軍縮条約によって生み出された歪な8インチ砲艦=条約型重巡をすっ飛ばし一気に12インチ砲を搭載した巡洋戦艦を選択できたのは、近代的な巡洋艦建造に後れを取った連合国海軍にとり一種の「怪我の功名」でもあったでしょう。

 対抗艦として設定されたのは、もちろんインディペンデンス級(史実のアラスカ級)です。

 史実において「役立たず」呼ばわりされた同級ですが、本作の世界線においては、伊吹型やビュロー級等、新鋭の11~12インチ砲巡洋艦を駆逐できる有力艦と見なされています。

 同じ大型巡洋艦であるジョージ=E=ピケット級が先行した彼女らを意識して設計されるのも、ある意味当然のことだと言えましょう。

 ただ、インディペンデンス級や浅間型が12インチ砲を基準にした防御を施されている一方、あくまで「8インチ砲艦を圧倒する艦」として計画されたジョージ=E=ピケット級は、やや弱装甲が目立ちます。

 耐久力が丸数字ではないため、他国の大型巡洋艦を相手にした際には、不利になるケースが多くなるでしょう(排水量が大きい分、タフな艦ではあるのですが)。

 余談ですが、史実のアラスカ級を見て大型巡洋艦を「建造費用が戦艦並みの問題児」扱いする向きはミリオタ勢中心にメジャーですが、本作では主力戦艦が史実を越えて巨大化=高コスト化している関係上、準主力艦としての大型巡洋艦、というよりクルーザーキラーとしての大型巡洋艦には立派な需要が発生しています。

 それは、ポケット戦艦を確実に撃破できる艦としてフランス海軍がダンケルク級を建造した経緯にも似ています。

 後孔明で「あんな艦は不要だった」と言うのは簡単ですが、当時の関係者視点で見ると、なかなかそうも言っていられないのが実情なんじゃないかと思ったりしますね。

 と、ここまで合衆国海軍と同海軍の仮想敵足るふたつの海軍を語ったところで、今度は欧州の海軍に目を向けてみたいと思います。

 まずは、ゲームにおける主役の一方であるドイツ海軍です。

 本当ならポケット戦艦であるドイッチュランド級を解説するのが順序なんですが、流れ的に8インチ砲艦であるアドミラル=ヒッパー級から初めてみたいと思います。

 まず大前提として、アドミラル=ヒッパー級は「仮想敵国が持ってるから作ってみました」以外の艦ではありません。

 それが証拠に同級は、条約型重巡への対抗性能は求められていても、その性能を「どこでどのように用いるのか」を海軍内部で真剣に模索した形跡がありません。

 そんなていたらくを表してか、排水量こそ大きいものの、火力も防御力も速力も航続距離も、特に秀でている面を持ち合わせてはいない艦です。

 確かに欠点らしい欠点(機関の信頼性不足は別)を持たない艦ではありますが、これだけの巨艦を建造するくらいなら、その枠で汎用軽巡をより多数整備したほうが良かったんじゃないかと思うくらいです。

 本作においての同級は、そうしたドイツ海軍の腰の入れようを反映して多数の同型艦が建造されています。

 8インチ砲艦を仮想敵国がたくさん持っているから、というわかりやすい理由によって。

 もっとも、大型軽巡の建造予定を持たなかったドイツ海軍にとって、アドミラル=ヒッパー級は他国の軽巡を撃破できればいいぐらいの性能設定で十分だったのかも知れません。

 そしてそれは、条約型重巡が求められていた任務にほかならなかったのですから、ある意味本来の重巡らしい(中途半端な)艦であったとも言えましょう。

 ゲームデータでは、砲塔防御を評価して対艦火力に丸数字を与えてありますが、耐久力は丸数字となっていないため、追加損害の発生が敵巡洋艦との交戦に際してのネックとなってくるでしょう。

 そんなアドミラル=ヒッパー級とは対称的に、ドイツ海軍が任務達成のために全力で仕立て上げた艦がドイッチュランド級です。

 ドイッチュランド級は、巷で言われている通商破壊艦などではなく、バルト海沿岸諸国の海防戦艦を撃破できる艦として計画・建造されました。

 ディーゼル機関の採用にともなう長大な航続距離は、艦の軽量化を目論んだ際の副産物に過ぎません。

 ですので、彼女らの本質は「巡洋艦」ではなく、紛うことなき「戦艦」なのです。

 もちろん、実力的には「戦艦」などと名乗れるシロモノではないのですが。

 とはいえ、ドイッチュランド級が史実で上げた戦果を考慮すると、ドイツ海軍が真に欲していたのはアドミラル=ヒッパー級ではなくこちらのほうなのでは、と考えたりもします。

 ただドイッチュランド級も、アドミラル=ヒッパー級と同様、重厚な砲塔防御と比較して船体防御に難点を抱えています。

 耐久力に丸数字を持たないため、実戦では追加損害の発生を恐れる(海戦を避ける)展開になるでしょう。

 そんな先達たちの難点を払拭するように、ドイツ海軍はドイッチュランド級を発展させたP級装甲艦とO級巡洋戦艦の設計を進めて行きます。

 このうちのP級装甲艦が本作に登場するビュロー級です。

 攻撃力自体はドイッチュランド級とほとんど同じですが、速力と防御力を拡大したことによって2万トンを越える排水量を持つに至っています。

 ドイッチュランド級を上回る8という耐久力とスピードレベルの丸数字は、8インチ砲艦以下からの砲撃に耐えて遊撃戦を展開するのに適した性能だと言えます。

 このビュロー級を拡大発展させたのがO級巡洋戦艦ことデアフリンガー級です。

 こちらは他国の大型巡洋艦に相当する艦でありますが、ライバルたちがおおむね12インチ砲を搭載しているのと比べ、ビスマルク級と同じ15インチ砲を連装3基6門搭載しています(対艦火力12)。

 これらの艦が、それなりに有力であることは疑いないでしょう。

 少なくとも、条約型巡洋艦で対抗できる艦ではありません。

 ただ、強力な日本海軍を相手にインド洋の制海権を争うような戦いでどれだけ役に立つかは、まったくの未知数です。

 彼女らは、もともとイギリスとの戦争をベースに設計された艦でありますので、戦略環境が完全に異なる本作のような状況では実力を発揮できないものと考えます。

 遊撃戦であれば強力な彼女らであっても、ガチの戦艦が押し出してくるような艦隊戦においては非力感が拭えません。

 耐久力が丸数字でないことが、決定的な弱みになると予想されます。

 続いて、そんなドイツと同盟関係(いや従属関係か)にあるフランス海軍について語ります。

 こちらの重巡もまた、ドイツ海軍と同じく「他国が作ってるからとりあえず」的な思考で建造された艦です。

 その上、「条約型重巡とはなんぞや?」が固まっていない時期の設計なので、隠しきれない手探り感が漂います。

 第一陣であるデュケーヌ級など、ほぼ無防備な船体(耐久力1)に8インチ砲を連装4基8門搭載した「ハンマーを持った卵の殻」なので、とてもではありませんが艦隊戦に投入できるシロモノではありません。

 次級であるシュフラン級は防御面での進歩が見られるものの、それでも汎用軽巡と同等レベルの対弾性能(耐久力2)しか持っておらず、1万トン級巡洋艦としては弱体艦と見られてもしかたありません。

 そんな紆余曲折を経てフランス海軍が辿り着いた正解がアルジェリー級です。

 彼女は砲撃力こそ平凡な条約型重巡ですが、砲撃力と耐久力が丸数字となっているとおり、合衆国の条約型を上回る重防御艦(耐久力5)として誕生しています。

 そのアルジェリー級の発展型として建造されたのがサン=ルイ級です。

 ボルチモア級と同じく対8インチ砲装甲(耐久力6)を施された同級は、対艦火力・耐久力・スピードレベルのすべてが丸数字となっており、およそ隙のない防御性能となっています。

 ただ、新鋭巡洋艦としては、登場時点での旧式化は否めません。

 少なくとも、ロサンゼルス級や伊吹型などと撃ち合うには、対艦火力の相対的な非力(サン=ルイ級:3 ロサンゼルス級:7 伊吹型:8)が問題となってくるでしょう。

 さて、次に控えしはドイツにとってもうひとつの同盟国であるイタリアです。

 面白いことに、イタリア海軍には「重巡洋艦」としての設計思想はありませんでした。

 彼らにあったのは、8インチ砲を搭載した「軽巡洋艦」と8インチ砲を搭載した「装甲巡洋艦」という思想です。

 軍縮条約による裁定が、その両者を「重巡洋艦」としてしまっただけの話です。

 このうち、8インチ砲を搭載した「軽巡洋艦」がトレント級とその準同型艦であるボルツァーノ級です。

 彼女らは古鷹型やアルバート=S=ジョンストン級と同じく「強力な軽巡洋艦」として建造されましたが、同時に英仏の条約型重巡に対抗することも求められたため、相応の防御力も与えられました。

 日米の条約型重巡と比較すれば軽防御(耐久力2)ではありますが、スピードレベルが丸数字であるので耐久力が0になっても沈没せず、速度の優勢(スピードレベル8)も相まって逃げ出す機会を多く持つ艦でもあります。

 そんな彼女らと異なる運用思想で設計されたのが、条約型としては比類なき重防御艦であるザラ級、およびその拡大改良形であるヴェネツィア級です。

 仮想敵であるシュフラン級を撃破できる艦として建造されたザラ級は、合衆国の条約型重巡と同じく雷装を全廃することと引き替えに、それらを上回る丸数字の耐久力6を、彼女をさらに発展させたヴェネツィア級では雷撃力を復活させつつ、ロサンゼルス級をも上回る耐久力8を獲得しました。

 ただ、その耐久力も、ボルチモア級など条約明けの新鋭艦と撃ち合う場合、アルジェリー級やサン=ルイ級と同様、対艦火力の不足により数値ほどの優勢は得られないものと思われます。

(例:ボルチモア級がヴェネツィア級の耐久力を0にするためには、平均で8÷(5÷6)=9.6ラウンドかかる一方、ヴェネツィア級がボルチモア級の耐久力を0にするためには、平均で6÷(4÷6)=9ラウンドかかる計算になります)

 総じて仏伊の重巡は、条約型はともかく条約明けの新鋭艦であっても、やや凡庸な性能の艦ばかりと言っていいでしょう。

 そんな彼女らに劣るとも勝らないのが、イギリス海軍の重巡たちです。

 条約型の第一陣であるカウンティ級=ケント級/ロンドン級/ノーフォーク級ですが、巡洋艦という艦種に個艦戦闘力を求めないイギリス海軍の思想に基づき、第一次大戦型軽巡洋艦の主砲を8インチ砲にして大型化した、良く言えば堅実な、悪く言えば旧弊な艦として纏められています。

 そのため、砲撃力も防御力も他国の条約型と比較して弱体ではあるのですが、それと引き替えに優れた脚の長さ(航続距離15)を獲得しています。

 個艦戦闘力の劣位は数で補えばいいという思想(戦争は数だよ、兄貴)の正しさはたびたび登場するラプラタ沖海戦でも立証されており、それよりも必要な時必要な数でどこにでも駆けつけられる能力を巡洋艦に求めたイギリス海軍らしい艦だと言っていいかもしれません。

 ただその建造費用の高さは当時問題となっており、カウンティ級より主砲塔を減らすことで排水量を削った安価な重巡を目指しヨーク級の建造に至っています。

 航続距離こそ若干譲ったもののヨーク級の防御力はカウンティ級を上回っており(カウンティ級:2 ヨーク級:3)、対艦火力の減少がデータ上では発生しなかったため、(本作においては、ですが)彼女らの方が数値的には有力な艦となっています。

 技術と経験の進歩という奴ですね。

 しかしながら、イギリス海軍の重巡はこのヨーク級を最後に系譜を断たれます。

 巡洋艦に質より量を求めるイギリス海軍にとって、比較的高価な重巡を新たに建造するより、より安価な大型軽巡をより多く整備する方が理に適っていたからです。

 高性能な重巡を2隻建造するくらいなら平凡な大型軽巡を3隻作った方が高効率だと、世界中に植民地を持つイギリスは判断したんですね。

 このため、仏伊と同じくイギリス海軍の重巡も、極めて凡庸な性能の艦ばかりとなっています。

 日米がやらかしたような巡洋艦の性能レースに参加しなかったからです。

 そんなことより、七つの海で運用できる航洋性(合衆国の条約型は、これがダメ)や長期航海に支障を及ぼさない居住性(日本の条約型は、これがダメ)の方がよほど大事であると彼らは思っていたのです。

 ゲームのデータには現れませんが、条約によって制限の掛かったリソースをそうした面に配分するのも、それはそれで正解のひとつと見ていいと思います。

 もっともそういう流れは、本作におけるイギリスが本土を失うような大敗北を喫していたからであって、もしシチュエーションが異なれば、サーリ級を越える新鋭重巡(史実の40年度設計重巡ですね)を建造したかも知れません。

 もしくはクルーザーキラーとして、史実のヴァンガード級のごとき旧式艦の主砲を流用した巡洋戦艦の量産に走ったか。

 そのあたりは、本作の世界線であっても、なかなか興味深い考察ができるのではないでしょうか。


PS.ドイッチュラント級とザラ級&ヴェネツィア級は戦艦の計算式で作成してあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも大変楽しく読ませて頂いております。 RSBC世界に踏み込む前、史実での各国重巡はつまりこういうことですねw 米国:同格以下の相手ならタコ殴り(弱い者いじめ) 日本:壮絶に戦闘力が…
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