航空母艦総評
航空母艦の建造技術に関しては、データを見る限り、合衆国>イギリス>日本>それ以外という評価が揺るぎません。
それを象徴しているのが、やはりエセックス級の完成された設計でしょう。
ここでは、巷で言われる開放型格納庫の是非については語りません。
あれは日本海や北大西洋など荒れた海での運用を考えてなかった故の採用ですんで、平時の航空機運用を考えたら、なかなか選択することはできません。
基本的に海軍というものは貧乏です。
事故や悪天候などでせっかくの艦載機を消耗する事態は、心底避けたいものなのです。
開放型格納庫は確かに多くの利点を持ちますが、その反面、荒天時に風雨が格納庫を襲うケースが発生します。
史実では、コブラ台風に襲われた米艦隊が甚大な損失を被りました。
戦時でなければ、大問題になったでしょう。
なので、空母設計について優劣を語るなら、格納庫配置の是非ではなく、まずもって甲板面積の大小を見るべきだと思います。
そうやって視点を定めると、改めて合衆国空母の設計思想が見えてくるんですよ。
つまりはですね、日英の空母が、あくまで「航空機という兵装を使用する巡洋艦」であるのに対し、合衆国の空母が「洋上を移動する飛行場」であるって部分です。
これは日英の空母艦載機の攻撃主体が雷撃機である一方で、合衆国空母の攻撃主体が(偵察機を兼ねた)急降下爆撃機であることがその証左となっています。
よくカタパルトの採用を評価されることの多い合衆国空母ですが、それより評価されるべきは航空甲板の幅だと思われます。
日本の空母が「船」としての能力を第一として設計されている一方で、合衆国空母とアークロイヤル級以降のイギリス空母は、速力面で不利なことを承知の上で(イギリスの場合、建造ドックの絡みも大きいのですが)幅広の船体を採用しています。
これによって、一度に発進できる航空機の数を大きくすることができたわけなんですね。
航空甲板の幅を広く採れば、横に並べられる艦載機の数が増えます。
なので、滑走距離が同一であれば、航空甲板上で出撃準備できる艦載機の数が増加するという具合になります。
合衆国の場合、艦載機が大きく翼を折りたためる仕様になっているので、この効果はさらに上乗せされます。
要するに、日本の空母が攻撃隊を第一次・第二次に分けなければならなかったケースであっても、合衆国空母なら一回の発進で済ませられるケースが増えるというわけなのです。
こうした内容を加味し、合衆国空母の航空機運用能力は他国のそれよりも高い評価を与えてあります。
具体的には、日本の蒼龍型~海龍型(史実の雲龍型)が定数として艦載機3ユニットを搭載する一方で、エセックス級は定数として倍の6ユニットを搭載しています。
これは史実の航空機搭載数を越える比率となるのですが、航空機運用能力として見ると決して間違った評価ではないと考えています。
その一方、幅広の船体は(主に抵抗の関係から)高速発揮に不利なので、恐らくですが加速その他の機動性において米英の空母は若干の問題を発生させたのでは、と考えます。
これは敵弾回避を重視した日本海軍では、確実に忌避された事案でしょう。
純粋な「回避力」が落ちますので。
史実の合衆国空母が個艦による敵弾回避より対空火力による敵機の撃退を重視したのは、実のところ、このあたりが原因なのではないかと思ったりもします。
また、合衆国空母における設計上の特徴として、格納庫を船体内部に設けず、船体上部に乗せる形で設けたことが挙げられます。
彼の国の空母が史実の戦闘でタフだった原因のひとつが、ここにあります。
航空爆弾が飛行甲板を貫通した場合でも、それらはまず格納庫部分で炸裂しますので、船体のヴァイタルパートが直接被害を被る可能性が減るんですね。
船体内部に格納庫を持つ日英の空母では、こうはいきません。
格納庫内で炸裂した爆弾の被害、または格納庫で発生した誘爆の被害は、直接船体被害に拡大します。
ミッドウェーでの戦訓が、それを見事に物語っています(もっとも、250キロ爆弾2発の被弾で航行不能となったエセックス級「フランクリン」の事例もありますので、合衆国式設計も万全というわけにはいきませんが)。
従って、ヴァリー=フォージ級(史実のヨークタウン級)以降の合衆国空母には、耐久力に丸数字の評価を与えてあります。
これによって追加損害の可能性が減るので、航空爆撃(ルール上は砲撃に準じます)による損失は減少するものと思われます。
もちろん、日英の空母が特段軽防御というわけではありません。
むしろ、条約明けを目論んで建造された雲龍型(史実の翔鶴型)やアークロイヤル級などは重防御の範疇に含まれると思います。
ただ、その防御思想がどちらかというと砲雷撃に対するものに偏ってる気がするんですよね。
特にイギリスの場合、空母を水上打撃艦隊に編入するケースすら見られた(例:マタパン岬沖海戦)ので、そのあたりはもはや確信犯なのかとも思います。
その影響が航空爆弾に対する脆弱性(合衆国空母と比べて、ですが)を惹起して、日英空母の重装化を推し進めたんじゃないかと考えたりします。
そうした設計思想を評価して、日英の重装空母にも耐久力に丸数字を与えてあります。
史実における「大鳳」の損失を見て日本の重装空母設計を低く捉える向きもありますけど、潜水艦からの雷撃を受けながらも気化したガソリンが誘爆するまで艦の機能にさほどの問題を生じさせなかった「大鳳」の防御力は、やはり高く設定する必要があると思います。
なお、これら3国と比較すると、それ以外の空母はいささか迷走気味に映ります。
ドイツ空母なんかは巡洋艦並みの砲撃力を備えていますし、それらを参考にしたアメリカ連合国の空母(ソ連の計画空母を元ネタにしてあります)もやはり同様の装備を調えています。
艦隊防空用に割り切ったイタリアの改装空母はともかくとして、これらの空母は保有した海軍が「航空母艦とはなんぞや?」を深く考えず、ただただ相手が持っているからという理由だけで建造したニオイがプンプンするわけです。
史実でドイツが計画していた大西洋作戦用大型航空巡洋艦(ヘルマン=ゲーリング級の元ネタ)に至っては、空母のくせにポケット戦艦と同じ11インチ砲6門という重火力を搭載しています。
本気で空母に水上戦をさせるつもりだったのでしょうか?
好意的な評価をするなら「通商破壊戦を行うため」とも取れるのでしょうが、正直とてもそうとは思えません。
やはり海軍上層部が「なんとなく強そうだから」を理由に砲装備を持たせたような気がしてならないんですよね。
設計思想が空母黎明期と変わらないってのは、これらの海軍が空母先進国である日本、イギリス、合衆国と比べて問題あるという証左ではないかと思っています。




