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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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91.長蛇作戦 攻略計画立案

二二〇三年一月一日 一八四六 OTU 城壁


小和泉が死を覚悟する約二時間前、831小隊では東條寺が動き始めていた。

「鹿賀山少佐、よろしいでしょうか。」

「どうした、東條寺少尉。」

「攻略戦について、進言があります。」

「聞こうか。」

「戦術ネットワークに計画案をアップロードしております。ご確認いただけますか。」

「わかった。しばし待て。」

鹿賀山は、そう言うと複合装甲に装着されている端末を操作し、計画案を網膜モニターに投影した。

理路整然と書かれた計画案を黙々と読み込んでいく。単純で分かりやすい計画だった。

鹿賀山は、計画の可能性をじっくりと考えた。知識として、実行可能であることは理解した。

だが、現実としては、この様な条件が揃えられるかが問題だった。

「計画案は読ませてもらった。地下都市の特長を活かした計画だと言える。だが、実行は可能なのか。その根拠は何か。」

解らぬことは、考えた本人に聞くことが一番だ。その本人が目の前に居るのだ。聞かない方がおかしいであろう。

「はい。イワクラムによる無限に近い電力をKYTは保持しており、即座に生産が可能です。また、KYTとOTUは非常に近距離であり、長蛇トンネルを使用すれば、十数分で到着でき、特殊な運搬車両は必要ありません。」

「なるほど、材料と運用は問題無い訳か。だが、結果が出るまで、時間がかかり過ぎるのではないか。」

「御指摘通り、約十二時間を想定しています。しかし、その間、こちらの損害はでません。このまま無策で待機しているよりは、前向きかと考えます。」

鹿賀山は、東條寺の瞳をヘルメットのバイザー越しに見つめる。

その瞳には淀みは無く、伊達や酔狂で考えた物ではなく、本気で考えた計画であると訴えていた。

「わかった。上申をしておこう。菱村少佐が承認するかは別だ。」

「上申して頂けるだけでも、本官はうれしくあります。」

「正直なところ、私はこの作戦には懐疑的だ。あまり期待するな。」

「よろしくお願い致します。」

東條寺は、お手本の様な敬礼を鹿賀山に向けた。


二二〇三年一月一日 一八五五 OTU 城壁


第八大隊の大半は、地下都市OTUの城壁に待機していた。

照明作戦により、今のところ敵の攻撃は止まり、損害は出ていなかった。

831小隊の通信機に大隊司令部からの無線が入った。

「こちら第八大隊司令部、831小隊応答せよ。」

「こちら831副長の東條寺。通信良好。」

その無線に副長である東條寺が応じた。

「確認した。鹿賀山少佐及び東條寺少尉へ一九一〇列席依頼。O2計画案について説明を乞う。」

東條寺が提出した物にO2計画案という名称がつけられた様だ。

「これは命令ではなく依頼か。」

「依頼で間違いない。拒否できる。」

「しばし、待たれたし。」

「了解。」

東條寺は鹿賀山に視線を送った。隣で聞いていた鹿賀山は、静かに頷く。

「一九一〇、両名とも列席する。」

「一九一〇両名列席、了解。通信以上。」

通信は切れた。

「出頭命令ではなく、列席依頼か。同階級ゆえの配慮だろうか。菱村少佐の考えではなく、副長あたりの考えか。」

今まで静かに無線に耳を傾けていた鹿賀山が呟く。

「そうですね。菱村少佐は言葉を選びませんから。」

同じ分隊である舞と愛が、無線内容に興味津々の視線を送ってくる。だが、現状では、実施されるかどうかも分からない計画を二人に説明する必要は無い。

鹿賀山は、愛と舞の好奇心に気付かないふりをした。

「さて、留守居役は小和泉だな。呼び出してくれ。」

「了解しました。」

鹿賀山の意図を汲んだ東條寺は、簡潔に返答した。


東條寺は、小和泉への直通無線を呼び出すが、応答は無かった。

東條寺の脳裏に小和泉の死体が浮かび、即座に小和泉の生体モニターを確認した。

生態モニターは緑色、つまり無傷を表していた。

心拍数、血圧も正常値を示し、外壁上部に居る事はわかった。

実際は、桔梗が仕掛けたダミーデータであり、小和泉本人は、鹿賀山達の足の下である地下深くに居た。

「少佐。小和泉大尉が無線に出ません。生体モニターは健在です。」

東條寺は、現状を鹿賀山に報告する。

「ならば、桔梗准尉を呼び出せ。」

「了解。こちら8311。8312応答せよ。」

東條寺は、無線を8312分隊へ切り替えた。

「こちら8312。通信良好です。」

無線からは、落ち着いた若い女性の声が聞こえた。東條寺には、その聞き慣れた声が桔梗であることがすぐに分かった。

―はぁ。小和泉の部屋に出入りする様になって、桔梗とも仲良くなったから、声だけで、すぐに分かるのよね。え、桔梗『とも』。『とも』って何よ。桔梗『と』でしょう。クズウミとは仲良くなっていない。―

一瞬の躊躇いの後、東條寺は何事も無かったかの様に振る舞った。

「桔梗准尉、小和泉大尉は何処か。連絡が取れない。状況を説明せよ。」

「錬太郎様は、失礼。大尉は、斥候に出ておられ、無線封鎖をされておられます。」

―錬太郎様か…。私が相手だから、いつもの癖が出たのかな。―

東條寺は、仕事中であることを思い出し、我に返った。

「小隊司令部には、連絡は来ていない。」

「申し訳ありません。大尉の独断かと思われます。」

桔梗の申し訳無そうな声が無線から届いた。


―クズウミの悪い癖が出たのね。あの馬鹿。殺されるわよ。―

東條寺が心の中で小和泉へ悪態をついた。

「また、あいつは勝手に行動をしているのか。相変わらず、落ち着きが無い奴だ。連絡がつき次第、部隊に戻れと伝えろ。俺と東條寺少尉は、一九二〇に大隊司令部へ行く。その間、桔梗准尉が小隊司令代行だ。小和泉が戻れば、変われば良い。」

鹿賀山が、呆れた口調で無線に割り込んだ。

「お言葉ですが、次席は井守准尉になります。本官でよろしいのでしょうか。」

桔梗は、返ってくる言葉を知りつつも建前を言った。既に小休止の時に、副隊長代理をしている。

「貴官の言う通り、井守准尉が先任であることは承知している。だが、従軍経験と能力を考えた上での命令である。」

井守が先に准尉となり、桔梗が後から准尉となった。これは、831小隊の者ならば全員知っている。そして、井守の士官適正が低い事も同時に知られていた。

日本軍の慣行通りに先任である井守を代行に選べば、兵士達から不安の声が小隊司令部に上がって来るだろう。大切な部下を守るには、信頼できる者に託すしかない。

どうしても決断力や判断力が勝る桔梗准尉を選択するしかなかった。

もっとも井守が代行を命令されても固辞し、桔梗を推すことは間違いなかった。

この点に鹿賀山は、考えが及ばななかった。小心者の思考が読める程、人生経験を積んではいなかった。

「御命令であれば、拝命致します。831小隊小隊長代行、完遂させて頂きます。」

「そこまで硬くならなくても良い。会議の間だけだ。深く考えるな。」

「了解致しました。お早いお帰りを。」

「うむ、そうしよう。」

そう言うと鹿賀山は無線を切った。

この時、鹿賀山達は、すぐに帰隊できるものであると軽く考えていた。

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