表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/336

81.長蛇作戦 潜入

二二〇三年一月一日 一四四四 OTU


明かり一つ無い真っ暗な平野部を814小隊は、静かにOTUと仮称された砦へと忍び寄っていた。

814小隊の隠密行動は、理想的だった。視界が効かない暗闇にも関わらず、迷彩の為に複合装甲や野戦服を足元の埃や土で汚した。標的が使用している松明のあかりでは、判別ができないと思える偽装ぶりだった。

814小隊は、組み立て式の梯子を装備品に加え、長蛇トンネルを出発した。砦へ直線上に向かえば、すぐに辿り着く距離ではあった。

だが、慎重を期し、平野部とはいえども、わずかに存在する窪地や岩場を利用し、身を隠しながら慎重に歩みを進めていった。

その為、真っ直ぐに城壁を向かうよりも数倍の時間がかかったが、誰も当然だと考え、咎める者はいなかった。

814小隊は標的に見つかる事無く、城壁の際まで迫り停止した。標的に察知された形跡は無い様だ。砦の内部は、相変わらず静寂を保っており、慌ただしさや緊張を感じることは無かった。

一個分隊が梯子を組み立て固定すると、別の一個分隊が軽やかに梯子を登った。アサルトライフルをゆっくりと城壁内に差し込み、状況を確認する。

この様子は、長蛇トンネルの出口に設置された望遠カメラより中隊長級は、リアルタイムにて814小隊の偵察の状況を網膜投影していた。音声は無い。画像データだけだ。

―ここまで、敵に動きは無しか。―

桔梗の指示で菜花に起こされた小和泉は、桔梗が入れてくれたコーヒーを味わいながら、偵察の状況を見物していた。

―多分、僕にお呼びがかかる様な気がするんだよな。悪い予感は、外れないからなぁ。面倒だなぁ。―

小和泉は、そう思いつつ、814小隊の動きを見つめて続けていた。


8142分隊は、安全を確認し城壁の上に立った。

城壁は、幅二メートル程の通路が走り、外側には申し訳ない程度の手すりが廻らされ、内側は一面のセラミックスの壁が洞窟の天井までそびえていた。

窓や扉らしき物は、この近辺には無い様だった。周囲を照らす為の松明がポツリポツリと城壁に掲げられていた。

その松明の明かりは、貧弱で周囲にたくさんの深い闇を残していた。

木材や油が貴重品なのかもしれなかった。その為、松明の数が極端に少ないのかもしれない。

8142分隊は、闇を選び、そして潜み、膝撃ち姿勢でアサルトライフルを構え、標的との接触を警戒した。

兵士達は、何かしらの気配を感じようと気を配るが、感触は無かった。温感測定の反応も松明だけだった。

分隊長は、城壁の外へと腕を伸ばし、地上の待機部隊へハンドサインを送った。

分隊長は、すぐに味方が梯子を登ってくる気配を感じた。味方が城壁に上がる動作による標的の新たな反応に警戒を続けた。しかし、標的からの反応は何も無かった。

相変わらず、静寂と深い闇が地下空洞を支配している。

城壁に集合した814小隊の小隊長が、ハンドサインで分隊の進行方向を示す。指示に従い小隊は、二つに分かれて静かに動き出した。一つは城壁の左側へ、もう一つは城壁の右側へと松明が照らす範囲を避ける様に静かに闇の中を中腰で走りだした。

小隊長は、8141と8142と司令分隊の三個分隊を率いて左側へと隊を進めた。

都市内部に人の気配があるとブリーフィングでは聞いていたが、実際に城壁の上を歩くと巨大な墓石にしか見えなかった。

全く生き物の気配を感じない。いや生活感が無いと言うべきだろうか。


小隊長達が三百メートル進んだ時に、バイタルモニターに異変が生じた。

城壁の右側へと進んだ8144分隊にブラックサインが二つ点いた。つまり、兵士二名が死亡したことを表していた。

無線封鎖をしていたことが仇になった。状況が分からぬまま、貴重な兵士を二名失った。

「無線封鎖解除。総員8144分隊へ救援に戻る。走れ。」

小隊長の命令と同時に今来た道を一斉に引き返す。走っている間にもまた一つブラックサインが点灯した。


小隊が再集結した場所には、複合装甲を着ていない促成種三人の死体が横たわっていた。

「8141と8142は、周辺警戒。8143は状況を説明。司令分隊は、状況を調査。急げ。敵は近いぞ。」

小隊長の声に焦りが混じる。小隊長の各種センサーには、兵士以外の反応は無かった。

完全に油断をしていた。些細な油断により大切な部下を三人も失ってしまった。

小隊長は、自分自身に怒りを感じていた。しかし、今も敵は近くに潜んでいる。無理にでも落ち着かなければならなかった。

小隊長が斃された兵士を見ると、三人は血だまりの中に沈んでいた。鮮血は、通路に溜まっていた埃と混じり合い、黒ずみ小さな池の様だった。

「隊長、三人共、喉を真一文字に掻き切られています。恐らく背後からの一撃です。抵抗の後はありません。」

副小隊長が第一報を上げてきた。

「古参兵三人が無抵抗だと。そんな筈は無い。いや、現実を見よう。敵は手強い。分散は止めだ。小隊単位で動く。他は。」

「まず、二人が同時に斃され、それに気づいた一人が振り返り、屈み込んだ処を斃されたと思われます。」

「8144で生き残ったのは誰だ。」

「分隊長です。」

「彼女は、何も見ていないかの。」

「三人目の背後を固めていた為、見ていないそうです。音も無かったそうです。」

「何も分からずか。」

「判っているのは鋭利な刃物と体術に優れていることでしょうか。後、埃の上に足跡が残っておりますが、その…。」

「報告は明確にせよ。」

「はい、素足であることは間違いありませんが、人間とも月人とも違う様です。」

「どう違うのだ。」

「足の指が、手の指に置き換えた様に非常に長いです。その為、足跡だけで四十センチはあります。恐らく二体分はあるかと。足跡を辿ると城壁の中に続いておりますが、扉が見当たりません。恐らく隠し扉の類があるのでしょう。こちらから開ける方法を調査中です。」

「つまり、何もないと見える壁には隠し扉があり、いつでも我々の背後を襲えるわけか。」

「場合によると通路の床にも隠し扉がある可能性も考えられます。」

「わかった。状況を大隊司令部へ報告。新しい命令を待つ。それまで、隠し扉を開く方法を見つけろ。」

「了解。実行します。」

小隊長は、思わず自分の拳を掌に打ち付け、部下を失った悔しさを吐き出した。

―標的は、敵に変わった。必ず皆殺しにしてやる。―

小隊長の目に暗い炎が灯った。


二二〇三年一月一日 一五一六 長蛇トンネル


「隊長、814小隊より報告です。戦術ネットワークの司令部専用フォルダに上げました。ご確認下さい。」

第八大隊の副長は、参謀達がまとめた資料を菱村に提出した。菱村は、データを呼び出し、一言一句を吟味した。

「やれやれ。未知との遭遇が悲劇で始まったか。鹿賀山の悲観主義の通りになっちまったな。」

菱村の声には、悲しみや怒りの感情は、一切のっていなかった。平坦な言葉の羅列だった。

だが、副長以下部下達は知っている。菱村は、怒りや悲嘆が大きい程、表に感情を出さないことを。

「痛恨の極みです。参謀連の引き締めができなかった本官の責任です。」

副長が唇を強く噛み締めながら答えた。副長もまた現実にそして己に怒りを向けていた。

だれも814小隊の小隊長に責任があるとは、考えていなかった。

「で、今後の計画はどうなんでぇ。」

「はい。814小隊は橋頭保を確保。そこから大隊全体による侵攻をかけます。攻撃は、無制限。友軍以外は、即座に排除します。」

「副長にしては珍しいじゃねえか。単純なSearch and Destroyを選択するなんてな。」

「私も怒りに身を任せることがあります。特に今回は、私が推薦した小隊からの損害です。敵を許すわけにはいきません。」

「まぁ、今回はそれしかないだろう。敵がどんな生き物か判らん。規模も判らん。近代兵器と数の暴力で圧倒するか。」

「はい、第八大隊の恐怖を叩き込みます。」

珍しく副長の感情は昂っていた。

「わかった。全隊、総攻撃用意。副長、指揮は任せる。」

「了解。状況開始だ。」

副長は、即座に参謀連に作戦開始を命令した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ