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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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77.長蛇作戦 第八大隊出陣

二二〇三年一月一日 一〇〇〇 KYT 第八大隊ハンガー


菱村は、予定取り第八大隊を一ヶ月で立ち上げることに成功していた。

先の戦闘により一階層が廃墟となったばかりで、演習場に困ることは無かった。

その階層には、月人の侵入部分に強固な防御施設が建設され、その周辺には兵舎や整備工場等が付属し、日本軍の防衛拠点が新しく生まれた。

この階層から、拠点以外の再資源化できる物は回収されたが、ほぼ廃墟のまま放置されていた。

ゆえに第八大隊が月人の遭遇の心配をせず、濃厚で緊密な演習が可能となった。

もしも地表で行えば、いつ遭遇するか分からぬ月人を警戒しつつの演習では、集中力が散漫となり、効率的で濃密な殺人的演習課程を組めなかったであろう。

第八大隊は、定数の半分に過ぎない。だが、他の大隊と比べ兵士の練度及び士気の高さは、日本軍の中で最高峰であろうと菱村は自負していた。それも今回の殺人的演習課程を完遂できた為だ。

だが、兵士達の疲労は、完全に抜けている。本番に向けて疲労が残らぬ様に調節はしており、その匙加減に副長は頭と腹を傷め、頭痛薬と胃薬が手放せくなっていた。

逆に他の大隊は、前回の戦闘の影響により、新兵や他部隊を吸収した為に練度が落ちてしまったとも言える。


そして第八大隊のハンガーに全員が整列し、その前の檀上に菱村少佐と副長が立っていた。

第八大隊の陣容は、次の通りだった。

大隊長は、菱村少佐。

副大隊長及び参謀八名。装甲車一両。

81中隊は、九十名。装甲車五両。

82中隊は、九十名。装甲車五両。

831小隊は、8311分隊に、小隊長として鹿賀山少佐がつき、東條寺少尉、舞曹長、愛兵長の四名。

8312分隊には、副小隊長として小和泉大尉、桔梗准尉、菜花兵曹長、鈴蘭上等兵の四名。

8313分隊には、井守准尉、オウジャ軍曹、カワズ二等兵、クジ二等兵の四名。

装甲車は二両配備され、8311と8313分隊が一両に同乗し、装甲車の定員は十名であったが、8312分隊は一両を独占し、余剰スペースには予備の糧食等を搭載していた。

そして行軍には同行しないが、ハンガーに待機する整備分隊は、整備兵三十二名。

総数二百三十四名。車両十三両。

以上が第八大隊の全容だった。


行軍の陣容も必然的に決まった。半個大隊では、展開できる陣も限られている。

前衛81中隊、中衛司令部と護衛として831小隊、後衛82中隊で行軍することになった。後は前衛の消耗率により後衛と入れ替える予定だった。

今回の作戦地区である細長いトンネルでは、この長蛇の陣しかとれないと言った方が正しいのかもしれない。

そして、まもなく第八大隊の初陣が始まる。

菱村は第八大隊の兵士達の顔を一人一人見ていった。そこには強者どもが揃い、新兵はいない。

童貞軍人もいない。何かしらの戦火をくぐり抜けてきた男女達だった。

その鋭い目つきと姿勢の良さに菱村は、演習が十分であったことに満足した。

そして、831小隊に目が行き、小和泉の顔で視線が止まった。菱村の視線が少し揺れ、すぐに小和泉へと戻り、思わせぶりに口許だけを笑わせた。

―おやっさん。何が言いたいのかな。また、鉄狼の矢面に立たされるのは、判り切っている。はて、何かしただろうか。―

小和泉は、菱村の笑みをはかりかねた。

「今まで、副長のサディスティックな訓練によく耐えてくれた。

この大隊は、定数に満たない半個大隊だが、俺は一個大隊に相当する精鋭だと今確信した。

どの戦場でも生き残る兵士になれ。以上だ。副長、任せる。」

菱村は、壇上から檄を飛ばすと副長に任せた。


「では、作戦を説明する。一ヶ月前に月人が侵入してきたと思われる水路およびトンネルを調査する。今回は、水路の上流を目指す。トンネルを装甲車にて進軍し、適宜水路を調査。どこに続いているかを知ることが目的である。

まだ誰も調査に行っていない未踏の地である。

戦力の立て直しが優先され、攻勢に出ることができなかった為である。現在は防御陣地が構築され、近づく月人を撃退している状況である。

現在のところ、月人は下流方向より時折現出しており、上流方向からの現出は確認されていない。

だが、確認されていないだけで存在しないという証拠にはならない。各自、気を弛めるな。」

副長が兵士達を一瞥する。全員理解している様だった。話を続けた。

「調査期間および距離だが、糧秣が持つまで進攻する。

状況によって、総司令部より補給が届けられる可能性もある。その場合は、期間が延長される。

補給が無い場合は、大隊司令部の判断により撤退が決定される。

次に戦区の状況を説明する。

トンネルは、装甲車一台が走ることが出来る。断面は半円形をしており半径は二メートルである。材質は、すべてコンクリート製である。要所要所で水路と連絡通路があり、平行に建設されている事は分かっている。ちなみに照明は無い。灯火管制をしき、暗視装置にて進軍する。

水路の方であるが、こちらは断面が真円をしていると予測される。直径は五メートルで足場は一切無い。予測というのは、水が砂や泥により茶色く濁っており水中を見通すことができない。

水中カメラも入れたそうだが、視界はゼロに等しいとの事だ。ちなみに生物は確認されていない。

水の流れは穏やかであるが、誤って落ちた場合、複合装甲の重みで浮かぶことはできない。ゆえに救助することはできない。十分に注意されたし。」

兵士達は無言で副長の説明を真剣に聞き入る。自分達の命を左右する重要な情報だ。茶化す様なセリフを吐く馬鹿は居ない。

「トンネル内の空気について、説明をする。水路の水から放射線が発せられているが、粉塵は舞っていないことが地表と違う点だ。最悪、空気清浄機が故障した場合、直接呼吸を許可する。ただし、この場合、一日一回、放射性物質排出剤の服用を義務付ける。これにより体内被曝を最小限度に抑えられるはずだ。

これらは、防御施設周辺の調査のみの為、あくまでも参考程度に考えた方が良い。奥に進めば状況は変わる可能性が高い。なお、作戦名は長蛇作戦である。質問等は、直属の上官を通せ。」

副長が菱村へと振り返った

「大隊長、説明終わりました。」

「はい、ご苦労さん。野郎共。乗車。進軍準備だ。」

菱村の号令を聞くと同時に一糸乱れぬ敬礼をし、己が乗るべき装甲車へと兵士達は走って行った。

菱村も副長を連れ、装甲車に乗り込んだ。


小和泉達も自分達の装甲車へと乗り込んだ。今まで乗っていた特科隊仕様の装甲車は、特科隊のハンガーに置いてきた。日本軍標準仕様の六輪装甲車が支給されていた。

追加装備も無く、特科隊に配属される前の懐かしい装甲車だった。違うのは新車であることだった。車内には、まだ汗や血の匂いが染みついていない。だが、それも時間の問題だろう。長蛇作戦が始まれば、風呂に入ることは無く、車内に体臭や汗が染みついていくのは間違いなかった。

「さて、みんな着席したかな。」

小和泉は、後部座席の左側に座り、8312分隊の部下に声をかけた。

「機関正常。発進準備完了。」

運転席から管制官の様に返す鈴蘭。

「機銃動作問題無し。いけっるス。」

後席右側の装甲車の屋根に取り付けられた機銃を操作する機銃席からは、いつでも元気な菜花が返事をする。

「装甲車の高電圧障壁及び気密を確認しました。問題ありません。」

助手席からは、常に冷静沈着な桔梗が応答する。

「このメンバーだけなのは、久しぶりだね。僕達は問題無いだろうけど、鹿賀山はちゃんとできるかな。」

小和泉は、元の分隊メンバーに戻ったのが嬉しいのか声が弾んでいた。

「鹿賀山少佐達には、8313分隊が援護につきます。問題無いでしょう。」

「8313分隊の井守准尉って、初陣でラリらせた奴っしょ。大丈夫っすか。」

「さすがに、あれから場数を踏んでいるから大丈夫だろうね。演習でも問題無く動けていたよ。」

「鹿賀山少佐、野戦向いてない。」

「そうだよね。鈴蘭もそう見えたよね。」

「東條寺少尉が意外に良い動きをしていました。あと、舞と愛がおりますので白兵戦では微力かもしれませんが、知恵で弱点をカバーする分隊になるかと思われます。」

「じゃあ、僕の分隊は、力押し部隊に聞こえるじゃないか。」

「正当評価。」

「あってるんじゃね。」

「間違いではありません。」

いつかの様に三人より異口同音が発せられる。

「うん、この感じ懐かしいね。では、新生8312分隊。行ってみようか。」

『了解』

三人の声が調和した。

そして、第八大隊は未踏領域へと動き始めた。

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