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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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48.第二十四次防衛戦 誘爆

二二〇二年十一月十八日 〇七四五 KYT 深層部S区


三番ロケットの自爆による余波により、四番ロケットの安全装置が壊れ、誘爆する事態となった。

一度目の爆発では、大広間と大扉は耐えた。しかし、二度目の爆発も耐える保証は無い。逆に耐える事の方が難しいと誰もが考えていた。

いつ誘爆し、爆風と業火が己の身に襲い掛かるか、気が気でなかった。

「四番ロケット、停止信号受信。安全装置作動せず。」

「圧力上昇中。鈍化の気配無し。」

「薬剤廃棄を実施。」

「廃棄弁、開きません。」

「推進部と弾薬部を分離。」

「分離信号受信。駄目です。分離しません。接合部故障。」

舞と愛は、コンソールを必死に操作し、四番ロケットの誘爆を防ごうと努力していた。

第二分隊長である桔梗は、二人が最善を尽くしている事を理解していた為、口を出さず見守っていた。ここで口を出す方が、作業の邪魔になる判断した。

小和泉も口出さずにのんびりとコーヒーパックを啜っていた。小和泉にとって、ロケットの誘爆はどちらでも良い事だった。

爆発しようがしまいが、結果は大きく変わらないと考えていた。

「圧力上昇、止められません。」

「爆発臨界まもなくです。」

舞と愛の努力は、実を結ばなかった。


「こちら特科隊。菱村大尉、応答願います。」

小和泉は、無線で菱村を呼び出した。

「おう、菱村だ。で、どうなんだい。」

菱村は低く落ち着いた声だった。

「まもなく、誘爆します。秒読みはできませんので、耐爆防御をお願い致します。」

「そうだろうな。一度火が点けば、簡単には消せないだろう。わかった。帰月中隊、全員耐爆防御。いつ来るかわからんからな。油断するな。では、後でな。」

「了解。御無事を。」

小和泉は無線を切った。

「舞、爆発のタイミングは、やっぱり読めないよね。」

「申し訳ありません。予測できません。」

「仕方ないね。静かに待とうか。」

『了解。』

五人の声が重なった。

そして数十秒後。鉱山に二回目の大音響が広がり、全てが大きく揺れた。坑道が上下左右に揺れ、装甲車を大きく揺さぶる。装甲車の天井に石の欠片が降り注ぐ音が何度も何度も繰り返された。

外部モニターは、坑道に砂埃が舞う光景を捉えたが、爆風や業火は見えなかった。

どうやら、大広間と大扉は、二度目の爆発にも耐えきった様だった。

「発射台との信号途絶。発射台は破壊されたものと推定。爆発の規模から四番ロケットは誘爆したと判定します。これ以上の爆発の可能性はありません。」

舞は激しく揺れた装甲車の中でモニタリングを続けていた。

「特科隊、被害報告。」

「負傷者なし。」

「装甲車、損害無し。発射台消失。」

小和泉の命令に、桔梗と鈴蘭が即座に答える。

「うん、問題無しだね。では、殲滅戦用意。」

小和泉の殲滅戦の声で菜花が機銃を操作し、残りの四人が銃眼からアサルトライフルを突き出す。

鈴蘭は、装甲車の周囲の障害物を確認する。

「隊長。殲滅戦用意完了です。」

桔梗は、準備ができたことを小和泉へ知らせる。

「大扉前へ進出。そこで待機。」

「了解。装甲車、大扉前に進出し、待機します。」

鈴蘭は、小和泉の命令を復唱し即座に実行した。装甲車は坑道の落石を踏み越えながら、大扉の前へと進み、止まった。


二二〇二年十一月十八日 〇七五五 KYT 深層部S区


大扉の前に帰月中隊は、集結し大広間へ十字砲火を行う態勢を整えていた。

小和泉と菱村は、装甲車を降り、大扉の様子を直接確認していた。

「頑丈じゃねえか。歪み一つ無いな。」

菱村が扉の表面をなぞりながら、小和泉に話しかける。

「先程実施した探査では、大広間も一切崩れておりません。あと、生き物の存在は確認できませんでした。」

地中探査機での調査結果により、大広間は健在していることだけが分かった。中は無音で日本軍や月人の生き残りがいるか、確定情報は得られなかった。

そのことを小和泉は簡単に述べた。

「敵が居るか居ないか、分からんか。」

「扉開放と同時に撃ち込みましょう。死にぞこないが居る可能性があります。」

「確かに死んだふりは、質が悪い。不用意に踏み込んで損害は出したくないな。」

「あと、司令部があることを分かった上でロケットを自爆させたのです。味方であろうと証人は消すべきでしょう。」

「くくく。さすが狂犬だ。発想がらしくていいね。だが、俺も同意見だ。軍事法廷は勘弁だ。」

菱村は、小和泉の危険な考えに笑いながら同調した。しかし、目は一切笑っていない。冷たい視線が小和泉の瞳を貫く。小和泉の本心を少しでも読みとろうとしているかの様だった。

小和泉は、狂ってもいないし、混乱している訳でも無い。冷静に状況を判断し、帰月中隊に損害が出ない方法を具申しただけだった。

七本松らが生きていた場合、ロケットの自爆を日本軍への反逆行為として軍法会議にかけられる可能性がある。

既に七本松らが月人に倒され、月人を爆発により一掃したとしても、運良く生き残った月人がいるかもしれない。それが死体の山に隠れ、不意打ちをかけてきた場合、少なからず損害が出る。

それらの可能性を考えれば、床に広がっているであろう死体への追い撃ちを行うことは、小和泉にとっては至極当然の結論であった。ためらう余地は無い。

菱村も小和泉の考えは、理性では理解できた。感情面では、同胞を殺す可能性があることに若干の迷いがあった。小和泉の様に切り捨てるには数瞬の心の葛藤が必要だった。

「よし、扉開放と同時に全力射撃だ。各小隊から一個分隊は白兵戦仕様で待機させ、月人の特攻に対処させる。」

菱村は決断すれば、躊躇いなく全力を出す。迷いや中途半端な仕事は、戦場では命を失う。

「わかりました。特科隊は、自分ともう一名を白兵に出します。一号標的が居れば、生き残っている可能性が非常に高いと思われます。」

「ふむ、保険はある方が良いな。頼んだ。では、五分後に開始だ。」

「了解。」

菱村は、中隊司令部がある装甲車へと戻っていた。副長たちと打ち合わせをするためだ。小和泉も踵を返し、自分の装甲車へと戻った。


小和泉は、菜花を伴って菱村の元へ行った。

菱村は、二台の装甲車の隙間を埋める様に並べた白兵戦用の大盾を構えた分隊の後ろで指揮を執っていた。

「大尉が装甲車から出てもよろしいのですか。」

「よう。狂犬が終戦処理をしてくれるのだろう。ならば、装甲車の外に出ても問題無いな。で、そっちは別嬪さんを連れてピクニックかい。さすが、狂犬は余裕だね。」

「いえいえ。緊張しておりますよ。適度にではありますが。こちらは、部下の菜花軍曹です。白兵戦ならば、日本軍で五本の指に入る強者でしょう。」

「上が上なら、下も個性的だな。他の兵と雰囲気が違うねぇ。月人と相対している気分になるな。」

菜花は敬礼を行い、小和泉の背後で直立不動の姿勢をとっていた。

普段は、お茶らけている特科隊だが、時と場所は、皆わきまえている。

菜花は即応状態に入り、早くも禍々しく暴力的な空気を醸し出している。それを菱村は読み取り、月人になぞらえたのであろう。

「自分としては、逆に安心して背中を任せられます。」

小和泉はさりげなく菜花をフォローする。後で癇癪でも起こされてはかなわない。

「で、何だその装備は。ライフルなし。銃剣と背中の棍棒。それが特科隊の白兵戦仕様なのか。」

小和泉と菜花は、アサルトライフルを装甲車に置いてきた。腰には銃剣を差し、背中には六十センチほどの剣の様な棍棒を背負っていた。

小和泉は、背中の棍棒を取り出し、菱村に手渡した。

「よろしければ、ご覧下さい。」

菱村は棍棒をじっくりと観察する。素材は、コンクリートの様な強化セラミック製だった。

柄は片手で持つ様になっており、滑り止めの効果を狙ってか、表面はざらついていた。

鍔は円形で何の飾りも無く、剣を受け止めて手を保護する実用性が重視されていた。

刀身と呼ぶべき部分は、根本が一辺三センチの正三角形で緩やかな三角錐をしていた。先端部分は急激に細く鋭くなっていた。菱村が棍棒と言ったのは、どこにも刃が無かったからだ。

実際に菱村が三角錐の端をなぞるが肌に切り傷一つつかなかった。

「見た目より重いが、振り抜くには良いバランスだな。」

菱村が我流で棍棒を振り回す。初めての為か、動きがぎこちない。この実力ならば、素手でも小和泉が圧勝できる。

「一号標的に最適な武器かと。」

小和泉は、新しいオモチャを手に入れた子供の様な笑顔を浮かべた。

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