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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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47/336

47.第二十四次防衛戦 暴発

二二〇二年十一月十八日 〇六五八 KYT 深層部S区


「腹案か…。まあ、さくっと解決する方法があるのだけどね。」

小和泉の発言に皆が異口同音に驚く。

「隊長、悪い顔。何、仕込んだ。」

鈴蘭は眼を細め、疑惑に満ちた声で問うた。

「出発前に、ロケットの安全装置を解除しておいただけだよ。」

小和泉は、さらりと白状した。誤魔化す必要性が全くないからだ。

「え、自分は、安全装置を掛けました。間違いありません。」

愛は、仕事に落ち度があったと勘違いしたのか、慌てふためいた。

「愛兵長、落ち着け。小隊長は解除したと言われた。つまり、兵長は己の職務を全うしたのだ。問題無い。地中貫通弾の状況を確認します。」

舞が隣に座っている愛を宥め、コンソールを操作し始める。結果はすぐに出た。

「地中貫通弾三番、起動中。四番、安全装置作動中。三番は、いつでも使用可能です。」

舞が、ロケット砲の現状を報告した。小和泉の予想通りだ。

「ロケットを暴発させるのですか。大広間にどれだけの被害が出るかは分かりませんが、月人は一掃できます。」

桔梗は、小和泉の目を見つめながら語り掛けた。小和泉の本心かどうかを確かめる為だった。

「そのつもりだよ。人的損害を出すより、物的損害で済むのならば、それで良いよ。まあ、エレベーターが壊れると救助が来るまで缶詰めになるのが、この方法の欠点だね。」

小和泉が、本気でロケットを暴発させることを桔梗は確信した。

―この保険は、司令部が小和泉達に不利益になる様な行動を取った時の交渉材料だった。まさか、追い詰められた状況の打破に使用できるとはな。―

小和泉は、表情に出さずに心の中でほくそ笑んだ。


「隊長、質問っす。」

「何だい、菜花。」

「通信ケーブルも無いのに、何でロケット砲と通信ができるんっすか。」

「この鉱山は、空気が清浄だよね。外気の様に粉塵等の無線を妨害する物が空気中に無いから、無線にゴーストが混じらないでしょう。だから、通信障害が起きないんだよ。」

「じゃあ、エレベーターがぶっ壊れても総司令部に連絡がつくのか。」

「恐らく可能だろうね。ただ、総司令部ではなく鹿賀山に連絡をした方が良いだろうね。」

「つまり、俺の出番は無い訳か。どうも今回の戦争は、力を奮う機会が来ねえなぁ。」

「それで良いよ。僕の隊員が無事な方が良いからね。さて、地中貫通弾を爆発させた時の被害を計算できるかな。」

小和泉は、五人の顔を順番に見つめていくが、答えを持っている者は居そうになかった。

「隊長。広間の構造や耐久度などの情報が、ネットワークにはありません。爆発時には、ここから避難した方が無難としか言いようがありません。」

桔梗が皆を代表して答えた。

「主坑道にある最初の支道に装甲車を盾にして退避かな。」

「はい。扉を破壊した場合、爆風は主坑道を真っ直ぐ進むと考えられます。」

「本当にいいの。生き残り、全滅。」

鈴蘭が、日本軍の生き残りが居た場合に止めを刺すことを指摘した。

「攻略戦をした場合、こちらの被害が大きすぎるだろうね。九十人対百匹の白兵戦だからね。僕らが、全滅してもおかしくないかな。戦闘予報ならば、死亡確率100%ですって言われるかもね。

ならば、生き残りは見捨てるだけだよ。僕には、最初から選択肢は存在しないよ。」

冷酷な考え方かもしれないが、これが戦争なのだ。被害は最少、成果は最大。作戦を立てる時に重視される点だ。被害ゼロの戦争は、存在しない。あくまでも戦力という数字の減らし合いが、戦争の本質だ。そこに良心を挟む必要も価値も小和泉は認めていなかった。

「他に意見具申は、無いかな。僕が見落としている事は、本当に無いかな。」

小和泉は、この場に不似合いな優しい声で部下達に確認を取る。

小和泉は、自分の保険が効くことに上機嫌だった。

一方、桔梗達は小和泉の子供の様な笑顔に呆れ、沈黙を保っていた。


二二〇二年十一月十八日 〇七二一 KYT 深層部S区


「こちら特科隊、小和泉。菱村大尉、応答願います。」

32中隊の中隊長である菱村を無線で呼び出す。

「菱村だ。狂犬よ、何か策はあったか。こっちは、上手い手が浮かばねえな。」

菱村の声に苛立ちが乗っていた。自分自身を含めた九十名の命を落とす状況にいる。

この死の恐怖と立ち向かえる人間は、死に対して麻痺した者か、精神が狂うか歪んだ者だけだろう。あるいは、井守に使った麻薬で恐怖心を人為的に消し去るかだ。

「保険をかけていたのですが、それが使えそうです。」

小和泉の楽しげな声に、菱村が訝しむ気配が無線を通して漂ってきた。

「正気です。乱心しておりませんので、ご安心下さい。」

「ならば、作戦を聞こうか。」

「大広間に置いて来たロケットを遠隔操作で自爆させます。中身は地中貫通弾ですので、爆発力は大いに保証いたします。」

「実際の爆発による規模はどのくらいになる。」

「大広間の中は、確実に爆風と業火に満たされます。問題は。」

「大広間の強度だな。計算できたか。」

「強度不明につき、計算できません。ゆえに全軍、支道へ避難します。念の為、装甲車で支道を塞ぎ、歩兵の盾とします。」

「大扉が壊れ、爆風が流れても主坑道を進んで行くわけだな。」

「はい、その通りです。火傷を負う者が多少出るでしょうが、攻略戦よりは良いかと。」

「はっははは。よし、その手で行こう。段取りは決めているのか。」

菱村の声に力強さが戻る。生還できる可能性が出てきたのだ。これを素直に喜ばない者はいないだろう。

「いつでも、自爆可能です。退避完了次第、自爆させましょう。」

「分かった。32中隊は、二~四番支道を使わせてもらおう。特科隊は、一番支道で良いか。」

「問題ありません。」

「よし。副長、32中隊退避開始だ。」

「了解。32中隊、退避します。」

32中隊の副長が各小隊に大まかな指示を出し始める。それに反して、小隊は細かいところまで考慮して退避行動を始めた。一番奥の支道に隠れなければならない小隊の歩兵から走り出し、その後を蓋となる装甲車が付き従う。作戦の意図を末端の兵士まで理解している証拠だった。

練度と長年の付き合いによる意思疎通の賜物なのであろう。

他の中隊では、二言三言の指示でここまで駒が動くことはできない。

―この部隊は良いな。鹿賀山の手足に欲しい。手足になれば、俺が楽できる。―

小和泉は、32中隊の実力を再認識した。

「狂犬よ。勝算はどの位ある。」

菱村が面白そうに尋ねる。

「ご想像通りです。」

小和泉はあえて答えない。

「やはり、狂犬なのだな。」

菱村は、思わせぶりに言うと無線を切った。小和泉には意味が理解できなかった。


帰月中隊は、作戦通りに支道へと退避した。極力、爆風や業火が支道に入らぬ様に装甲車の配置を工夫し、歩兵に被害が出ない様にした。

「装甲車は、機密チェックしろ。銃眼一つでも開いていれば、中に炎が入って来るぞ。歩兵共も遮蔽物にしっかり隠れろよ。」

菱村の最終確認が行われている最中だった。それもまもなく終わるだろう。

「狂犬よ。こちらは退避完了だ。いつでも始めてくれ。」

「特科隊、了解。ロケット砲自爆に入ります。桔梗分隊長、秒読みだ。」

「了解。三番ロケット、自爆作業開始。五、四、三、二、一、今。」

桔梗が秒読みを行い、今と言った瞬間に舞が自爆させた。

鉱山に大音響が広がり、全てが大きく揺れる。坑道がきしみ、石の欠片や砂埃が舞い落ちてくる。

「三番、自爆信号受信。信号消失。自爆成功です。」

舞が自爆成功の報告を入れる。

皆、爆風と業火に蹂躙されることを恐れつつ、その瞬間が訪れるのを待った。

だが、畏れていた大扉の破壊は無かった。予想以上に大広間の強度は高い様だ。

「警告。四番、化学変化を確認。爆発の恐れあり。」

舞の報告は、四番の安全装置が爆発で壊された事を意味していた。

「全隊、次の爆発に備えよ。」

小和泉が改めて帰月中隊の全員に警告を発する。

皆が息を潜め、爆風と業火への恐怖と戦いながら四番の誘爆を覚悟して待った。

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