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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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45/336

45.第二十四次防衛戦 作戦会議という名の拉致

二二〇二年十一月十八日 〇五〇二 KYT 深層部S区


32中隊の司令分隊の装甲車の中にいる全員が、小和泉が発した言葉に注目した。

「全てが間違いなのです。根本が間違いなのです。」

何が間違いなのか、まだ誰も気づいていない。小和泉の次の言葉を静かに待っていた。

「確認するが、鉱山の地図に誤記は無いな。」

小和泉は命令系統を飛ばし、直接、菱村の副官へ確認を行う。菱村なら些事は気にしないと小和泉は思ったからだ。

「中尉殿、誤記はありません。帰月中隊の調査通りに広がっております。」

「では地図には、出発地点である大広間は記載されているか。」

「大広間の記載はありません。入口表示のみであります。」

どうやら、小和泉の考えが正しかった様だ。

「あくまでも推察ですが、月人は鉱山を通って攻めて来たのではなく、行き止まりだった為、帰還してきたのではないでしょうか。」

「待て。帰還とは何だ。地下都市に攻めてきたのだぞ。折角、内部に侵入して、ここで撤退するはずはなかろう。」

「それが我々の思い込みでした。攻めてきた月人を大広間の扉で進攻を阻止したと思っておりました。現実は、逆だったのです。月人は、それ以前に大広間から進攻し、扉が開いていた鉱山へ進みました。しかし、奥まで行っても何も無い為、大広間に戻って来たところ日本軍が扉を閉めていた為、鉱山に閉じ込められたのです。」

「いや、さすがにその解釈には、無理があるのでは…。」

菱村の後ろから小和泉の考えを疑問視する声が上がる。当然だろう。小和泉自身、数分前まで思いもしなかった。

「我々は、大広間の調査を行いましたか。しておりません。天井付近に侵入口があったと考えます。壁や床に侵入口が有れば、戦闘中に気がついたはずです。天井まで確認をした者はいますか。」

「恐らくいないだろう。だが、扉は二つある。鉱山とエレベーターに進む可能性は、二分の一だ。これはどう説明する。」

菱村は、小和泉の説を慎重に見極めにきた。どうやら、検討に値する話だと考えている様だった。

「月人には、エレベーターの構造を理解できないでしょう。扉をこじ開けても、籠が無ければ奈落が開いているだけですし、籠が有れば行き止まりと考えるでしょう。」

「となると、奥へと広がる鉱山の扉しか選択肢が無い訳か。」

「はい、そうなります。それが大広間に侵入口があると考える理由の一つになると思います。」

「理由の一つと言うことは、まだ何かあるのだな。」

「はい。司令部との連絡不能です。大広間に侵入口が有れば、装甲車一台だけの司令部は、救援要請をする間もなく、新たに進攻してきた月人に奇襲殲滅されるでしょう。」

「月人が攻めてきた場合、装甲車の機動力で逃げれば、月人から逃げられるだろう。」

「七本松大佐は、我々が出発した後は、大扉を閉じ施錠すると言っていました。逃げることは不可能です。」

「月人の群れの中を装甲車から降りて、大扉の開閉盤を操作しに行くのは、戦力的に無理だな。」

「これが司令部との無線途絶の原因と考えます。」

「すでに司令部は無いか。」

「はい。そう判断致します。」

「少し、話が飛んでいるな。副官と相談する。」

菱村はそう告げると、副官たちの輪の中に加わり、審議を始めた。


小和泉は、断りも無く食料庫の扉を開け、常温のコーヒーパックを一つ取り出した。

小和泉らしくも無い解説をしたせいか、非常に喉が渇いたのだ。後で特科隊の分を補充すれば問題無いと割り切っていた。

喉の渇きは強かったが、ゆっくりと味わう様に飲む。だが、濃い筈のコーヒーが、水の様にしか感じなかった。どうやら、小和泉は極度の興奮状態に陥っている様だった。

何度か、深呼吸を行い、コーヒーを飲む。ようやく舌がコーヒーの味を感じてくれた。

極度の興奮状態から覚め、もう一つの疑念が頭をよぎった。

―日本軍総司令部は、どう行動しただろうか。菱村大尉は有り得る話だと言った。

ならば、鉱山入口の現状は、いったいどの様になっているのだろうか。最悪の状況を想定しておいた方が良いな、―

小和泉は、腹を括った。


菱村が小和泉のもとへ戻って来た。

「勝手に頂いております。」

小和泉がコーヒーを指差す。

「これは気がつかなかったな。お客人に茶の一つも出さんとは。これはスマン。」

「いえ、作戦中です。当然の扱いです。後で補充させます。」

「一つや二つ位、かまわんよ。さて、32中隊は、狂犬の考えを全面的に支持することにした。」

「突拍子もない話を信じて頂き、ありがとうございます。」

「今から大広間に戻るが、狂犬よ。時間潰しに話し相手として付き合え。大広間までこの車で送ってやる。」

「つまり、移動しながらの作戦会議ですか。頭脳労働は、32中隊さんにお任せしたいのですが。」

「まぁまぁ、座れ。お~い。コーヒーお代りだ。俺のも頼む。」

「了解です。すぐにご用意致します。」

兵士の一人が答える。小和泉が、菱村から解放される雰囲気はなかった。

「わかりました。特科隊へ現状報告をさせて下さい。」

小和泉は、無線で桔梗に概略を説明し、指揮権を預けた。無線の向こうで桔梗の愛らしい困り顔が見えた様な気がした。


二二〇二年十一月十八日 〇六一一 KYT 深層部S区


小和泉は菱村に拉致され、大広間の扉の前に戻って来た。七本松の宣言通り、大広間の扉は閉まっていた。

帰月中隊は、歩兵の足に合わせてゆっくりと進軍し、途中で小休止も挟んでいた。

すでに壊滅しているであろう司令部の為に、体力と精神力を擦り減らす必要性を小和泉と菱村は感じていなかった。もし、司令部が健在であっても、七本松の為に命を賭ける気は全くなかった。帰月中隊の兵士の命と比較対象にすらならない。

現状の部隊が全戦力であり、増援の見込みは無い。ならば、戦力の回復を図りつつの進軍となった。おかげで作戦会議に時間を十分取ることが出来、使いたくない頭を小和泉は、一年分は使わされたような倦怠感に包まれていた。

小和泉は菱村に敬礼をし、装甲車の後部ハッチから降りた。周囲には静けさが広がり、装甲車のかすかな機械音と歩兵達の呼吸音がわずかに聞こえるだけだった。

小和泉の姿を認めた特科隊の装甲車が、静かにゆっくりと小和泉の脇に停まる。

小和泉は、助手席のドアを開け乗り込んだ。車内を見回すが、特段の変化は無い様だ。

「みんな、おはよう。」

『おはようございます。』

五人からほぼ同時に返事が返ってくる。実戦を経験した為か、特科隊のまとまりも良くなってきた。

「隊長、お疲れ様でした。32中隊はいかがでしたか。」

桔梗が温かい濡れタオルを差し出してくる。小和泉は、ヘルメットを脱ぎ、顔や首を拭いた。

疲れと眠気がタオルと共に剥がれていくようだった。

「そうだね。やっぱり、僕の隊が綺麗処揃いだね。残念なことだが、あちらには僕好みの子はいなかったよ。」

「隊長、まだ増やされるのですか。それは×です。すでに三人、いえ五人も囲う気ではありませんか。これ以上増えれば、私達の順番待ちが長くなります。一日に二人の面倒を見て頂けるのでしょうか。それならば、増やされても良いかと思います。」

桔梗が真剣な表情を浮かべ見つめてくる。が、目は笑っている。本気ではない。桔梗達にとっては、小和泉の意思が全てに最優先される。それは、理性や感情ではなく、本能のレベルで書き込まれていた。

「ふむ、一日に二人の相手を毎日するのは体力がもたないね。残念だけど、自重しようか。」

小和泉は心にも無い言葉を吐く。

「残念だってよ。鈴蘭。」

「問題無い。私、待てる。」

「俺だって待つよ。」

すぐに菜花と鈴蘭が茶化しに入った。さすがに旧1111分隊は余裕がある。

新加入の舞と愛は、これから起こる戦闘に緊張の色が見える。

「さて、朝の挨拶も済んだところで作戦を伝える。」

小和泉が真面目になった瞬間、弛んでいた空気が、一瞬で最前線の空気に変わった。

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