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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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292/336

292.〇三〇七二一OSK攻略戦 焦り、苛立ち、空回り

二二〇三年七月二十八日 一三五五 OSK 下層部 イワクラム発電所 制御室


「ねえ、鹿賀山。何を考え込んでいるのかな。皆に思うことを話してみたらどうだい。」

小和泉は、小隊無線で鹿賀山の苦悩する顔を見て、助け舟を出した。何でも良いから話して楽になれという意思表示であった。

「何をだ。小和泉。」

鹿賀山は、個人回線で返信をした。

「僕だけじゃなくて、皆に意見を聞いた方が良いのじゃないかな。小隊無線で聞いてみようよ。」

小和泉は、あえて小隊無線で返事を返す。

「小隊長、自分達にも悩みを聞かせて下さい。」

「カワズのことは、俺の所為です。小隊長に落ち度は無いっす。」

「聞かせて下さい。これからどうしたいのか。一緒に考えましょう。」

すかさず、他の隊員から応答が入った。

鹿賀山は遅まきながら、小和泉が小隊無線を使用する理由を察した。

―そうか。どうやら私は思考の視野狭窄に陥っていた様だ。いつも小和泉に気づかされる。奴は何故どんな戦場でも平常心を保っていられるのだ。菜花が戦死した時ですら、心が乱されている様には見えなかった。それは、武術家として心身の修行をした結果なのだろうか。

それよりも、これからの作戦は、間違いなく死傷確率が50%を超えるだろう。

本来は兵卒に意見を求めず士官のみで考えるべき事柄だ。私一人が決めたところで意味は無いのかもしれない。だが、士官のみで決めたところで兵士達は命令を聞くだろうか。

ならば、小隊全員の意識を統一し、目標完遂を目指すべきか。

その様にするのならば、全員に話を聞かせ、覚悟を固め方が良いか。

それに私は部下に見捨てられていない。その証拠に声をかけてくれたではないか。まだ、慕われているではないか。

なぜ、部下の力を信じないのだ。私としたことが情けない。今まで部下の力を信じ、作戦を考えて来たではないか。

まだ、我々が生き残る方策があるということだな、小和泉。―

と鹿賀山なりに小和泉の思惑を読み取った。

無論、小和泉は何も考えていない。こんな複雑な思考はしない。

鹿賀山と一対一で話し合っても、自分に良い答えを出せると思えなかっただけだ。

つまり、誰かに責任転嫁をしたかったのだ。

「皆、ありがとう。済まない。少し弱気になっていた様だ。そのまま作業及び警戒したまま聞いてくれ。

今の状況から次に何をすべきかを考えたい。

まずは初期目標である発電機の停止だ。停止出来るのならば良し。出来なければ破壊する。それが総司令部の命令だ。

時間をかけて停止するのを待つと敵の増援が集まる。

だが、即時に破壊すれば、再占領時に再利用はできない。これに関してはどう思うか。」

「やるなら、即、破壊だよね。停止するにせよ、破壊するにせよ、ここから脱出しないといけないのは同じだよね。ならば、時間がもったいないよ。さっさと壊して、敵の集合を待たずに逃げようよ。」

鹿賀山の悩みを一瞬で蹴散らす明快さ。それが小和泉の出した答えだった。ただ、これが正解は分からない。誰かに後の対応を押し付けてしまえば、小和泉の役割は完了だ。

「待て待て。第八大隊本隊がこちらに合流する可能性がある。これを待つのも大事なことだと思うが。」

鹿賀山の悩みの一つを明かす。

「くくく。お疲れの様ですね。鹿賀山少佐。援軍が来るかどうかは、どの様に確かめるのですかね。」

蛇喰の粘りつくような声が割り込む。小和泉の思惑通りになった。

「その確認を取るため、奏少尉に司令部との通信の復旧を行わせている。」

「なるほど。それはいつ通じるのでしょう。そもそも、発電所は電波暗室になっているのではないですか。私なら電波と機械が干渉しない様に壁の厚みと材質を考えますね。

ゆえに通信の回復は無理でしょう。くくく。」

「しかし、援軍が来れば死傷確率を大きく下げられるのだぞ。」

「くくく。で、援軍はいつ来るのですか。どうやって確認をするのですか。」

「本隊が近づけば、通信が繋がるかもしれない。もしくは戦闘音が聞こえるかもしれないではないか。」

「もっと解りやすい方法があると思うのですよ。」

「どんな方法だ。蛇喰少尉。」

「小和泉大尉の言う通り、発電機を壊せば良いのですよ。そうすれば、原子力発電所が停止していれば、OSKは停電するでしょう。原発が停止していなければ、停電はおきません。

至極、簡単なお話ですね。」

「少し待て。お前達の考え方は暴論に近いのではないか。落ち着いて話し合おう。」

鹿賀山は、一方的に発電機を壊せと言われると想定していなかった。

様々な意見が交わされるものだと考えていた。

「小隊長。意見具申します。司令部との通信回復は不可能と思われます。無線、有線共に様々な周波数を使用しましたが、どことも接続できません。ここは脱出することに力を入れるべきではないでしょうか。」

奏がはっきりと鹿賀山に述べる。奏も普段の鹿賀山と様子が違うと感じていた様だ。

「奏少尉もそうなのか。いや、しかし。

そうだ、舞曹長。発電機の停止の目途はどうか。」

鹿賀山は味方を求めて、舞に意見を求めた。

「まだです。恐らく徹夜しても停止できないと思われます。自分が学んだ技術体系と大きく違い、未だに全体を把握できておりません。」

舞は怒られるのではないかと不安を感じながらも正直に答えた。

「なぜ、もっと早く報告しない。時間を無駄にしたではないか。私の思考時間は何だったのだ。」

鹿賀山は思わず制御盤に拳を叩きつけた。

「ほらほら、それだよ。両肩をいからせて、眉間に皺をよせ、時折吐く不機嫌そうな溜息。

そんな状態の上官に誰が出来ませんって報告を上げられるのかな。

この隊では、士官学校同期の僕と蛇喰しかできないよ。鹿賀山がうちの小隊の最高階級なんだからさ。」

小和泉は、そんなことに気づいていなかったのかい、と目で訴えかけていた。

鹿賀山の全身の毛穴から汗が吹き出す。神経が興奮し、正常に動作していないのだろう。

焦り、苛立ち、空回り、それらが鹿賀山の正常な判断能力を奪っていたのだ。

眩暈を突然感じ、力尽きるように近くの椅子に崩れるように座った。小和泉が鹿賀山の腕を掴み、床に倒れぬ様に椅子へ誘導していた。それすらも鹿賀山は気づかなかった。

「そうか。私はそこまで精神的に追い込まれていたのか。すまない。

私は気を落ち着けたい。士官で一度話し合い、意見を上げて欲しい。」

「了解。じゃあ、蛇喰、奏、桔梗は集合。話をまとめようか。他の者は警戒の継続をよろしくね。」

『了解。』

小隊の次席階級である小和泉の命令に皆が従った。

鹿賀山は椅子に座り、力なく天井を見上げていた。


二二〇三年七月二十八日 一四〇一 OSK 下層部 イワクラム発電所 制御室


小和泉達、士官四人の話し合いは直ぐに終わった。皆の目標は、同じだった。ならば、手段と工程を定めるだけだ。

「鹿賀山、承認をお願いするね。」

小和泉は、椅子に座る鹿賀山へ声をかけた。

「早かったな。もう方針が決まったのか。聞かせてもらおう。」

その返事は、普段の落ち着いた声を響かせていた。小和泉は先程までの鹿賀山とは違うことを確信した。

「発電室へ突入し、周辺のケーブルや付属機器を破壊。発電機本体には一切の攻撃を行わない。

これで停止できれば、発電所より離脱。第八大隊への合流を目指す。

発電が止まらぬ場合は、この部屋の制御盤及び情報処理装置を破壊。

停電の有無に関わらず離脱。

第八大隊と合流が不可能な場合は、単独にて地上を目指す。状況により地上へ向かえぬ場合は、地下駅に詰めている部隊との合流を目指す。

以上だよ。」

四人で話し合った事を簡潔に明瞭に説明した。

鹿賀山は数秒考えた後、口を開いた。

「発電機本体を破壊しないことは、占領時の再使用を考えてのことだとわかる。

だが、制御盤や情報処理装置を破壊して停電が起きなかった場合、他の方法は試さないのか。」

「それね。原発が稼働していて停電していないのかもしれないし、僕達が知らない第三の発電所があるかもしれない。それ以上、考えるのは時間の無駄じゃないかな。さくっと総司令部からの命令を実行して撤収。これでいいと思うよ。」

小和泉は軽く答える。奏、桔梗、蛇喰が相談したことを伝えるだけだからだ。気軽なものであった。

「一応、総司令部の命令はすべて実行したことになるか。それ以上のことは、現場で責任が取れないのは道理。よし、承認する。すぐにかかる。発電室扉前に小隊を展開させよ。」

「了解。了解。831小隊、展開。」

小和泉の合図で、トラックが通過できる大きさの観音扉の左右に兵士達がわかれ、アサルトライフルを構える。

オウジャとクジは、愛を警戒するために制御盤から動かない。

クジが制御盤の前にある発電室を一望できる大きな窓から中を確認した。

「光学探査、異常見えず。死角多し。警戒必要。」

「音響探査、不可。確認できず。」

「温度探査、不可。確認できないっす。」

続いて、蛇喰の部下であるカガチとオロチが探査結果を報告する。

つまり、扉の向こうは何も分からないということが分かった。

「解放、五秒前。三、二、一、今。」

鹿賀山の号令通りに舞が開錠を行なった。ゆっくりと観音扉が動き始めた。

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