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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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29.集合

二二〇二年十一月四日 一〇〇二 KYT 日本軍司令部


鹿賀山はモニターに表示されたメッセージを読み、ほくそ笑んだ。

それは、人事部より転送されたメッセージだった。これこそ、鹿賀山がこの一年待ち望んでいたメッセージだった。


――――――――――

二二〇二年十一月三日 一五二九


発 小和泉錬太郎中尉

宛 日本軍人事部


題 復職願


休職中の本官、傷病療養完了したことを報告致します。

つきましては、復職を願い出ます。

なお、添付資料として診断書を同時に提出致します。

司令部よりのご命令をお待ちしております。

以上。

――――――――――


―小和泉らしい簡素な復職願だ。―

鹿賀山が苦笑いをする。

添付の診断書も多智らしく、『全て問題無し。』しか書かれていない。

小和泉が無理やり即時発行させたのだろう。本来ならば診断書申請後、二・三日は発行されるまで時間がかかるものだ。余程、小和泉は早期に軍務に復帰したい様だった。

鹿賀山はこの一年、新しい作戦概念を産み出し、上層部の説得と承認に成功していた。

理論と機械は完成していたが、演習に耐えうる人物がいない為、演習を凍結していた。上層部も鹿賀山が望む人事を飲まざるを得ない程、代替になる人物が思いつかなかった。

―さて、小和泉。お前の実力を発揮してもらうぞ。この一年で俺の予測を超えていろよ。―

鹿賀山はキーボードを操作し、人事部へ指示を出し始めた。


二二〇二年十一月七日 一〇一二 KYT 日本軍司令部 小会議室


舞と愛は、日本軍司令部の小会議室へ命令に従い出頭していた。

小会議室は、広さが十五メートル四方、壁面が木目調のパネルが張られ、ドーナツ型の白い机が中央に鎮座し、周囲に十五脚の椅子がセットされている。

命令書には、『一一〇〇 小会議室にて会議開始。それまでに出頭せよ。』しか書かれていなかった。

遅れるよりは早く居た方が良いと早く来過ぎた二人は机の端に姿勢正しく座り、時間が来るのを待っていた。

舞と愛は、一年前の撤退戦を小和泉達と生き残り無事にKYTへ帰還できた。そのお陰で一生手にする事は無いと思っていた戦功章を手にする事が出来た。

胸にこの略章を着けるだけで今までとは世界が変わった。同じ階級でも敬われ、戦功章を受章したことがない上官は二人の扱いが丁寧になった。

小指の爪の半分も無い大きさの略章が二人の人生を大きく変えるとは受章時には考えもしなかった。生き残れたことがボーナスだと思っていた。これも小和泉中尉のお陰だと二人は尊敬し感謝をしていた。


舞曹長は、二十三歳の肩口まである黒髪の着物が似合いそうな日本美人だった。だが舞は、百六十四センチで平均身長より頭半分高く、慎ましい胸がコンプレックスだった。その為、隣に座っている愛兵長のスタイルを見て心の中で溜息をついていた。

愛兵長は、二十歳だ。ショートカットの髪を五対五に分け、笑うとえくぼが出来る丸顔が可愛らしい女性だった。背も百五十三センチと低くさらに可愛らしさが引き立った。

だが、特筆すべきは豊満な胸だった。低身長にEカップのギャップに男性兵士の中で人気が高かった。本人にはそんな隠れた人気があるなど知る由も無かった。

舞は、愛の胸の大きさの内、ワンカップでも譲ってもらえないだろうかと、真剣に考える程見つめていた。

「舞曹長。どうかされましたか?険しい表情をされていますが?」

舞の身体がビクッと痙攣する。

「そんなに険しい表情をしていましたか?自覚が無いのですが…。そう、呼び出された内容を考えていましたので。」

胸が羨ましいなどとは言えない。考えてもいない事を口に出した。

「そうでありましたか。自分も何故呼び出されたのか不安であります。曹長も同じことを考えておられていましたか。」

「えぇ、何か不手際でもしたのか?心当たりはありますか?」

「いいえ。自分には心当たりがありません。」

「やはり、時間を待つしかありませんね。」

「はい、どの様な命令でも受けられる様に心構えをしてまいります。」

愛がそう言うと会話が途切れた。この後、二人は会話を交わすことなく時間の経過を待った。


二二〇二年十一月七日 一〇四五 KYT 日本軍司令部 小会議室


小会議室のインターホンが鳴らされ、続いてスピーカーが来訪者を告げる。

「桔梗准尉、菜花軍曹、鈴蘭上等兵、以上三名入室致します。」

その声に合わせ、愛と舞は立ち上がる。相手は士官だ。兵士が座って迎え入れる事など許されない。

扉が開き、三人の入室に合わせ愛と舞は敬礼をする。二人の存在に気付いた三人も同じ様に敬礼を返し桔梗だけが席に着く。次席階級である舞が座らなければ、他の者が座れない事に舞は気付きすぐに着席をした。その後は、階級順にスムースに着席していく。

軍では階級が絶対だ。このルールだけは絶対遵守される。それは平時においても同じ事である。こんな些細なところでも階級が絶対視される。

愛と舞は、この三人が呼ばれた事により不手際による叱責ではない事は想像できた。

鉄狼戦生き残り組の集合とは何だろうか。一年も前の事件だ。事情聴取の筈も無い。

また不思議だったのは、促成種である桔梗が下士官に昇進していることだった。前例が無いわけではないが、最近の軍報で目立った活躍をした話は聞いていない。

あれから一年経過しているが、月人との戦争は膠着状態に陥っている。人間の活動範囲も広げられず、月人の殲滅も上手くいっていない。

大隊消滅の大損害を出したため、洞窟内への積極的攻勢は行われていない。


一人、士官の制服を着た人間が混じっただけで部屋の空気の緊張感が上がった様に舞と愛は感じていた。

一方、桔梗達三人は差ほど階級を意識していない。今までの上官が小和泉だった為、士官を特別視する感情を持っていなかった。ただ、人間関係を円滑にするために階級の絶対視に調子を合わせているだけだった。

さらにインターホンが来訪者を告げる。

「小和泉中尉、入室致します。」

すぐに扉が開き、小和泉が小会議室へと足を踏み入れた。すでに全員起立し、敬礼をしている。

「や、みんな元気?愛と舞も久しぶりだね。お見舞い以来だね。あの時はありがとう。ところで、何の会議か知ってる?」

小和泉は答礼をするとすぐに桔梗の隣の席に着いた。続いて、皆も着席していく。

「中尉、申し訳ありません。知らされておりません。」

普段とは違い、士官らしく背筋を伸ばした桔梗が代表して答えた。

「鉄狼戦生き残り組、全員集合か。と言うか、桔梗いつのまに准尉になったんだい。士官の制服を着ているから驚いたよ。毎日会っているのに一言も言わなかったじゃないか。昇進祝いにどこかに連れて行ってあげたのに。」

その言葉を小和泉が発した瞬間、菜花と鈴蘭から桔梗への殺気が一瞬立ち上がるが、即座に消えた。もちろん、小和泉が見逃すはずはない。

「そうだ。士官倶楽部に行ったことが無いよね。連れて行ってあげよう。桔梗一人じゃ入りづらいだろうからね。うん、そうしよう。」

菜花、鈴蘭の殺気が一気に高まる。レストランならば二人も付いて行くことが可能だが、士官倶楽部に入るには階級が足りない。行くと言っても中に入る事は許されない。門前払いされる。それがやきもちの原因だ。

小和泉は面白がってわざと言っている。何せ久しぶりの対面だ。嫉妬心の具合で小和泉への愛情度が計れる。やり方としては褒められたものではない事は自覚している。

どうやら、二人の小和泉への愛情度は全く下がっていない様だ。殺気の強さが時間の経過と共に上がっていく。

―これは、桔梗が可哀想だな。―

「いや待てよ。どうせなら生き残り組全員の生還祝いもしよう。という訳で、場所は変えよう。菜花、幹事は得意だよね。日時場所を任せていいかな。予算不問。僕持ちだよ。」

この言葉で二人の殺気がすぐに霧散する。

「任せてくれ隊長!あぁっと、中尉!六名の予定を合わせて準備するぜ!」

先程の暗い殺気と打って変わって陽気な気配を菜花が発散する。単純な菜花らしい。鈴蘭は最初から見透かしていた様だ。すぐに気配を消す。演技半分だったのであろう。

一方、殺気を当てられていた桔梗は涼しい顔をしていた。士官は兵士に弱みを見せないという教育のたまものだろう。以前であれば、茶化す位の発言はしただろう。

桔梗は本物の士官になってしまった様だ。さて、鹿賀山の差し金だろう。他の者が桔梗を士官にする利点は無い。鹿賀山がいったい何を考えているのか、小和泉は楽しみでたまらなかった。

種明かしは、まもなく始まる。

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