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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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288/336

288.〇三〇七二一OSK攻略戦 どうしてこうなった

二二〇三年七月二十八日 一二三三 OSK 下層部 イワクラム発電所 制御室


制御室の中央の椅子から立ち上がった鹿賀山は、右手を前へ突き出し、

「8311、制御盤にて発電機の停止を実行。通信の回復。

8312、8311の護衛。

8313、発電所側扉の警戒。

8314、除染室側扉の警戒。

当初の作戦通りに実行せよ。現在の状況は関係ない。頭上で戦う友軍を助けるのだ。」

力強く命令を下した。

『了解。』

小隊の兵士達は、鹿賀山の命令を受け入れ、配置についた。そこに迷いは無い。地下都市OSKの動力源を断つことで日本軍が優位になることは間違いないだろう。

「愛兵長は制御盤を掌握し、発電機を停止させよ。舞曹長はその補佐に回れ。奏少尉は、作戦司令部との通信を回復させよ。」

『了解。』

三人娘は、制御室の制御盤に取り付き、情報処理装置を起動させた。

制御盤の上に透過式の投影膜がそれぞれの正面に展開され、各種情報が表示された。

愛と舞には、イワクラム発電機の稼働状況等が表示され、奏にはOSKの環境情報が表示された。三人は、入力盤を操作し、与えられた任務をこなし始めた。


鹿賀山はその三人を背後から見守る。鹿賀山は、情報処理に詳しくない。残念なことに手を貸しても役に立たないのだ。

それに小隊長が全隊を俯瞰できない状況も具合が悪い。常に状況の変化を感じ、対応できるようにしていなければならない。

そんな鹿賀山の横に小和泉は立ち、シェラカップを突き出した。小和泉の別の手には愛用のマグカップを持っていた。

「はい、鹿賀山。今の内にどうかな。」

中には濃い茶色の液体が満ち、白い湯気が昇っていた。ホットコーヒーだった。

―この様な気遣いができるのは、一人しかいない。小和泉の妻の一人の内の桔梗だろう。―

鹿賀山はその様に思い、桔梗を確認すると奏、舞、愛の三人にも同じ様にコーヒーを振る舞っていた。

シェラカップは直火にかけることも出来、片付ける時は重ねることでほぼ一個分の体積しかとらぬ、便利な金属製のカップだ。ワイヤー式の取っ手もあり、コップとしても、皿としても、小さな鍋としても使える便利な物だ。こればかりは、セラミックス製に置き換えることができなかった。

鈴蘭とカゴも蛇喰達へコーヒーを配っていた。恐らく、桔梗の指示なのだろう。正確には、桔梗が提案し、小和泉が許可を出したのだろう。

「はあ。許可も取らぬ独断専行は相変わらずか。なぜ、私に確認を取らぬ。この程度なら許可を出したぞ。」

と言いつつも鹿賀山は小和泉からシェラカップを受け取った。

口を付けるとシェラカップの独特の金属の感触の後、コーヒーの苦みが口に広がった。

砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーだった。

荷物になる為、調味料は持ってこなかったのだろう。

「えへへ、気が利くでしょ。緊張の後には弛緩が必要だよ。じゃないと精神が擦り減って、実力を発揮できなくなるからね。」

目の前の小和泉も同じ様にマグカップを口に付ける。旨そうな表情を顔に浮かべる。

―確か、小和泉はブラックコーヒーが苦手なはず。なぜ、旨そうなのだ。―

そんな疑問が鹿賀山に浮かぶ。コーヒーを飲んだ効果だろうか。

いつの間にか、緊張がほぐれ、細かなところにまで目を配る余裕が生まれていた。

ちなみに合成品ゆえに、原材料や成分は何も知らされていない。見た目と味などが、本物に近いだけだ。

「おい、小和泉。お前は、ブラックが苦手で、砂糖が必須だろう。」

「え、何のことかな。」

「では、このコーヒーを淹れたのは誰か。」

「桔梗だよ。それがどうかしたのかい。」

「はあ、わかった。もういい。配り終わったのならば、さっさと分隊を警戒に戻せ。」

「りょ~か~い。」

―桔梗が入れたのであれば、小和泉のだけは特別製だな。自分の手荷物を減らして、小和泉専用に砂糖を持ち込んでいるのだろう。だが、あくまでも小和泉の分だけ。小隊全員に振る舞うことはできない。区別できる様に小和泉のみマグカップで支給し、他の者へはシェラカップで支給か。

さすが、桔梗だ。小和泉の為なら戦場でも最優先か。ぶれないな。

私もこの作戦後に身を固めようか。多智と婚約して数年。待たせ過ぎただろうか。

いや、彼女ならば実験が面白く、その様なことは考えていないのが正解だろう。

小和泉を治療と言う名目で、肉体をオモチャにしていたな。時期尚早だろうか。―

鹿賀山はコーヒーを堪能しながら、愛が制御室の制圧完了させるのをゆっくりと待った。

考える余裕と時間は多少ならばあった。


二二〇三年七月二十八日 一三三三 OSK 下層部 イワクラム発電所 制御室


前触れは何も無かった。

予測していなかった。

想像していなかった。

想定していなかった。

予見していなかった。

この状況を思い描かなかった。

この事態が発生する理由が無かった。

何故だ。

どうしてこうなった。

それが一人を除いた831小隊の総意であった。


831小隊は、癖の強い個性の持ち主の集まりであったが、強固な繋がりのある家族であると皆が思っていた。

多少の確執はあった。だが、それは家族でもありえることで、特に問題にすべき事ではなかった。

ハッキリと言えば、蛇喰が小和泉への嫉妬心を宿していた。だが、蛇喰は賢い。多少、小和泉への当たりはきつかったが、逆鱗に触れるヘマはしない。少々からかい、ほんの少し満足できれば良かった。

それに小和泉は理解し受け入れていた。ただの弱者の妬み。昔から浴びてきた視線と言葉。

今更、小和泉の感情を動かすことはない。

蛇喰が小和泉を越え、他人に認められるには、軍での階級を越えれば良いのだ。それが誰の目にもどちらが優秀な人材かハッキリとさせることができた。

それゆえに、蛇喰の妬みは、軍での上昇志向へと昇華させていた。

ゆえに831小隊の人間関係に問題は無い筈だった。


だが、現実は受け入れなければならない。

鹿賀山の正面に愛が立ち、アサルトライフルの銃口を鹿賀山の下顎に突きつけている。

鹿賀山は愛を刺激せぬ為、両手を上に掲げ、抵抗の意志は無いと体で表現する。

銃口を強く下顎に押し付けられている為、口を開けることができないのだ。

下顎は、複合装甲が覆っておらず、野戦服の気密性がある布地が覆っているだけだった。

光弾一発で脊髄や小脳を破壊し、殺すことができるだろう。

愛のアサルトライフルの安全装置は既に外され、引き金に指がかかっている。

無理に愛を取り押さえようとすれば、引き金に指が当たり、光弾が飛び出すことは間違いないだろう。そうなれば、鹿賀山の死が確定する。

ゆえに誰も手を出すことができず、事の推移を見守るしかなかった。


静寂だけが制御室に満ちている。

誰も指一本動かさない。愛を刺激しない為だ。

―僕はまた失敗をするのか。菜花を失い、今度は鹿賀山を失うのか。嫌だ。それは嫌だ。僕は失敗を繰り返すのか。―

小和泉は、自分の油断を後悔していた。

最も二人の近くにおり、この状況を防ぐことができた唯一の存在だった。

今となっては、それは過去形だ。

小和泉の所作が愛の気に障れば、鹿賀山は即死する。

もっとも動くことが許されない人間となってしまった。

―どこで見落した。何が悪かったんだ。思いだせ。思いだせ。―

小和泉は、この状況になるまでを克明に思いだそうとした。


愛は、いつもの様に制御盤を操作し、制御室を制圧しようと機械言語を次々と入力していた。

手による入力だけでは間に合わないのか、制御権を乗っ取る為の補佐をさせる為なのか、情報端末を制御盤とケーブルにて直接繋ぎ通信を交わしていた。

その隣で舞も同じ様に機械言語と構築状況の把握に勤しんでいた。こちらは情報端末に頼っていなかった。

正確に言えば、舞の情報端末は小和泉達が使う物と同じ支給品であり、情報解析の役には立たないのだ。

愛の情報端末は、愛の趣味なのか、司令部からの特別に支給された物なのか、不明だが大幅な性能向上品であった。中央情報処理機から記憶領域までの交換できる部品は全て上級品へと換装されていた。ゆえに地下都市の情報処理機構に接続し、解析から解除まで可能であった。

量産品は、定められた機能しか動作せず、拡張性は全く無かった。

資材不足のKYTでは、ある能力に突出している人間のみに、その能力に見合った独自装備が支給されることがあった。

小和泉の九久多知もその一つだった。小和泉の場合は、格闘戦能力の高さを認められた。

愛は、情報処理能力の高さを認められた。

専用装備を支給と言えば聞こえは良いが、実情は実験台である。

その実験が成功すれば、量産品にも反映され、各種装備が随時更新されていく。

失敗の場合、一台もしくは一人の犠牲で済む。総司令部から見れば、人体実験は手軽で安いものであった。


たった今まで、愛は専用の情報端末を駆使し、制御室の把握に努めていたはずだった。

小和泉の目から見ても、周囲の戦友達の目から見ても、その様にしか見えなかった。

愛は、突然立ち上がり、立てかけてあったアサルトライフルを握り、鹿賀山の顎下へと突きつけた。

その動きは、当初から予定されていたかの様に滑らかな動きであった。

ほんの数秒の動き、小和泉が異変を感じ、一歩踏み出した時には膠着状態が誕生していた。

促成種の敏捷性と筋力は自然種の五倍。自然種は複合装甲で三倍まで底上げされていても出だしが遅れると間に合わなかった。

―今から飛びかかり、押さえつけても鹿賀山の死は避けられないね。うん、止めておこうか。―

と踏み止まった。それが、つい先ほど起きたことだった。

ほんの数秒で状況が大きく変わったのであった。

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