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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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285.〇三〇七二一OSK攻略戦 進攻再開

二二〇三年七月二十八日 一一〇三 OSK 下層部 イワクラム発電所 除染室


月人の脅威を完全に排除した831小隊は、死体を除去した除染室の隅へと固まり、交替で小休止を取っていた。

入室してきた大観音扉は、解除番号を変更し鍵をかけた。制御室へ繋がる小観音扉は、すでに解除番号を解読し変更済みだ。月人に開けることはできない。安全地帯を形成できているはずだった。

無論、警戒は怠らない。鹿賀山達が知らない通気口や整備溝があるかもしれない。そこから月人や機甲蟲が侵入してくる可能性は十分あった。

ゆえに小休止も一斉に取らず、交替で周辺警戒に当たっていた。

鹿賀山は食事を取る許可を出していた。むしろ推奨していた。

すでに朝食を摂ってから時間もずいぶん経過している。

この先、いつ食事を摂ることができるか分からない。安全が確保されている今が良い機会だった。

見た目は素っ気ない栄養物質の粉末を固めただけの戦闘糧食だ。

それぞれがお気に入りの味を選び、味をじっくり確かめながら食事を摂っていた。

この世で最後の食事かも知れない。そんな気持ちが心の奥底で澱んでいたのかもしれない。


そして、無理な連射で劣化したアサルトライフルの銃身の交換も行わせていた。

不安要素を抱えたまま、戦闘を行う勇気、いや、無謀は持ち合わせていない。

射撃中に銃身が破裂すれば、銃を支える手を失うだけでは済まない。

戦闘力を失い、前線が崩壊し、月人に蹂躙されるのだ。

銃身交換を惜しみ、代わりに命を失くしては本末転倒だ。不安要素は徹底的に取り除く必要があった。それに予備を残しておいても、使う機会が来るとは限らない。銃身よりも先に己の命を失う可能性がある。それが戦争だ。


小和泉は、普段の振る舞いと違い、意外にも道具を大切にする。命を預ける武器に不具合があってはならないし、不具合を発生させてはならない。

ゆえに己が使う道具は、自分自身の手で手入れと整備を確実に行っていた。そこに手抜きは存在しない。

私生活に関してだらしないのは、皆の知る通りであるが、自分の命を預ける道具を他人に整備を託すことは無い。整備不良を起こしても己の不手際を恨めば良い。死ぬ時に整備を任せたことを後悔したくはなかったのだ。

例外はある。複合装甲や装甲車など専門知識を必要とする装備だ。こればかりは、専門家である整備兵に任せるしかない。小和泉が整備できる余地は限られている。

整備兵を信じるしかない。今までは、問題は発生していない。整備兵の自尊心だそうだ。

自分の整備不良で、兵士を死なせることは、最悪の屈辱らしい。過去にそれが原因で自殺した整備兵もいたらしい。それが本当なのか小和泉には興味は無い。ゆえに事実かどうか調べたことは無い。

鹿賀山や奏にでも聞けば、答えは直ぐに分かるのだろう。

小和泉の考え方は、同じ死ぬなら敵を一匹でも多く道連れにすべきだと、姉弟子から叩き込まれている。そして、自分自身もそうすべきであると条件反射の世界にまで刷り込まれていた。

そこには、小和泉の意志は介在しない。錺流武術の基礎であった。


小和泉は、部下達に銃身の交換と食事を摂らせ、し尿パックの交換もさせた。

お互いの装備を点検しあい、装備に不具合が無いか確認もさせる。

プロテクターを固定するベルトやボルト等に弛みは無いか。各種ケーブルの断線は無いか。

細々なところまで点検をさせる。

何が切っ掛けで命を落とすことになるか分からないのが戦場だ。

ゆえに小和泉は絶対に油断もしないし、準備に手を抜くこともしない。

それを徹底しているが為に、月人を弄ぶ余裕が生まれるのだ。弄ぶ為に、準備を徹底させているとも言った方が良いのかもしれない。

準備を終えた小和泉の心は、次の戦場へと向かっていた。

敵の規模は小隊か中隊か。どこから現れるのか。機甲蟲が来るのか。それとも混成部隊なのか。

様々な状況が小和泉の思考として流れていく。

―結局、深く考えたところで何も変わらないよね。頭脳労働は鹿賀山が担当だしね。僕は指示に従うだけだよね。流れに任せますか。―

そこで小和泉は思考を放棄した。


二二〇三年七月二十八日 一一一五 OSK 下層部 イワクラム発電所 除染室 制御室扉前


小休止を終えた831小隊は、除染室を出て制御室へ向かう。進攻再開である。

そこでイワクラム発電機の停止に成功すれば、作戦目標を達したことになる。

制御室での停止に失敗した場合は、発電機の炉心室へと入り、物理的破壊による停止を試みることになっている。

先に与えられた情報では、この先には、その二部屋しか無いことになっている。

つまり、月人の増援は無い筈だ。ただ、待ち伏せをしている可能性はある。

小和泉は、そんな総司令部の情報を信じていない。

古今東西、抜け道は存在するものだからだ。


831小隊は、入ってきた観音扉とは逆方向の観音扉の左右に分かれていた。

入口の観音扉は、大型トラックがすれ違える程、大きな扉だった。しかし、除染室へと続く観音扉は大型トラック一台が通行できる大きさだった。

資材の搬入や積み下ろしはこの除染室で行われていたのだろう。この先へは車が頻繁に通ることが無いといえた。整備に大型部品や工具を搬入するのに丁度良い大きさなのだろう。

この除染室から先は通路が狭くなるということだった。

部隊を横に広く展開することはできない。その点に注意しなければならない。

一方で狭くなることは、小和泉達にも有利になる一面があった。月人に包囲される可能性が低くなるのだ。

この除染室の様に広い場所では四方を囲まれ、大波にさらわれる様に戦力が削られていく可能性があった。

たまたま、戦術が上手くはまり、生き残れた。運が良かっただけだ。

愛が情報端末を操作し、観音扉の解除番号を入力した。

「隊長。準備完了しました。いつでも開けます。」

愛は、鹿賀山を見つめ、情報端末の実行を押す姿勢で命令を待った。

「現状のまま、小隊は扉の左右に固定。前列膝射、後列立射。中に入るな。同士打ちになるぞ。

くれぐれも味方を射線に入れるな。扉、開放用意。五秒前。三、二、一、今。」

鹿賀山の命令を同時に愛は、情報端末の実行を押した。

観音扉は、静かに向こう側へと開いていく。

831小隊に緊張が走る。敵はいるのか、いないのか。

素早く上下左右と奥を確認すると同時に目の前を幾条の光線が横切る。

「天井に機甲蟲。数、不明。」

先頭に居た桔梗が報告を上げる。

「前列撃て。後列待機。」

すかさず、鹿賀山の命令が下りる。

前列に居た左側の小和泉の8312分隊と右側のオウジャの8313分隊が射撃を開始する。

射撃を開始するが、お互いに敵影の直視は出来ていない。

両者共にガンカメラ越しに照準を合わせ、直接、目視をしていなかった。小和泉達が無防備に身を曝け出す訳も無く、壁に隠れアサルトライフルの先端に取り付けられたガンカメラで照準をつけ、光弾をバラ撒いていた。

蠍型機甲蟲は、天井の窪みを利用し足を引っかけ、ゆっくりと近づく。光弾の発射を確認したのか尾部の銃から光線を発射する。光弾と光線が狭い通路で入り乱れ、白色に染まる。

機甲蟲たちは、無警戒の敵が侵入次第、無防備な頭上から攻撃をしかける予定だった様だ。

だが、鹿賀山はその可能性を見越していた。

―さすがに機甲蟲がいるとまでは思わなかったな。防御機構の固定機銃が待ち構えているかと考えていたが、機動兵器は手強い。動くからな。固定機銃なら狙って撃つだけで済んだのだがな。

けれども、天井に貼り付いていたのは助かる。天井では自由に動けず、機動力が削がれている。今の内に数を減らせねば。―

「敵の機動力は落ちている。今の内に叩き潰せ。地上に降りられると機動力が上がり、狙いにくくなるぞ。後列は床に落ちた機甲蟲を潰せ。」

「了解、了解。落とさないよ。」

小和泉は、のんびりと答える。

「了解っす。野郎ども天井のをさっさと潰せ。降りた奴は他に任せろ。」

オウジャは、取りこぼしが起きることを見越していた。

「仕方ありませんね。8314は残り物を掃討しますよ。さあ撃ちなさい。進攻再開ですよ。」

蛇喰は、粘りつく様な声で指示を出す。

大の大人が壁に貼り付き、不恰好な片手撃ちで通路内を銃撃する。

その姿は、壁に叩きつけられた蛙達の様だ。

だが、本人達は大真面目だ。命がかかっている。第三者からどの様な感想を持たれようとも命にかえることはできないのだ。

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