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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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284/336

284.〇三〇七二一OSK攻略戦 特別なことは何も無かった

二二〇三年七月二十八日 一〇四五 OSK 下層部 イワクラム発電所 除染室


小和泉達は、月人への止めを刺し終えた。それそれは丁寧な仕事であった。

現在は、交替で小休止を取り、全周警戒を行っていた。

「ねえねえ、鹿賀山。」

一仕事を終え、暇を持て余した小和泉は、鹿賀山へ個人無線を入れた。

「どうした小和泉。」

鹿賀山の近くでは、舞曹長が手慣れた仕草でクジ一等兵の義足を再装着していた。

周囲の脅威が取り除かれ、安全が確保された為、今になったのであった。

「あれは、無反動砲の攻撃だったよね。」

鹿賀山の武器使用自由の命令の直後に不可解な大爆発が二度起きていた。それを指摘していた。

「小和泉もあれをそう思ったのか。」

鹿賀山も思い出す。手榴弾とは思えぬ規模の大爆発。それにより、月人の前衛が吹き飛ばされ、戦力を大きく低下させた。そこから一気に月人の攻勢は崩れていった。

「間違いないと思うよ。携行式の無反動砲だよね。それも二発かな。」

携行式無反動砲は、引き伸ばし式になっている。縮めた状態では、長さ三十センチ、直径五センチの円筒形だ。発射には筒を引き延ばす必要がある。引き延ばすことで安全装置が解除され、照準と引鉄がバネの力で起こされる。発射状態にすると長さ五十センチになり、肩に担いで発射する。

縮めた状態であれば、背嚢に仕舞えば、所持していることは分からない。

「誰が持ち込んだのか分からぬが、あれは相当な貴重品だぞ。ほとんどの部隊が保有していないし、第八大隊には配備されていない。誰かが装備部から横流し品を受け取ったのだろう。困ったものだ。」

「もしかしたら、別木室長が誰かに実験用に渡したかも知れないよ。」

「あの御仁か。ならば、ありうるか。いや、九久多知や装甲車受領時には装備の説明があった。今回、説明は無かった。その線は無いと考えよう。それにあの御仁が、ただの無反動砲を渡すとは思えない。横流し品と考える方が自然だ。」

「そっか。確かに何の変哲もない無反動砲だったよね。別木室長なら、投網を発射して絡めたところで起爆とかしそうだよね。少量の火薬で効果を上げられそうだよね。」

「小和泉、一瞬で恐ろしい物を思いつくな。遠くへ逃げることも伏せて爆風から逃れることもできない兵器ではないか。」

「言われてみれば、そうだね。逆に提案してみようか。金一封でももらえるかな。」

「実験の道具にされるだけだ。止めておく方が賢明だろう。」

「そうだね。鹿賀山の忠告に従うよ。

でもさあ、攻撃は効果的だったよね。狙いも、使う時機もさ。バッチリだったよね。」

「小和泉の言う通りだな。あの攻撃には助けられた。だが、規律違反は困る。総司令部の問い合わせにどう答える。831小隊に横流し品があることが発覚した。小隊から犯罪者を出すことになるぞ。」

「答えなくてもいいのじゃないかな。命の恩人だよ。売るのかい。」

「それは理解している。功労者を憲兵隊に差し出したくは無い。

だが、映像が既に総司令部に流れているだろう。隠せるものではないぞ。」

「本当にかい。」

「それは、どういう意味だ。いや、しばし待て。お前がそう言うならば。」

鹿賀山は情報端末を操作する。何か確かめたいことができた様だ。

「ふむ。そういうことか。この除染室は電波を遮っているのか。この中での戦闘記録は、一切送信されていないようだ。小和泉、よく気がついたな。」

「電波の圏外か圏内の確認は、悪巧みする時の基本だよ。多分、総司令部へ映像は、まだ飛んでないよね。だからさ。ね。」

「ふっ、困った奴だな。いいだろう。理解した。小和泉の希望通りにしよう。本当にお前は悪巧みの天才だな。」

「お褒め頂きありがとう。さすが、鹿賀山。話が分かるね。だから、大好きだよ。」

小和泉は言いたいことを言い終えると無線をさっさと切った。

鹿賀山は、これから行う軍規違反のことを考えるとため息が一つ出てしまった。

何をすべきか頭の中で整理を始める。


―横流し品を扱う不届き者を捜すな。命の恩人だ。実績を鑑みて目を瞑れ。

通信が回復するまでに画像と音声データを削除しろ。

小隊全員に箝口令を敷け。

命には代えられぬ。罪に問うな。

無反動砲のお陰で被害は最小限で済んだ。

我々の命は、誰かに助けられた。

ゆえに、総司令部との面倒事は避けろ。

憲兵隊の介入も避けろ。

これがあいつの考えだろう。

やれやれ。とんだ軍規違反だぞ。

そして、隠蔽が発覚したのならば、指揮官として自分一人だけ泥を被れと思っているのだろう。

つまり、そういうことだな。

はあ、困った奴と士官学校の同期になり、親友になってしまったな。

なぜ、こんな危うい奴と恋人になった。いや、士官学校で小和泉に襲われ、その手腕に絆されたのが運の尽きか。

このことを知るのは、多智と桔梗とウネメだけだったな。意外に私も口が軽いものだ。この様なことを話すとはな。

困った奴を好きになったものだ。まあ、小和泉の願いならば、叶えてやるか。―

鹿賀山は腹をくくった。ここから生きて帰れる保証も無い。死ねば、問題は存在しない。

不正が発覚したとしても、減給か営倉入りになる程度ならば安いものだ。

鹿賀山が小和泉に甘いのは、惚れた弱みというものだった。


「奏少尉。」

脇に控え、全周警戒を行っていた副長の小和泉奏に声をかけた。

「はい、隊長。」

奏は警戒の姿勢を崩さずに答えた。

「これから言うことを極秘裏に実行してくれ。」

「了解。何をすればよろしいでしょうか。」

「指向性対人地雷の爆発後から戦闘終了までの全兵士の画像及び音声記録の抹消だ。理由は、そうだな。対人地雷爆発時による不具合としておこう。」

「戦闘記録の改竄は、軍規違反になります。よろしいのですか。」

「構わん。改竄よりも無反動砲を許可なく持ち出したことが問題だ。だが、お陰で皆の命が助かった。この違反を総司令部に知られたくない。恩人を憲兵に引き渡す訳にはいかぬからな。」

「なるほど。了解しました。自分が削除しますと痕跡を残してしまいます。愛兵長に任せてもよろしいでしょうか。彼女ならば、違和感なく処理できると思われます。それに早く正確でしょう。」

「なるほど。確かに愛兵長向きか。仕事は早く正確。口も堅い。よし、いいだろう。この件は奏少尉に任せる。好きにやれ。」

「了解。すぐにかかります。」

奏は愛を呼び寄せると指示を始めた。いくつかのやり取りを済ませると二人は分かれた。愛は情報端末を操作し始め、奏は状況報告に戻ってきた。

「指示完了致しました。すでに情報操作を始めております。ところで、犯人、いえ恩人の特定は行いますか。」

「いや、行わないし、探ることも禁止だ。二回の爆発は無かったのだ。そう何も無かったのだ。

ゆえに、無反動砲は存在しない。残念ながら恩人も存在しない。良いな。」

「了解しました。」

―情報操作は愛兵長に任せておけば問題無い。あとは箝口令だな。―


「傾注。今戦闘において不可解な爆発が二回あったことを諸君も感じているだろう。

だが、その爆発により我々は生き残った。被害が無かった。戦友が無事だった。

あの爆発は、手榴弾の相乗効果による爆発だと考えよ。

詮索はするな。話題にもするな。口外を一切禁じる。

特別なことは何も無かった。戦闘を皆が頑張り、粘り、勝ち取った。それが全てだ。以上だ。」

『了解。』

全員から力強い返信が入る。小隊と言う家族を守るために行った行為だ。

それを咎める者は小隊には居ない。

軍規にうるさい蛇喰もその点は弁えている。流れ弾による戦死はしたくないのだ。

兵士を権力で抑えつけられる限界点が存在する。

その限界点を越えた上官は、何故か戦場の流れ弾で戦死してしまうのだ。

悲しい出来事だが、それが戦争の一面であると総司令部は許容していた。

そのことを総司令部が調査することはほぼ無い。

無能に率いられる軍隊ほど、悲惨なものは無い。

無能な上官を排除し、兵士の命を無駄にしない為であった。

総司令部は、それを必要悪だと認めていた。

公認されている訳では無い。見逃されているだけだ。

無論、憲兵隊は通常業務の一環として調査を行う。

指揮官級の戦死の大半が、部下による犯行であることは憲兵隊も分かっている。

その上官がどの様な人柄か、部下への接し方はどうであったかを調査する。

大半は、過度な暴力や暴言による人格の否定が原因であることが多い。

軍隊であるゆえに、当たり前にある行為であるが、何ごとにも限度がある。

限度を超えた暴力を振るった上官であれば、憲兵隊は基本的に不起訴とする。

つまり、容疑者は無罪放免となる。

だが、中にはただの逆恨みである事もあった。その様に日本軍として許容できぬものは、容疑者は軍事裁判にかけられる。上官殺しは極刑だ。例外は無い。

上官殺しを行うことは己の命を懸けた行為でもあった。

この様にして日本軍の綱紀は保たれてきた。

日本軍の士気の高さは、総司令部のこの様な兵士達へのお目こぼしが、効果を発揮しているのかもしれなかった。

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なかなか読ませますね 興味深い話でした
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