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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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276/336

276.〇三〇七二一OSK攻略戦 動力源を停止せよ

二二〇三年七月二十八日 〇七四六 OSK 下層部 中央交通塔


小和泉達は中央交通塔に設置されているエレベーターの昇降路をロープ一本で空中降下している最中だった。

目まぐるしく階層が通り過ぎていき、全身に風圧を感じる。

降下速度は上昇していく一方だ。

遠くからは、月人の怒声と悲鳴が聞こえる。時折、肉と肉がぶつかり合う鈍い音も聞こえた。時折、爆発音の後に振動や地響きも伝わる。

第三大隊が外殻を廻るスロープから月人への大攻勢をかけているからだ。

それは陽動と呼ばれるものであった。

今、ロープ降下を行っている第八大隊を月人の目から逸らすために第三大隊が必要以上に派手な戦闘を行っていた。持てる兵装を駆使し、月人と機甲蟲を薙ぎ払う。施設への損害も気にしない。そんな全力攻勢を第三大隊は実施していた。

そんな中、第八大隊は装甲車をエレベーターホールに放棄していた。

身一つでエレベーターの昇降路を命綱一本に全てを託し、静かに素早く最下層を目指している。

既に第八大隊第一中隊と第二中隊は、二百メートル以上ある昇降路を降下完了していた。最下層を静かに浸透している。戦術ネットワークにはその様に表示されている。

第八大隊で未だに降下を完了させていないのは、後発の831小隊だけである。

あと数十秒で降下完了し、最下層に到着する。


小和泉のヘルメットのバイザーに減速開始十秒前と表示された。

「各員、減速の衝撃に備えよ。」

鹿賀山が小隊無線で告げる。その声は冷静だ。初めて行うロープ降下に焦りや緊張はしなかった様だ。

『了解。』

小隊全員がほぼ同時にハッキリと答える。小隊員も鹿賀山同様に初めてのロープ降下に恐怖を感じる者は居なかった様だ。

既に秒読みは三秒前になっていた。

<3>

<2>

<1>

<減速開始>

命綱であるロープに噛ませている歯車が自動的に制動をかける。

最初はゆっくりと制動がかかり、徐々に制動力が上がり、身体に巻き付けた安全帯が降下する身体を締め付ける。

苦痛を感じる程ではない。戦闘前に怪我をする様な急降下はしない。だが、安全というよりも危険域に近い減速であることは間違いない。

複合装甲を纏っていない促成種ならば、多少出血するかもしれないが、これで脱臼や骨折するほど弱い体に設計されていない。

小和泉は、戦闘長靴越しにセラミックス製の床に接触したことを感じる。

着地し、浮遊感から平衡感覚を取り戻すと、安全帯を素早く取り外しその場に破棄する。

KYTや今までの戦場に高層物は無く、ロープ降下をする必要性は無かった。

精々、地下洞窟の段差や三階建ての建物からの降下しか経験はなかった。この程度の高さであれば、自然種は複合装甲の補助により苦も無く移動できる。また、促成種も自分自身の身体機能のみで何も問題無かった。

ゆえに誰もが初体験であったが、問題無く降下できたことは安堵すべきことだろう。


誰もが戸惑うことなく、扉が開放されているエレベーターホールへと中腰の姿勢のまま突入した。敵からの視認面積の減少と投石等による被弾面積を減らすためである。

先に第一、第二中隊が通過済みとはいえ、敵が居ない保障は無い。中隊の通過に気が付いた敵が確認のため派遣されている恐れがある。

些細な可能性も考慮に入れ行動を起こす。それが死傷確率を下げる有効な手段であった。

小和泉達は即座にエレベーターホールの四方に散り、陰に潜み周辺警戒を行う。

「8312、異常無し。」

「8313、異常無し。」

「8314、異常無し。」

「了解。8311も異常無しだ。予定通り、指定経路にて進軍する。全員、戦術ネットワークを再確認。よし、前進。」

各分隊長の報告の後、鹿賀山はすぐに前進の命令を下す。ホールに待機していても得るものは何も無い。831小隊は進軍を再開した。


第八大隊の目的は、地下都市OSKの動力源の停止だった。これによりOSKは停電させられ、都市機能を奪う予定だ。

監視機構の停止。飲料水の供給停止。食料工場の停止。育成筒に入っている個体の処分。換気および空気清浄機構の停止。それに伴う月人の酸欠による窒息死を期待することもできる。

さらに機甲蟲は、充電不能となり機能停止するだろう。

つまり、直接戦闘で被害を出さず、日本軍に有利な状況でOSKの戦闘を有利に進める可能性が高まるはずである。

OSKの生活基盤を支える原子力発電機とイワクラム鉱石を利用したイワクラム発電機の各一基が最下層に設置されている。

原発は巨大で扱いが難しい為、第一、第二中隊が停止に向かった。稼働させることは無理だが、緊急停止であれば手順書に従えば、可能であると総司令部は判断した。

831小隊は、小型で取り扱いが簡単であるが、出力だけは原発と同等のイワクラム発電機の停止へと向かう。これは小型版ならば装甲車にも搭載され、動力源となっている。ここから発生した電力がホイール内の電動機を動かし、情報端末、探査機能、生命維持装置を動かしている。

つまり、故障時には戦場で応急修理をしたり、日頃から整備している扱いなれた物だ。

規模が大きいだけで基礎設計は同じであり、831小隊ならば緊急停止させることは造作ないと総司令部は言う。


エレベーターホールからは、第一、第二中隊と831小隊は正反対の方向に向かうことになる。

菱村の思いつき通り、831小隊は単独任務にあたることになってしまった。

都市設計における安全管理の観点から、発電機のどちらかに問題が生じた時に備え、隣接ではなく物理的距離を離されていた。丁度、中央交通塔を挟んで正対する位置にあった。

総司令部の作戦に従い、小和泉達はイワクラム発電機に向かい、裏道を静かに走る。

戦術ネットワークに表示される第一、第二中隊と距離がみるみる離れていく。

これで敵と遭遇しても近くに援軍はいない。831小隊だけで対処しなければならない。

孤立無援。その言葉が、軽い緊張感として小隊に漂い始める。

現在は温度探査だけが、正常稼動している。

音感探査は小和泉達が動いている為、831小隊が発する音を拾い、正常な動作が期待できない。

小和泉達は低い姿勢による隠密行動にて目まぐるしく場所を変えていた。その為、光学探査のカメラは地面ばかりを映し、影や障害物に阻まれ、こちらも正常動作していなかった。

頼りになるの自分自身の五感であった。

目を見開き、耳を澄ませ、獣臭を嗅ぎ取り、風の流れを装甲越しに感じ、複合セラミックスの塊の中に潜む機甲蟲から発する鉄の様な味がしないか等を確認しつつ行軍した。

誰も無駄口を開かない。戦術ネットワークの経路案内に従い、粛々と裏道の影の中を831小隊は進んだ。


小和泉は走りながら部下の生体表示を時折確認していた。

―心拍数、血圧、体温、全て異常無し。全員平常値だね。さすがは古参兵だねえ。井守が居たら、慌てふためいていただろうな。―

小和泉の脳裏にふとOSKの育成筒に放置した井守のことが浮かび上がる。

―井守ならば、挙動不審者の様にグルグルと首を頻繁に回し、アサルトライフルの狙いを小まめに切り替えていただろうね。

最初は、小心者で薬に頼らなければ真面に戦場に立てなかったなぁ。懐かしいね。

この作戦に参加していても、あまり変わらないかな。やっぱり慌てふためいて、僕に大丈夫かいろいろ聞くんだろうな。

やや迷惑であったのは事実だけど、、蛇喰の粘着する様な会話よりましだよね。―

井守を育成筒に放置して一ヶ月ほどしか経過していない。やはり、あれだけ目立つ行動を起こす人物が傍からいなくなると存外寂しいものであった。

―菜花が居なくなった時も寂しくは感じけど、九久多知を装備する様になってからは、その感情はきれいに消えたんだよね。不思議だよね。―


OSKの電源喪失により井守の育成筒の機能は停止をする。

治療が終わっていれば、育成筒から既に排出されていることだろう。

しかし、治療が終わっていなければ、機能停止と同時に空気の供給が止まり確実に窒息死する。

鹿賀山はその事を一瞬だけ憂いたが、あの時は最善手であったと自分に言い聞かせ、井守のことを脳裏から消した。

蛇喰もその可能性に気が付いていたが、未だ育成筒に居るはずが無く、すでに月人に処分されているだろうと考えており、大したことではなかった。

小和泉は、全くその可能性に気づかずにおり、何も考えていなかった。

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