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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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275/336

275.〇三〇七二一OSK攻略戦 菱村の胸裏

二二〇三年七月二十七日 一九〇三 OSK 上層部 前線基地


兵士達は、自由時間を思い思いに、明日の戦闘に備え、英気を養っていた。

情報端末に蓄えた電子書籍を読む者。

戦友とただただ語らう者。

目を閉じ物思いに耽る者。

装備品を分解清掃する者。

それぞれの戦闘前の気持ちを整理する手段を用い、夜を過ごしていた。

だが、第八大隊司令部の人間には、自分の時間を持つことは許されなかった。


前線司令部と情報交換と打ち合わせを行い、夜遅くまで仕事から解放されることは無い。

全員が生還する為には、細かな情報がある程に良い。

最下層に潜り始めれば、無線が通じず孤立無援となる可能性がある。その時に己の身を守ることができるかどうかは、収集した情報量に関わってくる。

すでに全員の情報端末には、最新情報が共有されている。しかし、文字で読むのと現場の声を直接聞くとのでは情報精度が格段に違ってくる。

現場の声は、生きた情報だ。報告書では些末な部分は省略されることがある。

人間とは億劫な生き物であり、話す分には冗長になるが、書くとなると単純化する傾向にある。その為、報告書の行間に省かれた情報を直接聞き取ることが重要なこととなる。

それも正しい情報が必要だ。ゆえに第八大隊司令部は、前線で収集された情報の精査に余念が無かった。

この情報精査には、831小隊から小隊長である鹿賀山と副長の奏が参加していた。


菱村は副長にすべて任せ、意見交換へ耳を澄ませ、口を出さなかった。部下を信頼しているからだ。

その一方でこれからのことを色々と考えていた。

菱村は、熱心に前線司令部へ質問と確認を行う奏へ悲しげな視線を送っていた。

―恐らく、831小隊単独の任務が発生する可能性は、これまでの経験上、非常に高くなるな。

いや、俺は間違いなく単独出動命令を下すだろう。あんな便利な奴ら、他には居ねえからな。

そんな危険があるがゆえに、奏の奴を無理やり結婚させちまったなあ。

俺が奏の花嫁姿を見たかったというわがままもあるが、本人も大喜びしていたんでい。

間違っちゃいねえよな。

誰も知らねえ、よく分からねえ場所への突入が控えているんでい。これくらいの俺の我儘は許されるだろう。

無事に帰ってこられる保証は一切ねい。

娘に幸せな思い出を与えたかったのかもしれねえな。

これが今生の別れになる可能性も高けような。

戦死するのが、狂犬か、奏か、それとも俺か。それは誰にも分からねえんだよな。因果な商売だぜ。

結婚式を強行させたのはやりすぎだったか。

普段の俺であれば、こんな強引な手段はとらねえし、子供の人生を親の都合で介入はしたくねえよ。

だけどよ。良かった。奏の奴、綺麗だったな。あんなに喜びやがって。

俺より小和泉の奴が良いってか。ああ、親より恋人が良いってのは仕方ねえことなのかねえ。今もまじめに仕事してやがるが、口許が弛み切ってやがる。

くそ。腹が立ってきやがった。あの笑顔が狂犬によるものだと。

ようし、明日から狂犬の奴をこき使ってやるか。―

前線司令部の説明を聞きながら、菱村は小和泉を使い倒すことを心に決めたのだった。


菱村に酷使されることが知らぬところで決定された小和泉にはするべき仕事は無かった。

最下層に向け突入できる様に準備をするだけだったが、整備大隊による入念な整備の結果、装甲車も複合装甲「九久多知」も万全の状況であり、整備の必要性は認められなかった。あとは、出撃命令を待つばかりであった。

突然、背中に一筋の冷や汗が流れた。寒気を感じ、思わず体を震わせた。

「錬太郎様、どうかされましたか。」

桔梗が心配そうに小和泉の顔を覗き込んだ。

「いや、大丈夫だよ。ちょっと寒気を感じただけだよ。」

「風邪かも。熱計る。」

衛生兵である鈴蘭が、応急鞄から体温計を差し出す。

「良くない気配がしただけだよ。心配してくれてありがとう。」

小和泉は鈴蘭が差し出してくれた体温計を優しく押し戻した。


小和泉率いる8312分隊は、自分達の装甲車の後方を待機所に定め、円陣を組み床に座っていた。複合装甲やプロテクターを外し寛いでいた。

特にすべきことが無いため、配給されたばかりの夕食を早速食べていた。

戦場では、いつ戦闘が始まるか分からない。食事できる機会があれば、その機会は逃さない。他の小隊や分隊も小和泉達と同じ様に夕食を始めていた。

小和泉は前線司令部より配給されたセラミックス製の弁当箱の蓋を開けた。

中に入っているのは、サンドイッチと生野菜のサラダだった。

夕食がサンドイッチなのは荷崩れしにくく、トラックが大きく揺れる荒野を輸送するのに向いている為だろう。

生野菜が配給されるということは、現在のところ補給は問題無く行われ、荒野の占領を維持しているのだろう。

サンドイッチは、間違いなく自動調理機で作られた物だった。切り口や中身が画一的だったからだ。手作りならではの不均等さが無かった。

とりあえずサンドイッチにかぶりつく。口の中に合成食品の一味足りない味気なさが広がっていく。

炒り卵ならば、大きさが全て統一され、黄色い固形物に卵のような味を香料でつける。ハムであれば、均等に桃色をした円盤に肉のような味の香料をつける。

極力、本来の味に近づけようとされているが、香料で誤魔化している為、美味いと感じることは無い。不味くは無いが、美味くも無い。

だが、他の隊からは不満の声は聞こえない。

桔梗の手料理を知らなければ、小和泉も不満に思わなかっただろう。

「うん、桔梗のごはんの方が圧倒的に美味しいね。やっぱり、自動調理機は不味くはないけど味気ないよね。」

「お褒め頂き、ありがとうございます。四人分の朝食でしたらご用意できますが、如何なさいますか。」

小和泉の言葉に機嫌を良くした桔梗が笑顔を向けた。

「そうだね。地下に潜ったら戦闘糧食ばかりになるだろうし、桔梗に甘えちゃおうかな。」

「はい。お任せ下さいませ。配給される朝食に手を加えさせて頂きます。

ところで錬太郎様。九久多知の腰回りの物が気になるのですが、それは新武装でしょうか。」

桔梗は、装甲車の側面の鍵爪に引っ掛けている小和泉の複合装甲の腰回りを指差した。

九久多知は、装甲車にだらしなく寄りかかっている様に見えた。上半身の各部装甲が開放され、いつでも小和泉を受け入れる状況になっていた。

下半身はズボンの様に滑り込ませるため、装甲は開放されていない。下半身の装甲を開放する時は、整備する時か、負傷した時くらいだろう。

中に小和泉が入り、装甲を閉め、起動させれば、出撃できる。

「九久多知の腰回りのこれって何だろうね。僕、何の説明も受けてないんだよね。」

九久多知の腰を一周する様に、直径五センチ程の多関節型曲管が増設されていた。

「確かに前の戦闘ではありませんでしたね。錬太郎様。」

「複合装甲の尾てい骨の辺りから生えている。」

「先端は穂先になっております。宗家。」

桔梗、鈴蘭、カゴが増設された曲管を面白そうに観察する。

「あの狂科学者は、何をさせるつもりなんだろうね。口頭や書面で説明してくれても良いと思うんだけど。」

「別木室長とは連絡をされていないのですか。」

「説明を求める手紙は送っておいたけど、返事がないね。多分、説明する気が無いのかな。」

「それ、実験に支障あり。」

「案外、何も知らない状況でも作動するかが、実験内容かもしれないよ。」

「有り得ます。別木室長と多智先生ならば、やりかねません。」

「僕は所詮実験動物なのさ。まあ、何が起こるか楽しみにしておこうよ。」

「かしこまりました。」

「了解。」

「宗家の思われるが儘に。」

そんな雑談をしつつ、夕食を終えた。


二二〇三年七月二十七日 二〇五一 OSK 上層部 前線基地


全裸で寝袋に潜り込んだ小和泉の両側に全裸の桔梗と鈴蘭が潜り込んできた。

無論ここは装甲車の荷室だ。

これから行われることを人様に見せつける様な趣味を小和泉は持ち合わせていない。

小和泉の二の腕に二人の双丘が挟まれ、足を絡められる。

温かい体温が全身に伝わる。そして、熱い吐息が小和泉の首筋にやさしく吹き掛けられる。

「さすがに今日は大人し目にしようね。明日の作戦に支障が出るからね。」

小声で小和泉は二人に囁く。

「では、錬太郎様だけ達して下さいませ。ならば、私がお守りすることができます。」

と桔梗は言うと小和泉の耳を甘噛みした。

「私もそれで問題無い。」

鈴蘭は小和泉の充血した物を優しく掌に包み込む。

小和泉は二人に為されるがまま身を任せ、そのまま達すると眠りについた。

ちなみに遠くから恨めしそうな視線を感じた様な気がしたが、三人共それを無視し、己の欲望に従うことにしたのであった。

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