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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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274/336

274.〇三〇七二一OSK攻略戦 OSK入場

二二〇三年七月二十七日 一八〇三 OSK 上層部 前線基地


現在、KYTとOSKを結ぶ荒野は、人類の支配地域となっている。

二週間にわたる月人との戦闘の結果、OSKへの押し込めに成功したのであった。

今まで月人を抑え込むことができなかったのは、敵の拠点がどこかにあるか不明であった為だ。敵が何処から出現し、どこに帰還するのか。それは長年、総司令部が欲していた情報であった。

831小隊が持ち帰った情報により、月人の本拠地がOSKにあり、そのOSKの座標も特定された。本拠地と言っても、実は前哨基地の一つに過ぎないのかもしれない。

そればかりは実際に制圧してみなければ、分からないことであろう。

制圧後も月人が現れれば、他にも基地がある。現れなければ、本拠地である。

単純ではあるが、そういうことになるのであろう。

まずは、ここを本拠地と考え、過小評価せずことにあたるべきであろう。

優秀な頭脳を持つ人材を集めた総司令部であれば、月人を誘導し、OSKに閉じ込めることが可能であった。

人類の勢力圏を地上に確保する第一歩がここに刻まれたのは確かなことであった。


作戦の進捗は、予定よりやや遅れているそうだが、今まで数十年近く足踏みをしていた人類の歴史に比べれば、ほんの些細なことであった。

OSKへの行程は平穏なもので、第八大隊と月人の戦闘は一度も行われなかった。

月人の生きた姿は地上には無く、月人九割、日本軍人一割の死屍累々が荒野に広がっていた。それらを行政府から依頼された民間の回収業者が、戦死者の回収と月人の資源回収を忙しく行っていた。

戦死者は丁重に扱われ、月人の死体は乱雑にトラックの荷台へと放り込まれていった。

回収業者達は稼ぎ時と見て、KYTと戦場の間を忙しく、休憩する間を惜しんで往復していた。いつ戦闘が再開するか誰にもわからない。回収業者達は安全が確保されている内に稼ぐつもりなのであろう。

月人の死体はキロ単価で買い取られる。

兵士の遺体は五体満足に繋がっている方が高い報酬が出る。遺族感情に配慮した結果だ。

バラバラ死体よりも綺麗な死体。遺族のもとに返すにしても、言い方は悪いが遺族の受けが良いからだ。

回収業者達は、それゆえに自然と手足が千切れぬ様に兵士達の遺体の取り扱いが丁重になるのであった。

月人の死体は貴重な資源である。命の水と呼ばれている分解槽に放り込むだけである。肉塊だろうが、五体満足だろうが結果には関係ない。

分子分解され食料にも薬にも衣料品にもなるだけだ。

物資不足が解消されないKYTの行政府が、その有用な資源を見逃すはずは無かった。

これは戦闘後の見慣れた光景である。

もっとも兵士の遺体も軍を経由して遺族に引き渡され、葬儀と言う名の元に最後は命の水へと還元される。これも重要な資源であることは、誰も口には出さないがKYTに住む人間の常識であった。

小和泉達も菜花や他の戦友を送っており、そのことは身をもって知っていた。


第八大隊は多数の装甲車やトラックに踏む固められた荒野を進んで行く。踏み固められたおかげで普段よりも装甲車の振動は少なく、速度も出せた。

見渡す限りの死体の海に小和泉達の口は重く、必要最小限度の命令を交わすのみであった。

やがて、装甲車の正面に空中に揺蕩う砂塵の中に黒く平たい物が映し出された。

それは荒野に黒い皿が伏せている様に見えた。近づくにつれ、みるみる視界いっぱいに広がり、それは巨大な建造物であることが分かった。

建造物は地上にほんの少しばかり、つまり地下都市の一層分だけを地表に露出させていた。

複合セラミックス製の装甲板を多用した外壁とその屋上からは幾条もの黒い煙が上がっていた。日本軍の総攻撃により外殻を覆っていた土砂は吹き飛ばされ、可燃物か延焼弾が炎上した後なのだろう。

さらに小和泉達は建造物へと近づくと、KYTの正門とよく似た大門がはっきりと視認できる様になった。

大型トレーラーが楽にすれ違える大門の隔壁は大きく開放されていた。

日本軍の輜重隊がKYTから運んできた補給物資を内部へ整然と運び入れており、荒野とは対照的に活気に満ちていた。

地下都市OSKの発見。資源回収。人類の勢力圏の拡大。新情報の獲得。

様々な期待が地下都市OSKに寄せられていた。

そんな中を小和泉所属の第八大隊の車両群は、OSKへと入場していった。

都市の構造はKYTと変わらない。第一層は巨大な空間となっており、多目的に使用でき、外壁沿いに下層へと至るスロープが巡らされ、中央には地下都市の大黒柱と基幹交通である大小のエレベーター数基をまとめた中央交通塔があった。

先日、小和泉達が無線送信をする為に走り回った場所だ。あの時は何も無く、伽藍堂であったが、現在は組み立て式の二階建ての簡易建造物が数棟組み立てられ、前線基地として運用されていた。

周囲にはどこかの大隊の装甲車が配備され、月人の奇襲に備えていた。


前線司令部より小和泉達が指定された待機場所は、荷捌き場の様な何も無い巨大な空間だった。そこへ装甲車を一定間隔で整列させ、次々と停車させていく。

ここが今回、第八大隊に割り当てられた区画であり、一晩明かす場所でもある。

明朝に出撃する第八大隊には、前線基地の部屋は用意されなかった。

一晩だけの為に部屋を用意するのは、時間と労力の無駄と判断された様だ。

本当は収容する予定ではあったが、前線基地を建造中であり、大隊を収容する余裕が元々無いのかもしれない。

恐らく、日本軍らしい効率主義が発揮されたのだろうと小和泉達は思い、深く考えていなかった。

OSKの内部であれば、天井がある。大門が開放されていてもエアカーテンによりに外気とは遮断されている。空気清浄機も空調も効いており、室温や湿度は快適に設定されており、放射線量も気にするほど高くは無く除染されている。

念の為、食後に放射能排出剤を服用すれば、体内に取り込んでしまった放射能も体外に排出することができる。

荒野の塹壕に寝泊まりすることと比べれば、充分に快適な空間であり、文句を言う者など存在しない。ヘルメットを脱げるだけで快適な空間と言える。

荒野は砂塵と放射線に汚染された世界であり、気密されている野戦服とヘルメットとそれに附属する空気清浄機が無ければ、外気に触れることすらままならない。

食事をする度に気密テントの入口に設置されているエアカーテンで表面の砂塵と放射能を除去してから、居室へ入ることができ、そこでようやくヘルメットを脱ぐことが許され、食事にありつける。

食事と言ってもいつもの味気ない戦闘糧食を腹に詰める作業であり、楽しいものでも無い。

それに比べれば、部屋が無いことは些末な問題だった。

この環境が気に入らなければ、気密テントを立てても良い。もしくは、狭いながらも装甲車の荷室に寝ても良い。どちらでも個人空間は確保できる。

だが、戦場でその様な空間を求める馬鹿者は、古強者が集う第八大隊には存在しない。前線に立つと、不思議と羞恥心は消え去り、着替えや清拭は人目を気にせずに堂々と行う様になる。それが当たり前であり、凝視する者もいない。逆にコソコソ隠す様な態度を取る方が怪訝な表情で見られてしまう。日常の常識と戦場の常識は、全く違うという一面であろう。

巨大な荷捌き場に装甲車を駐車した後、兵士達は自由時間となった。自由と言っても前線でできることは限られている。食事、仮眠、整備、談笑。運動。その程度だ。

飲酒や現場からの離脱などは御法度である。さすがの小和泉も人目の多い状況では、軍法に反することはしない節度は、多少持っていた。

激戦前と思えぬ静けさの中、第八大隊は最後になるかもしれない平穏な夜を過ごしていた。

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