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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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263.同時刻に起きしこと

二二〇三年六月二十七日 一〇一五 KYT 日本軍総司令部


総司令部は、地下都市の何処に存在しているか秘匿されている。

住民は勿論、日本軍兵士ですらその所在地を知ることはない。

そこに勤める司令部員ですら、毎日更新される通勤経路を情報端末通りに進まねばたどり着けなかった。

総司令部は、体育館の様に広く、薄暗い部屋の中、ひな壇が部屋の大半を占めていた。各席には情報端末操作盤が設置され、薄暗い中、モニターの照明に司令部員の顔が浮かび上がっていた。ひな壇の下から見ると幽霊の集まりの様だ。

ひな壇の正面にある壁は全面が大型モニターとなっており、それを幾つもの画面に分割され、様々情報が表示されていた。

ひな壇最上段にある防爆ガラスに囲まれた総司令官室に首脳部が集まり、その情報を見つめる面々の眉間には皺が寄っていた。

その中心に座る柔道家体型の総白髪の五十代の男は、腕を組んだまま目を瞑り、部下達の報告を静かに聞いていた。七本松元帥。日本軍の総司令だ。つまり最高責任者である。

「831小隊が持ち帰った装甲車及びヘルメット装備のカメラの膨大な画像データから、OSKの戦力及び構造は割り出せました。また、一番に役立ちましたのは、OSK主要情報処理設備からの吸い上げた情報の一部です。これの吸い出しに成功したことは大変意義が深いです。これにより、仮称・機甲蟲の性能が明確となりました。

敵勢力に狼男と兎女だけでなく、機甲蟲という新たな武装が判明した事は重要です。今後の作戦を立てる上で必要な要素です。

なお、831小隊の隔離と検疫は終了し、病原体やウイルス等の汚染は確認されませんでした。」

と司令部員の一人が淡々と報告書を読み上げた。

司令部員が読み上げる報告書は、首脳部の携帯型情報端末に配布されており、再確認でしかない。

まだ口を開こうとする司令部員を七本松は片手を上げそれを制した。

即座に場が静まり、七本松の言葉を待った。

「報告は既に読み、頭に入っている。展望もしくは実施予定の作戦を説明せよ。」

しわがれた老人の様な声を発する。だが、見た目はもっと若い。実年齢は五十代後半に差し掛かったばかりだ。昔の戦闘で声帯を傷つけられたことが原因なのだが、本人は治療する意志が無かった。若き頃の己の未熟さを忘れぬためだ。

だが、歳を取り、元帥の地位にまで上り詰めるとその声色は、部下へ畏敬の念を抱かせるようになった。

存在感のある低い声。元帥が指示を出す声には、貫禄があった。

「ちなみに、831小隊は一週間の休暇の後。」

「小隊のことは、大隊長に任せよ。ここで些事を上げる必要は無い。大計を述べよ。」

「失礼致しました。」

七本松は司令部員の報告を一瞬で断った。

日本軍総司令部の七本松元帥にとって、831小隊は駒の一つでしかない。ただの一個小隊という数字だ。それ以上でもそれ以下でもない。

それは差別でも区別でも無い。他の小隊と同じなのだ。そこに人間性や感情はこもらない。ただ、ひたすらに平等なのだ。それが七本松という男だった。

それ以降、淡々と会議は進んだ。

そして、小和泉達を更なる修羅場に放り込む作戦が立てられていくのであった。


二二〇三年六月二十七日 一〇一五 KYT 士官寮 小和泉自室


小和泉は、自室の寝室で全身を覆う気怠さと満足感と開放感を堪能していた。

同時に、全身に圧し掛かる心地よい重み、柔らかさ、滑らかさ、温もりを満喫していた。

小和泉のベッドは、ダブルサイズの大きさであるにもかかわらず、狭く身を自由に動かすことは叶わなかった。

三人の娘が裸体で小和泉の裸身に絡みつき、穏やかな寝息を立てていたのだ。

床には四人分の日本軍の制服と様々な色の下着が、乱雑に脱ぎ散らかされていた。

―さすがに二日昼夜連続は激し過ぎたかな。

今回の戦闘で欲求を満たすことが、一度も出来なかったんだよね。

せっかくの鉄狼もカゴが美味しい所をもっていったし、機甲蟲なんてオモチャは、いくら壊してもつまらないしね。やっぱり、死ぬ時の悲鳴や絶望の表情は欲しいよね。オモチャは壊れるだけで何の反応が無いから単なる破壊作業になるんだよね。

で、その欲求不満を三人に全力で吐き出しちゃったよ。ちょっと、やりすぎたかな。

でも、奏はすぐに失神しても回復したらすぐに襲い掛かって来るし、鈴蘭は医療技術を悪用して僕の急所を攻めたてて来るし、桔梗は僕が二人の相手をしている隙を狙って日頃触らせない部分を執拗に嬲って来るし、どれだけ厭らしい子達になったのやら。

さてさて、誰のせいだろうね。って、やっぱり僕しかいないよね。

はあ、出し過ぎで腰が流石に軽いよ。ここまで吐き出したら今日は十分だね。満足、満足。―

小和泉は唯一動かせる右手で近くに居た前髪に小さな三つ編みをしている髪を優しく撫で続けた。

小和泉に絡みついていた娘は、恋人である東條寺、桔梗、鈴蘭の三人であった。


KYT帰還後、軍立病院へ隔離されると防疫検査に放り込まれた。検査結果が出るまで病室で今回の報告書を書き上げ提出をした。もっとも本文を書いたのは、桔梗であり、小和泉は最後に署名しただけなのだが、分隊長としての義務は果たした。

異常なしと診断された後に開放され、その後、四人で小和泉の寝室に引き籠り現在に至る。

四十八手以外にも考えられるあらゆる手管で三人娘を翻弄し、彼女達を隅々まで堪能し、小和泉が疲れたところを逆襲されるということを繰り返していた。

食事もこの部屋で適当に摘まめる物を持ちこみ、ひたすらに快楽に耽っていた。

睡眠も果てた時にとり、目覚める時は愛撫による快楽が引き金となった。

ようやく四人の体力が尽き、落ち着いたのが先程だった。

この部屋は濃い男女の獣の臭いが充満している。すべての汗や体液などは、この場で放出し、ベッドが吸い込んだ。誰も帰宅してからこの部屋から一度も出ていない。

恥ずかしい姿は、お互いに全て晒し合った。

四人の身体は、何かしらの液体で滑り、光っていた。

―このマットレスは使えないな。交換するか。施設課からまた怒られそうだな。先月はスプリングが折れて交換。半年前は表面を裂いて交換。これは始末書かな。でも、頑張り過ぎて汚しました。ごめんなさいなんて書けないよね。

そうだ、奏に文章を考えさせよう。うん、そうしよう。きっと良い文章を考えてくれるだろう。

桔梗に任せると官能小説になりそうだし、鈴蘭に任せると経過報告書になるよね。

うん、二人は駄目だね。交換してもらえなくなるね。

さてと、今日は何しようかな。―

ベッドに転がっているボトルを手に取り、中の水をゴクゴクと飲み干す。中身は半分以上零れてしまっていたが、小和泉の渇きを潤す分はあった。


二二〇三年六月二十七日 一〇一五 KYT 士官寮 鹿賀山自室


鹿賀山はカーテンが閉め切られた寝室にてベッドの上で静かな寝息を立てていた。部屋の角に置かれた間接照明が仄かに橙色の明かりで部屋を染める。

ベッドのそばの椅子には、日本人形の様に肌が白く、漆のような光沢を放つ黒い長髪の少女が座っていた。少女は、レモン色のワンピースに白いエプロンを着けていた。

少女は、戦死した父親から贈られた促成種の一種である愛玩種のウネメだった。一人暮らしである鹿賀山の身の回りの世話をする為に買い与えられた。

ウネメはサイドテーブルに洗面器とタオルと髭剃りを並べ、鹿賀山の顎に白く柔らかい泡を優しく塗ると、髭剃りで鹿賀山の無精ひげを剃り始めた。

鹿賀山は帰宅してから、風呂に入り、一度食事をとった後は眠り続けていた。

肉体的疲労よりも精神的疲労が鹿賀山を蝕んでいたのだ。

鹿賀山が食事をしない為、ウネメの時間には余裕があり、毎朝、髭を剃るのがこのところの習慣となっていた。

鹿賀山は髭を剃られる感覚に身をよじろぐことがあったが、その前兆をウネメが見逃すことは無かった。危険を察すると髭剃りを肌から即座に離した。

髭を剃り終えると濡れタオルで泡を奇麗に拭き取り、新しい濡れタオルで顔全体を優しく拭う。

鹿賀山に額にうっすらと浮かんでいた汗も綺麗に拭うと鹿賀山の表情が和らいだような気がした。

「清和様。早く、お話しをしとうございます。ですが、ウネメは五体満足、無事にご帰還されたことを心よりお喜びしております。ゆっくりと英気をお養い下さいませ。

そして今だけは、錬太郎様や薫子様を忘れ、ウネメに独占させて下さいませ。」

ウネメは何度繰り返したか分からぬ独白の後、鹿賀山の髪を優しく撫でながら、主人の目覚めを待ち続けた。

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