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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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249/336

249.〇三〇六二〇偵察作戦 避難後の証言

二二〇三年六月二十一日 〇三三五 OSK下層部 第三特殊武器防護隊司令部 記録庫


小和泉は、半ばまで読んだ本にしおりを挟み、休憩を入れた。

コーヒーを飲みたいところだが、今は飲食物を節約しなくてはならない。補給は無い。

狂犬と呼ばれようとも、その位の分別はつく。

ゆえに水をほんの一口だけ口に含み、湿らすだけで済ませた。

久しぶりの水分によるものか、頭が回り始めた。

おぼろげながら、当時の情勢がわかってきたような気がする。

―日本は、何かしらの攻撃を受けた。シェルターである地下都市へ避難をした。

恐らく攻撃は、月人による隕石攻撃なのかな。ゆえに地震とは違う大振動を感じた。

避難が許されたのは、二十代前半までの若年層以下。地下都市の収容人数の関係だろうね。

安定した労働力にならず、子を産めない。つまり、役立たないと判断された人間は、政府に見捨てられたわけだね。

無理に避難してくる中年以上は、自衛隊の武力行使により排除。

非常に分かりやすい話だな。労働もでき、子孫も残せる二十代前半以下の子供から青年だけを生かす選択を政府がしたのかあ。―

まるで機械の様な判断であった。そこには人間の感情は一切含まれていない。

だが、もっと恐ろしいことはここから始まる。それは避難後だ。

小和泉は再び頁をめくり始めた。


氏名:斉藤道明

性別:男

年齢:15歳

職業:中学生


よし。やっぱ、俺って選ばれた人間なんだ。

クソ生意気な大人をぶっ殺せるって聞いて自警団に入ったけど大正解。めっちゃ楽しい。

銃の撃ち方なんて簡単じゃん。安全装置を外して、レバーを引いて、狙って引き金を引く。

楽勝じゃん。

今日は団長から不法居住者狩りを頼まれた。相棒の根暗野郎と一緒に巡回に出る。相棒は一切喋らない。だが、目だけはギラギラしてやがる。俺と同類なんだろう。メッチャ気が合う。

仕事は簡単。シェルターの居住許可証を持たない大人を見つけてぶっ殺す。

殺した人数だけ、普段より良い飯にありつける。大嫌いな大人を殺して、良い飯を喰らう。

最高じゃねえか。俺向けの仕事だぜ。奴らは勉強しろ、真面目にしろ、将来困るぞとしか言わねえ。で、勉強しなかったけど将来困ってるかって。困ってねえよ。

あいつ等負け組。俺勝ち組。昔、最低。今、最高。ざまあ。

おおっと、あやしげな毛布を発見。俺は銃を構え、根暗野郎に毛布を剥させる。

四十歳位の男だ。面を見せてもらうぜ。

こりゃ驚いた。俺の親父じゃねえか。生きてやがったのか。なら簡単だ。

引き金を絞る。弾が三発発射され、顔面を潰し、後頭部から脳みそがはじけ飛ぶ。

ああ、すっきりした。日頃は威張り散らし、家族全員に暴力を振るう粗大ゴミが、一瞬で生ゴミになりやがった。さっぱりだぜ。俺は何も間違ったことしてねえよ。

生ゴミを壁際の再生用ダストシュートに蹴落とす。はい、処理完了。

これで夕食、アップグレード確定。

罪悪感。そんなんもんねえよ。俺が正義だろ。


氏名:木下和喜

性別:男

年齢:45歳

職業:外科医


私は運が良かったのだろうか。それとも悪かったのだろうか。

警報が出る前に自衛隊に拉致され、地下都市の病院に軟禁された。

周囲の状況は、分かっている。二十代後半以上の人間は、政府に見捨てられた。見殺しだ。

地下都市に無理やり逃げ込んだ者も狩りだされている。

同じ人間同士、助け合いは出来ないか。そう自問自答した時もあった。

だが、私も病院から一歩でも外に出れば狩られる側になる。居住許可証を確認する前に殺される。

子供達は、大人と見れば即座に発砲する。条件反射の域に達している。実際に病院の窓から何度もその光景を見ている。

恐ろしくて病院から一歩も出られない。そう私は弱虫なのだ。

外科医と言う職種技能がなければ、私は自衛隊に保護されなかっただろう。

訳も分からぬうちに核の炎に焼かれていたに違いない。

私と同じ様に特別な職種技能を持った大人は自衛隊に拉致され、保護下にある。

恐らく、次世代へ技術の継承をしないといけないからだろう。

だから、私には十代後半から二十代前半の助手が数人ついている。

この子達に外科手術を教えている。だが、怖い。教え終わったら私はどうなる。お役御免で処分されるのだろうか。だが、医者を育てるには数年はかかる。つまり、それまでは大丈夫だ。次の世代にも教育できる。役に立つことを証明しなければならない。役に立つ間は、殺されないだろう。

とりあえず、不安を紛らわせるために手術にのめり込む。今のところ、仕事に困ることは無い。

何せ、不法居住者が集団となり、反政府組織を立ち上げたのだ。それゆえに自衛隊と自警団が共同戦線を張り、反政府組織と地下都市内で殺し合いをしているのだ。

子供と大人の凄絶な殺し合いだ。己の生存権を獲得する為だ。ゆえに手加減は存在しない。

一度、ぶつかり合うと次々に急患が運び込まれてくる。銃創だったり、切創だったり、打撲傷だったり、様々な暴力の跡を見る。

よくもこれだけ人を傷つける方法を人間は産み出すものだ。呆れてしまう。

それを片っ端から治していく。そうしなければ、私が役立たずと判断されてしまう。

それだけは嫌だ。何が何でも運ばれてくる子供達を救わなけれならない。

そう、己の保身のためだけに。


氏名:和田道音

性別:女

年齢:20歳

職業:看護師


地下シェルターに避難する時にドタバタしたみたいだけど、私は知らない。

命が助かったんだもん。どうでもいいや。

でも、ここの生活は退屈。運び込まれてくる患者の世話ばかり。娯楽が無いのよね。最悪ってその時まで思ってた。

でも、自分が娯楽にさせられるなんて思いもよらなかった。

あの時、病院から出るんじゃなかった。それからが最低の日々になった。

病院で提供される配給は、病院食兼用なので味が薄いの。だから、外に行って濃い食事がしたかっただけ。

でも、自衛隊から許可が下りなかった。護衛に割く余裕は無いってさ。残念。

だから、こっそり抜け出しちゃった。

これが大失敗。いい匂いをさせている配給所があったから並んでたのが運の尽き。

反政府組織の配給所だった。食事にもありつけず、目隠しされて拘束されちゃった。

あとは、狭い部屋に監禁され、代わる代わる中年親父が私を好き勝手していく。

経験人数は人より多かったから、そうなんだろうなと思ってたけど、予想通りオモチャにされちゃった。

ああ、オモチャが欲しかったのは私なのに。こういうのは経験上、歯向かうのは駄目。

殴られ損だもん。くそ親父に媚を売るのは簡単。ウリで慣れてるし。

数日後、自警団の襲撃があった。むかつく親父共は皆殺しにされて、ようやく解放。

内紛が終わるまで病院で大人しくしておけば良かったな。

アフターピル効くかな。


氏名:清川利美

性別:女

年齢:16歳

職業:無職


シェルターで炊き出しのボランティアしながら生活してた。

炊き出しする方だと味見とか残り物をちょろまかしたりして、人より少しは多く食べられる。

これって重要。配給少ないもん。

でも、この炊き出しもヤバイ。反政府組織が狙いをつけるようになったって。

あいつら、飯も水も無いもん。なら、炊き出し襲ったら飯にありつけるじゃんって。だから狙われてるって話聞いた。

ぼちぼち、ここも潮時かなあって思ってたら襲われた。逃げ損ねちゃった。

自警団と反政府組織との銃撃戦ってやつが始まった。

床を這いずり、敵から逃げる。絶対に頭を上げちゃ駄目。

今も体の上をバンバン弾が通り越しているもん。

何とか公園の植え込みに身を隠せた。ラッキーだと信じたい。

えっ。ウソ。自警団やられちゃったの。反政府組織が略奪始めちゃったよ。

あれ、慧ちゃん、澪ちゃん何で連れてかれるの。嘘でしょ。あいつ等の目的は飯でしょ。

女の子は関係ないじゃん。あ、剣君、太志君が撃たれた。男は要らないってことなの。

じゃあ、あいつらの目的って。絶対に許さない。友達を助ける。

って、勢い込んで自警団に入ったけど返り討ちにあっちゃった。

下半身吹き飛んじゃちゃった。もう戦えないかな。

でも、二十人以上はやったし、慧ちゃんは助けたよ。

今、病院についたけど何か気が遠くなってきちゃった。

横で仲間が叫んでるけど、そろそろ静かにしてくれないかな。寝れないじゃない。

あれ、澪ちゃんじゃん。剣君も太志君もいるじゃん。元気にしてた。じゃ、久しぶりに遊びに行こか。


小和泉は、本を閉じた。

シェルター内で人間同士の抗争が初期にあった様だ。

許可者と不法居住者の対決だ。無論、自衛隊と自警団の勝利で終結した。

これにより二十代後半以降の人間はシェルターから一掃された。一部の技術保有者を除いてだが。

この本により、地下都市の年齢比率が歪である理由がハッキリとした。

シェルターが支えられる定員は限られている。

ゆえに収容許可が下りたのは、長く労働ができ、子孫を残せる零歳から二十代前半の若人に限定されたのだ。感情を抜けば、理論としては正しいのだろう。

よくもこの様な苛烈な選択を当時の政府は実施できたものだ。政府中枢の人間は、避難該当者にならないにも関わらずにだ。

余程、月人の攻撃に恐怖を感じ、保身を捨てる程に追い込まれ、若人に未来を託したのだろうか。

それとも今とは違う行政組織があったのかもしれない。


―これは、電子化できない訳だよね。この内容が漏れれば、当時の日本政府の対応を糾弾され、無政府状態へ突入したかもしれないかな。よくもまあ、ここまで割り切った政策を取れたものだね。

びっくりだよ。

となると、他の本も同じ様な危ない内容の本かな。うん、これ以上知らない方がいいよね。面倒事に巻き込まれるよね。丁度、当直の時間だし、お仕事に戻りますか。―

小和泉は本を読書台に置き、複合装甲「九久多知」に手をかけた。促成種の様に防具を急所に当てるだけでは無いので、どうしても装備に時間がかかるのだ。

その為、桔梗達を起こす前に九久多知の装着を済ませることにしたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもよかったです 閉鎖空間のいびつさとモラルの無さが悲惨ですねえ
[気になる点] 当時の証言集なのかと思いますが、そもそも配給にも余裕がない中で本を作る余裕など無いように感じます。書かれている内容についてもただ「混乱している状況」を示すだけで、特に残すべき内容でもな…
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