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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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221/336

221.〇三〇六二〇偵察作戦 幻想空間

二二〇三年六月二十日 一一一五 OSK下層部 旧大阪駅 エレベーターホール


831小隊の装甲車三両は、極力静かにエレベーターホール前へと侵出した。

ここまで敵の圧力や索敵を感じることは無かったし、無論遭遇する事も無かった。

ホールの中の大量に舞っていた埃も地面に落ちたのか、今は奥まで見通すことができた。視界を邪魔する物は無かった。

髑髏による結界が境界線だったのかもしれない。

今は存在しない髑髏の結界を越えない限り、敵は動くつもりが無いのかもしれない。

それとも背後に回り、後方遮断を目論んでいるのかもしれない。

かもしれない、かもしれないの繰り返しだ。

それらを確認する術は、小和泉達は持ち合わせていない。

正確な情報を少しで得るために、現有戦力で威力偵察を行うしかないのだ。それは皆の共通認識でもあった。ゆえに臆病な井守ですら、恐怖を抑え込み、士官らしい精一杯の演技をしていた。


「これよりホールへ突入する。動く物があれば即座に破壊しろ。確認する必要は無い。撃たれる前に撃て。情報収集は情報端末による自動記録に任せ、戦闘に専念せよ。

運転手、機銃手以外はアサルトライフルにて敵を撃ち壊せ。ガンカメラの情報も重要だ。

情報を集めるだけ集め、分析は後回しとする。気がついた点があれば即時報告。それが生死の分岐点になるかもしれん。我々は必ず生還する。戦闘予報の死傷確率なぞ覆す。

総員、突入用意。」

鹿賀山の気合いの入った声が小隊無線に響く。

すでに全員準備は出来ている。

「8312、良し。」

「8313、良し。」

「8314、良し。」

各分隊長が短く返答する。その声に恐れや懼れは無い。いや、隠しているだけだろうか。

「突入。」

鹿賀山の命令と同時に一号車がホールへ入る。円形のホールを時計回りに外壁に沿って進んで行く。すぐに二号車、三号車も後を追う。

停止すれば、ただの的になってしまう。その為、円形ホールを縦列にて、周回する方法を選択したのだった。

最初に発砲をしたのは小和泉だった。視界に動く小判型の機械を捉えた。反射的に機銃の照準を合わせ、引き金を絞る。十発ほどの光弾が機械へと吸い込まれ、活動を停止した。次の瞬間には、装甲車の移動により照準から外れている。結果を確認することはできない。ガンカメラに記録された映像を見れば、敵の形や損害を確認できるのだが、鹿賀山の言う通り、後回しにされた。それを何度も何度も繰り返していく。

「はい、一匹目。ほい、二、三、四、ええい、たくさん。」

小和泉は誰よりも早く敵を見つけ、次々と破壊していく。

敵は起動に時間がかかる様だ。

他の者達も同じ様に、起動し始める機械へと光弾を叩き込む。ホールを一周する頃には、四方八方を敵に囲まれていた。その四方八方には、壁と天井が含まれていた。

いつの間にか、敵は壁や天井に貼りつき、床だけの二次元を警戒するだけでなく、壁や天井も警戒の必要性が発生し、三次元の戦いへと移行していた。

時の経過とともに、銃撃の数よりも敵の数が勝り始め、敵の撃破数よりも起動数が圧倒した。


「あらら。これは想像していなかったよ。大量だね。装甲もつかな。」

機銃の引き金を絞ったまま、小和泉が嘆く。

「錬太郎、文句は言わずに撃ちなさいよ。」

アサルトライフルを銃眼から突き出し、連射し続ける東條寺が小和泉の独り言に反応する。他の者は、いつもの事だなと聞き流していた。二人の絡みに口を挟む様な無粋な者は、この装甲車内には居ない。

「ええ。ちゃんと壊しているよ。特に天井の方の機械をね。側面の銃眼じゃ上は狙えないでしょう。僕って、ちゃんと仕事をしているよね。」

「うっ。そ、そう。仕事をしているのならいいのよ。そうね。上を頼むわよ。」

「はいは~い。」

東條寺の小言を軽く聞き流しつつ、多数の機械を小和泉は機銃の光弾により撃ち砕く。破壊された機械は、重力に抗えず、細かな部品をバラ撒きながら床へと落下していく。

装甲車に落ちる物、床に落ち引き潰される物が装甲車の内部へ不快な振動と衝撃音を届ける。

まるで機械の悲鳴の様だ。


「敵、発砲。」

運転をする愛が報告を上げる。数十条の光線が三両の装甲車に降り注ぐ。

「被害報告。」

「被害軽微。装甲の表面を軽く削られました。貫通は無し。ですが。」

舞が被害報告を言い淀む。

「報告は正確にせよ。」

「タイヤに着弾した場合、数発で破裂する可能性あり。要注意です。」

「全車、タイヤへの着弾に気をつけろ。進路を予測させるな。蛇行機動を取れ。」

『了解。』

「他の者は、敵を壊せ。反撃の暇を許すな。」

エレベーターホールに光弾と光線が入り乱れる。絶え間ない発砲により闇は消え去り、煌々とホールを照らす。

831小隊の隊員達に、回転運動と不整地走行に蛇行という高機動が加えられる。乗員へ強い慣性力が働き、座席に押し付けられる。自然種は複合装甲が衝撃を吸収し、促成種は生まれつき与えられた強靭性により耐え忍ぶ。

その様な状態で射撃を行う装甲車からは、敵の詳細な形を目まぐるしく変わる視界で判断することは不可能だった。

何とか、小判型の機械を識別、発砲を繰り返す。狙い撃つ余裕は無い。イワクラムの無限に近い弾数頼みの光弾をバラ撒くことが精一杯であった。


円形のエレベーターホール内を三両の装甲車が蛇行しながら、時計回りに高速で走り続ける。床に横たわる人骨は砕かれ、埃と化して舞い上がり、視界を塞ぎ始める。

「入口、防火シャッターが降ります。」

東條寺は、エレベーターホールと連絡通路を繋ぐ入口の天井から落ちてくる防火シャッターに気がついた。

どうやら、ホール内の銃撃戦により生じた熱か直撃弾によりシャッターの留め具が熔解した様だ。

「構うな。民生用の防火シャッターなど、装甲車の体当たりで破壊できる。それより、スプリンクラーの動作はどうか。」

鹿賀山はシャッターよりもスプリンクラーの作動による水の影響、視界不良及び足元が悪くなることの方を憂慮した。

「スプリンクラーの動作確認できません。」

「ならば、問題無い。ホールの敵を駆逐せよ。」

「了解。掃討を続けます。」

東條寺のその言葉と同時に防火シャッターは完全に閉じた。

―防火シャッターは、停電時にも動作する様に重力式だ。動作しても不思議ではない。

だが、スプリンクラーは経年劣化でタンクやどこかのパイプが破れていれば、水はホールに来ない。数十年放置されている施設だ。十分、有り得る話か。

さて、このまま戦闘を続けても問題無いのか。それとも即座に撤退すべきなのか。―

鹿賀山は一人悩む。戦闘中にノンビリと他者の意見を求めることはできない。指揮官として、一人で判断しなければならない。

「敵の増加率はどうか。」

鹿賀山は判断材料が少しでも欲しかった。

「増加率減少中。ホール外からの流入は認められません。現状のままで排除可能。ただし、戦闘終了後、装甲の三割が失われる見込みです。」

東條寺の報告に鹿賀山の腹は決まった。

「弾幕をもっと厚くしろ。装甲に高圧電流を流せ。機械であれば、体当たりして短絡させて破壊できる可能性がある。早急に敵を排除しろ。」

「了解。高圧電流流します。二号車、三号車も高圧電流を流せ。」

「了解。電流流す。」

「了解、流しました。」

東條寺の指示に従い、蛇喰と井守も装甲車に高圧電流を流した。

―よし、スプリンクラーの故障はこちらに味方したな。水が流れれば、感電の可能性があり、高圧電流は使えなかった。

ならば、戦闘続行だ。装甲車の装甲が擦り減るか、敵が擦り減るかの我慢比べか。我ながら情けない戦い方だ。知略も戦術も無い。力押しとはな。―

鹿賀山は、そんなことを考えつつ状況の把握に努めた。


装甲車の外では、敵の光線が装甲を削り、こちらの光弾が敵を撃ち砕く。

埃舞う中に眩い白い光が交差し、撃ち砕かれた敵から黄色い火花が飛び散り、装甲車からは削られた装甲が真っ赤な火の粉となって装甲車に纏わりつく。

装甲車と接触した敵は、高圧電流にからめとられ、溶接時に出る様な青白い光と赤い火花が同時に飛び散らせ、爆散する。

それらの強烈な光が敵を埃に映しだし、まるで影絵の様であった。

それはそれは、幻想的な光景を生み出していた。

―美しい戦場なぞ認めない。殺し合いをしているのに、美しいだと。ふざけるな。命懸けのイルミネーションなぞ認めん。こんな戦場は、こんな戦い方は、私のやり方では無い。―

鹿賀山の心に自己嫌悪が芽生えていた。831小隊の兵士達の命を預かり、自身の命も懸けている。戦場に美の要素は必要無い。必要最小限度の危険と大きい安全余力を用意して戦いに臨むのが鹿賀山の戦術論でもあり戦略論だ。

―身を敵に完全に晒し、敵の武力を装甲車の防御力だけで受け止める。こんな力づくの戦闘は私の望むものではない。幻想空間なぞ消えてしまえ。―

部下には聞かせられない鹿賀山なりのささやかな悪口あっこうであった。

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