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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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193/336

193.FKO実証試験 地下に広がりしもの

二二〇三年四月二十九日 〇一〇二 KYT西三十六キロ地点


8314分隊は、行動規範を忠実に実行し、小まめにキビキビと身体の向きを変えつつ、真っ直ぐに進軍していた。

身体の正面にて、索敵を行う基本に忠実な動きであった。だが、真っ直ぐに歩くため、動きの予測は簡単についた。

一方、8312分隊は身体から力が抜け、ゆったりと、だが、前触れも無く進行方向を幾度と変えつつ、進軍をしていた。アサルトライフルには銃剣が装着されており、出合頭の遭遇戦に備えていた。

また、棒立ちでは、敵から狙われやすいため、無作為に進行方向を変え、狙撃を躱す狙いがあった。

以前は、この様な行動をとる必要は無かった。しかし、先日の戦闘により月人に鹵獲されたアサルトライフルで射撃をするという新たな戦術を得ていた。

蛇喰の8314分隊の行動はもう古い。敵の射線を切る動作を入れなければならないのだ。

あと8314からは衣擦れやかすかな足音が聞こえるが、8312は完全に無音だった。

分隊長の考え方による相違であった。

―あらら。分隊行動に変化無しか。教本通りじゃ狙い撃ちは簡単だよね。あと、着剣もしていて欲しいよね。それを僕が指摘したら、蛇喰の奴、話を聞いてくれるかな。でも言わないと損害が出るよね。蛇喰の部下は何も悪くないよね。面倒だなあ。どうしようかなあ。鹿賀山に言わせようかなあ。―

と悶々としていると蛇喰の方から声をかけてきた。

「小和泉大尉。貴官の分隊は、行動規範に従い、真面目に索敵行動をしなさい。」

「いやいや、蛇喰。僕の隊は、とても真面目だよ。進軍も静かでしょう。君の隊は賑やかだよね。音を消した方が良いと思うな。敵に存在を知らせているみたいだよ。」

「日本軍にて長年研究されてきた手法です。間違いはありません。8312が直すべきです。」

「教科書通りには、戦争は進まないよ。先の戦いでは、月人は銃を撃ってきたよね。もう忘れたのかな。」

小和泉の指摘に蛇喰は押し黙った。数瞬の考察のあと蛇喰は口を開いた。

「わかりました。貴官の言う通りでしょう。8312の行動指針については目をつぶりましょう。8314はこのまま行きます。今すぐの変更は連携が取れなくなる可能性が生じるでしょう。今後の課題にしましょうか。ですが、私の命令には従ってもらいます。」

「ちゃんと命令を守っているよね。蛇喰は心配性だね。」

「当たり前です。今のところは命令を遵守していますが、貴官は独断専行が過ぎます。今後も命令遵守する保証にはなりません。」

「大丈夫。大丈夫。今回は、ちゃんと命令を守るよ。」

「その言葉、信じられません。行動にて示して下さい。」

「はいはい。了解。了解。」

そこで、小和泉と蛇喰の鞘当ては終わった。小和泉達は、新しい局面を迎えてしまい、蛇喰へ着剣を勧めることを言いそびれてしまった。


スロープが水平となり、四車線の幅広い通路の左右には、更に広大な空間が広がる地点へと辿り着いた。

入口付近には巨大で長い障害物であるコンテナが無数にあり、隠れるところに困ることはなかった。

入口付近に幾つも積まれているコンテナの陰に小和泉達は身を潜めた。

さすがに小和泉だけでなく、全員が死傷確率が確実に跳ね上がったのを感じていた。

小和泉達が辿り着いた場所は、巨大な倉庫が通路を挟む様に北側と南側に広がっていた。

道路脇の車寄せは荷捌き場になっていた様で、トラックの荷台と同じ高さの土台になっていた。

もちろん、電源は生きていない。照明は一切無く、真の暗闇が広がり、肉眼では己の掌ですら見ることは叶わない。

兵士達は、ヘルメットのバイザーに表示される暗視装置を通した画像を見ている。古典映画に出てくるような暖色や冷色で表示はされない。黄昏時に近い昏さの中、肉眼で見るのと近い。

不定期にノイズがバイザーに走るのが目障りだが、慣れてしまえば気になることは無い。整備員の話では、自動感度調整の折にでる現象らしい。現在のところ対処方法は見つかっていない。その内、改善されるだろう。

暗視装置が補足している範囲しか、見通すことができないのが大きな欠点だった。

視界が狭いということは、敵や異変を見逃す可能性が高くなるということだ。

地下の探索は、小和泉達の精神を少しずつ削っていく。


倉庫には、人間を圧迫するかの様に輸送用の大型コンテナが多数積み上がり、さらにその奥には機械部品を整然と並べた金属製の棚が数十個も天井近くまで整然と並んでいた。

棚の上には、大きな部品だとソファーの様な椅子やガラス製の扉などがビニールに包まれていた。小さな部品になるとギヤ、ナット、ボルトといった見慣れた物が規格別に細かに分類されていた。幾千種類もの部品が棚に整然と収納されていた。

コンテナや棚の間は、車が余裕で通れる幅があった。車載したまま資材を搬出入できるようにするためだろうか。

「錬太郎様。この建物は何かの工場でしょうか。部品置き場と考えるのが妥当でしょうか。」

桔梗が小和泉へ分隊無線を通じて疑問を表した。

「地下にあるのは不自然。地上にあるのが自然。」

鈴蘭が疑問を追加する。

「そうだよね。地下に工場を作るには、建築費や維持費が地上に比べて割高になるよね。はてさて、何の施設だろうね。」

「旧軍、自衛隊の設備でしょうか。」

「旧軍の施設にしては、警備設備が貧弱だよ。出入口に耐爆耐弾性能は無かったよ。

やっぱり民間の施設だろうね。」

「民間施設にしては大がかり。地下にあるのも不可解。旧日本国の設備の可能性あり。」

「そうだね。鈴蘭の言い分が可能性高いのかもしれないね。わかっているのは、月人には住みやすそうだということかな。気をつけようね。」

『了解。』

三人の返事と同時に蛇喰から命令が下りた。通路の南側の倉庫から探索をするとのことだ。

蛇喰の隊が前衛をはり、後衛に小和泉の隊がついた。

見通しが悪いため、広さが良く分からぬ未知の空間の南側へと慎重に足を踏み入れた。


蛇喰達は、コンテナを常に背負うように通路の奥へと進んでいく。

様々な状況が蛇喰の脳裏に浮かんでは消えていく。

―この角から月人が飛び出してくるのですか。いませんか。

では、上から飛び降りてくるのでしょうか。いないですね。

ならば、背後から忍び寄る可能性もあります。それは小和泉に任せましょう。―

小隊無線は、皆の呼吸音だけを流し続ける。ノイズキャンセルも可能なのだが、緊急時の小声の警告や口笛による合図など、仕様外の音声を消音してしまう可能性が考えられ、ノイズキャンセル機能の搭載は、見送られた。命に関わることだ。聞こえないよりも雑音であろうと聞こえた方が死傷確率の低下に繋がると考えられていた。

その為、誰もが文句や愚痴の一つも零さず、沈黙を守っていた。

月人の足音。呼吸。何でも良い。音を聞こうと耳を澄ませていた。少しの変化も聞き逃せない。

暗視装置の視界は狭いからだ。些細な動きでは、見逃す可能性が高かった。ゆえに聴覚が重要だった。

ヘルメットについているマイクが周囲の音を拾い、内部のスピーカーがリアルタイムで再生する。マイクとスピーカーは複数あり、現実と同じ音場をヘルメット内で再現している。

ヘルメットを着用している事を忘れさせるほどの再現度の高さだ。

そして、登録されている音源によっては、モニターに警告表示などが出される。

月人の足音や唸り声などが警告音源に該当する。

現在のところ、モニターには何も警告は表示されていない。

蛇喰は、額にうっすらと脂汗を滲ませつつ、耳を澄ませ、奥へと進んだ。


奥に進むにつれ、コンテナを積み上げた区画の終端に辿り着いた。この先は、天井まで高くそびえる金属製の棚が並ぶ区画となる。棚と棚の間には、何かしらの部品が置いてあるが、隙間から棚の裏側を見通すことができる。

こちらから見通すことができるのであれば、敵からも見通すことができる。

コンテナの様に身を隠す遮蔽物が無くなったのだ。

蛇喰の緊張度が高まる。自身の心拍数の急上昇がモニターに表示され、警告が表示された。

―体は正直ですね。ですが部下にこの様な無様は見せられません。―

蛇喰は落ち着こうと深呼吸を繰り返す。その成果が表れ、すぐにモニターの心拍数は通常値へと戻り、警告表示は消えた。

「告げます。コンテナ区画から棚区画へ移動します。棚区画は視界がどこまで通るか不明です。警戒範囲を広げなさい。以上。」

蛇喰は小隊無線で告げた。その声は喉が渇いているのか、少しがさついていた。

『了解。』

8312と8314の隊員達から返答が入り、蛇喰は一歩を踏み出した。

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