表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/336

108.〇三〇一一五作戦 十字砲火

二二〇三年二月一日 一一三四 SW20基地


戦闘予報。

銃撃戦です。地中よりの不意打ち及び戦闘機動に注意して下さい。

死傷確率は5%です。


戦術モニターに数字が表示され、桔梗が作戦開始の秒読みを始めた。

「五、四、三、二、一、今。」

その合図に合わせ、小和泉達は引き金を絞った。

時刻は一一三五。作戦開始は予定通りに始まった。

全装甲車から一斉に光の弾が撃ち出され、基地へ次々と吸い込まれていった。

装甲車からの十字砲火は、静かに光弾が飛び交うのみだった。一昔前の砲弾の発射音などは無い。

エネルギー弾の発射も無音化されている。敵に襲撃を伝える様な発射音は、武器には不要だった。

イワクラムから抽出された電気は、機銃やアサルトライフルにより高エネルギー弾へと濃縮され、SW20基地へと降り注ぐ。

十字に交差した光は、布地を折る様な模様を作り出し、幻想的な光景であった。

だが、作り物の光景では無い。真逆である破壊の光景だった。

建物は高エネルギー弾に焼かれ、耐久限界値を超えた複合セラミックスが割れ、砕け始めていく。

その破砕音や破裂音を、装甲車の集音マイクが拾う。時間経過と共に、壊れていく建造物の崩壊音が、増加していった。

エネルギー弾が壁を貫通し、基地内部にあったシーツや軍服などの可燃物に引火する。常に火種を撃ち込まれ続けている為、火の回りは早かった。あっという間に基地は、炎に包まれ、燃え上がった。

その様な状況になっても、装甲車装備の機銃は、連射速度は遅くなるが、エネルギー圧縮に時間をかけ、一発の破壊力が高いグレネードモードにて建造物を破壊し続けていく。

アサルトライフルは、装甲車の銃眼から銃身を突き出し、目につく物を片っ端から連射で穴を開けていく。

月人の奇襲から身を守る為、手の空いている者は、車載カメラの映像を網膜モニターに表示し、周囲を警戒していた。


機銃のグレネードモードによる基地の破壊。

土煙と炎と黒煙が舞い上がり、その中を砲撃と炎から逃げ惑う輪郭がハッキリとしない黒い人影。

アサルトライフルの連射による無差別の掃射。着弾に伴い、舞い踊る何か。

黒い人影は、月人だけでなく、人間も含まれていたかもしれない。

だが、第八大隊の全装甲車は、そこには微塵の戸惑いも迷いも躊躇いも無く、全火器によるフル射撃を五分間続けた。

作戦立案時は、良心もあり、躊躇いもあった。

生き残りと思える者を発見した場合に撃ち方を止めるべきか。だが、話し合いが行われ、ある者は現状に納得し、ある者は感情を飲み込み、ある者は思考を停止させ、作戦は決定された。

第八大隊に損害を出さない為、撃ち続けると。ゆえに作戦通り、五分間、一度も射撃が途切れることは一切無かった。

命令が下りれば、戦闘機械と化すのが軍人だ。その様に軍人は、仕込まれている。

「全隊、撃ち方止め。地点甲より地点乙へ移動開始。第二段階へ移行せよ。」

大隊無線から副長の命令が下る。一斉に装甲車が移動を開始する。

基地破壊に伴い、もうもうと舞う土煙と黒煙による視界不良となり、数メートルが視認できる範囲だった。可燃物は、高火力によって一瞬で燃え尽き、火災が発生する余裕すら無かった。

高エネルギー弾による射撃の為、基地と装甲車は高熱を帯びていた。温度センサーは真っ赤に染まり、物体の判別がつかず、意味を為さなかった。

第八大隊は、盲目に等しい状況となった。これは予測され、作戦に組み込まれていた。

あらかじめ、戦術ネットワークに上がっているナビゲートを信じ、装甲車を進めていく。

さすがの鈴蘭も緊張しているのか、運転の緩急がやや強かった。僚機との接触に気を使い、指定された速度を順守し、網膜モニターに表示されたナビのルートを忠実にトレースした。

いくら鈴蘭が正確に運転をしても、僚機が正確に運転できるとは限らない。

時折、運転用外部表示ディスプレイに土煙の中から急接近してくる僚機の姿を捉えた。ルートを外れた僚機は、慌てて正規ルートに戻り、土煙の中に消えていく。目的地に着くまで、これを何度も繰り返した。


第八大隊は、接触事故を起こすことなく、月人を警戒しながら、遠回りしつつ基地の南西部へ展開した。丁度、基地を中心にして正反対に回ったことになる。

事故無く作戦が進んでいるのは、装甲車の運転を一定水準に達する者に任せたのが、功を奏したのだろう。

鹿賀山の分隊が装甲車を運転していれば、接触事故を起こして擱座し、ここまでたどり着けなかっただろう。

「所定位置到着。まもなく、土煙、晴れる。」

鈴蘭が作戦で指定された地点乙に到着したことを告げる。

他の装甲車も停車し、走行音が聞こえなくなりつつあった。

「銃身を交換。亀裂や劣化の可能性を考慮する。そのまま使うのは、今回は無しだよ。」

小和泉は、この程度の斉射で壊れる様な銃身では無いと知っている。だが、嫌な予感が背中を押す。こういう時は、その予感に従った方が、生存率が高くなる事を経験上、知っていた。

『了解。』

桔梗、菜花は、小和泉の命令に疑問を挟まず、即座に機銃とアサルトライフルの銃身を交換開始する。

菜花は、月人に襲われる危険性があるにも関わらず、躊躇いも無く天井ハッチを開き、装甲車から身を乗り出して、装甲車の屋根に固定されている機銃の銃身の交換を開始した。

小和泉も熱により橙色に染まっているアサルトライフルの銃身を交換し、装甲車の壁に設置された回収用のラックに使用済の銃身を放り込んだ。複合装甲を着けているので、熱さは感じない。小和泉が交換を済ませる間に、二人も交換を終わらせ、同じ様に回収用ラックに使用済みの銃身を投げ入れた。

土煙が晴れる前であれば、菜花が外部に出ても敵に襲われる可能性は低いと考えていた。

もしも月人に襲われても、友軍のフォローがあると信頼していたが、何事も無かったことに小和泉は心の中で安堵した。


「撃ち方用意。命令があるまで警戒しつつ待機。」

小和泉は、戦術ネットワークに上がっている時刻表を確認し、命令を下した。次の斉射までほんの少し時間があった。

『了解。』

菜花は、機銃の遠隔操作に問題無いかを再度確認し、小和泉と桔梗は銃眼からアサルトライフルを突き出し、残骸と化した基地に照準を合わせた。

鈴蘭は、装甲車の状況を確認した。タイヤの空気圧やサスペンションの異常、先の掃射時における味方の誤射による損害が無いか、端末を操作する指の動きは滑らかだった。

一方で、お荷物扱いの鹿賀山と東條寺は、網膜モニターに表示させた車載カメラの映像で哨戒を行っていた。それしか出来る事が無いのだ。だが、死傷率を下げる重要な役割であった。


斉射後の即時移動により、月人の追跡は振り切った。周囲の土煙は収まり、温度センサーも正常値となった。

小和泉の網膜モニターには、廃墟と化したSW20基地が映った。数分前までの立派な建造物の面影は一切無かった。

戦術ネットワークに数字が点った。射撃開始の秒読みだった。

同時に桔梗が秒読みを始めた。

「五、四、三、二、一、今。」

先程と同じく全力射撃を行う。全装甲車から光弾が基地跡へと吸い込まれていく。

再び舞い上がる土煙。だが、黒煙は上がらなかった。可燃物は一斉射目で燃え尽きてしまった為だ。

一斉射撃は続く。二射目も五分間撃ち込むことになっている。一射目とは逆方向からの十字砲火。これで、死角無く、全てを射線に捉え、基地を斉射できるはずだった。

曇天による暗闇の中、基地を焦がす光弾が眩しかった。

土煙の中、かすかに動く物があれば、そこへ銃撃が集中した。

皆、それが月人ではなく、破壊された何かの欠片だと分かっていても攻撃を加えずには、いられなかった。

「全隊、射撃停止。現場より離脱。地点丙へ向かえ。」

五分間が過ぎ、大隊無線に基地から数キロ離れる命令が下りた。作戦は第三段階へ移行した。

一斉に装甲車からの射撃が止み、装甲車は指定地点へ走り出す。

土煙で周囲が見えないのは一斉射目と同じだが、一度経験した事により、今回は蛇行する装甲車は少なかった。

程なく、基地から数キロ離れた地点丙へ第八大隊は集結した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ