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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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103/336

103.〇三〇一一五作戦 第八大隊出動

二二〇三年二月一日 〇七三〇 KYT 南門


戦闘予報。

奪還・救出戦です。同士討ちの危険性があります。発砲には十分気をつけて下さい。

死傷確率は10%です。


小和泉が所属する第八大隊に出動命令が出た。小和泉は、夜明け前に叩き起こされ、病院を強制的に退院させられた。寮に戻る暇も無く、現場に復帰した。同時に営倉入りの処分は、満了扱いとなった。

小隊控室に着いて、与えられた情報は、『戦闘予報』と『SW20基地、手前にて待機せよ』だけだった。

聞いたことが無い基地名だったが、ブリーフィングで説明があるだろうと気にしなかった。

小和泉の怪我は、既に癒えている。営倉入り期間を快適に過ごす為、入院していただけだった。慣れた動作で複合装甲を着込むと、すぐに装甲車へと乗り込んだ。

小和泉が乗り込むと同時に待機していた桔梗がアサルトライフルと銃剣を渡した。

「点検整備は完了しております。安心してお使い頂けます。」

入院中は、武器の類を触る機会は無かった。その間、桔梗達が整備をしてくれていた様だ。

「みんな、ありがとう。助かるよ。」

小和泉の感謝の言葉に車内にいる三人から照れる気配を感じ取った。

「こちら、菱村だ。てめえら、さっさと目を覚まして、ついて来やがれ。出るぞ。」

大隊無線から流れる菱村の声が、進軍を命じた。ほのぼのとした雰囲気が一瞬で霧散した。

地下都市の外部隔壁が開き、地上へと第八大隊の装甲車群は進み始めた。

「隊長。道路を確認。野外に道路あり。」

珍しく、運転手の鈴蘭が興奮した声で報告を上げた。

小和泉には、鈴蘭の放つ言葉が理解できなかった。聞き直すより自分の目で見た方が早いと判断した。

小和泉は端末を操作し、装甲車の車載カメラの映像を網膜モニターに投影した。

そこには舗装はされていないが、平坦な道路があった。

日本軍は情報開示を一切しない。作戦時になって初めて知ることが多い。この様な道路が地下に籠っている内に出来上がっているとは知らなかった。

「隊長、本当に道だよ。すげえな。前にパトロールに出た時は無かったすよね。」

菜花も同じ様に外の様子を見ている様だ。

「日本軍の秘密主義は、相も変わらずと申しましょうか。ちなみにOTUに関する全てが軍事機密になっておりますので、口外できません。隊長、注意して下さい。」

桔梗から新情報を聞いた。OTUの事は、一部の軍人しか知らない様だ。ならば、一般人は今後も別都市の人類と接触があったことを知ることは無いのだろう。表の歴史から抹消、いや存在していないことになったのだ。


小さな変化は第八大隊にもあった。第八大隊第三中隊第一小隊に第四分隊が補充されていた。

補充されてようやく一個小隊の定数になっただけだ。中隊定数を満たすには、あと三個小隊が必要だったが、このペースではいつ充足するかは分からない。新兵だけで構成された小隊は、壁にもならない。居ない方が楽だった。

小和泉が入院という名の営倉入りの間の組織変更だった。見舞に来ていた鹿賀山や桔梗達から聞いていた為、驚きも感想も無い。ただ、懸念はあった。

8314分隊の分隊長が、蛇喰じゃばみれつ少尉であることだった。

蛇喰少尉と小和泉が顔合わせるのは、二年ぶりだろうか。もしかすると、総司令部で顔を合わせているかもしれないが、小和泉は覚えていない。

小和泉にとって蛇喰は、ただの士官学校同期の一人でしかないのだが、相手には含むところがある様だ。何故かライバル視をされている。以前、同じ隊に居る時は、蛇喰が小和泉へ一方的に突っかかってきたことがあった。小和泉にとって興味の無い男だった為、眼中になかった。

だが、今となっては大尉と少尉という目に見える階級差が、蛇喰に現実を突きつけ、大人しくなっていた。しかし、蛇喰の内心までは分からない。


「蛇喰少尉と一緒の小隊になったけど、僕の入院中に、何か有ったかい。」

小和泉は、装甲車に搭乗している三人にたずねた。

「ございません。軍人らしい行動をとられていました。」

桔梗の答えは、軍人らしいの部分に棘がある様に感じた。

「相変わらず、部下を命令だけで使ういけ好かない奴っすよ。」

菜花の返事で棘の理由が分かった。

「8314分隊、練度不足を確認。831小隊への影響軽微。」

鈴蘭の報告でおおよその実情は掴めた。

蛇喰は、何も成長していないのだ。頭は固く、上意下達を第一とし、部下を道具として見ている。軍の在り方としては、正しいことは理解できる。

だが、人間は抑圧されると真価を発揮できない生き物だ。そこの折り合いをつける術を知らないのだろう。もっとも小和泉は逆に人間の本能に忠実過ぎるのが、軍から目をつけられている理由だろう。

鹿賀山の元には、使いづらい士官が二人も居ることになった。

「鹿賀山達に迷惑をかけたばかりだし、今回は自重するよ。

状況は良く分かったよ。一応、警戒はしておこうか。僕ら831小隊の穴になりそうだからね。

蛇喰のフォローに回ることになるかな。」

『了解。』

三人から同時にハモる様に言葉が返ってくる。この耳に心地良い感覚は、小和泉が自分の居場所に帰ってきたことを実感させた。


二二〇三年二月一日 〇八三一 SW20基地 北東三キロ地点


第八大隊は、SW20基地まであと三キロの地点の扇形に展開していた。

第八大隊司令部の装甲車に中隊長以上が集合した。

第三中隊が一個小隊しかないため、鹿賀山は小隊長であったが、中隊長待遇に扱われ、そこに居た。

ここにも小さな変化があった。新型装甲車が一台配備されていた。

今までは、全部隊共通の六輪装甲車を使用していたが、司令部用に新型八輪装甲車が配備された。

八輪になったことにより、全長が伸びた。司令部専用車両という事で後部のケーブル敷設機器は取り払われ、デッキ部分は車体部分に拡張された。

これにより、車内空間は広々とし、定員四名だった六輪装甲車は、定員十名に拡張され、大隊司令部が二台の装甲車に分乗する必要は無くなった。

前二列は、固定式だったが、後二列の三人掛けシートは、折り畳むことにより、車内でのブリーフィングも可能となった。操作端末は、天井から可動式アームにぶら下がっている為、シートを折り畳んでも端末を操作することに支障は無かった。

今は、ブリーフィングを行う為、後席のシートは床へ畳み込まれ、司令部要員と中隊長が集まっていた。


夜明け前に起こされたばかりの鹿賀山も状況を知らない。このブリーフィングを聞き逃すことは、大隊の生死に関わる。言葉の裏も読むつもりで参加していた。もっとも菱村がそんな回りくどい事をする性格ではないと理解していたが、総司令部はそうではないのだ。

「さてと、今回の〇三〇一一五作戦は、OSK捜索が主任務だ。OSKを発見するまでの仕事だが、ちょいと事情が変わちまってな。その支援作戦を行うんだが…。副長、あとは頼む。」

菱村は説明が面倒になったのだろうか。頬の傷跡をなぞりながら、副長に後を任せた。

「では、本官が説明する。〇三〇一一五作戦の為、前哨基地として、三キロ先にSW二〇基地が建設されている。そこには捜索任務に就く第五歩兵大隊が配属され、工兵隊が拡張工事を続けている。」

副長が端末を操作すると基地の見取り図がディスプレーに表示された。

「この道路は、北門に接続し、基地内部に入れる。一方、南門は封鎖されている。周囲はフェンスで囲まれているだけで、基地内への突入は容易だ。

地理的説明は、この辺りでいいだろう。

昨晩、総司令部と第五大隊が音信不通になったとのことだ。

駐留しているのは、第五大隊のみ。工兵隊は通いの為、基地には居ない。その他の状況は、全て不明だ。

我々は基地に侵入し、状況を確認する。その結果次第で、次の作戦が決定される。つまり、偵察作戦だ。

偵察は、第二中隊に一任。方法も任せる。他の隊は、この場で待機。第二中隊から支援要請があれば即応する。以上だ。

質問を許可する。」

副長が居並ぶ士官達を見渡した。


第二中隊隊長が手を上げた。

「偵察方法は、隠密性重視でしょうか。」

「内部に生存者がいる可能性は有る。隠密性が保てるのであれば、それに越したことは無い。」

「つまり、状況によっては強行偵察でも良い訳ですね。」

「現場の判断に一任する。全ての責任は、大隊長が持たれる。」

「了解です。

では、次に生存者を発見した場合、即座に保護もしくは回収でしょうか。それとも。」

「第二中隊に損害が出ないことが前提条件だ。任務遂行に支障が出ないのであれば、吸収して戦力化しても構わない。任務遂行の邪魔になるのであれば、大隊司令部に報告を上げるだけで良い。適当にやれ。」

「全て現場にて、適時判断に任せるということですか。了解です。第二中隊としては助かります。」

そう言うと第二中隊隊長は敬礼をした。聞きたいことは無いという意思表示だった。

「他に質問は有るか。」

副官が士官達を見回した。

他の者達が挙手をし、質疑応答が続けられるが有益な質問や情報は無かった。

鹿賀山に聞くべきことは無く、静かに自分達が置かれている状況を判断し、何を為すべきか考えていた。

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