第21話
「トウヤさんっ!」
「「「「お兄ちゃんだっ!!」」」」
子供達がサヤを抜いて俺めがけて走ってくる。次々と飛びかかってくる子供達を受け止めた。
「お前達、久々だな! 元気にしてたか!」
「元気にしてたよっ! おっぱい姉ちゃんも一緒に住んでたしな」
……なんだ、そのおっぱい姉ちゃんって……。あ、ルミーナのことか。納得だ。
サヤが子供達の後からゆっくりと歩いてきた。
「トウヤさん、お久しぶりです。本当に色々と支援していただいてありがとうございます。お陰で子供達もこんなに大きくなるくらい食べさせてあげられました」
「サヤも元気そうでよかった。ルミーナから聞いたけど、逆に迷惑を掛けちゃったみたいだな。ごめん……」
俺が軽く頭を下げると、勢いよく「そんなことはありません」と否定してくる。
「ルミーナさんがいてくれたお陰で、養護施設の周りには悪い人もいなくなりましたしね。子供達の面倒を見てくれるし、本当に助かっています」
悪い奴はきっと、ルミーナに目を付けて返り討ちにあったんだろうなと簡単に推測できる。
それでも子供達含めて全員が元気そうでよかった。
「それならよかった……。それで……っ」
袖を引かれてそちらに視線を送ると、子供が俺の袖を引っ張っていた。
「――久しぶりだな、レオル。元気にしていたか?」
俺の言葉に名前を覚えていたのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。
忘れる訳がない。冒険者ギルドまで銅貨三枚だけを持ち、サヤを助けるために必死になって動いていたんだ。
だからこそ俺が養護施設のことを知ることができたんだし。
「うん、お兄ちゃんも元気そうだね。僕たちもご飯いっぱい食べさせてもらえるようになったから、元気いっぱいだよ」
思わず俺も笑みを浮かべ、レオルの頭をゆっくりと撫でる。
「今日からもいっぱい食べていいかなら。この家がこれからお前達の家でもあるぞー!」
俺は子供達を追いかける。
きゃーっと叫びながら玄関前のホールを子供達が走り回った。
これからまた新しい生活が始まるんだなと実感する。
「おい、部屋を案内するからついてこい!」
「「「「「「は――いっ!」」」」」」
俺の後を子供達がついてくる。玄関からホールに入ってその美しさに感銘の声があがる。
「兄ちゃんすげーな! こんなところに住んでるのかっ?」
「あぁ、あちこち行くからそこまでずっと住んでいる訳じゃないけどな……」
「そうなんだー? これからは俺たちが兄ちゃんのこと出迎えてやるからな?」
子供達の無邪気な質問に思わず気持ちがほっこりとする。
走り回る子供達を案内した俺は、途中から従者たちに子供達を任せ応接室へと移動する。
部屋に入るとすでにサヤが待っていた。
やはり貴族の屋敷だから慣れないのかそわそわと不安そうにしている。
「お待たせ。子供達は従者に任せてきた。今までのこと聞かせてくれるかい?」
向かい合って座ると、従者が紅茶と茶菓子を各自に置いていく。
従者が部屋を出たのを見送ってから、サヤは今までのことを教えてくれる。
「あの後ですけど――――」
やはり昨日ルミーナの説明があった通りだった。
「そうか……これからはこの屋敷を自分たちの家だと思ってくれて構わない。すぐには無理かもしれないけど、養護施設の準備もさせるよ」
いつまでもこの屋敷に住んでも構わないが、貴族としての手前、来客などの対応もしなければならない。
個人的にはこのままではいいと思っているから、この屋敷を取り仕切っている執事から言われていた。
来客に対して失礼にあたるらしく、それならば土地を見つけて新しく擁護施設を創ればいいんだと教えられた。
確かにここは貴族街の中にある建物だ。子供達が住むのには少し不便かもしれない。
それならば平民街の安定している場所に、新しく施設を買い取るか建てるかしたほうが子供達も安心できると思う。
「トウヤさんにはご迷惑ばかりかけてしまって……」
「いいんだ。最初に声をかけるように言ったのは俺だしね。子供達と会えてうれしいし。これからもまたよろしく」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
笑顔でサヤに手を差し出すと、優しく包み込んでくれた。
そして新しい共同生活が始まったのだった。
◇◇◇
謁見の場で俺は皇帝の目の前に片膝をつき頭を下げている。
今日はアークランドであった出来事を説明し、俺に勲章を授与される日だ。
先ほどから俺の功労がひらすら読み上げられていく。
自分でやったことだが、改めて聞くと少し恥ずかしいかもしれない。
特にジェネレート王国からの交換条件や、勇者との戦いについて話が進むと参列している貴族達からは大きな声があがるほどだった。
「それでは今回の報償に移させてもらう。トウヤ・フォン・キサラギ侯爵、前へ」
俺は少し前へと進み、改めて片膝をつく。
「トウヤ、お主はルネット帝国の代表として、ジェネレート王国に対して負けない武力を見せつけ、あの勇者さえも退けた。そして多額の賠償と称してこの国に富をもたらすことになった。今回の報償として、勲章を授け、そして帝都に屋敷を一軒与えることとする」
……え? 屋敷だって? すでに帝都の中で持っているぞ?
何故いまさら屋敷を俺に渡すんだ?
疑問に思いながらも、俺は陛下に勲章を胸につけられる。
――――この勲章は……。
似ている。俺の持っている――精霊石のネックレスに。
「この勲章に使われている宝石は――――精霊石である」
その説明に対し、貴族から大きな声援があがる。たしか以前シャルに聞いたことがあった。
ルネット帝国で保管されている精霊石は片手で余るほどしかない。そのうちの一つをわざわざ俺に渡すなんて、一体何を考えているんだ?
しかも屋敷まで……。陛下の意図が読めない。
「ありがたき幸せ。これからもルネット帝国繁栄のために、貴族としての職務を全ういたします」
最後に俺が謝礼を述べて謁見は終了した。
俺は詳細の説明を受けるために別室へと移動する。
案内された部屋には文官がおり、まずは屋敷について説明を受けた。上級貴族ともなれば帝都に複数の屋敷をもつこともあるそうだ。
屋敷を与えればその管理をするための人もいる。雇用関係にも大いに助かっている。
簡単に言うと、貴族はため込まないで派手に使って平民を養えと言っているのだ。たしかにもっともな意見なのはわかるのだが、貴重な精霊石まで俺に分け与えるんだろう。
胸につけられた青色に輝く宝玉を見下ろす。
首からぶら下げたネックレスと見比べても同じ色合いをしている。
二つを見比べていると、扉が開かれ陛下が入ってきた。
俺は一度立ち上がり頭を下げるようとすると、陛下は手を振りする必要がない合図を出してくる。
「待たせてすまんな。精霊石を使ったのを貴族達に言ってなかったもんでな、少しだけ揉めたのだ」
簡単に説明する陛下の言葉に思わず苦笑する。
どっかりとソファーに座り込むト、陛下の側近の宰相まで隣に座った。
「おい、屋敷について説明してやってくれ」
「はい、わかりました。それでは屋敷について説明させていただきます。屋敷の場所は――――」
事務的な事が説明され、俺は了承する。
場所もいいが静かな場所である。あまりガヤガヤしている場所は好きではないからちょうどよかった。
「あと、これが困ったことなんだがな……」
陛下が歯に物がつまったような声で言葉を濁らせる。
「実はですね、その屋敷には――――家精霊が住んでいるんです。しかも誰も主人と認められておりません」
また家精霊か……正直フェリスがいるからもういらないんだけどな……。
あ、家精霊を移動させ、同行するのには精霊石が必要だったんだ。
だから精霊石の勲章だったのか……。
「トウヤ殿ならなんとかしてくれそうだしの。だから決めたのだ」
陛下は笑顔でそう言うが、こっちはたまったものではない。家精霊同士が意思疎通をできることは知っている。
どうなるかわからないまま俺は屋敷へと戻った。
後日、屋敷の引き渡しが行われ、俺は拝領した屋敷へと足を伸ばした。
まだこの屋敷には従者は誰もいない。家精霊が主人を決めていないから、誰も入れないのだ。
鍵を開けて扉を開ける。
もう数十年は使っていないと聞いていたが、屋敷はきっちりと管理しているようで見渡す限り綺麗にされている。
玄関ホールの中央に立つ。
「いるなら出てきてくれ。この屋敷の主になったから挨拶がしたい」
俺の言葉に反応してか、すぐに目の前には真っ白い渦が出来て、そこから家精霊が現れた。
「え、嘘だろ……」
俺は驚きをあらわにする。
なぜなら新しく現れた家精霊は、まだ一〇歳にも満たないように見える幼女だったのだから……。




