表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/112

第17話


 取りだした剣は見事なまでの細工が施されており、白銀に輝いている。誰が見てもこう思うだろう。 

あれは――――聖剣だと。

俺も初めて見るが思わず見惚れてしますほどに美しいといえる。


「……途中で武器の交換など認めてはいないはずだが……?」


 一般的な勝負では武器が破壊されてしまえば、その時点で〝負け〟は確定するのが常識で、途中で交換するなどありえない。

 戦争で生き残るためなら仕方ないが、今はダンジョンコアを掛けた戦いだ。


「逆に途中で武器を交換してはいけないなど、決めてはいないはずだが?」


 俺の質問に騎士が代わりに答えてきた。


「……ラルクス殿、それでいいのか? ジェネレート王国はそんな常識的な約束事すら守れない国となるが……?」


 俺の皮肉めいた質問に、ラルクスは眉根を寄せ、歯を食いしばる。


「……き、決めてはいないはずです。だから武器の交換は問題、ない……」


 ラルクスは聖剣を握りしめ、俺を睨む。

 相手は聖剣だ。貴重な鉱石ともいえる白銀色に輝くミスリルを使い、国一番ともいえる鍛冶師が鍛え上げ作り上げられている。

 並みの武器では数合も打ち合えば破壊されてしまうだろう。

 俺の持っているバスターソードでも黒鉄を使っているとはいえ、耐えきれるとは言えない。


「…………そうか、わかった。武器の交換を認めよう」

「トウヤ様!」

「トウヤ!」


 シャルやリーゼから声が掛かるが、俺はシャル達に視線を送り、笑みを浮かべ軽く頷く。


「大丈夫。俺は負けないから」


 絶対に負けるわけにはいかない。たとえ相手が聖剣を持った勇者だとしても。

 しかしラルクスも勝負に関しては同じ気持ちだったのかもしれない。


「……僕も負けるわけにはいかないんです。だって僕は――――勇者だから……」


 こいつ、自分から名乗りやがった。

 あれだけ冒険者の身分として、勇者のことを隠していたのに。

 聖剣を出した時点で、ジェネレート王国のメンバーも隠すつもりもないつもりだ。騎士などは余裕の笑みさえ浮かべている。

 それほどまでにダンジョンコアが欲しいのか。


「……そんな、勇者だなんて……」

「……あれが、父上の、(かたき)……」

「まさか、そんなっ!? なら、あの剣はもしかして……聖剣……」


 シャル達の表情が一気に変わっていく。

 仕方ないことだ。シャルは皇族として一度は帝都すら占領された。アルは騎士団長である父親を討たれている。リーゼも街の占領時に領主であった両親は捕らえられ処刑されている。

 ラルクスを睨みつけるが、本人もわかっていたようで視線を合わせない。


「待ってろ。絶対に勝って見せるから」


 俺は持っていた剣をそのまま地面に突き刺した。


「武器の交換はいいんだよな。なら俺も交換させてもらう」


 次元収納(ストレージ)から取り出した一本のバスターソード。

 俺以外の全員がその剣を見た途端、息を飲んだ。

 柄から剣先まで真っ黒であり、いつも使っているバスターソードより二回りも長く、俺の身長と変わらない。そしてゴツイ。

 さらに言えば装飾は禍々しく、とても冒険者が持つ物ではない。大量の獲物を倒すためだけの剣。ミスリルよりも硬質でアダマンタイト製の不壊仕様。

 懐かしいな、この武器も……。

 このバスターソードの名前は『巨人の殺戮剣(ジャイアントキリング)』といい、俺がレベル500になるまで使っていた武器だ。

 この武器は特殊性能が二つついている。ゲーム上の設定では周りに殺気を振りまき、敵の敏速度を下げるというもの。


「……すごい剣……見てるだけなのに身体が震えてくる……」


 リーゼはこの剣の怖さに気づいたらしい。それはシャル達も一緒だった。両腕を抱きながら身体を震わせて、恐怖で顔は凍り付いている。

それはジェネレート王国側も一緒だった。騎士や冒険者も同じように恐怖で身体を震わせている。

ゲームと違い、敵味方関係なく全体に殺気を振りまくのは使えなさ過ぎる……。でも俺の次元収納(ストレージ)に入っている武器では最強である。

これなら勇者(ラルクス)の聖剣にも負けないだろう。

柄に手をかけ、軽く振り回す。本当なら重いはずだが、前に持っていたバスターソードよりも軽く感じる。

これがもう一つの性能、重量軽減だ。

ゲームでも採用されていたが、敏速度はステータスや装備より計算される。重い重装備をしていれば、敏速度にマイナス補正がかかり、速度が遅くなる。

この巨人の殺戮剣(ジャイアントキリング)は自分に敏速度のプラス補正をし、相手に敏速度のマイナス補正をするレジェンド級武器だ。

振った感覚を確認し、視線をラルクスに向けるが、ラルクスは他の者と違い特殊性能が聞いている様子はなかった。


「……やはり、勇者は勇者か」


〝勇〟気がある者。それが勇者と呼ばれる由縁だ。剣の特殊性能に打ち勝つことができるようだ。


「待たせたな。では、再開しようか」


 俺の言葉にラルクスは表情を強張らせる。


「そんな禍々しい剣、初めてみました……。あなたは一体……?」

「俺に勝てたら教えてやるよ。自分がいる国が何をしたのかも、なっ」


 言葉を切ると同時に剣を振りかぶり、そのままラルクスの頭部へと一直線に落とす。先ほどよりさらに早い剣筋に驚きながらも聖剣を身構え、俺の剣を受け止める。


「……うぐっ」


 ラルクスの二本の足を中心に地面にヒビが広がっていく。

 持っている者が軽く感じているだけで、この武器は――重い。その威力はドラゴンですら一太刀で楽に首を斬りおとせるくらいの威力である。

 だからこそ巨人の殺戮剣(ジャイアントキリング)と言われる由縁だ。

 かつて狂戦士バーサーカーと言われたときのスキルは使えないが、剣を振ることはできる。

 重さを感じさせない巨大な剣を勢いよく振り回し、ラルクスを攻め立てる。


「――まさか、そんな……」


 騎士から声が漏れる。

まさかそんなことになるとは思っていなかったのだろう。〝勇者〟が負けることなどあってはならない。俺の後に召喚され、鍛えられたのはわかる。しかし、俺は一日一〇時間以上プレイした日もある。その動きは脳裏に焼き付いている。

自分がその動きをトレースしていくように動くのだ。

だから負ける理由など――――ない。

一度距離をとったラルクスは信じられないような表情をしている。

「そんな、どれだけ強いんですか……。本当にレベル52……? とても信じられない。でも……僕も負けられないんです。勇者という名前を……背負ってますからっ!」


『真空刃!』


 横薙ぎにした聖剣からは無数の真空刃が俺へと向かって飛んでくる。本当なら同じスキルで相殺したいが、生憎俺には戦士系のスキルは使えない。

 だから――――。


土壁(アースウォール)


 中級属性魔法で土の壁を作り真空の刃をすべて受け止める。いきなり現れた土壁にラルクスは驚いている。

 まぁ驚くのは仕方ない。俺は回復術師(プリースト)として説明しているし。しかし俺の職業は――賢者、だしな。魔法に関してはどちらでも問題なく発動できるし、威力もスピードも違う。

 土壁を解除して改めて剣を構え、ラルクスに向ける。


「俺もな、ルネット帝国を背負ってこの場にいるんだよ。たとえ相手が――勇者だとしても退くわけにはいかないんだ」


 今までで一番強く剣を握りしめ、一気に振り下ろす。慌ててラルクスは聖剣で受け止めたが――――。

 ――――パリンッ。

 ラルクスの持っていた聖剣が途中から綺麗に――折れた。

 俺はそのまま首筋に剣先を当てる。


「これで、勝負あっただろ?」


 笑みを浮かべラルクスに声をかける。

 ラルクスは信じられないように自分の剣を見つめ、そして諦めたように俯いた。


「まいりました……僕の負け、です……」


 ラルクスの言葉を聞いて、俺は剣を引く。そして審判に視線を送ると、信じられないような表情をして固まっていたが、俺と視線が合うと思い出したように「勝負あり、そこまで」と勝負を終わらせた。

 いつまでも殺気を放っている巨人の殺戮剣(ジャイアントキリング)を出したままにするのも問題なので、さっさと次元収納♯ストレージ♯に仕舞いこむ。

 シャル達喜びを露わにして駆け寄ってくる。


「トウヤ様! すごいですっ! 勇者をも簡単に打ち負かすなんてっ」

「トウヤさんはやっぱりトウヤさんでしたね」

「信じられない。勇者よりも強いなんて……」

「ほんと、信じられない……」


 シャル、アル、リーゼ、マイラの後にゆっくりと寄ってきたナタリーは得意げな表情をしている。


「やっぱり見込み通りだのぉ。伊達に〝賢者〟ではないってことか。わしもすぐに追いついてやるからのぉ」


 以前にもナタリーは賢者になることが目標だと言っていた。ただ、どうやってなったらいいかもわからない手探り状態だったのだ。俺という道しるべが出来てそのルートも教えてある。

 その目標に向かって今後も向かうだろう。


「信じられん。そんなバカなっ! 勇者が負けるなどあってはならないっ! お前たち、あいつを討て!」


 もう一人の騎士が冒険者たちに指示を出す。しかし、冒険者たちは俺との実力差が理解しているのか、武器に手をかけることもなく、首を横に振った。


「あれは無理ですよ……。束になってかかっても勝てっこない。冒険者は命あっての職業ですからね。無駄死になどしませんよ」

「ふんっ、使えない冒険者(奴ら)め! おい、三人掛かりでいくぞっ、ラクサス殿も立て!」


 騎士に腕を持たれ、嫌々ながらも立ち上がったラルクスに戦意などない。


「一人ならまだしも、三人ならいけるはずだっ!」


 しかし、俺の前には女性陣五人が立ち並ぶ。


「お主……トウヤだけだと思っておるのかの? わしらもおるのじゃぞ……この〝黄昏の魔女〟を相手にするということになるかのぉ」


 ナタリーは自分がジェネレート王国で知られている名前を名乗る。

 黄昏の魔女はジェネレート王国の歴史上、数十年にわたり苦渋を舐めされられた相手だ。戦時には一人が出てきただけで戦局が大きくかわるほどの大魔法を何度も放ち、ルネット帝国を戦禍から守ってきた魔女。


「……そんな……あの魔女までいる、なんて……」


 騎士も予想外の相手に力が抜け、その場で力なく座り込む。


「……だから言ったでしょう。ルネット帝国の最高戦力(・・・・)を連れてきたと。信じてなかった貴方たちがいけないのですよ。それにしても一国の皇女の前でこの始末、どうつけるのですか? 我が国の貴族を数人で襲おうとしたのですから、それなりの謝罪と賠償は用意していただけますよ、ね?」


 シャルも簡単に許すつもりなないらしい。これは最初の二億Gで済ますつもりはないってことだ。

 俺を襲うってことは、ルネット帝国侯爵家当主を襲うということだ。まさに戦争を仕掛けてるのと同じ同義である。シャルも成長したのか政治に関しても勉強したのかもしれない。

 成長したなと思いつつ苦笑した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勇者(笑)「いちゃもんつけて聖剣引っ張り出したら相手が何か超絶ヤバそうな剣ぶん回してるでござる((((;゜Д゜))))」
[気になる点] トウヤという手札を開示してこのまま逃すのは悪手が過ぎるかな 相手がしようとしたことをやり返すだけだし始末が無難 まあメタ的にはライバルというか敵になってもらわないとだから、この一戦で…
[一言] 全スキル取得可の設定はどこへ行ったのやら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ