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第16話


「まさか先を越されるなんてな……」


 ラルクスたちに同行している冒険者の一人が呟いた。

 守護者との戦いで疲れ果てた俺たちは広場に腰を下ろしている状態だ。リーゼやマイラたちは肩で息をしている。

 俺たちがのんびりとしているのをいいことに、ジェネレート王国の騎士はズカズカと広場に入ってきた。


「まさか先を越されるとはな。それで守護者はどんな雑魚だったんだ? お前たちでも倒せるなど大した魔物でもなかったのだろう」


 鼻で笑う騎士に、リーゼ達は眉根を寄せる。

 多頭竜(ヒュドラ)との戦いは、緊張の中、全員が全力を出して成し得たものだ。そんな簡単な一言で済ませられる訳がない。


「……遅い到着ご苦労なこって。無駄足になったな? 守護者はすでに倒してダンジョンコアも手に入れた。ジェネレート王国の皆さんはどうぞ帰還してくれてかまわないですよ」


 俺が皮肉めいた言葉を返すと、騎士は顔を怒りで真っ赤に染める。


「そんな雑魚の守護者を倒したくらいで粋がるな。まぁいいだろう。ダンジョンコアと守護者の魔石を――――寄越せ」


 こいつは今何と言った? コアと魔石を寄越せだと?

 流石の俺も今の言葉は許せるものではない。

 俺は同行している冒険者に視線を送る。


「お宅の国の騎士がそんな事を言っているがいいのか? この事は街に戻ってからギルドにも報告させてもらうぞ?」


 流石の冒険者もそれには苦笑を浮かべている。そのまま俺たちが帰還しギルドに報告をすれば、ジェネレート王国の冒険者たちにも何かしら罰則を受けるかもしれない。

 冒険者同士のいざこざなど日常茶飯事だし、ダンジョン内ともあれば証拠が残らなければ問題はない。

 しかし発言しているのは騎士なんだよな……。しかもこちら側には皇女までいるんだぞ。下手すれば外交問題へ発展してもおかしくない。


「このダンジョンコアと魔石は私達が手に入れた物です。あなたたちの国ではそれが常識なのでしょうか? とても野蛮な国なのですね、ジェネレート王国というのは」


 流石にシャルも黙っていられないようだった。兵士も相手が皇女だと知っているので怒りで顔を赤くしながらも口を紡ぐしかない。しかし、ジェネレート王国側としても手ぶらで帰るわけにはいかないようだ。


「……どうでしょう。そのダンジョンコアと魔石についてこちらに譲っていただけたら、それ相応の報酬を出すということで……」


 もう一人の兵士がこちら側に提案をしてくる。しかしその手に乗るわけにもいかない。


「もちろん、お断りします。ダンジョンコアは国にとっても貴重な財産ですから。しかも魔石も中々手に入らない程の強敵でしたので、簡単に譲る訳にはいきません」


 勇者(ラルクス)ならもしかしたら簡単に倒してしまうかもしれないが、それをわざわざ教える必要もない。

 ラルクスも騎士達がそんな提案をするとは思っていなかったらしく混乱しているようだ。


「もう話は終わりですよね? 俺たちは少し休憩してから戻りますので、どうぞお戻りください」

 入り口の方を指差し、騎士達に告げるが動く気配はない。


 ……そこまでしてダンジョンコアと魔石が欲しいのか。


「それでは……そちらの代表とこちらの代表で勝負しませんか? こちらが勝てばダンジョンコアを譲ってもらいます。帝国の代表が勝てば、ダンジョンコアはいりません。あと、それなりの代価を用意します」


 騎士の言葉に思わず呆れてしまう。

 なんで勝負を受ける必要があるんだ? こちらは裏ルートを使ったとはいえ、正々堂々と守護者を倒して手に入れたものだ。

 しかも、きっと出てくるのは勇者(ラルクス)であろう。だからこそ自信を持って提案してきたはず。


「……こちらが受けるメリットは何もないと思いますが……?」


 シャルも勝負を受けるつもりはないようだ。少しだけ安心する。


「では、勝負をしてもらうのに、一億(ギル)出しましょう。もし、我が王国が負けた場合はその倍、二億(ギル)お出しします。それならどうでしょうか? もちろんダンジョンコアの費用もお出しいたします」


 一億……それなりに大金だ。各街の復興には莫大な資金が必要なのはわかっている。


「……一億……それだけあれば街の復興が……」


 ぽつりと呟いたリーゼは心が揺れ動いているようだ。自分たちが治めている街もそれなりに復興が進んでいるとはいえ、手つかずの場所も多々ある。

 俺はシャルと視線を合わせると、シャルはゆっくりと小さく頷いた。

 これは断ってくれるのだなと俺も安心する。出てくるのは勇者だし、出来れば戦いたくはない。


「……勝負をするのに二億(ギル)でお受けしましょう。もしルネット帝国の代表が勝てば倍の四億(ギル)お支払いお願いします」


 …………え?

 今、シャルはなんと言った? まさかシャルが勝負を受けるとは。出てくるのは勇者だぞ。って……誰もラルクスが勇者だというのは言ってなかった……。

 思わず頭を抱えたくなる。

 シャルの言葉に言質を取ったかのように騎士は笑みを浮かべた。


「わかりました。それでお受けいたしましょう。代表者は各一名でお願いします」


 ……やられた。騎士はすでに勝った気持ちでいる。それはラルクスが出てくるのだから当たり前だ。

 三〇分後に勝負をすることになり、各国が集まって相談することになった。


「……なんで受けたんだ?」


 率直な俺の意見だ。断っても問題はないだろう。確かに俺が勝てば四億G#ギル#という大金がルネット帝国に追加で支払われることになる。その金額を復興資金に充てれば街は活性化していくだろう。


「だって、トウヤ様が負けるなんて考えられません。誰が出てきても簡単に倒してしまうのでしょう?」


 やはりシャルもアルも同じように考えていた。リーゼにいたっては「どこの修繕をしようか」などと呟きながら考え込んでいる。

 ナタリーなどは興味がないらしく、自分でも持ち込んだ菓子をパクパクと食べている。


「出てくるのはラクサスだぞ? 下手したら……」


 視線をジェネレート王国側に向ける。ラクサスは騎士の言葉に何度も頷いている。きっと色々と玉虫色の話をされているんだろう。


「強いといってもただの冒険者でしょう? そんな人にトウヤ様が負けるとは思いませんが……」


 シャルの考えは全く変わっていない。ここはラクサスが勇者だと言った方がいいのか。

 もし知られてしまったら、きっと命のやり取りになるかもしれない。実際にアルも父親を討ち取られているのだ。


 ……仕方ない。やはり俺が決めるしかないのか。



「そろそろよろしいか」


 騎士の一人が声を掛けてきた。


「わかった。すぐに行く」

「念のため、ダンジョンコアと魔石を出してもらっておいていいか」


 俺は頷き、次元収納(ストレージ)からダンジョンコアと魔石を取り出して地面に置く。

 ジェネレート王国側からは「おぉ……」と声が上がるが気にするつもりもない。

 もちろん二つとも渡すつもりもない。たとえ相手が勇者であろうと。


「トウヤ様頑張ってください!」

「トウヤさん頑張って!」

「トウヤ負けないでねっ!」

「さっさと終わらせて早く甘い物を出すのじゃ」


 ナタリーの言葉に苦笑してしまう。相変わらずだな……。

 ジェネレート王国側からもラクサスが前に出てくる。

 俺はルネット帝国を代表して一歩前に出る。


「ふんっ、そっちは魔法職でいいのかい? こっちの代表は――強いぞ?」


 ラルクスの横で鼻を鳴らす騎士がにやりと笑う。

 確かに勇者(ラルクス)が出るのだから負けるはずはないだろうと思っているだろう。

 ラルクスも自分は負けるなんて思っていないだろう。なんせ勇者として人類最強と言われているくらいだしな。ましてやこっちは回復術師(プリースト)だと思っているから尚更だ。


「そっちの代表はラルクスでいいのか? こっちが勝ったらきっちり賠償金を求めさせてもらうぜ?」


 俺と騎士の舌戦にラルクスは頬をかきながら苦笑している。


「僕がでますけど、僕はレベルが――75あります。それでも本気で挑むのですか? もしかしたら死ぬかもしれないんですよ」


 ――レベル75。


 よく短い間にそこまで上げたと思う。

 きっと俺みたいなチートアイテムもなく必死にレベル上げをしたんだと思う。

 だからこそ尊敬できる。

 ――しかし、ここで負けるわけにもいかない。


「そんな高レベルなんて……」


 リーゼは顔を青ざめさせているが、シャルやアル、ナタリーなどは勇者のレベルなど興味はないみたいだ。

 そりゃ、三人の方が正直レベルは高いからな。

 職業によるステータス優遇はあるだろうが、もしかしたら三人でも上手くやれば勝てるレベルかもしれない。

 ましてや俺は上位職だ。伊達に二度もレベルカンストをしたわけじゃない。

 職業柄もしかしたら不利なところがあるかもしれないが、それでも技術で負けることはないと思っている。

 画面越しでしか見ていなかった俺の分身#バーサーカー#の動きはきっちりと頭に焼き付いている。だからこそこのバスターソードを持ってここまでレベルを上げてきたんだ。


 ◇―――――――――――――――――――――――――――◇

【名前】トウヤ・キサラギ【種族】人間族【性別】男

【年齢】一六歳

【職業】賢者

【称号】召喚されし者

【レベル】52

【特殊スキル】鑑定 全属性魔法使用可 全スキル取得可 次元収納(ストレージ)

【スキル】剣術 体術 気配察知 気配隠蔽

【魔法】生活魔法 初級回復魔法 中級回復魔法 上級回復魔法 超級回復魔法

    初級属性魔法 中級属性魔法 上級属性魔法 超級属性魔法 特殊属性魔法

【従魔】黒曜馬#バトルホース#

◇―――――――――――――――――――――――――――◇


 自分のステータスを確認する。

 レベル的には負けているかもしれないが、俺は二度もレベルを100にしたんだと自信を持つ。

 審判は騎士がするようで、真ん中に立ち俺たちが向き合うのを待った。

 次元収納(ストレージ)から愛用のバスターソードを取り出す。回復術師(プリースト)のはずが、まさかバスターソードを手に持つとは思っていなかったようで、ジェネレート王国側も驚きの表情をしている。


「そんな武器を使うんですね。驚きですよ」

「あぁ、昔からの愛用品でね。そちらこそいいのか? そんな武器で。自分の武器ではないだろう?」


 俺はカマを掛けるように問いかける。

 ラルクスが持っている剣は冒険者が持つには上等な業物であるが、勇者としての武器ではない。勇者が持っている武器は国宝とも言える聖剣なはずだ。

 身分を隠しているのは仕方ないとしても、それで負けてしまえば二億G#ギル#という大金を支払うことになるのだ。


「えぇ、僕にはこれで十分です。武器などどれも同じですから」

「あぁ、そうか。負けてから言い訳されても困るからな」

「ご心配ありがとうございます。いらぬお節介ですけどね。僕は……負けることはありませんから」


 俺とラルクスが会話をしていると、審判をする騎士が咳をして勝負を促した。


「それでは始める。――はじめっ!」


 一気にラルクスが剣を構えて向かってくる。やはり勇者としてのステータス優遇があるのかもしれない。

 尋常ではないスピードで俺に向かい、上から剣を振りかぶってくる。スピード的にはアルよりも早いかもしれない。

 咄嗟に紙一重で一歩下がりラルクスの剣を躱す。代わりにバスターソードを振りラルクスの首を狙うと、驚いたように剣で受け止めた。


「思っている以上に強いんですね……。これなら本気出しても平気そうだ」


 ラルクスの言葉に一度距離を取り、俺も身体強化(ブースト)を自分に掛ける。手抜きをして負ける訳にもいかない。ラルクスも小声で呪文のような言葉を呟いていたので、身体強化(ブースト)をかけたのかもしれない。

 やはり勇者なのか魔法の扱いもできるようだ。俺は再度剣を強く握りしめ、ラルクスの斬撃に備える。

 ラルクスは少し離れたところで剣を振りかぶり、そして一閃した。

 ……え? っと思った時には真空の刃がこちらに向かって飛んでくる。

 スキルまで使うつもりかよ、と悪態をつきながら飛んできた真空の刃を斬り落とす。


「まさかスキルまで使ってくるとは、容赦ないな……」

「えぇ、この戦いには国の威信がかかってますからね」

「それはご苦労なこって……」

「それにしても僕のレベルを聞いても驚きもしないし、スキルも簡単に相殺されるし、どんな鍛え方しているんですかね。ちなみにレベルを聞いてもいいですか?」

「…………52だ」


 あくまで賢者としてのレベルだが。


「そのレベルで僕と対等に戦えるなんて、騎士団長でも無理ですよ?」


 あぁ、それはそうなるよな。最強と言われたルネット帝国の騎士団長#アルの親#でも敵わなかったんだし。それに今は冒険者だろ。自分の存在を明かしてどうするんだ。


「それは光栄だな。でもこの戦いだけは負ける訳にもいかないから……なっ!」


 今度は俺の番だ。バスターソードを右手に持ち、左手からは火球#ファイヤーボール#を放つ。

 回復術師(プリースト)だと思っていた俺が属性魔法を放つんだ。驚かない訳がない。焦ったようにラルクスは身を翻し火球#ファイヤーボール#を躱してから俺の剣を剣で受け止めた。

 俺とラルクスの剣がぶつかり合い、そのまま膠着状態となる。


「まさか魔法も使えるとは……。本当に回復術師(プリースト)なんですか?」


 力は五分と五分。予想以上にラルクスの勇者としての恩恵は大きいようだ。

 ガリガリと剣同士が音を立てる。


「あぁ、冒険者プレートを見てみるか? 回復術師(プリースト)としっかり書かれているぞ」


 互いに数歩下がり、距離を取る。


「そんな強い回復術師(プリースト)なんて知らないですよ。なんでそんな強い人がいたのに戦争に出てこなかったんですか? 逆に僕は助かりましたけど」


 その頃はサランディール王国にいたしな。

 それに、ラルクス。お前は冒険者の身分になっているという事を忘れているぞ。


「まさかラルクス殿と同じレベルの戦いが出来るとは……」


 騎士もまさかと思ったんだろう。俺もラルクスの実力を知らないから様子見だったが、これなら……」


「トウヤ様がんばれーっ!」

 シャルたちの声援が背中を後押しする。

「今度はこちらから行くぞっ!」

 俺は五メートルほどの距離を一気に詰め寄り、バスターソードを振り切る。しかし、ラルクスは自分の剣でしっかりと受け止めた。


……パキリ。


 ラルクスの剣は俺の攻撃を受けた場所からヒビが入っている。


「もうトウヤ様の勝ちですねっ!」


 その剣でもう一度でも俺の攻撃を受ければ粉々に砕け散るだろう。勝負はもう見えた。


「その剣じゃ、もう無理だろう。諦めて負けを認めたらどうだ?」


 俺は降参を促すが、ラルクスは歯を食いしばり、何かを求めるように騎士に視線を送った。


「……負けるわけにはいかない。出していい」


 騎士は許可を出すような言葉を言う。それと同時にラルクスはヒビの入った剣をそのまま投げ捨てて、自分の次元収納(ストレージ)から一本の剣を取り出した。



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― 新着の感想 ―
さすがに擁護できないレベルだと思う。 相談もなく戦いの約束を取り付けて、しかも得た金を街の復興資金に使う? 主人公をATMか何かと勘違いしてないか? 負けないからいいでしょって、クソ以下の扱いだぞソレ
[良い点] 周り馬鹿多すぎる 王女さまとかこのダンジョン終わったら明らかに縁切られるくらいのことしてるよね 全部無理矢理やらせてるのわかってなさすぎる
[気になる点] 特殊スキルの神眼が鑑定に変わってるし、次元収納が生えてきてる。次元収納をステータス欄に入れるなら最初から持ってたんだからさぁ〜、もうプロローグ書き直してほしい。 ていうか神眼にしても鑑…
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