第14話
「まぁ、あの魔物は倒し方を知っていたしな……」
「…………」
ナタリーだけは顎に手を当て少しだけ考え事をしているようだったが、気にしても仕方ないのでこれからの事を考える。
「……この部屋が守護者の部屋のはずなのにな……っ!?」
そのとき、部屋の奥の壁がゆっくりとスライドしていき、奥に行く通路が現れた。
「まさかこの先があるなんて……」
「とりあえず、先へ進もう。そんなに疲れてないだろ?」
単純作業しかしていないからな。多少の魔力は消費しているだろうと思うが、各自マジックポーションは持ち歩いている。
マイラだけは用意していたマジックポーションに手を伸ばし回復したが、シャルやナタリーは特に気にしている様子もなかった。
俺が先頭に立ち現れた通路へと進んでいく。
通路はレンガ造りのようになっており、両側に松明が焚かれ、洞窟とは違った雰囲気を出していた。
一〇分くらい進んでいくと、下に降りる階段が見えてくる。
俺が先頭に立ち警戒をしながら階段を降りていく。
降りるとそこには先程よりも立派な門があった。五メートルほどの高さがあり、鮮やかさはないが奇妙な模様が彫られている。
「まさか新しく階層ができているなんてね……」
「うん、それよりもさっきのボス部屋の扉より立派よね……」
全員の表情が引き締まる。
この先は確実に守護者の部屋だと思う。ゲームの時と同じだったら……出てくるのはきっと多頭竜かもしれない。
ゲームのレイドの時みたく戦闘職が最前線で戦って、後方から魔法をガンガン放ってもフレンドリーファイヤーしないなんてありえない。
直撃すればダメージを受けるし、もしかしたらそれで死ぬ可能性もある。
蘇生もできるわけでもないし、一つ間違えればこの守護者との戦いでこの中の誰かが死ぬ可能性もある。
「誰も死なせない……絶対に」
俺は覚悟を決めて立派な扉へと手を掛ける。軽く力を入れるとゆっくりと扉は自動的に開いていった。
「これからが本番だ。どんな魔物が出てくるかわからない。気を引き締めていくぞっ!」
「「「「はいっ!!」」」」
扉の先は大きな円形の広場になっていた。
そして奥には俺たちの目的であるダンジョンコアが台座に置かれている。
しかしその前に予想していた通り、先ほどの岩石竜よりも凶悪なSSランクの魔物――――多頭竜が眠っている。
七つの首を持つ竜。それが多頭竜だ。再生能力が凄まじく、首を切り落としてもすぐに復活する。
一つ一つの首からは多種多様な魔法放たれ冒険者達を混乱させる厄介な魔物だ。
「……やっぱり多頭竜だったか……」
「信じられない。このダンジョンに多頭竜が出るなんて……」
「SSランクの魔物……初めてみた」
俺の言葉に続いて、リーゼとマイラが恐怖に震えた声が響く。
しかし一人だけウキウキとしている――ナタリーがいた。
「のぉ、トウヤ。あれの経験値は美味しそうだのぉ。これでわしの賢者への道も近づくはずじゃ」
その陽気さに思わず口元を緩ませる。
やはりこうでなくちゃいけないな。
「魔物を倒すには全部の首を切り落とす必要がある。しかしあの首は復活する。各首からは他属性の魔法が放たれるから注意しろよ」
俺の簡単な説明に皆が頷いた。
正直、リーゼやマイラには荷が重い。アルも前衛でルネット帝国最強であるとは言え、それでも多頭竜には太刀打ちできない。
俺たち全員が部屋に入ると、ゆっくりと扉が閉まっていき、ぴったりと元の通りに閉じた。――同時に多頭竜の首の一つが持ち上がり、俺たちを視界に収めた。
一〇メートルを超える巨体。そして首一つでも丸太くらいの太さで数メートルはあるだろう。
ゲームの時は普通になんとも思わなかったが、実際目の当たりにすると思わず恐怖で足が竦みそうになる。
――――これがリアルのレイド戦……。
ゲームとは違い、誰一人欠けてはいけない。一人でも欠けたら負けと一緒だ。
俺は歯を食いしばり、剣を強く握りしめる。
「リーゼはマイラの援護を頼む。魔法が来たら斬り飛ばせ! アルもシャルとナタリーの援護を頼んだ。あまり前に出るなよっ! あとは魔法を打ちまくって牽制してくれっ! 俺がなんとかするっ!」
全員に指示し、俺は剣を持って多頭竜へと駆け寄る。七本の首がそれぞれの獲物を物色するように視線を這わせる。
近づく俺に視線を送る首は二つ。
最初から全力でいくつもりだ。出し惜しみなどするつもりはない。身体強化#ブースト#を自分に掛けて一気に一つの首へと剣を振りかぶる。
丸太ほどの太い首とは言え、俺の剣は凶戦士時代に使っていたそれなりの代物だ。
スパッと一本の首を斬り落とす。しかし、悲鳴を上げることなく、残りの首が俺へと襲いかかってくる。
咄嗟に襲ってくる首を避けて距離を開ける。
しかしこれがいけなかった。
次第に切り飛ばした首根が泡立っていき、徐々に首が再生していく。
完全な再生が終わるまで一分も経ってない。
「……まさかこんなに再生が早いなんてな。やはりあれしかないか……」
神話でもある多頭竜の倒し方。
斬った首根を焼いて再生できないようにする。それはどの神話を見ても登場する多頭竜の倒し方は一緒だ。
――剣技と魔法の同時使用。
それは多分、俺だけにしかできない方法。
右手で剣を握り直し、左手には魔力を溜めていく。
そして再度、一気に駆け寄っていく。他の首はナタリー、シャル、マイラからの攻撃魔法を受けて多少はダメージを受けているものの、致命傷までは遠い。
同じように剣で首を斬り落とす。そして同時に火魔法で首根を焼いた。
グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
初めて聞いた多頭竜の悲鳴。
先ほどまでと違って勢いよく俺に噛みつこうと襲いかかってくる残りの首を躱し、再度距離を取る。
首根を焼いたことで、再生は起こっていない。
ただ、さっきまでの散漫な動きではなく、俺を敵として認め、残り六つの首が俺へと視線が集中する。
多頭竜も本気になったのかもしれない。
残った首が大きく口を開け、次々と火の玉、氷の塊、真空刃を解き放ち俺へと迫ってくる。
俺は水壁を唱え、全ての攻撃を防ぎきる。
同時に他方向より多頭竜の顔をめがけて魔法が着弾する。
「トウヤばかり見ていたら、わしの魔法は当て放題じゃ」
陽気に魔法を放つナタリーに苦笑する。マイラやシャルも魔法を放ち、三方向から攻撃魔法を受ける煩#わずら#わしさを感じたのか、一つ一つの首の動きが散漫になってきた。
そんな状態を俺たちが見逃すはずもない。
俺が駆けていくと、その後ろからアルとリーゼも追ってくる。
俺が首を一つ落とし、魔法で焼いた後、二人に視線を送ると、他の首に同時に斬りつけていた。しかしやはり攻撃力が足りないのか、三分の一ほど食い込んだが、完全に落とすことは出来なかった。
そこへ俺が追い打ちをかけて完全に斬り落とし魔法で首根を焼いていく。
すぐに二人に合図し、一度距離を開ける。
先ほどまで居た場所へ多頭竜から火の玉が放たれた。
「これで残りは三つだ」
「やはり固いです。トウヤさんのように完全に斬り落とすのには攻撃力が足りない……」
アルは少し悔しそうな表情をしているが、悲壮感はない。
格上とも言える魔物を相手にしているのだ。
残された首は――三つ。
倒すのにそうは時間がかからなかった。
ドサッと崩れ落ちる首のない巨体。次第に身体は光り輝く粒子とともに消えていき、今までにないほど大きな魔石を残して、その身は完全に消えた。
「やった……」
「本当に倒せた……SSランクの魔物を……」
リーゼとマイラはダンジョンの守護者を倒した感慨に身を震わせている。
俺たちは満足し、シャルとアルの二人はその場に座り込む。俺は両手で抱えられるほどの大きな魔石を次元収納へと仕舞い、そして奥の台座に飾られている直径一メートルほどの大きな丸いダンジョンコアに手を掛けた。
あっけなく俺の次元収納に仕舞いこまれたダンジョンコア。
これでまたダンジョンは小さいコアを生み出し、少しずつ大きく育てていく。しかしその歳月は長く、その間氾濫を起こすこともない。
俺はそっとため息を吐いた。
しかし、それと同時に扉がゆっくりと開かれた。
「あれ……なんで俺たちより先に到着してるんだ……?」
部屋に入ってきたのは五人。そして声を上げたのはジェネレート王国からきたラルクス達一行だった。




